美味しいご飯。
顔は穴の集合体だ。
口。耳。眼球・鼻。穴が集まる集合体。
顔に空いた、ただの穴。眼球はいうに及ばず口という穴。
剥き出しになった骨と動く粘膜を駆使して
命を取り込むための穴に入れる。
呆然と見開いた目を開けたまま、顎だけ動かす。
ニチャニチャという音が動かした顎から頭蓋骨に咀嚼する音が直接響く。
形を失う。命が滅茶苦茶になっていく。
剥き出しになった歯を穴の中の舌を駆使して顎を上下に動かすとニュルリとした粘り気が穴の中全体にいきわたる。思わず上がってきた唾液と共に吐き出しそうになる。それでも、唾液とドロドロに混ざりあった――茶色い一枚の焼けた固形物をゴクンと食道に流し込む。う、と声が出て咄嗟にテーブルにある水を取る。
顎を動かすと歯に肉の繊維がズブズブと沈む。
ニチャニチャとした食感が穴全体にいきわたる。
瞳だけ使いギョロリと周りを見渡す。
今、私は。
――誰かから『見られてる』ような気がする。
言われた通り。
フォークを渡され、座らされ、ただ食べるように言われた。
だから食べる。それだけのこと。
一秒でも早く、これを飲み込まなければ。
違う。
そんなふうに考えてはいけない。
これは「ステーキ」だ。
ステーキという食べ物。
美味しいと喜びを感じるべき行為。
栄養をとる幸福と感じると定義された行動。
幸せを感じるべき食事という幸せな行為だ。
私はただ、この穴に肉を放り込み続ければいい。
そう自分に言い聞かせながら吐き気を堪え残りを口に入れる。
ニチャニチャという咀嚼音をと感触と不愉快な味が口いっぱいに広がる。
頬や歯の隙間にへばりついた油や肉を、必死に水で流し込む。
何度も喉を鳴らす。吐き気を堪える。飲み込む。それを繰り返す。
もう一口、穴へト運ぶ。噛む。飲ム。マた運ぶ。
すりツぶされる。形ヲ失い。命が滅茶苦茶になっていク。
穴の中でグチャグチャとすリ潰さレる。
オイシイ。オいしイ。おいしイ。おいしい、おいしい。
たべなきゃいけナい――おいし、お、おいし!おいしい!
『おいしいごはんをたべるじかん、はじめましょう。ますがー!』




