四天王、感嘆する
79-①
武光がネヴェスの里に帰還した翌朝の事である。
「なぁ、ケイえもん。アルホってどうやって充電するんや?」
「あの……『じゅうでん』って何ですか?」
「……は!?」
何のこっちゃと言わんばかりの表情を浮かべていた京三だったが、しばらく考えた後、ポンと手を打った。
「……あ、そうか。映画で見たことあります。300年くらい前の機械って確か大半が電気で動いてるんでしたよね?」
「お、おう……」
「そっかー、アルホは《アルティメット動力》搭載なので、電気を補充する必要ありませんよ。三百年くらいは余裕です」
「さっ、三百!?」
あっけらかんと放たれた言葉に、武光はあんぐりと口を開けた。
「で、でも……この世界には基地局なんてあらへんやろうし、ちゃんと通信出来るんかいな?」
「あの……『きちきょく』って何ですか?」
「……へ!?」
なんぞソレと言わんばかりの表情を浮かべていた京三だったが、しばらく考えた後、ポンと手を打った。
「……あ、そうか。武光さんの時代の通信機器って電波通信でしたっけ?」
「お、おう……」
「アルホは《アルティメット通信》を使うので、アルホ同士で直接通信が可能です」
「ち、ちなみに通信できる距離とかって……」
「うーん、ボクの機種は三年前に発売された安物の古いモデルなので……せいぜい地球から月くらいまでですかね?」
「マジか……」
79-②
京三からアルティメットホンの能力や使い方を聞いた武光が、未来の科学ヤベーイ!? モノスゲーイ!? と、なっていたその頃……魔王城を目指していた天驚魔刃団は、《双竜塞》にて足止めを喰っていた。
双竜塞は、三年前の大戦の際に、竜と人の姿を併せ持つ魔族である《竜人属》が築いた砦である。
地元民から《兄弟山》と呼ばれていた二つの切り立った急峻な岩山と岩山の間に築かれた砦で、魔王城の北西およそ50km地点に位置し、魔王城への敵の進軍を阻む強固な『門』と言えた。
ここを過ぎれば、目的の魔王城はすぐそこなのだが……
「危ねぇー!! まさかいきなり撃ってくるとはなー」
影光達は、双竜塞を通過させてもらおうと門に接近しようとした所、突然矢を射かけられ、慌てて退避したのである。
「これは予想外でした。まさかあの守りの堅固な双竜塞が人間共の手に陥ちていたとは……」
「いや、違うな」
キサイの言葉をガロウは否定した。
「どういう事です?」
「砦の方からは人間の匂いはしない。あの砦にいるのは……魔族だ」
「ゴァム……?」
(だったらどうして?)というレムのすけの思考を読んだヨミは溜め息を吐いた。
「知らないわよ、そんなの。あの距離じゃあ、私の思考を読む能力も届かないし……ま、大方怪しまれてるんでしょうよ、超絶美少女の私と違って、アンタ達は見た目からして小汚いし怪しいからねえ」
天驚魔刃団の野郎共はジトッとした視線をヨミに向けた。
「何よその目は? だってそうでしょう? 顔面蒼白な犬に、岩の塊に、痩せこけてガリッガリの鬼と……あと、ウ◯コ」
「おい、ウ◯コって俺か!?」
「超絶美少女の私……と、チビ共もオマケで合格にしてやるか……ま、とにかく、私達以外はどいつもこいつも怪しくてムサっ苦しい奴しかいないじゃない? まぁ──」
「おい、ヨミ」
「ん?」
影光は 『仄◯い水の底から』を そうぞうした!
会心の一撃!
ヨミ(の精神)に 37564のダメージ!!
「ぴぎゃあああああ!? や、やめろぉぉぉぉぉ!! じゃぱにーずほらーはやめろぉぉぉぉぉ!!」
「おう、良いぞもっとやれ影光!!」
「闘鬼幻術・魑魅魍魎もかけましょうか?」
「グオム!!」
囃し立てる野郎共と、悶絶するヨミの間に、つばめとすずめが割って入った。
「けんかはだめ!!」
「めっ!!」
「…………そうだな、ケンカは良くないな」
マスコット達の真っ直ぐな目を見て、影光はホラー映画を思い浮かべるのをやめ、ダンゴムシのように丸まって蹲っているヨミの背中をさすってやった。
「さてと……それにしてもどうしたもんかな?」
「ヨミさんの言っていた『警戒されている』というのは、あながち間違いではないでしょう」
「ふむ……」
顎に手を当て、しばらく考えていた影光だったが、ふと、近くに置いてあったドラム缶のような金属製の大きな缶に目を留めた。中身は塗料なのか燃料なのか、《何かよく分からんがとにかく黒い液体》が入っていた。
「ヨミ……この液体は黒だな?」
「見りゃあ分かるでしょうが、見りゃあ」
それを聞いた影光は満足げに頷くと、何を思ったのか突然着ていた袖無羽織を脱ぎ、ビリビリに破いた。
影光の突然の奇行に四天王は戸惑った。
「影光さんにとって、あの羽織は自分の肉体を変化させて作り出した、言わば肉体の一部と言えるくらい大切なもの、それを破ってしまうなんて……」
「おお、今度は液体に浸したぞ!?」
「ゴグアッ!?」
影光は液体に浸した袖無羽織を再び “バサリ” と羽織った。影魔獣の持つ『肉体の形状変化』の能力を使ったのだろう、影光は牧師の姿に化けていた。
「な……なんだ、あれは人間達の『牧師』とかいう職業の格好じゃないか!?」
「グモゥ……!!」
「あんな格好して、どうしようと言うんだ!?」
「どうでも良いけど……服を破いたり、あの黒い液体に浸すくだりって要る? 普通に形状変化させれば良くな──」
「そ、そうかーーーーー!?」
ヨミの疑問を無視して、キサイが興奮気味に叫びを上げた。ガロウとレムのすけも影光の意図に気付いたのか、大きく目を見開いている。
「そのまま近付けば相手を刺激するかもしれませんが、無力な人間……しかも兵士でも何でもない牧師なら相手も油断してしまう!!」
「いや、ガリ鬼……アンタそれ本気で言ってる……!?」
ヨミのツッコミも興奮状態の野郎共の耳には届かない。
「なんという……!!」
「冷静で的確な判断力なんだ……!!」
「ゴアッフゥゥゥ!!」
「うっわぁ……」
感嘆の声を上げる三人に、ヨミは呆れて溜め息を吐いた。呆れると言うか……素で引く。
「……すずめ、つばめ、見ちゃダメよ。バカが感染るから」
「よーし、じゃあちょっくら行って話つけてくる!!」
一時間後……
「……ん? おい、影光が戻って来たようだぞ!!」
「おおーい、影光さーん!!」
「ドウ……ダッ……タ?」
「ちゃんと話をつけて来たんでしょうね……って」
「「「「わーーーーーっ!?」」」」
「……チッ、全然ダメだぞアイツら」
……そこには、何かもう、『ハリネズミかウニの化け物』なんじゃないかというくらい、身体の前面に隙間無くビッシリと矢が突き立った影光の姿があった。




