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再会

 簡単な食事をとって、旅の疲れを癒すように泥のように眠った、次の日。

 朝に請け負った、薬草と獣肉を調達する至極簡単な依頼の達成を報告に行き、別の依頼を探しに掲示板に目を向けると、朝には無かった一風変わった依頼書が掲示されていた。


 曰く、貴族のお坊ちゃんの話し相手らしい。そして、受託条件として、年齢15歳までの冒険者が指定されている。

 冒険者ならば、好んで貴族と関わり合いになりたいと思う人間はいない。受託条件と相まって、誰も引き受けないだろう、それ。ただし、貴族の依頼とあって、依頼料はそれなりであった。







「……ないな」

 とはいえ、アイルーベルトも冒険者である。依頼主を察せても、だからといって再び関わり合いになりたくはなかった。


「おかえりなさい」

 宿で自分を迎えるリーシアの声に微笑みを返す。この平穏が守れさえすれば、身の丈に合わない金は必要ないのだから。







「王都だから、図書館があるよ。ギルド員なら入館できる。保証料はかかるけど借りれるしね。明日行こうか」

「……いいんですか」


 夜、食事の席。権利はあっても、並の冒険者なら一生利用しないだろう施設の話題を出すと、リーシアの目が分かりやすく輝いた。

「生活リズムを戻すために、今日は依頼を受けたけど、剣の手入れもしたいんだ」

「ありがとうございます」


 まだ、やってきたばかりの都市のため、年若いアイルーベルトと、更に幼いリーシアは注目を受けてはいるが、毎度のことなので気にならない。

 さすが、アルマンが勧めただけあって、絡まれることもない。宿賃も高くはないし、なるほど、いい宿であった。







 次の日、朝からアイルーベルトとリーシアは王立図書館へ来ていた。

 アイルーベルトと、そしてリーシアも、冒険者ギルドのギルド証を使って、入館証を作成する。アイルーベルトはともかく、リーシアまでギルド証を持っているのに、係のものは釈然としない顏をしていた。


 3歳でギルド証を手にしたリーシアは、当然、その際の実技試験で魔術を使っている。3歳で実技試験をクリアするには、その手しかなく、つまるところ、リーシアのギルド証はそれだけで彼女がそれなりの魔術師であることの証明にもなるのだ。






 図書館に入館したアイルーベルトはリーシアと別れ、中庭の芝生でのんびりとすることにした。穏やかな陽だまりの中で、手慰みに借りた薬草図鑑をめくる。普通の平民の出であれば、文字を読むことは叶わなかったのかもしれない。それを思えば、貴族の出身であることは助けなのかもしれない、等と思いながら。






「きゃっ」

 一方その頃、リーシアは自分の背丈の3倍はあるような本棚に囲まれて目を輝かせていた。と、突然、本棚と本棚の間から伸びてきた手が、リーシアの手を掴んで、その体を引き寄せる。


 リーシアは咄嗟に反撃しようとしたものの、その気配が知ったもので、かつ、下手に手を出すと面倒くさそうだということもあって、大人しく身を任せることにした。

 勢いよく引き寄せられた体が、相手の体でうまく受け止められたのを感じて、手荒な真似をするつもりはないのだろう、ということも分かる。






「すまない。思ったより、お前の体が軽く、勢いがつきすぎてしまった」

「……いえ」

 簡単に謝罪の言葉を口にしたのを見て、心の中で驚きながら、表情の笑顔は変えない。

「……俺を覚えているか? お前、あの冒険者の妹……リーシア、だったか」

 アイルーベルトとリーシアの名は、アルマンから伝わったのだろう。名乗った覚えはないが、名前を知られていることに疑問もない。






「はい」

「……ジュリアスだ。アルマンはキリンタールへ着いてすぐに、治療魔術師の手を借りて完治した。今は数日の休みを与えている。……改めて、礼をいいたかったのだ」

「……兄に?」

 リーシアは礼を言われるようなことはしていない。言葉少なに返事を返すと、ジュリアスは頷いた。


「真正面から金を渡すと、受け取らなさそうだったので、依頼という形で礼をしたかったのだが、それも受け取ってもらえないようだ」

 件の依頼の話は、リーシアは聞き及んでいないが、当たらずとも遠からずな推測をして、曖昧に頷く。






「分かってはいたが、冒険者には嫌われてしまうな。そういう俺も、冒険者というだけで、何か裏がないかと、お前たちを疑ったものだが」

「兄も館内に居ますので、案内しますよ」

 リーシアは面倒の種を兄に押し付けようと、彼がいるだろう中庭へ視線を向ける。そんなリーシアの姿に、ジュリアスは首を横に振る。


「否、いい。避けられていると分かっていて、押しかけるのが迷惑なことくらい、俺にも分かっている。まぁ、そんなことを考える前に、お前を引き寄せてしまっていたが」

 困ったように視線をさ迷わせたジュリアスが、リーシアの持つ本に気付いた。






「お前、文字が読めるのか」

「……えぇ」

「本が好きなのか?」

「……はい」

 リーシアの言葉に、ジュリアスがそうか、と頷く。






「……礼になるかもわからぬが、押し付けてもいいだろうか?」

「何を?」

「紹介状だ。お前たちの身分を保証する。本を借りるのに保証金が要らなくなる。図書館のエリアも、貴族の子女令息が出入りするエリアまで入れるようになる」

「……」


 正直なところ、ジュリアスの申し出は嬉しかった。王都である。冒険者への依頼も多種多様で、田舎の村より稼ぎになる。次の旅路に備えて、数か月単位で居座り、金を貯める予定があった。基本的に、宿に留守番することになるリーシアにしてみれば、暇つぶしの種が増えるのは願ったり叶ったりだ。






「すぐに断らないあたり、本が余程好きなのだな。なら、決まりだ」

「……それは」

「今更、断りはさせない。俺の気も収まらないからな。兄……アイルーベルトも本が好きか?」

「いえ、兄は私の付き添いで」

「では、お前の分だけでよいな」

 ジュリアスはリーシアの小さな手を引いて、受付へと戻ると、係のものに何かを告げ、出された書類にサインをした。






 まもなく、リーシアの手には、一般の国民に与えられる入館証ではなく、貴族の保証がついていると分かる、特別な入館証が握られていた。

「……ありがとうございます」

「こんなものなら、いくらでも」


 さすがに、勝手に礼を受け取ってしまったので、いかに嫌がっていると分かってはいても、アイルーベルトに引き合わせざるを得なくなった。






 本に釣られたリーシアに苦笑しながら、兄も一緒にジュリアスに礼を告げてくれる。

「これでお互い様だな。例の依頼は出したままにしてある。気が向いたら受けてくれ。旅の話を聞きたいのは本当なのだ」

「分かりました」


 アイルーベルトは1つ頷いて、早速何冊かの本を借りたリーシアを連れて、ジュリアスと別れた。


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