第10話 亡きものの希望
「流石精鋭部隊の天才さんですね」
レオナ達は15分も掛からない内に食堂へと到達していた、無論死人はかなりの数が彷徨いていたがそれを全てハリス、ガルスの2人が始末し、レオナの出る幕など全く無かった。
「なあレオナは精鋭部隊に入る条件を知っているか?」
食堂の椅子に腰掛けレオナに尋ねるハリス、心做しか機嫌が悪そうに見えた。
「知りませんけど……」
「精鋭部隊が天才と言ったよな?」
「確かに言いましたけど」
あれは褒めたつもりであって決して皮肉や嫌味では無かった、それに対してハリスの機嫌は悪い、訳が分からなかった。
「ここに居る3人皆死人が蔓延る戦場を5回以上も経験してるんだ、それが入隊の条件……意味が分かるか?」
「5回……」
「そうだ、1回の任務で例えば7、7の二小隊が出撃するとする、それで1人でも生還する確率は5%だ」
淡々と語っていくハリスの言っている意味が良くレオナには理解出来ていなかった、だからそれがどうしたとしか言いようが無かった。
「俺の居た隊にも天才は居た、だが死人に喰われた、そして無能な俺だけが残った……俺は天才なんかじゃない、幸運なただの無能だ」
「そうだったんですか……天才なんて言ってすみません……」
常に上機嫌だったハリスがここまで暗く悲しげな表情をすると言う事は本当に辛い過去だとレオナは察した、だが完全にハリスの言っている事はおかしかった。
精鋭部隊入隊の条件は平均生存確率5%の任務を5回生きて帰らなければ入れない、それなのにハリスは天才ではない、むしろ無能と言っていた……そんな戦場を5回も生き残れる奴が天才じゃない訳が無かった。
「これ以上話しても暗くなるだけだしハリスもレオナ君も元気だして早く脱出しよ、ね?」
2人を元気づけようと背中を叩くガルス、それに感謝を告げレオナが立ち上がった瞬間凄まじい轟音が辺りに鳴り響いた。
「なんだこの音は?!」
精鋭部隊の3人は突然の轟音に戸惑っているがレオナにはこれがなんの音か察しが付いていた。
まずい、奴らが来るーーーーー
微かに聞こえてくる死人の唸り声、かなり距離のある筈の牢屋から聞こえてくるという事は考えるだけでもおぞましい程の数の死人があそこから放たれたという事だった。
「逃げろ!!!無数の死人が来るかもしれない!!!」
叫んだ瞬間にレオナは後悔した、死人は音には敏感、これでは来てくださいと言っている様なものだった。
「何となくやばそうだ!イリナ、ハリス、逃げよう!」
いち早くガルスは状況を呑み込むと死人の少しでも時間稼ぎになればと食堂の扉を締め食堂を後にした。
「それにしてもこの通路死人が少ないな」
駆け足で見覚えのある通路を走る4人、レオナはこの真っ直ぐな通路には嫌な思い出しかなかった。
特別種と初めて遭遇した通路……だがそこを抜ければ出口はもうすぐだった。
扉を開け懐かしく思える初めの監獄エリアの一歩手前の通路に入った瞬間広がっている光景を見てレオナは笑うしかなかった。
またいんのかよーーーーー
特別種……醜く汚い死人の中でもトップクラスのウザさ、何故そこまでして自分の行く手を阻むのか、レオナは特別種を目にして笑っていた。
「こいつが大佐の言ってた特別種か……キモイな」
「かなりキモイですね」
「うん、キモイ」
3人は口々に特別種を見た感想を言うとすぐさま銃を構え頭に向けて発砲した。
「レオナ!お前は後ろの死人を頼む!」
「了解……」
覇気のない返事をし後ろを振り向く、特別種を倒せる筈も無いのに倒そうとしているハリス達が滑稽だった。
「こいつ頭を撃っても意味無いのか?」
「分からない、でも少しは怯むみたい」
どうにかして倒そうとしている精鋭部隊の3人の後ろでレオナは銃声に反応し近寄ってきた死人を始末していた。
頭を銃で撃ち抜き近くに居た死人の頭を刀で切り落とす、その時ある考えをレオナは閃いた。
頭を斬り落とせばいいーーーーー
脳幹を破壊する事ばかり考えていたが頭と胴体を切り離せば特別種の場合死にはしないかもしれないが活動を抑える事位は出来る筈だった。
「皆さん!足を狙って転ばせてください!考えがあります!!」
すぐさま考えを皆に伝えると残っていた死人を全て始末し、レオナも攻撃に加わった。
「準備は良いかレオナ?」
「大丈夫です……」
だんだんとよろける様になって来た特別種の様子を見てレオナは刀に手を掛けた。
レオナ達まであと数mの位置まで特別種が近づいて来た瞬間、耐えきれなくなった足は見事に千切れ特別種はその場に倒れた。
「今だ!やれレオナ!!」
「分かってる!」
特別種の攻撃を交わし首元に刀を突きつけると迷い無く一気に刀を振りかざした、そして特別種の頭は呆気なくハリス達の方へと転がっていった。
イリナは頭だけとなった特別種を持ち上げるとじっくりと観察していた。
「普通の死人ならば即死ですけどやはり不思議なもので生きてますね……サンプルとして持ち帰って宜しいですか?」
「好きにしろ、それよりレオナ良くやったな!」
肩を叩き褒めるハリスを他所にレオナはイリナの事を見ていた。
一切の恐怖となく頭を掴むと口に手際よく布を詰め込みバックに入れるイリナ、それだけの動作でどれだけの死人を扱ってきたかが伺えた。
後ろを見ていたガルスが少し引きつった笑顔を見せながら後ずさりして言った。
「流石にあの量は僕達でも処理不可じゃない?」
そう言われ後ろを振り向きハリスはすぐさま「無理」と言った。
「逃げるぞ!!!」
大量に押し寄せる死人を銃で牽制しつつレオナは最後尾で精鋭部隊の人達を援護した。
護衛対象をしんがりにするのはどうかとも思ったが今はかなりの非常事態、考えている暇は無かった。
監獄エリアへと繋がる扉を蹴り開けるとその音に反応した牢屋の死人達が一斉にうなり出した。
後ろも死人、横も死人、死人のオンパレードだった。
うるさい程の死人の声を無視しながらレオナはハリスとガルスの話に耳を傾けた。
「もうそろそろ……任務も終盤だな」
「だな、だからってハリス、気を抜くなよ」
一見何気ない会話、だがレオナにはその会話が少し不自然に感じた。
ガルスの声のトーンが心做しか低い、それに加え少し言葉を溜めて言ったハリス、2人は何かを心配しているかの様だった。
少し気掛かりな2人の会話の事を考えながらふと何気無く後ろを振り向く、するとそこには死人が迫っていた。
余りにも速すぎる、特別種は通路を塞ぐ様に横で倒れていたはず、あと1、2分は時間稼ぎ出来る筈だった。
「死人多数接近!!!!」
後ろに発砲して牽制しつつレオナは死人のうめき声に負けない程大きな声で叫ぶと扉に向けて走り出した。
「本当、この刑務所ってなんなんだよ!」
後方に居る死人を見ながら嘆く様に言うハリス、確かにただの刑務所では無さそうだった。
出来るだけ無駄の無い動作で鉄製の扉をレオナは開けると下水に死人は居ないかを素早く確認した。
「下水クリア!」
「分かった、早く行くぞ!」
そう言い先に走っていくハリスにレオナはついて行く、その時ガルスが居ない事に気が付いた。
「ハリスさん待って下さい!ガルスさんがまだ!!」
そう言い立ち止まり後ろを見るとガルスは下水には来ず扉を閉めようとしていた。
「後で追いかける!早く行って!」
引きつった笑顔でレオナに向かって言うガルス、追いかけれる訳が無かった。
死人が迫っていた囚人の収監エリアに扉は2つ、死人が入ってきた所と下水に繋がる扉のみ、ガルスはどう考えても命を捨てる気だった。
「駄目です!早くガルスさんも!!」
そう言いガルスの方へと走ろうとしたレオナをハリスは思い切りぶん殴った。
殴られたレオナは飛ばされ下水道の壁にぶつかった。
「レオナ、俺達の任務はお前の護衛だ」
それだけを告げレオナを抱えてハリスは再び出口に向けて走り出した。
「ハリスー!!!俺の嫁さんには隠しといてくれよ!」
徐々に遠のいて行くガルス、そしてハリスの目には涙が溜まっていた。
自分の救出の為に見てない所でニ人、そして目の前で一人死んだ……そう迄してレオナは自分が助かる必要性があるのかをずっと考えていた。
いっそここで逃げ出してやろうか、死人に噛まれてやろうか……そんな事を考えるがそれじゃあ自分の為に命を落とした人は無駄死にになってしまう。
一体どうすればーーーーー
その時、地上の光が見えた。
マンホールの蓋の隙間から僅かに漏れる光、生きていると実感した。
そして考えていた答えが見つかった。
とても簡単な事、何故それに気付かなかったのか不思議になるくらい簡単な事だった。
マンホールを開けてレオナは外に出る、ハリス、イリナと順に引き上げるとレオナは太陽が眩しい空を見上げて言った。
「俺、死んだ人の分も生きます」
そう言い前を向くと5人の兵士が立っていた。
レオナの一般的な兵士の軍服とは違い、前の世界で言う海軍の様な真っ白な特徴的な軍服を身につけている兵士達、空挺部隊だった。
「レオナ二等兵、ハリス特殊兵、イリナ特別救護兵、生存者はこの3人だけですか?」
帽子からはみ出た黒いロングヘアーをなびかせて1人の兵士がそう言いながら一歩前に出て来た。
「はい、ガルス特殊兵、シャル一等兵、メディア、ザラス特殊兵、バイドリアのレイオス兵長は亡くなりました」
悲しげな表情で言うハリス、やはりシャル達は死んでいた。
「了解した、お前ら!帰還するぞ!」
そう言い黒のロングヘアーの女性はレオナの肩を掴むと空に浮かび上がり国へと帰還した。




