少女(赤)、熱く語る
77-①
天照武刃団は、暗黒教団を抜けた月之前京三を連れてネヴェスの里に向かっていた。
その最中、イットー・リョーダンが武光の小さな異変に気付いた。
〔武光、どうかしたか?〕
「ん……いやな、何か妙に腕と腰がダルいねん、痛ててて……」
武光の言葉を聞いて、女子一同がギクリとしたのを武光は見逃さなかった。
「何や今のリアクション? お前ら……何か隠してるやろ?」
「や、やだなぁ……何言ってるんですか武光様?」
「そうですよ隊長ったら……へ、変なのー……アハハ……」
「隊長殿はお疲れなのです、きっと」
「そ、そうですよ。早く帰って休みましょう!!」
明らかにぎこちない笑顔を浮かべる女子一同だったが……
〔……凄く楽しかったですよ、お姫様抱っこ大会!!〕
「「「「ま、魔っつーーーーーん!?」」」」
魔穿鉄剣の発した一言に、女子一同は凍り付いた。
~~~~~ 昨晩・宿屋(女子部屋にて) ~~~~~
「うーん、それにしても……凄いなぁ、武光様の身体」
京三の操影刀・双頭蛇によって、武光と魂を入れ替えられたナジミは力こぶを作って、さすっていた。
そして、そんなナジミを、チラチラと見ていた三人娘だったが、意を決したようにクレナが手を挙げた。
「……副隊長、私も触ってみても良いですか?」
「おい、クレナ!?」
「く、クレナさん!?」
ナジミは、武光とフリードがいる隣の部屋との壁にチラリと視線をやった後、『内緒ですよ』と言わんばかりにウインクした。
「し、失礼します……!!」
クレナはそっと力こぶに触れた。
「お……おおぅ!!」
「クレナ!?」
「ど、どうしたんですか!?」
「これが男性の……す、凄い……!!」
感嘆の声を上げるクレナを見て、今度はキクチナが興奮気味に手を挙げた。
「な、ナジミ副隊長!! わ、私も……その……触らせてもらっても良いでしょうか!?」
それを見たミナハが慌てて止める。
「待てキクチナ、いくら信頼できる隊長殿だとは言え、恋人でもない殿方の身体にベタベタ触れるのはだな、その──」
「しゃらくさいッッッ!!」
「キクチナ!?」
「止めても無駄です!! 今、私の『知りたい!!』という知識欲は最高潮に達しています!! 身体が勝手に動き出すんです!! 100万倍の好奇心ッッッ!!」
キクチナに詰め寄られてミナハはたじろいだ。目が、目が、目が…………コワイ!!
「そ、それでは……し、失礼致します、ナジミ副隊長!!」
クレナに続いて、キクチナも興味深々に力こぶに触れた。
「な、なるほど……うんうん……おぉぉ……な、なるほど!!」
「なるほど!? なるほどって何なんだ!?」
「そんなに気になるなら、ミーナも触らせてもらえば良いのに」
「い、いやしかし、鍛錬でもないのに、気安く殿方の身体にだな……」
躊躇うミナハに、クレナが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「異性……? 中身は副隊長なんだよ?」
「ハッ……そ、そうだな、女同士だものな!?」
「そうだよ、女同士だもん!!」
「では……失礼します、副隊長殿」
結局は好奇心が上回り、二人に続いて、ミナハも恐る恐る力こぶに手を伸ばした。
「お、おお……硬くて太くて逞しい……それに熱い!!」
しきりに関心する三人娘を見て、ナジミは得意げに胸を張った。
「ふっふっふ……腕力だって凄いんだから。重い物だって簡単に持ち上げたり運んだり出来るのよ!!」
それを聞いたクレナがおずおずと手を挙げた。
「あ、あの……副隊長」
「どうしたのクレナちゃん?」
「わ……私を《お姫様抱っこ》して下さいッッッ!!」
~~~~~ 回想終了 ~~~~~
「ほう……あれだけ人に『揉むな!! 遊ぶな!! 弄るな!!』と言っておきながら……」
「うぅ……」
武光にジロリと睨まれてナジミ達は萎縮した。
「全く……お前らなぁ……」
女子一同に説教かまそうとした武光だったが……
「隊長の……バカーーーーー!!」
“ばちーん!!”
「ぐはぁっ!?」
クレナの 逆ギレビンタ!!
会心の一撃!!
武光は 倒れた……
「ちょっ……えぇ……いや……ちょっと待って……うん、何で今ビンタされたん俺!?」
「隊長は……何にも分かってません!!」
「え、えぇ……」
「この国の女子にとって……『お姫様抱っこ』は夢なんです!!」
クレナは熱く……いや、暑苦しく語った。
三年前、空に映し出された勇者リヴァルと魔王シンとの戦いにおいて、絶体絶命の危機に陥ったミト姫を、颯爽と駆けつけた勇者リヴァルが、お姫様抱っこで助け出した場面を目の当たりにした世の女性達は皆、『お姫様抱っこ』という行為に尋常ならざる憧れを抱いているのだと!!
それを聞いて愉快になった武光の顔からは、思わず笑みが零れた。
突然ニヤニヤし始めた武光を見て、バカにされていると思ったクレナは武光に鋭い視線を向けた。
「隊長ッッッ……何が可笑しいんですか!?」
「ん? いや、まぁな……ふふ……」
武光は『それは俺が、ヴァっさんが最高に格好良く見えるように演出と演技指導したからやで』と口から漏れそうになったのを慌てて咳払いで誤魔化した。
自分の演出に国中の人が虜になったと聞けば、ニヤニヤせずにはいられないというものだ。
「とにかく……分かりますか隊長!? 女の子同士だと持ち上げるのがやっとで、『真のお姫様抱っこ』には程遠いし、かといって手近な男性に『お姫様抱っこして』なんて……そんなはしたないお願い出来ないんですよっっっ!?」
「は、はぁ……」
「そんな所に男性並みの腕力を持つ女性が現れたら!?」
ものすごい勢いで詰め寄られた武光は、クレナのあまりの剣幕に、思わず『行くしかねぇっす……』と答えてしまった。それを聞いて、ここぞとばかりに、ミナハとキクチナも続く。
「隊長殿は、武術の訓練の時も芝居の稽古の時も常々おっしゃってるじゃありませんか、『普段練習してないものを、いきなり本番では出来ない』と……もしロイ将軍にお姫様抱っこしてもらう事があった時に、不慣れのせいで粗相があったらどうするんですか!?」
「いやいやいや、そんなん知らんがな!!」
「……」
「キクチナさん!? 無言でボウガン構えるのやめてもらって良いすかね!?」
「とにかく!! そういう事です!!」
「えぇー……」
納得できないと言わんばかりの顔をしている武光を見て、クレナは胸を張った。
「ああもう……分かりましたよ!! 揉めば良いでしょうが!! 揉めば!! それでおあいこです!!」
「俺を……見くびるなッッッ!!」
胸を張りながら詰め寄ってきたクレナを武光は一喝した。
「俺はそんなケダモノやないぞ……!!」
「……副隊長のを揉みしだこうとしてたクセに──」
「アホかっ!! 俺は……俺はなぁ……」
武光は仁王立ちで腕組みをしながら言い放った。
「……心底惚れた女のお◯ぱいしか揉まんッッッ!!」
それを聞いたナジミは口元を両手で覆った。
「た、武光様………………勢いで一瞬騙されかけましたけど、カッコよくも何ともありませんからねソレ!? 別に嬉しくも何ともありませんし……」
「えっ……」
「全く……大声で何恥ずかしい事言っちゃってるんですか……バカなんじゃないですか!?」
「そ、そない冷たい目で見んなや……」
「さあ、ネヴェスの里に着きましたよ!!」
ネヴェスの里の宿屋に戻って来た武光達は、男女に分かれてそれぞれの部屋に戻った。
「なぁ、イットー」
〔うん?〕
「もう一回、落ち着いて考えたんやけどな」
〔うん〕
「…………何で俺怒られたん!?」




