嫉妬の華が美しい理由
「ところで、マダムの好きな華を僕は知りません」
「私の好きな華は嫉妬の華だよ、ボーイ、君にも見せてあげたいよ。嫉妬の華はね、二種類あるんだ。ひとつは、羨望の意味での嫉妬。こちらは普通の華さ、よくある華だ。もうひとつは醜い、殺意にも似た意味での嫉妬。こちらのほうが、私の好きな華さ」
「本当に、マダムの目は素敵ですね。僕の目は、死んだ人の魂が見える程度ですよ」
「私は確かに感情も幽霊も見えるけどね、幽霊が見えるっていうだけで、世間ではレア物扱いさ」
勝手に二人だけの世界に入られてしまい、ミカは腹をたてていた。噂で聞いた「感情華屋」の能力は確かなようだが、本当に自分の願いをきいてくれるのだろうか。
「あの、二人の世界ができてしまっているときに悪いのですが、本当に私の願いを叶えてくれるんですよね」
マダムは、真っ赤な唇をにこりとつりあげ、ミカを指差した。暗い部屋に、金色の指輪が不気味に光る。
「正確にはアドヴァイスだよ。たまにこちらが動くこともあるが、基本的には占い師のようなものだ」
期待はずれだったかもしれない。誇張されていた噂に、ミカはため息をつく。
「感情の見えるあなたが、それを頼りにどんな悩みでも解決してくれるってきいてたんですけど」
「当たらずして遠からず。解決するのはあなた自信だ。あなたの悩みは、恋の嫉妬関連だ、違うかい」
ミカは目を丸くする。だらけかけていた姿勢を、無意識に正していた。
「――その通りです」
「だろうね。恋と嫉妬の華が、あなたに絡みついている。おめでとう、その嫉妬は、私が好きな方だ。あなたは、嫉妬しているし、されてもいるね。他人の嫉妬は、少し色が違って見える。君の首を絞めるようにして咲いているよ」
「それは、殺したいほど私に嫉妬しているって、そういうことですか」
ミカは怖さと怒りで震えた――あの女。
「恐らくそうだろう。他の華もついているが、詳しくは話を聞かないとね」
どうぞとマダムに促され、ミカはぽつりぽつりと、話をはじめる。
「おかしい話なんですよ。私、イベント会社で働いているんですけど、そこである有名人の方とお仕事をご一緒させていただくことになって、縁あってプライベートでも仲良くさせていただけて、数ヵ月前におつきあいさせていただくことになったんです」
「それは素敵なことだね」
両膝の上に置かれていたミカの拳に力が入る。
「本当に、素敵なことのはずだったんです。でも、その人の元彼女だって言う人につきまとわれるようになって……すごい嫌がらせで。家に手紙が入ってて、あなたはずるいとか、留守電が入ってて、隣にいるのは私のはずなのにとか」
マダムは、楽しそうに目を細める。
「それが、まとわりついている嫉妬の正体か。では、あなたの嫉妬の正体は?」
ミカは一瞬だけ黙ったが、その後小さく「私の知らない彼を知っているとか言うから」と呟いた。はは、とマダムは乾いた笑い声をあげる。
「なるほど、それで殺そうとしているのか」
ミカは大きく目を見開いた。なぜ、とミカが問う前に、マダムがミカを指差す。
「他にも見える華があるといったろ。死の華さ。首もとに、一輪だけだけどね」
「うそ、そんなことしてない! 殺されかけたのは私よ!」
ん、とマダムが眉をつり上げる。ああ、とボーイが手を叩く。
「逆ですよマダム。多分彼女、気がついていないだけです」
言って、ボーイがミカの首もとに手を伸ばした。とっさに、ミカはかまえる。やめて! という叫び声と、ボーイの手がミカの首もとを通過するのは、同時だった。
「え」
マダムは薄く笑ったまま、なるほどと言ってタバコに手を伸ばす。
「もういい、嫉妬の華は死の華に覆われてしまった。気がついてしまったね。死の華は物悲しい。君は、もう少し早く私のところに来るべきだったね」
マダムがタバコに火をつける。うそ、うそ、と呟くミカに、そっと微笑みかける。
「あるべき場所にお帰り」
タバコの煙を吹きかけると、ミカは消えてしまった。
もう、とボーイが困った表情を浮かべながら振り向く。
「マダム、最初から知っていたでしょう」
まあね、と悪い笑みを浮かべて、マダムはタバコの灰をその場に落とした。床に落ちる前に、ボーイの手がそれを受け止める。
「鑑賞していたのさ」
「マダム、嫉妬の華とはどんな華なのですか」
「形容しがたいね。人によって大きさは違うし、色も違う。形だけは一緒だ。花びらは多くて、馬鹿みたいに長い。それが、人に絡み付くようにして咲いているのさ」
ボーイはその華を想像したあと、うーんと首をかしげる。
「それ、本当に美しいんですか?」
当たり前じゃないか、とマダムは視線を落とす。先ほどの華を、思い出す。本当に本当に美しかった。
「嫉妬の華が咲く人は、間違いなく醜いからね」
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テーマ「嫉妬」




