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セツカと時の鎖【改稿中】  作者: ちはやれいめい
一章 セツカと時の鎖
28/52

28 人として生きた時間にサヨナラを

 遺跡の外に出ると、夜が明けたばかりだった。

 森の向こうの空が、紫からオレンジにグラデーションしている。


 神官たちは家族と一緒に帰宅の途につく。

 リーンもまた、エレナさんの手を取って上機嫌で腕を振り回している。


「ああ、良かった。母様が生きていたしセツカも無事だったし」

「ご機嫌ね、リーン」


 陛下がみんなより少し遅れて、ウルさんと一緒に出てくる。


「これでアーノルドくんの肩の荷も降りるね」

「ははは。アーノルドが僕に相談してくれてたら、協力できることもあったと思うのにな」

「すまないね。ボクが他言無用にとお願いしたんだ。だからアイリーンちゃんどころか本人ですら知らなっただろう」


 ウルさんは幼なじみに頼ってもらえなかったことで、不満そうに口をとがらせている。


「旅の先で俺を恨むだろう」とアーノルドさんは言った。


 もっと早く、幼い頃に知らされていたなら、責任の重さに押しつぶされていたと思う。

 僕もどこかに家族がいる普通の人なのだと、そう思って生きてこれた。


 恨むことなんてできない。



「君は、帰らないのかい」


 みんな家族と帰っていったのに、ただ一人だけ、僕のそばに残る神官がいた。


 金の瞳をした女性。普通に時を重ねていたなら、六十になるかならないか。

 女性は膝をついて深々頭を垂れる。


「神子さま。私は貴族の出身。先代様に魔法をお教えしておりました。あなたに救われたこの命、いかようにもお使いください」


 魔力をまともに扱えない今、魔法を制御するための師が必要不可欠。

 だからここに残ると、彼女は言う。

 


「ありがとう。貴女の名前は?」

「名は神官になるとき捨てました。好きにお呼びください」


 名を捨てるなんて、簡単にできることじゃない。

 それほどの何かが過去にあったのか、出会ってすぐ聞けるはずもない。

 だから考えた。


「では、ソレイユと。貴女の瞳は陽の光みたいだから。ソレイユ先生」

「……はい、神子さま」


 古の言葉で太陽を意味する。

 こんな状況の僕のため、ここに残ると決断してくれた貴き心根の人に相応しい名を。



 先に行っていたリーンが駆け戻って来た。


「何してるのセツカ。早く帰ろうよ。父様が待ってるわ」


 リーンが手を伸ばして来るのを避け、後ずさる。

 今触れたら、リーンの時が進んでしまう。


「ごめん、リーン。神子の役目を継いだから、ここを守っていかないといけない」

「なんで。全部終わったら帰るって、約束したじゃない」

「約束は破る。リーンは帰るんだ。あるべき場所へ」

「そんな。ここにはもうセツカの家族はいないんでしょ。一人ぼっちになるなんてやだよ」


 リーンが僕の手を取ろうとして、思わず振り払ってしまった。


 飛び退き、勢い余って触れた若木が一瞬にして大樹に成長する。


「触るな。いま、まともに魔法を制御できないんだ。迂闊に近づいたら、リーンの命が」


 時の神子の住まいが人里離れた森の奥にある理由が、今ならわかる。

 先代様の魔法も、町で暴走してしまったら、被害者は七人じゃすまなかった。


「陛下、ウルさん、エレナさん。リーンを連れて行ってください」

「セツカ……」


 幼い子のように泣きじゃくるリーン。触れたもの全て朽ちるから、ハンカチを差し出してやることもできない。


「ごめん、リーン。どうか、幸せに」


 先代の犯した罪を背負うのは、僕一人で充分。

 リーンは普通に生きて幸せになってほしい。


 だから、セツカとして生きた日々にサヨナラを告げよう。

 

 みんな立ち去り、この場に僕とアイセ、ソレイユ先生だけが残る。


「ボクも神子の先輩として教えられることがあると思うんだ。だからしばらくここにいるよ」

「……ありがとう、アイセ。先生」


 こうして、時の神子としての時間がはじまった。 


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 悲しいリーンとの別れ。 でもここからセツカの新しい人生が始まるんですね。 ここから物語がどう動くか、楽しみです!
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