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そのに

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あらすじ→魔王様は黒髪好き

「陛下、連れてきました」

 魔王様から直々に護衛を解任され、ただの使いぱしりとなったフィグが、そう言って1人の女を恭しく魔王様に向けて差し出した。


 人間の、女。魔王軍の手中に落ちたにも関わらず、手荒な扱いを受けた形跡はなく、むしろ肌つやも整っており、なにより艶やかな黒髪がその白い美貌を縁取っていた。

 それまで丁寧に扱われてきたのだろうにもかかわらず、女の表情には、恐怖が浮かんでいる。







 ただ、魔王様はその女を一瞥しただけで片手を振った。

 瞬間、フィグによって蹴倒された女が痛みに呻いた。


「またハズレか。陛下、これの処分は」

「好きにしろ」


 その言葉に、いつものこととばかりに、未だ蹲ったままの女の手を引き無理やり立たせようとする。いきなりの乱暴に、咄嗟に女が身を捩ると、フィグは表情一つ変えず、顔を踏みつけた。その勢いに、黒髪が波打ち、床に広がる。


「手間かけさせるなや。下に下げ渡す前にキレイな顔がつぶれたら勿体ないだろう」

 いきなりのことに、混乱とそれ以上の恐怖を浮かべた女の顔を、涙と血が混ざりあって流れる。







 魔王様はその様子をもはや一瞥することもなく息を吐く。

「うるさい。お前ごと黙らせるぞ」

「すみません、陛下」

 魔王様の言葉にフィグは頭を下げると、泣きわめく女を引きずって部屋を後にした。その途中で、煩いと、女の顔をひっぱたきながら。







 女が部屋を連れだされた後で、魔族の国の宰相の肩書を持つミグゥが声をあげた。

「もう、人間の中で、『黒狩り』を知らない者はいませんよ」

「何が言いたい?」

「……いえ。馬鹿どもが、また攻め入ってくるのでは、と」

「俺はいつでも首を差し出すと言ってやっているのに、それを、うだうだと引きのばしているのはあちらの方だが」

 魔王様の言葉にミグゥが溜息をつく。







「どうせ人間どもの中に、陛下の首をとれるものなどいません。期待するだけ無駄かと」

「そう思うなら、寄って来た人間は全てこの城まで案内してやれ。本当に俺の首がとれないのか、いくらでも試させてやる」


「そういうわけにもいかないでしょう。魔族の中には体裁を気にする派閥もいます」

「俺に文句があるなら、俺の首をとって好きにしろと言っておけ」

 魔王様の言葉にミグゥは眉間にくっきりと山谷をつくって呻いた。







 魔王様は王とは名ばかりで、魔族の国が荒れるのも国を人間によって襲われるのも、何も気にしてはいない。ただ、その膨大な魔力が垂れ流しにされているので、国に充満する魔力によってすべてが成り立つ魔族の国が揺らぐことがないのが幸いであるが、何かにつけて自殺願望のある魔王様なので、こと外敵に対しては甘すぎる。







 それをよく思わない派閥も国内にはしっかりと存在するのだが、なまじ、文句があるなら首をとってから言えと言われてしまえば、結局最強の魔王様を相手に何もできない連中なのである。一枚岩とはいかずとも、クーデターの心配がないのは僥倖である。


 とはいえ鬱憤は溜まるもので、一応の内政を司るミグゥに、その鬱憤は陳情という形で上がってくる。その1つひとつに真面目に返そうとするから、ミグゥは苦労していた。魔王様の言葉をそのまま返すことは、ミグゥの真面目さが邪魔をするのだ。







 そんな怠惰な魔王様であるが、唯一熱心にしているのが、主探しである。いわく、魔王様には夢で見る主が存在しており、その主は人間の黒髪の女性であるという。しかし、名前も顔も分からない。


 魔王様が主探しをしていることは有名なので、人間の国に物見遊山にでかけた魔族が、黒髪の女を誘拐してくるのは日常茶飯事となっていた。それを纏めて魔王様に取り次ぐのが、同僚らから無職とからかわれているフィグの現在の仕事となっている。







 誘拐してきた当初は、魔王様の主かもしれないということで、丁重に丁重を重ね、姫のように扱われているのだが、魔王様に違うと言われた時点で、その女は魔族の獲物である。

 好色な魔族が買っていく場合もあるし、下級魔族の慰み者になるものもいる。美貌がなければ、食人を好む魔族の餌になる場合もある。






 黒髪の女性の誘拐が始まってから、もう長い月日が立っており、人間の国では『黒狩り』と呼ばれ、恐れられるまでになっていた。黒髪の女が生まれれば凶兆と思われ、捨てられることも多くなったという。魔族が女を誘拐する際に、周りに一切の危害を加えない方が稀だからだ。


 そうして、捨てられた黒髪の女が無事に育つ可能性は低く、育った端から誘拐されては、遺伝的にも黒髪の女が生まれる可能性は年々減り、もはや黒髪の女は絶滅危惧種となっていた。それもあって、魔王様の前に黒髪の女が連れてこられる頻度は年々減っていき、改めてフィグが無職の肩書をつけられそうになっている。


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