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アメリア流パワーレベリング

――迷宮街サラトガ、冒険者ギルド会議室


「アシュレイ達が報告したように、オルスク大森林に迷宮が増えたのは間違いない。このまま古代竜を避けて魔物の間引きができなければ、半年以内にはこの街もスタンピードに呑み込まれる可能性が高い」


 アメリアがギルド職員と高レベル冒険者を前に状況説明をしている。遺跡迷宮の大氾濫以降、古代竜の行動パターンが変化して、オルスク大森林を基点に行動するようになった。そこで、アシュレイとニールのパーティが、古代竜に遭遇する危険を冒して大森林の調査をして、先ほど帰還報告したところだ。


「古代竜を倒せないまでも大森林から追い払いたい。そのためにはかすり傷以上の傷を負わせる必要がある。古代竜が根城にしていたホルゴス山脈一帯はマナの濃度が高い。竜は傷を癒しに帰巣するだろうから、その隙に私と兄弟の宮廷魔法士で大森林の迷宮を潰してまわる」


 アメリアはそう言ってから修一を見る。


「その傷を与えることができるのは修一の射撃魔法だと思っている。修一なら竜鱗を貫けると思う。そして射撃後は設置しておいた転移魔法陣で竜の感知範囲から逃れてしまえばいい。もう魔法杖は使えるのだろう?」


「ええ、今は使えます。それでも竜鱗を貫ける自信はないけど、やりますよ。半年でなんとか元のレベルに戻れるよう頑張ります」


 修一がアメリアの言葉に応える。修一は療養後、プリシラとマノラの協力の下で、レベル十五になっていた。古代竜に焼かれたローブに代えて、今はヴィクターのローブを着ている。


「いや、半年もかかっては遅いです。これだけ大きな街ですから、街を放棄するかどうかの決定は今すぐでもしないといけません。避難先の選定、住居建築には半年がかりになりますから」


 ギルドマスターのルカスが焦った声を出す。


「ルカスの言う通りだろうな。だから修一には、十日で上級魔法士になってもらう」


 アメリアが口の片端を上げて歪んだ笑みをする。彼女が無茶ぶりをする時の表情だ。


「魔物寄せの魔道具を使うと古代竜まで来てしまいますよ?」


 ルカスが益々焦った表情でアメリアに顔を向けた。


「魔道具は使わない。準スタンピード状態で、修一のレベル上げをする」


 アメリアはニヤリと口角を上げて一同を見渡した。



――五日後。サラトガ迷宮最下層


「ストーンバレット」


――ガスッ


 修一が群れの最後のヴァーミリオンウルフを倒した。傍らには、プリシラとマノラがいて、行動阻害魔法で援護している。そこへアメリアがやって来た。


「上層はゴブリンで一杯、中層もだいぶ増えてきたぞ」


 アメリアの報告に三人は緊張した表情で頷く。


 この五日間、作戦に関わる者以外は迷宮は出入り禁止となっている。迷宮が安定期から暴走期に入りつつある。暴走期では密度が上がると湧き速度も増す。迷宮内では、修一だけが、下層の高レベル魔物を狩り続けている。


「プリシラとマノラは、私と交代だ。迷宮内の様子をアシュレイに報告したら、テントで休んでくれ」


 プリシラ達は撤収した。この五日、修一だけは迷宮下層で野営を続けていて仲間達が交代で援護に来ていた。


「下層の状況は?」


「ボス広場以外の魔物は狩り終えたところです。半日経たずに湧くようになってますね。いつスタンピードになるかと思うと、緊張が絶えませんよ」


 修一が焦燥の表情で答える。


「アシュレイの指揮下で冒険者総出で待機しているんだ。お前はレベル上げだけに集中しろ。今日中に全ての中級魔法は使えるようになれよ」


 アメリアは励ましながら修一に回復魔法をかけてやる。



――迷宮最下層、ボス広場


――ガスッ


 一体のオーガが、胸に穴を開けて倒れた。その場にいるオーガ達が攻撃者を求めて広場入口に殺到する。だが透明な壁に阻まれ、その向こうにいる人間を攻撃できない。


「ストーンバレット一発でノーマルオーガを倒せるようになったようだな」


 広場入口を塞ぐように作ったアーススフィアの中からアメリアが修一に話す。


「なりましたね。昨日まではダメでしたが。ここでスフィア作って俺達が居座っていいんですか? ボス広場以外の最下層魔物を狩りにいけませんよ」


「初級魔法でオーガが倒せたのだから、今からはここに居座るぞ。修一の射撃威力が十分だと私が判断したら、そのまま戻らないとアシュレイには言ってきた」


「もう第二段階ですか。スフィアを維持してるアメリア様は魔法が使えないから、俺の殲滅速度が遅ければスタンピードになりますよね……」


 修一が緊張してゴクリと喉を鳴らした。


 第二段階では、上層、中層だけでなく、ボス広間以外の下層も放置して、迷宮全体の魔物密度をさらに上げる。そして広間のオーガ達だけを湧いたはしから狩っていく。


「なに、今日、明日はまだまだ湧く間隔が長いだろう。今のうちにゆっくりしておくんだな」


(とても気持ちが休まらねぇ)


 修一は小さく呟いて泣きそうな目でアメリアを見てから、オーガに向けて魔法を唱えた。



――パワーレベリング八日目。サラトガ迷宮最下層


「修一、修一、おい、起きろ」


 アメリアに揺さぶられて目を覚ました修一だが、まだぼうっとしている。


「オーガキングの三体目が湧いたぞ。もう少し寝かしてやりたかったが、これ以上はまずい」


 アメリアの緊迫した声で危機感を抱いた修一は、一気に目が覚めて、メタルバレットを唱えた。金属弾がオーガキングの心臓を貫く。


「よし。一発でオーガキングを倒せたな。上級魔法士までもうすぐだぞ」


 アメリアが励ますが――


「ここからが長いのは分かっていますよ」


 細切れな睡眠しか取れなくて、やつれた表情の修一が応えた。



――パワーレベリング十日目。サラトガ迷宮最下層


 アメリアが目覚めると、修一がブツブツと呟いているのが聞こえた。杖を左手に握り、スフィアの壁に右手を付いて立っていて、頭はうなだれている。


 修一の足元では、地精霊ノームのウベルが両手で修一の脛に手を当て、頭を揺らしている。修一の真似をしているのだろうか。


「ストーンバレット」

――……

「ストーンバレット」

――ガシュ

「ストーンバレット」

――……

「ストーンバレット」

――……

「ストーンバレット」

――……

「ストーンバレット」

――ガシュ

「ストーンバレット」

――……

「ストーンバレット」

――……

「ストーンバレット」

――……

「ストーンバレット」

――ガシュ


「修一、おい、修一、私を見ろ」


 虚ろな目をした修一がのろのろと頭をアメリアに向けた。


「だんでじょゔが」


 声が枯れていて滑舌も悪い。


「言いたいことは色々あるが、まずは座れ」


「だべです。座っだ瞬間に寝でじばいばす」


「分かった。なら仕方ない。では次。魔法を唱えているが四回に一回しか発動してないぞ。詠唱間隔を開けろ。マナ回復するまで待て」


「黙っでいるど寝でじまいばす」


「分かった。なら仕方ない。じゃあ次。そもそもオーガがまだ湧いてないぞ」


「あ゛あ゛、下を向いでで気付がながっだ」


 修一が虚ろな声と表情で応える。アメリアはビクリと眉をしかめて、大きなため息を吐いた。


「まずは回復魔法をかけなさい……」


 アメリアに言われて、修一は呟き声で回復魔法を唱えると、少し目に生気が戻った。


「あばばばば」


「!?」


「よし、声が戻りました。眠気も少しとれた」


「あ、ああ。発声テストだったか。とにかくお前は休め。この三日、殆ど寝ていないじゃないか。私がスフィアを解いて、間引き作業をするから」


「いや大丈夫ですよ。もう少しでレベルアップしますから。そしたらレベルアップ効果で疲労が半減するでしょ。さっきまでが一番ヤバイ状態だっただけですって」


「そうは言うがなぁ……」


 二人が話している間にオーガの群れが湧いた。そして修一はオーガキングと眷族のオーガ三体を倒すと、歓声を上げた。


「やった、レベアップしました! レベル四十八だ。ん、あれ、四十九だっけ。いや、四十七?」


「正確な数値はいいから。確かに以前と同じマナ量を感じる。上級魔法を試してくれ」


「了解。次に湧いたオーガ達に試します。思い付いた射撃魔法があるんですよ」



****

「湧きましたね。じゃあいきますよ。サン、ニイ、イチ」


 カウントダウンと共に修一の右肩の上に浮いていた三発の石弾が一斉に射出され、三体のオーガを仕留めた。残り一体をストーンバレットで倒す。


 修一は、上級射撃魔法「アースキャノン」を改良した「バレットストリーク」と名付けた魔法を考案していた。この魔法は、マナ錬成する砲弾の威力を少し抑えることで、三発もの弾を射出待機できる。弾の質量を大きくできるが、今回はいつもの初級魔法と同じ石弾の大きさにしてある。


「ははっ、いいじゃないか修一。よし、ここまでにしよう」


 修一の新魔法で一掃されたオーガの群れを見て、満足した二人は、ここでレベリングを終了することにした。


 魔物であふれそうになっている迷宮内を二人で殲滅しながら、やっと外に出る。日差しが眩しい。ちょうど昼時だった。だが、迷宮入口で待機しているはずの冒険者達がいない。


「予定通りの十日で上がれましたね。あれ、アシュレイ達がいない。どうしたんだろ」


 迷宮入口はサラトガ丘陵の中腹にあって街は丘陵の裾に広がっている。二人は眼下の街を見た。


 街が燃えていた。

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