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ダンジョン攻略は海兵隊魂で!  作者: 乃木重獏久
第3章 闇森の戦闘
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第5話 悪意との遭遇

(注)本話は作中に残酷描写があります。

「うわっ、なっ!?」


 ぼんやりと点る前照灯が照らす馬車の正面に闇の中から突然現れたように見えたのか、街道の真ん中に立つ僕の姿に、高い位置の御者席で手綱を握る二人の御者は、席から飛び上がらんばかりに驚いていた。そして同時に、大きな音を立てて馬車が止まった。


「なんだ、てめえ! 危ねえじゃねえか!! 急に現れやがって。それに、妙な仮面を着けやがって、てめえ何者だ」


 長髪の男が、情けなく驚いてしまった自分をごまかそうと、やけに威圧的な声を上げる。


「こんな時間に、この暗い中を明かりも点けずに、おめえ一人で歩いてきたのか? (ほか)に仲間はいないのか? むこうで火を焚いていたのもおめえか」


 もう一人の小太りの男も、前歯が抜けた口を開いて僕に尋ねてくる。


『何、この人。歯が抜けて変な顔ね。こっちのお兄さんは、この汚い長髪が似合ってると思ってんのかしら? ノエル、こいつら絶対悪人よ、悪人。手に血もついてるし。それと車内の八人は、車の中からこっちの様子を窺っているみたい。みんな剣を持って臨戦態勢だから、反撃準備よろしくね』


 ソニアが御者席へ乗り込んで、不審な御者を至近距離で吟味しているが、当然ながら男たちは気付いていない。彼女の言葉に客車の方を見ると、黒い小窓から覗く目が幾つもあった。


「見ての通り、僕一人さ。よく分かったね、僕が焚き火をしていたって。もしかして、ずっと僕を監視していたのかな? まあ別にいいけど。それにしても、こんな森の中であんたら何をしているんだい?」

「え? み、見れば分かるだろうが。ただの乗合馬車だ。文句あるか」

「文句はないさ。で、どこへ向かうんだい、この馬車。良ければ便乗させてもらえないかな」

「どこへ向かおうと、てめえに関係ねえだろうが」

「おい、ここには、こいつ一人しか居ねえんだから、小芝居をする必要はねえ。よお、兄ちゃん、普段なら、いろいろ芝居して油断をさせてから襲うのが俺達のやり方だけどよ、おめえはたった一人のようだから、その必要もねえ。今すぐたたっ殺して、持ち物すべてをもらってやるぜ」


 そう言うと小太りの男は、その鈍重そうな姿からはとても想像できない澄んだ音色で、小気味よく口笛を吹いた。


「なかなか正直な人たちだね。やっぱりあんたら盗賊なんだ。さて、どうしよう。あんたらに殺されずに済ますには、僕はどうしたらいいんだい?」

「悪いが、そういう選択肢はねえよ。おめえを生かしてやっても、俺達にゃ何の得にもなりゃしねえしな。しかしおめえ、変な格好しやがって、ろくなもん持っていなさそうだな」

「いつもなら、なぶり殺しにして遊んでやるんだが、今夜はもっと愉しめる上玉がそろっているんでな。今は、お頭たちが愉しんでいるところだが、もう少ししたらオレ達にも回ってくる。そんなわけで、てめえと遊んでる暇はねえから、サクッと殺してやる。苦しまないですむんだ。ありがてえだろ?」


 二人の盗賊は、下卑た笑いを浮かべながら、腰の剣を抜こうとするが、狭い御者席に引っかかり、うまく抜けないようだ。馬車の中からくぐもった笑い声が漏れてくる。長髪の男が、車内に向けて「うるさい!」と怒鳴りながら馬車を降りる。続いて小太りも降りてきたが、車内の八人は見物を決め込んでいるのか、それとも面倒くさいだけなのか、全く降りてくる様子がない。


 僕は間合いを取ろうと、ゆっくり後ろに下がるが、こいつらには、僕が恐れおののきながら後ずさるようにしか見えなかったようで、あらためて剣を抜きながら、ニヤニヤと僕を眺めるだけだった。


「やはり、まともな連中じゃなさそうだな」

『ノエル、射撃モードの選択を間違わないでよね』


 ソニアが、小太りの男のスキンヘッドをぺしぺしと手のひらで叩きながら言う。


「判ってるって。射撃は基本、セミオートだろ」

『そう。アンタなら一撃必殺できるでしょ。本当なら銃以外で戦って欲しいところだけど、アンタのナイフ術じゃ心許ないし、仕方ないものね。それじゃあノエル、アタシは音声モードで支援に入るから』


 長髪の鼻に指を突っ込んで遊んでいたソニアはそう言って、僕の視界から消えた。


「何をブツブツ独り言喋ってんだ、てめえ」

「どうあっても助けてはくれないんだね」

「何を寝ぼけたことを言ってやがる。さっきも言っただろうが。おめえを見逃したって何の得もねえじゃねえか」

「殺した後はどうするんだい?」

「女なら、死んだ後もいろいろ愉しませてもらうんだが、てめえみたいな野郎にゃ用はねえ。その辺の枝にでも逆さにぶら下げて、俺達の恐ろしさを他の奴らに知らしめてやるさ」


 にやけた笑みを浮かべながら、二人の偽御者は僕に言う。その表情は、魂の底から腐っているかのような醜いものだった。


「わかったよ。諦めることにするよ」

「なかなか物わかりがいいな、兄ちゃん。それじゃあ、そこに(ひざまづ)きな」

「弾の節約は諦めた」


 僕は小銃を両手で構えると、長髪の男の悪人相にその銃口を向けながら、親指でセレクターを操作する。


「なんだぁ? そんな杖で一体何がしたいんだ、てめえ――」


 刹那、空が裂けるような高い音が暗い森に響き渡る。余韻の中、男は両膝を大地につくと、その場に倒れ込んだ。

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