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ダンジョンが出来た世界で幼馴染が勇者(自爆魔法特化型)になったので、遊び人の俺は寄生しようと思う  作者: 秋月静流


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第54話 豪快デリカシー

 

 母屋に隣接する木造の建物。

 それが狭間家名物、狭間道場だ。

 門下生百数十人、内弟子4人を抱えるだけあってかなり広い。

 学生の精神修養レクリエーションなどに使われることもあってか、中には浴場や宿泊用の布団なども完備されてる。

 夏休み前には座禅で足を痺れさせた中学生の苦悶の声が高らかに響く素敵な所でもある。

 まだ早い時間帯のせいか学生の門下生はおらず、今現在そこで汗を流すのは非番の警察官や稽古に来た自衛隊員達だ。

 男ばかりでなく女性の姿もちらほら見えるのが時勢だな、と思う。

 業魔は男女を区別しない。

 ならば戦える力は性別に関係なく養った方がいい。


「あれ――坊主?

 坊主じゃねえか。

 もう退院したのかい?」

「坊主はやめて下さい。

 ええ、お陰様で」


 ミハルさんに先導される形で道場を素通りし、親父のいる離れに行こうとしたのだが、目聡い門下生に掴まってしまった。

 今声を掛けて来てくれたのは警官の門下生の一人、赤城さんだ。

 かれこれ40になろうとしてるのに未だ独身。

 生涯独身かと苦笑しつつ、官舎の相談役みたいな立場になりつつある。

 俺の事を赤子の頃から知っているので頭が上がらない。

 面倒見の良い善人だが……

 いつまでたっても坊主扱いなのが困ったものだ。


「こんな別嬪さんらを連れて、まあ。

 お前さんも隅に置けないな」

「何を言ってるんだか。

 赤城さんだって昔からコノハの事は知ってるじゃないですか。

 こっちのミズキだって新しいパーティメンバーですよ。

 邪推はやめて下さい」

「すまねえすまねえ。

 この歳になるとどうも、な」

「まったく。

 そういうデリカシーが無いところがモテない理由ですよ」

「わはは、そう褒めるな。

 俺にとってはこれも個性だからな。

 それはそうと坊主よ――」

「はい、なんですか?」

「なんでもアオバダンジョンを攻略したらしいじゃねえか。

 さすがは狭間師範の息子だな」

「俺の力だけじゃないですよ。

 パーティである仲間のお陰です」

「謙遜すんなって。

 お前さんならいつかやる……って」


 その時――俺達を先導していたミハルさんの姿に気付く赤城さん。

 ミハルさんも話を遮ったら悪いと思ったのだろう。

 足を止め、おっとりと微笑みを赤城さんへ向ける。

 瞬間、湯沸かし器の様に急に顔を真っ赤にしてモジモジし始める。

 熊のようなムサいおっさんの恥じらい。

 かなり見苦しいものがある。

 だがやられてばかりなのも癪に障るしな。

 理由は分かってるが、俺は意地悪く赤城さんへ尋ねる事にした。

 

「あれあれ?

 どうしたんですか、赤城さん?(ニヤニヤ)」

「い、いや……なんでもねえ(汗)

 坊主はこれから師範のところか?

 ――ミハルさんによろしくな!」


 そそくさ、と足早に道場へ戻る赤城さん。

 ふむ、分かりやすい。

 コノハとミズキを見ると深々と頷いている。

 何が起きたか疑問顔なのはミハルさんばかりだ。

 まあ個人の恋愛に口を出すべきじゃないだろう。

 俺は肩を竦めると、皆と共に道場から離れた平屋の稽古場に入る。

 そこで俺達を正座で待ち受けていたのは道着袴姿の壮年の男。

 ただ座っているだけだというのに、静かな威圧感を放っている。

 虎や猛獣の様な野性的な威圧ではない。

 巨木や巨石に感じる様な圧倒的な存在感。

 後退してきた髪を嘆いて禿頭にしたせいだろうか?

 まるで仏像の様な佇まいすら印象付ける。

 この男こそ狭間道場総師範、狭間ムサシその人だ。

 俺の親父でもある。


「来たか……」


 俺達が靴を脱ぎ静かに道場へ入ると同時、ゆっくり目を開ける親父。

 傍らに置いてあった二本の木刀を手にすくっと立ち上がる。

 それだけで目に視えない殺傷圏が展開されるのを肌で感じる。

 全身の肌が総毛立ち金玉が縮み込んでいく。

 本能が生存を駆り立てるのだ。

 顔色一つ変わらないミハルさんは例外として、コノハもミズキも蒼白になって立っている。

 二人の足が震えているがこれは仕方がない。

 殺気とは違う、より上質の剣気。

 存在そのものを断ち切る様な気を当てられ平然としてる方がおかしい。

 正直な感想として、ダンジョンマスターの前より生きた心地がしない。

 まあこういった常日頃の対峙があったから絶望に屈せず立ち向かえたのか。

 そう思えば親父とその高弟らには感謝しなくちゃなるまい。

 俺は剣気に真っ向から立ち向かうのではなく、優しく自然に受け止め、流す。

 親父は「ほう」と感心したように呟くと手にした木刀を一本投げてきた。

 危なげなく木刀を手にし、淀みなく構える。

 そんな俺の姿を見て満足げに頷く親父。

 自身も構え、愉しそうに俺へと告げる。


「先取り稽古一本だ、ショウ」

「……一応病み上がりなんだけどな、親父殿」

「数週間の休養で衰えるほどやわな鍛え方をしておらん。

 それに必要ならお前が得た力を使っても構わんぞ。

 迷宮主を斃しえた、今のお前が出来る全てを見せて見よ」


 くそ――この戦闘狂め。

 価値観が完全に戦国時代じゃねえか。

 ただこうなった親父に何を言っても無駄なのは充分理解してる。

 俺は盛大な溜息を飲み込み気息を整えると――

 毅然とした態度で親父に立ち向かうのだった。

 

 



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