記憶/朝日
静かな夜…遠くからフクロウの鳴き声が山に響く。
私は一人御者席に座って星空を見上げながら少し物思いにふけっていた。
山賊に襲われたあの時から、もう4日もたった。
思えばあれはピンチだったのかも…。
荷台の中で幸せそうな顔でにぐーぐー寝ている彼を横目に見て思う。
この人に助けられてからニ週間くらい経ったし
旅に同行してからも一週間は経過してる。
ここ数日はやる事もないし山の景色も見飽きたしで
昼間に寝てばっかりで夜はむしろ眠れない。
そういう時は今みたいに今までやってきた事を思い出したりして眠くなるまで時間を潰すのだが。
そういえば、今まであまり思わなかったけど
どうしてあの人はここまでの剣の腕がありながら
商人なんてやっているんだろう。
山賊だって私たちが初めてじゃなかったはずだし
戦った事もあったはず…
そんな大人の男を五人もたった一人で倒してしまった。
それもあっさりと。
どこかの王国なんかに行けば騎士団にでも雇って
くれそうなものだけど…。
もしかしたら、そんな甘いものでもないのかな。
…そうだ、傭兵なんてどうだろう。
腕が立つのだからそれでも十分に生きていけるのでは
ないだろうか?
明日、少し提案してみよう。
それともこの人は戦うって事が嫌いなのかも。
でもこの前みたいな時に備えて剣の腕を磨いたって
そんな風にも思える。
この人はどこで生まれてどんな生活を送ってきたんだろう。商人してるしやっぱり親が商人だったのかな。
この世界では子供の職は親の影響がとても大きい、だから
そうである可能性は高いのだ。
でも…人の過去に触れる事になる。それは私に聞き返される事もあるだろう。夕陽が輝いていた、あの日も本当は起きていた…でも間が悪くなったから寝たふりをした。彼が綺麗だと言った景色だってしっかり見ていた。
私は自分の過去には触れられたくない。目覚めた時から
記憶も曖昧だし残ってるのは悲しい惨状の記憶。
自分は何者なのかもはっきりしないけど…記憶は私の
意思とは関係なしに日に日に少しずつ蘇ってくる。
でもそれは全て思い出したくない、人間の泣き叫ぶ声や燃える街、人が目の前で無残に殺されていく…記憶。そんなものをじわじわと、ふとした瞬間思い出す。平然を装ってはいるけど本当は狂ってしまいそうなほどだ。
この記憶は多分、私の過去。でも…聞いた話での道に倒れていた、というものは何故そうなっていたかは全くわからない。
怖い……全て思い出した時、自分が自分で無くなりそうで
…それが本当に恐ろしい。
「もう…寝よう」
夜も随分と深くなってきた。
いつしかフクロウの鳴き声も聞こえなくなっている。
…せめて今だけは救われていたい。
まだ、完全に思い出せていない、今だけは。
荷台にスペースに開けて下に厚めの布を引いただけの簡素な寝床。私は布団を被って、隣でスースーと寝息を立てて眠っている彼に抱きつく。
彼に甘えるのは許させることなのかはわからない。
今後、私がおかしくなって手がつけられなくなるかも知れない。でも…どうしても今は甘えたかった。
「おやすみなさい」
一言、寝ている彼に呟くと私はそっと目を閉じた。
*
ふっと目が醒める。別に早く起きる必要はもう無いのだが、商売をしていた時は早く起きる様にしていたから
その癖が中々取れないのだ。その為、荷台に張っている
幌越しから見た感じでも空はまだ暗い。
まぶたはまだ重いのだがもう一度眠れるかと言うと
そうではない。仕方がないので起き上がろうとするが
何か強い力で引っ張られる…いや重い何かがくっ付いていて起き上がれない。暗いのでよく見えないのだが、体に
巻きついているものを触ってみると、むにっとした柔らかな感触だった。それに温かい。
それを伝っていくと細いものに辿り着く。そこで俺はやっと気づいた、これは指…つまり人の腕が俺に巻き付いているのだ。もちろんこの馬車には俺とフアルしかいない。
少しずつ覚醒してきた意識のお陰で体の感覚がはっきりと
してくる。今はもうフアルの寝息や呼吸による体の動きも
温もりも感じる。
そうか…フアルは俺に抱きつく形で寝ているんだ。
なんか少し嬉しいような恥ずかしいような気分になる。
俺は辛うじて動かせる右手でフアルの頭を撫でる。
フアルの柔らかで細やかな髪の感覚が心地いい。
特にこの行為に意味はないのだが、何となく撫で続ける。
そうやってしてるうちに俺はまた眠ってしまっていた様だ。次に目が覚めた時には幌越しにも 茜色の空が広がっているのがわかった。フアルはもう俺から離れており
寝返りをうって静かな寝息を立てている。
俺は自分の分の掛け布団もフアルに被せると、
外に出た。
東の空は今日の始まりを告げながら、眩しく輝いている。
俺は外で軽い体操をした後、ジルの毛の手入れして
太陽が上に少しだけ上がった頃にフアルを起こした。
二人で乾パンと干し肉と水といういつもの朝食を食べていたが、はやり朝のことを思い出しすと…どうにも気まずいと感じてしまう。フアルは食事の時だけは笑ってはいるが…意識してるのは俺だけかぁ…。やがて食べ終えると御者席に座ってジルに進む様に促す。
やはり朝は冷える。少しだけ風の肌寒さを感じながら
この山道の途中にある洞窟に入り北東の平原に出るつもりだ。戦争をやっているはずの東の地方に来たのは途中で
北側の方向に行く予定だったから、安全に旅ができると思いここまで来たのである。
もうすぐ洞窟が見えてくるはずだ。なぜなら、横にはもう
見上げるとどこまでも続いていそうな岩の壁が静かに佇んでいる。ふとフアルの方を見ると実に退屈そうな顔をして
進んでいる道の先を見ていた。
「もうすぐ景色がガラッと変わるとこに
出るから待ってろ」
そう言うとフアルはこちらを少し見上げたあと
「うん」
と答えた。
表情は退屈そうなものから変わっていないのだが。
そんなこんなでまた長い旅の一日が始まった。
どうも皆さま嘘嘘と申します。
この度はこの小説を読んでいただきまして、ありがとうございます!とても感謝しております。本当にありがとうです。
さて、本文ですが今回はフアルの目線になって
消えている記憶にらついてと、その朝の話と
なっております。
まぁ、私からは特に言うことはないのですが、これから
は更に記憶については深くなっていきますので、お楽しみに!
では4話を読んでいただきまして、ありがとうございました!ではまた!




