聖道化師、語る
76-①
京三に『アルホを返せ』と言われて、武光はキョトンとした。
「ん……?」
「いや、『ん……?』じゃありませんよ、ボクから取り上げた《アルホ》ですよ!!」
「んん……?」
「いやいやいや、何でトボけるんですか!?」
「取り上げた……? あっ、もしかしてコレか!?」
武光は懐から、京三から取り上げた透明のプレートを取り出した。
「そう!! それですよ!! アルホが分からないとか……ボクの祖父でも知ってますよ……」
「誰がおじいちゃんやねん!? 俺は平成生まれの26歳やぞ!!」
「えっ!?」
京三は一瞬キョトンとしたあと、苦笑した。
「いやいやいや、冗談キツいですよ。平成って……300年くらい前じゃないですか」
「はぁ? さ、300年前って……京三、お前……何年生まれや?」
「え? 『ジオウ』元年生まれですけど……」
「何やソレ? 仮◯ライダーか?」
「何言ってるんですか、《慈応》ですよ《慈応》、西暦2350年です」
西暦2350年……京三の生まれた年を聞いて、武光はアングリと口を開けた。
「み、未来人やったんかお前……」
「ボクから見たら、貴方が大昔の人ですけどね……」
「いや、でもお前、『シン・◯ジラ』とか『◯の名は。』とか知ってたやん!?」
「アンティーク映画マニアなんです、ボク。だから武光さんと巫女さんの魂を入れ替えた時に、武光さんが自分の胸を揉もうとしたり、無人在来線爆弾の話題を出したのを見て、(同好の士を殺めるのは心苦しいけど……)ってちょっぴり思ってたんですけど」
「マジか……じゃ、じゃあ……ケイえもん、この板っきれ……もしかして未来の道具とか?」
武光は手の中のプレートを見た。
「伝説マンガのネコ型ロボみたいに言わないでくれません!? そうですよ、《アルティメットフォン》……通称、『アルホ』です。あなたの時代で言うところの……《アメイジングフォン》ですかね?」
武光は何じゃそりゃと言わんばかりに怪訝な顔をした。
「えっ、じゃあ『アメホ』より前の世代の……《ライジングフォン》辺りですか?」
「いや、何ソレ?」
「ウソだろ……『ライホ』より前って言ったら、もしかして《スマートフォン》時代……?」
「うん、それ!!」
「そ、そんな昔の人なのか……えっ!? ちょっと待って、平成の人って事はもしかして『シン・◯ジラ』とか『◯の名は。』とか、リアルタイムで見たり……」
「えっ、うん……まぁ、見たけど」
「うおおおおお!! すっげーーーーー!!」
「いや、それはええねんけど……コレで何するつもりやねんな?」
武光の質問に、京三は答えた。
「二台のアルホを使って、食料とか必要物資を天照武刃団の皆さんに転送させてもらいます」
「て、転送ぅ!?」
「さっき見たでしょう、ボクのアルホから色んな物が飛び出してきたのを。あれは、ボクのもう一台のアルホでスキャンしたものを、こっちのアルホに転送させてたんですよ」
「な、何と!?」
「極端に大きい物とか、生きてる動物とかじゃなければ、大抵の物は転送出来ますよ」
「マジか……未来のひみつ道具って凄いんやなー、ケイえもん」
「いや、ひみつ道具って……ボクの時代なら、子供でも普通に持ってる道具なんですけど……って言うか、完全にネコ型ロボ扱い!?」
「よっしゃ、じゃあケイえもん、お前に頼みたい事がある」
「は……はい!!」
「マイク・ターミスタに行って、ジャトレー・リーカントさんを訪ねて欲しい」
「ジャトレーさん?」
「ああ、この国随一の刀匠で、クレナの穿影槍の開発者でもある。ジャトレーさんの所から、定期的に穿影槍に装填する閃光石を送ってもらいたいねん。それに、このアルホがあれば、穿影槍そのものを向こうに送って整備してもらえるやろし」
「分かりました……あっ、いけない!!」
京三は突然、大慌てで着ていたコートを脱ぎ捨てた。
「ど、どないしたんや急に!?」
「暗黒教団の信徒に配られているコートは、聖女シルエッタが影転移の術を使う際のマーカーの役割を担っているんです」
「ほんならアイツは、信徒のいる所なら、どこにでもワープ出来るって事か!?」
「そうです、僕が最初にあなた達の前から姿を消した時も、あらかじめシルエッタにこのコートを通じて、脱出用のゲートを開いてもらっていたんです」
「ほほう……」
「早くこのコートを処分しないと、刺客がいつ送り込まれてくるか──」
「ちょっと待て」
コートを燃やそうとした京三を武光は制止した。武光の顔には悪そうな笑みが浮かんでいる。
「俺に考えがある。このコート借りるぞ」
武光は京三のコートを手に取ると、廃屋の方に歩いていった。しばらくして戻ってきた武光は京三の肩を叩いた。
「よし、そんじゃあとりあえずネヴェスの里に戻ろか。色々と教えてもらわなあかん事もあるしな?」
「は、はい……」
天照武刃団は、廃村を去った。
77-②
その日の夕刻、次なる計画の準備を終えたシルエッタは影転移の術を使い、京三のもとへ飛んだ。戦力は十分に整えておいてやったが……戦いの結果を確認しなければならない。
「ご機嫌よう、京三さ……まぁっ!?」
影から出た瞬間、派手にすっ転んで頭を打った。
常に微笑みを絶やさない聖女シルエッタも、これには痛さのあまり、思わず涙目になった。
シルエッタは周囲を見回した。どうやらここは、あの廃村の中の廃屋の一つらしい、窓の前には、京三に与えたコートが吊るされており、そこから伸びる影の上には……この家の子供のものと思われるガラス玉が大量にばら撒かれていた。
「くっ……何ですかこれは……ぁぁっ!?」
起き上がろうとしたシルエッタは、再びガラス玉を踏んづけてしまい、すっ転んで頭を打った。
じんじんと痛む頭を押さえて、ようやく立ち上がったシルエッタは、壁に貼り紙がしてあるのに気付いた。
そこには、武光の署名と共に、たった一言、こう書かれていた。
『ざまぁ』




