表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/52

37 牢獄で生まれた者

ここから2章アイセと声無き少女がはじまります。

おつきあいいただけたら幸いです。

 生まれて初めて見た世界は、暗闇だった。


 ボクは赤い海の中に、足を投げ出すように座っていた。着ている服も赤いものが染みてべっとり肌に張り付き、気持ち悪い。


 目の前に誰かいる。ひとり、ふたり、……海と同じ赤がついた剣を携えている。


 怯えた目がボクを見た。


『化け物、悪魔! 悪魔だ! これは呪いなんだ! 愛の神子がノーゼンハイムにかけた呪いなんだ!』

『な、なんだこいつ、どこから現れたんだ、あの女はどこへ消えたんだ』


 男が口を開いてないのに、ボクの頭に声が届く。


「う、わ、あぁぁああ!! 化け物! 来るな、くるなあ!!」

「ま、待て、置いていくな!」


 二人はわめきながら、いなくなった。


「うー……?」


 ボクの喉から出るのは意味をなさない音。


 暗闇に一人残されたボクは自分の肩に触れ、足に触れ、手を広げてみる。


 ボクの体は、こんなに大きかったっけ。


 男たちが消えた暗い道から、誰かの争う声が聞こえる。


「ここを通せ!」

「いけません王子! この先には悪魔が!」

「そんなもの居るか! あの子は悪魔じゃない! いいからどけ!」


 何かのぶつかる音、荒々しい足音と共に、まばゆい光が差し込んだ。


「神子!」


 光をまとう青年が駆け込んできて、ボクを見つけた。

 青年が絶望し、膝から崩れ落ちてその場にへたりこむ。


「そん、な……。また、間に合わなかったのか」


『助けたかった。逃したかった。ヤクモが神子を待っていたのに。なぜ、殺してしまったんだ』


 ここにいた誰もがボクを怖れたのに、青年だけは涙を流し、救えなかったことを悔やんでいる。


 青年の瞳から、次々涙がこぼれている。

 ボクは青年の方に歩こうとして転ぶ。


歩くって、どうするんだろう。

 しゃべり方もわからない。


 仕方ないから這って、青年に手を伸ばす。


「……君は、次代愛の神子だな。称号は?」


 青年の手が、ボクの髪を優しくすく。

 優しい眼差しで、親しみを込めて見つめてくる。


「うー」


 しょうごう。ばんぶつを、あいせしもの。


 何を指す言葉かわからないけど、それだけはわかる。


 ボクは、ばんぶつをあいせしもの。


「喋れない、のかな? なら、愛のチビでいいか。小さい愛の神子だし。ボクが言葉を教えてやろう」

「あう」


 青年がボクの頭をくしゃくしゃ撫で、立ち上がらせる。ボクの背後にあるなにかを見て、息をのんだ。


「なんだ、これは……」

「う?」

「……なんでもないよ、チビ。ボクはフェンネル・クロノス。これから君を育ててやる。マリアを助けたいんだ。力を貸してくれ」


 まっすぐで強い言葉。憎しみの色のない心。

 ボクはフェンネルの手を取る。


「ふぇ、ん?」

「んー? なんだい、おちびさん」


 生まれて初めて会ったのに、この人の手はとてもなつかしい。


 頭を撫でてくる手のひらが、なつかしい。


「     」


 口を動かしても、言葉にできない。


 ボクがこの人を表すための言葉。ただひとつの、言葉があるはずなのに。

 その一言を思い出そうとすると、頭のなかにもやがかかる。


 なにもわからない。 


 つまずきながら、手を引かれ一歩ずつ歩く。


 マリアを助けたいというフェンネルの言葉が、頭のなかで繰り返される。


「ボクの婚約者、マリアっていうんだけどね、エンジュの王子にとらわれてしまったんだ。だから、お前の力を貸して。愛の神子のお前なら、きっと解くことができるから」


『必ず助けるから。待っててね、マリア。アイリーンが残したのはきっと、君を救うための答えだから』


 その心はフェンネルが放つ魔法の光のように明るい。


 ボクはフェンネルを見上げ、フェンネルが決意のこもった瞳でボクを見つめる。


「行こう、愛のチビ」


 フェンネルと共に、ボクは光の溢れる世界――牢獄の外へ踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] えっえっ待って、情報が追いつかないです。 アイセさんが何やったのか気になります。 
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ