修一×プリシラ
――サラトガ街、夕刻
まだ気は抜けないが、街の防衛を担った冒険者達は交代で休憩をとる余裕はできた。修一達も街中の仮設休憩所で一息ついている。そこにアメリアもやって来たが、「んん?」と訝しげな声を上げた。
「お前たち、修一とプリシラのマナを感じてみろ」
アメリアに言われた一同がマナを探ると各自が驚きの声を上げる。
「おお? 二人のマナ揺動のパターンがそっくりだな。今まで修一のレベルが低くて気付かなかったが、これは……強制同期のせいか!」
アシュレイが驚きながら言う。
「そうだろうな。プリシラに強制同期されて蘇生した修一のマナ揺動のパターンが、プリシラと同じになったのだろう。双子の魔法使いは揺動パターンが似ていると聞いたことがある」
「目をつぶると二人の区別が付かないほど似ているけれど、これってメリットとかデメリットがあるんですか?」
ニールが首をかしげながらアメリアに問う。
「面白いことができるかもしれん。上級魔法使いになると魔法合成ができるのは知っているな? 魔法陣魔法が典型だが、大気のマナを取り込んで自律発動する魔法陣に、例えば時空魔法を合成すると転移魔法陣となる」
一同が頷く。
「同一の術者でないと合成はできないが、今の二人ならできるかもしれない。互いにマナ揺動を意識しながらマナ錬成を開始すればいい、のかな? 正直分からん、ははっ」
アメリアは困った顔をして二人を見る。
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修一とプリシラはあれこれ姿勢や位置を試しながら、一応の形が整った。修一は自身の杖は使わない。二人が向き合い、二人とも右手で彼女の杖を握る。さらに左手を互いの右手に被せて直肌を通じてマナを感じやすくする。杖を支点に両手握手をしているような格好だ。
「とりあえずやってみたらいい。修一は魔法陣はまだできないから、プリシラが魔法陣、修一はそこにリカバリーを合成してみろ」
「マジックサークル」
「リカバリー」
二人は、予め決めておいた発現予定箇所を見つめながら、息を合わせてマナ錬成をすると、青白く輝く魔法陣が発現した。ただし直径半メートもない。マノラがひょいとそこに乗っかる。
「おおー、疲れがとれる!」
マノラが歓声を上げた途端、魔法陣は消失した。
「お、もう消えた。これじゃ単体回復魔法と同じだなぁ。そんなに簡単にはいかないか。マノラ、効果はどうだ?」
修一が聞く。
「普通のリカバリーよりは少し低い程度かな。魔法陣がもっと持続すれば何人も回復できるのにね。アメリア様ならこのエリアリカバリー? これを発動できるんですか?」
「私は魔法陣魔法は一通りできるがどれも効果が低いので実用性があまりない。転移魔法陣も一人用だしな。今のはプリシラの魔法陣が安定していなかったようだな?」
「ええ、魔法陣自体に慣れていませんし、修一とのマナ同期を意識しながらの錬成でしたから発動するだけで精一杯でしたね」
「魔法陣自体の発動と維持が難しいからな。次に自然属性同士でやってみるか。私が試したときは、合成はできても相乗効果は全くなかったが」
一同は南門を出ると、迷宮近くにある大岩を試射対象とした。以前修一が領都で蹴り砕いた大岩よりも、岩質はかなり硬い。丘陵の麓から、中腹にある大岩の基部を狙う。
「私は上級火魔法ファイアキャノンにします。一人で撃った場合、岩の表面を穿ってから岩全体がしばらくの間、燃え続けるでしょう」
この魔法は地球でいうところの焼夷弾に似た効果がある。
「俺は上級射撃魔法のアースキャノンで。単体で撃てば、最低でも半壊はするはず。当たりどころが良ければ全壊するかな」
二人が錬成過程を同調させながら魔法を発動する。プリシラの火魔法が付与された金属弾は岩塊全てを粉砕した。破壊跡が煙っている。
「うん、一人で撃つより威力があると思う」
修一がそう言いながら、姿勢を解いて破壊跡に近づく。
「止まって!」
プリシラが焦った声で叫ぶ。
「え?」
――ドカァァァン
修一がプリシラに振り向いた瞬間、跡地が爆発した。爆風でよろめいた修一の頭に破片がぶつかる。
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「いつつ」
修一が自身にヒールをかけている。大怪我ではない。跡地を見ると、地面に穴が空いていて、そこから火が噴き出ていた。地表に出ている岩だけでなく、地中にある岩まで時間差で爆砕したのだった。
「ははっ」
「おおぅ」
「うはぁ」
「うわあ」
アメリア、アシュレイ、ニール、マノラが歓声を上げた。当人の修一とプリシラは、予想外の威力に呆然としている。
「竜鱗、貫けますかね?」
我に返った修一がアメリアに聞く。彼女は修一をきりっと睨んだ。
「鱗を貫くどころか致命傷を与えるだろうよ! 最初の目論見は、竜にそこそこの傷を負わせてホルゴス山に追い返すことだった。だが傷を負っても帰巣する保証はない。他に策がなかっただけだ。古代竜を倒せるなら倒したいに決まっている!」
アメリアだけでなく、一同が希望を持った眼差しで修一とプリシラを見つめていた。
****
街中に戻ると修一はプリシラに先ほどから気になっていることを聞いた。
「ところでさ、ロスロット砦攻略の頃までは俺よりレベル低かったと思うけど、今や俺よりマナ量が多いんじゃないですかねぇ、プリシラさん?」
修一がジト目でプリシラを見る。
迷宮でパワーレベリングが完了する前は、低レベルの修一は、他人の正確なマナ量は分からなかった。今改めて、プリシラがレベル四十八の自分よりマナ量が多いと知った修一だった。
「え、ええ」
プリシラは、今や修一の足手まといにならない強さがあることが嬉しい。今回のスタンピードでは防衛の要となった自負もあるし、レベルも上がった。だから質問には胸を張って肯定したいところだが、修一のジト目が気になって少し曖昧な笑顔で応えた。
「うーん」
プリシラの笑顔に言葉を濁す修一。自分が何度も命を懸けて守ってきた少女に追い抜かれた。勿論、仲間が強くなるのは良いことだ。だけど素直に喜べない複雑な男心がある。
「お嬢、気を使わずに、一足先に上級魔法士になっちゃいましたぁ、と言ってやれ」
修一の男心に気付いたアシュレイがからかう。その表情がニヤニヤとしていて修一からすると実に腹立たしい。
「ぐぬぬ」
「まあまあ、修一は近接戦闘力が凄いんだからさ」
ニールがフォローする。素手でアシュレイを負かしたことのある修一は、アシュレイを見て「ふんっ」と鼻で笑った。
「修一テメエ、近接戦闘に自信あるなら武技だけでマノラに勝てんのかよ?」
「むぅ、いやでも中距離からナイフ投げて牽制して……」
ブツブツと呟きながら頭の中でシミュレーションする。
「へっ、修一の戦い方は憶えたぜ。対抗策をマノラにきっちり仕込んでやるよ」
「なにい!?」
「三十四歳と三十一歳の辺境の英雄二人がガキみたいな言い争いをして実に惨めだな」
アメリアが心底うんざりした顔で二人をたしなめた。男どものマウント合戦の「だし」に使われたマノラ当人は、まるで気にせずシャリシャリとリンゴを食べている。プリシラとニールは笑顔が固まっていた。
修一は二十八だと自覚していたが、実は三十一歳であった。警察署でヴィクターと再会した時点で既に二十八歳。以降の三年間の記憶の殆どを封印していたのだ。おっさんである。そして男の器がやや小さい。
■次話は週半ばではなく土曜投稿予定です




