第58話 構成ランダム
「ここがタガジョウダンジョン、か……」
――翌朝。
二日酔いに苦しむ二人を強引に叩き起こし、俺は身支度をさせた。
出勤前に母屋に顔を出した赤城さんに事情を聴かれタガジョウダンジョンへ赴く旨を説明すると、車で送迎をしてくれるとのこと。
赤城さんの出勤場所が近いのは幸いだった。
途中コンビニで朝食を買い込み、よもやま話に盛り上がりながら30分。
こうして俺達はタガジョウダンジョン前までやってきた。
まだ7時前と比較的早い時間帯なのだが――
ダンジョン前は異様な活気に溢れている。
行き交う人も頻繁で、うっかりするとはぐれそうだ。
しかし初めてアオバダンジョン以外の他ダンジョンに来たものの、こうして見ると何だか……
「――正直、代り映えしないな」
「それはそうだろう、ショウ」
俺の率直な感想に追随してきたのはミズキだ。
二日酔いで頭が痛むらしく、時折顔を顰めながら解説してくれる。
「? どういうことだ?」
「ダンジョンに関わるのは行政――この場合はダンジョン庁だが――
各地方都市で対応が違っていたら均一なサービスが施行出来ないだろ?
だからある程度の差異はあるも、同一の造りにワザとしてるのさ」
「ああ、なるほど。
仲間を募集する酒場。
装備を受領する商店。
各種訓練所に治療院、そしてホームとなる宿屋。
ダンジョンごとに設備があったりなかったりしたら確かに大変だな」
「そういうことだ。
まあ最もこの考えはあくまで二ホン地区の考えだけらしい。
世界各国ではそれぞれの個性を重んじるところが多い。
なので場所によってはユニークな設備もあるらしい。
ここら辺まではさすがにオーバーロード達も介入しないしな」
「面白そうだな、それも。
まあ今の俺達に必要なのはこれまで通りのサービスなのだが――」
「――あっ。
そういえば、ショウちゃん……ってて」
「まだ頭痛が酷いのか、コノハ?」
「――うん、ちょっとね。
でもさっき赤城さんからお薬貰って飲んだのが効いてきたから大丈夫。
ね、ミズキちゃん?」
「――ああ。
二日酔いの常連だけあって、さすがに良い薬を知ってる」
「いや――まずは二日酔いになるほど呑むなよ。
酒は飲んでも呑まれるな、って昔から言うだろうに。
それで……なんだ、コノハ?」
「あ――ごめんね、遮って。
これからボク達『ソレイユ』がアタックするタガジョウダンジョンって――
いったいどういうところなの?
ボク、実はアオバダンジョン以外潜ったことがなくて」
「かくいう俺も何だが、な」
「うえ? そうなの?」
「ああ。アオバダンジョン以外に潜ったことがない。
まあそれでも情報は大事だ。
伝手やネットを使い、色々探ってみた。
今まで搔き集めた情報を統合すると、このタガジョウダンジョンは――」
「――組み換え型ダンジョンなんだ」
「ってミズキ、知っていたのか!?」
「――ん。
お試しとして以前双子とアタックしたことがある。
ただ……すぐさま撤退したよ」
「え――ミズキちゃん達ほどのパーティがどうして!?」
「ミズキの言う通り、組み換え型は厄介なダンジョンタイプなんだ。
別名不思議なダンジョンシリーズとも言われていてな……
どういう意味かというと――毎回ダンジョンが姿を変える」
「――へっ? どういうこと?」
「文字通りだ。
入る人、人数、時間――
その時々によってダンジョンの構造が組み変わる。
つまり――マッピングは役に立たない。
これはダンジョンを攻略する上で非常に大きな問題だ。
何せ罠の確認や安全地帯の確保が不可能だ。
一番困るのは――適正な撤退が出来なくなる恐れがある」
――勇者を二人も投入して未だ攻略されていないタガジョウダンジョン。
その大きな理由がこれだ。
ベースはオーソドックスなダンジョンだが、内部構造が毎回違う。
つまり経験則があまり役に立たない。
純粋な技量と運によって左右されてしまう。
毎回見慣れないダンジョンに挑戦するのは苦行としか言いようがない。
さらに問題とすべき事もある。
ダンジョンマスターのいる最下層まで――どれほどあるのか?
現在の最深記録は27階層らしいが……
これだけでアオバダンジョンの倍以上。
つまりコアを護る迷宮主の力も倍以上ということだ。
恐ろしい力を持っていた魔将バァールモス。
冷静に思い返してみても、全滅を免れたのが僥倖としか言えなかったあいつよりも強い業魔が支配する最深部。
中堅でなく――上位クラス存在の可能性も考慮しなければならないだろう。
「10階層にある地上への移送の扉。
それ以外の帰還手段は、自力で隠された上層への階段を探すか魔法の力及び魔導具を使うしかない。
それがこのタガジョウダンジョンの攻略度の基準を上げてしまっている。
まあ、行政も馬鹿じゃない。
色々打開策は打っているらしい。
その最多ある例の一つが最近導入されたという――」
「――あら?
久々に見掛けたと思ったら……なかなか良いことをいうじゃない」
聞きかじりの知識を自慢げにしたり顔で披露する俺。
ここでちょっと脅しておいて少し慎重に探索を進めようという腹もあった。
しかしその思惑は――残念ながら人込みから投げ掛けられた涼やかな声に止められてしまうのだった。




