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武器屋の回答  作者: U1
武器屋の苦悩
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15/19

魔族の身内

クリスが休憩を止めて営業を再開させると、ゼルはいつも通り商品を眺めていた。もちろんグローブは確認済みだ。あとはキラキラしい目で商品を眺めているだけので放置すればいいだけである。


「そろそろ帰ってこないかしら。」

「誰がですか?」


ゼルが当然の疑問を返し、クリスは紹介しようと口を開いたが丁度その時ドアベルがからんと鳴った。


「クリスすまない。遅くなった。」


入ってきたのは金髪の美女だった。もちろんエルであり、クリスは「おかえり」と声をかけてゼルに彼女を紹介しようとした。しかし、視界に移るゼルの様子に首を傾げる。


「ゼル?」


呼んでも反応は無くこちらに背を向けてひたすらエルの方を見ている。一方エルは素直に手伝いの続きをしようと彼を通り過ぎようとして、止まった。


「……ゼ」


目を見開いたエルが、また口をぱくぱくと開閉する。まるで呼べない名を口にしようとしているようだ。その仕草の既視感をクリスは思い出した。既視感ではなく実際にあったことであった。

初めてゼルが名乗ったときのことを思い出していたクリスは、ゼルの行動に反応が遅れた。


「え」


気づけば背の馬鹿高い男が目の前に迫っており、クリスが離れる前にさらに近づいた。要は、抱きしめられた。細身に見えるが、こうして触れられるちゃんとと筋肉が付いているのがよく分かる。強くかき抱きながらゼルは悲痛に叫んだ。


「酷いですクリストファーさん! 既に浮気してたなんて!」

「!? …っ! とりあえず離れなさい!!」


クリスも負けじと叫んで身をねじり、ゼルは素直に従った。反応目当てにからかっただけなので特に意味は無い。ゼルはクリスから離れると、未だ硬直していたエルに向き直った。


「で、どうして貴方がここに? そんな趣味もあったんですか。」

「…お前にだけは言われたくない。」

「ははは。だからこそですよ。滅多にこちらには来ない貴方が、何故クリスさんのお店にいるんです?」

「五月蠅い。ただ、彼女に恩が出来たのでそれを返している途中なだけだ。」


ゼルはちら、とクリスの顔を見た。少し驚いている顔の彼女はそれでもうなずいたので、同僚の言葉が正しい物だと分かる。


「エリーと貴方は知り合いなの?」


クリスは驚いた様子だった。

エリーと呼ばれているのも恐らく自分と同じ事が起こったからだろう。ゼルは推測しつつ首をかしげた。この人物は自分がよく知る同僚で間違い無いだろう。しかしそれにしてはその気配が淡い。その訳を考えて、ああ、と気づいた。


「貴方、人にされちゃったんですか。」


ギロリと音がしそうなほど強く睨まれる。それはただ馬鹿にしたことを怒ったのではなく、魔族関係のことを一般市民クリスの前で口にしたからだろう。


「まあそれは良いです。クリスさん、これとはどう知り合ったんですか?」

「えっと、道端に寝ていた所を拾ったの。」

「なるほど。」


おおかた、人にされた、つまり魔力の接続を一方的に切られたあと適当に飛ばされたのだろう。その間気絶でもしたか。自らの作り手である魔王を軽視しているのは知っているが、ここまで怒らせるとは思っていなかった。

ゼルが推察していると、エルが一歩詰めて鋭い目を向けた。


「私は彼女の仕事を手伝うことで恩を返している所なのだ。だからお前はとっとと帰れ。」

「それはごめんです。」


自分が黙っていても無駄だと気づいたのか、エルは眉を立てて説明した。しっしっと手を振るエルに爽やかに笑って拒否する。


「恩は良いんですが、夜はどうするんですか? まさか、泊めて貰おうなんて考えてませんよね。」

「見くびるな。……野宿くらい出来る。」

「そんなことだろうと思いましたよ。」


肩を竦めると余計睨まれた。

もし、エルがクリスと知り合いにならなかったら絶対放っておいただろう。死ぬことは無いし例え死んでもゼルが困ることは何も無い。

ゼルは横目でクリスの顔を見た。眉をひそめたその顔はエルを心配してのことだった。彼女はお人好しと言っていいほど人が良い。その所為で大分損をしていると思っているが、まあ彼女の美徳と思っておこう。そんな彼女の前で野宿を宣言した人間を放置することは出来なかった。


「僕が送りますから帰りなさい。」

「……分かった。」


恐らく金だって持っていないだろう。最低限の、それも何百年前のかも分からない知識でやっていけるほど人間界は甘くない。それは分かっているらしく意外にもエルは素直に頷いた。

話はそこで終わり、また沈黙が落ちる。それに耐えきれなくなったクリスが手を叩いた。


「え、えーっと、とにかくエルは元の場所に帰れるのね。それじゃあ午後もしっかり働いて貰うわよ!」


クリスはきびすを返し、エルのエプロンを店の裏へ取りに向かう。なにやら緊張感の漂う遣り取りだった。まさか、ゼルの会いたくなかった人物というのがエルだとは露ほどにも思わなかった。

どういう関係なのだろうか。そう思ってクリスの鼓動が少しだけ早くなる。送る、と言っていた。ゼルはエルが元いた場所を知っているのだ。仲が良いとは思わないが、知り合い程度の仲とも思えなかった。

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