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セツカと時の鎖【改稿中】  作者: ちはやれいめい
一章 セツカと時の鎖
27/52

27 待っていてくれる人がいる幸せ

「はいはい、アイリーンちゃん。ちょっと落ち着こうか。いきなり殴りかかっちゃだめだよ」

「止めないでウルさん。悪い子にはお仕置きしないと!」

「とにかく落ち着こうか。ね?」


 ウルさんがリーンを止めに入った。

 後ろからリーンの両肩をおさえて、陛下にも苦言を呈する。


「陛下も。護衛を置いて先に行かないでください」

「あはは、ごめんねウルくん」


 リーンとウルさんを交互に見て、エレナさんがぽかんと口を開く。


「……リーン? それに、ウル。本当に十五年、経ったのね」

「母様! 生きていたのね!?」


 さっきの暴れ馬のような剣幕はどこへやら。

 リーンは両手を広げてエレナさんの胸に飛び込む。

 エレナさんは強くリーンを抱きしめる。


「ずっと帰れなくてごめんなさい、リーン。大きくなったのね」

「うん。母様、どうしていなくなったときのままなの? それに、セツカのその髪は……」


 首を傾げるリーン。

 なんと説明すべきなんだろう。

 迷う僕の代わりに、アイセがなるべくリーンを傷つけないよう言葉を選ぶ。


「ここにいるみんな、時魔法の事故で封印されていたんだ。…せっちゃんの親はその時亡くなってしまって、時の神子の跡継ぎであるせっちゃんがいま、魔法を解いた。……わかった?」

「そう、なの?」

「そう。で、ボクはせっちゃんの代わりに十五年、ここの管理人をしていたんだ」


 エレナさんが原因の一端であることは、リーンに言えるはずもない。


「そうだったのね。じゃあ、セツカが母様を助けてくれたんだ。ありがとう、セツカ」


 リーンは僕の前にきて、いつものように笑う。一晩でこんなに髪が伸びてしまったのに、恐れることもない。

 来たら殺すと言われても怯まない。

 それでこそリーンだ。


「こちらこそ。助けに来てくれてありがとう、リーン」

「セツカのためだもの」


 明るく笑うリーンの姿は、葉っぱまみれの泥まみれなのに、どんなきらびやかなドレスを着た令嬢より貴く見える。


「チっ。どんな綺麗事で飾ったところで、お前たち時の神子がおれの家族を封じた事実は変わらない。絶対に、許さないからな」


 神官の家族は拳を強く握りしめ、僕を睨む。

 そう、どんなに謝っても、何もできず過ぎた十五年という月日は取り戻せない。




 陛下が部屋の中央に歩み出て、深く頭を垂れる。


「時の神子を首都で保護するよう命じたのはこの私、フェンネルだ。責めるなら私を責めるがいい。どんなにあがいても、時の神子の力は十五年経たないと発現しないんだ。そなたたちが望む償いはすべてしよう」

「陛下……」


 怒り心頭だった男たちは、国王陛下がここまで低姿勢で謝罪する姿を見て、言葉を飲み込んだ。

 僕ももう一度頭を下げる。


「先代様の罪は、僕が生涯をかけて償います。ほんとうに、ごめんなさい」

「私も、ごめんなさい。私のせいで、神子さまは……。それにアーノルドも、私を許してはくれないでしょう。どう償えばいいのかしら」


 うつむくエレナさんに、僕はアスターさんからのメッセージを伝える。


「アスターさんは、貴女に謝って欲しいなんて思っていなかった。望んだのは、貴女がアーノルドさんと幸せになること」


 握りしめていた薬の小瓶を、エレナさんの目線にかざす。


「この薬、魔法士専用のエリクサー。今年に入ってからずっと、アーノルドさんに頼まれる買い物リストに乗っていた。いつ貴女が帰ってきてもいいように」


 


 手の中の瓶が砕け、塵となる。


 魔法を制御しきれない。


 エレナさんたちを救う力であった反面、生きた凶器にもなりえる。

 触れたものすべての時が進み、朽ちてしまう。


 もう、セツカとして生きた日々には戻れない。



「どうか、アーノルドさんと、リーンと、家族揃って幸せになってください。それが、アスターさんの願いだから」 


 エレナさんの瞳に、涙が滲んだ。  


「……神子さま。私、許されるなら帰りたい。リーンと、アーノルドのいる家に。愛しい人のいる場所に」

「それがいい。あなたには、帰る場所がある。待つ人がいる幸せを、手放さないで」


 僕にはない、家族がいるのだから。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] アイセ、なんだかんだで優しい。 セツカに対して思う事は多々あるだろうに。 そしてエレナさんとリーンの感動の再会。 >僕にはない、家族がいるのだから。 この一言が泣けますね……。
[一言] 最新話まで読みました。 フェンさんが国王陛下なのには驚きです。 アイセさんはなんだかんだ言って優しい人です。}:‑)(*´ω`*)
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