結末
「それは違う。お前がある一定の不安を感じると記憶が消えるように設定しているからだ」
それを聞いて私は耳を疑った。
今何を言われたのか分からず聞き返すと私からクロヴィスは後ろめたいのか顔をそむけて、
「この世界に来て慣れずに怖がってばかりでは困るからな」
衝撃の事実が発覚。
でもどうだろうと私は思う。
自覚したのはついこの前だけれど、途中からは私はクロヴィスが好きだったから、キスされても平気だったのではないのか?
逆に、驚愕の事実に気付かされてしまった私は、必死になって心の中で落ち着け、落ち着けと繰り返して、理由を聞く。
「どうして?」
「何がだ?」
「どうして困るのかな?」
「不安にさいなまれてばかりでは、他の物に目がいかないだろう?」
「クロヴィスは私に、“何”を見て欲しかったのかな?」
「……俺自身を見て欲しかった」
「でも色々な所に連れていったのは、どうして?」
「一緒に遊びたかったからだ」
「この世界で?」
またも沈黙してしまうクロヴィスを見ながら、これ以上追い詰めてもクロヴィスは機嫌が悪くなりそうだと思ってそれ以上は言わず、代わりに、
「でもそんな風に不安がらないようにしたのも、力をくれたのも、私の事を心配してそうしてくれたからなんだね」
「それは……いきなり連れてきたわけで」
それに関してはひけ目があるらしい。
俺様な傲慢キャラだと皆は思っているようだけれど、私が見たクロヴィスは全然違うと思う。
そしてそれをクロヴィスは自覚していないようなので、言葉に出して伝える事にした。
「クロヴィスは優しいね」
「どこが?」
「だって私が危険な事にならないようにそうしてくれたし」
クロヴィスに守られていたので戦闘もどうにかエリは戦えていた部分もある。
そして知っている道具だったから、色々な場面でどの道具を使うのかイメージで来た。
それに必要な材料もふんだんに持っていたり。
私がこの世界で不安になったり困らないように、クロヴィスなりに考えて、私に告げずにそうしてくれていたのだ。
そんな私にクロヴィスは苦笑して、
「……エリには俺が優しくしていたからか?」
前にも言っていた事をもう一度口にする。
そして今までの会話で私は更に確信を強めながら、
「それは前もいっていたよ。クロヴィスはもうこの世界に十分愛着がある気がしているんだ」
「……煩い」
苛立ったようにクロヴィスが私に言う。
認めたくない本当の感情、私の推測は当たっていたらしい。
それが私には嬉しくてさらに小さく笑っていると、クロヴィスが怒った様に、
「それで俺の正体を知ったから連れさってやる。だから、選択させてやる。大人しくついてくるのか、それとも……無理やり連れて行かれるのかを」
クロヴィスがそう言って私に嗤うけれど、私はまっすぐに私はクロヴィスを見返した。
そもそも、クロヴィスは根本的な部分に全く気付いていないのだ。つまり、
「クロヴィスはどうして私を連れ去ろうとしているの?」
「それは……エリが俺を恋愛感情で好きになるはずがないから」
ほら、やっぱりねと思って私は嗤いだしそうになりながら、はっきりと伝える。
「恋愛感情で私はクロヴィスを好きだよ?」
クロヴィスが驚いたように大きく目を見開いて、すぐに苦虫をかみつぶしたような表情になって、
「嘘だ」
「本当だよ」
「その場しのぎの出まかせだ」
そう言いながらも声が震えているのは、期待しているからなのだろうかと私は思う。
そして私はそうであって欲しいと思いながら、
「酷いな。でもクロヴィスって案外憶病なんだね」
「……そんな風に生意気な事をいうのなら、その不安の感情をセーブする魔法を解いてやる。不安にならないから、調子に乗ってそんな事を言えるだけだ」
「いいよ、それでも私はクロヴィスが好きだから」
私が言い返すと、何か言い返そうとしたクロヴィスがぎりっと歯ぎしりをして、クロヴィスが私の方に手を伸ばす。
パチンとゴムの様な者が切れる音が聞こえた気がしてて、でも、私の中の感情は何一つ変わらなかった。
多分、今のその魔法が解けたのだろうと思う。
そして不安そうな声でクロヴィスが、
「どうだ?」
「何が?」
「俺が……」
それ以上は自分からクロヴィスは再び問いかけられないらしい。
それだけ不安なのは、私が“好き”で、“拒絶”されるのが怖いからだ。
だから私は精一杯微笑んで、
「私はクロヴィスが好きだよ、って、うわわ」
そこでクロヴィスが私を抱きしめる。
それはとても幸せでこのままでいたいという気持ちになる。
そこで轟音がしたのだった。
一人の魔族が慌てたように、この場所に走り込んできた。
「ルーザリオン様、巨大な歪みが発生しました! この国のすぐ傍です!」
「なんだと……あと数日は大丈夫なはずでは……」
焦った様なルーザリオンの声と共に、彼は私に、
「その歪みを、消し去って下さい。貴方にはそれだけの力があるはずです」
「え、えっと……」
私は、どうしようかと思った。
実はこのルーザリオン達魔族と出会って以降、私が召喚された理由の力は上手く使えずにいた。
なので正直に伝えるとルーザリオンが真っ青な顔で、
「それで出来るといったのか」
「張ったりも必要かなって。だって私はクロヴィスも含めて皆が大好きだから。それに、あの時力が使えたのは確かだから、もう少し練習すれば出来るかなと思って」
「なんて事だ」
頭を抱える彼に、危機的状況なのに少し胸のすく思いを覚えてしまう私は駄目だと自分で思う。
でも、だからこそ良かったのかもしれないと思い私は、私を抱きしめるクロヴィスを見上げて、
「私はもう少し、クロヴィスとこの世界で一緒にいたいかな」
「……そんな理由が無くても、歪みは消し去ってやる。この世界に愛着があると俺自身が見たくもない現実を見せ付けられたし、この歪みを直さなければ確実にこの世界の半分はこれで消え去るだろうから」
「あれ、私と一緒にいるのは嫌なのかな?」
「そんな軽口をたたくエリにはこうしてやる」
そこでクロヴィスが私にキスをして、それと同時に私は変な感覚になる。
体の中にある“何か”がまるで、歯車がかみ合う様にしっくりと来る。
それと同時に唇が放されて、そんな私にクロヴィスが、
「そのまま手を目の前に掲げて使いたいと思ってみろ」
「こうかな?」
「そうだ」
クロヴィスもその方向に手を掲げる。
どうやらその方向に歪みがあるらしい。
伸ばした腕がクロヴィスと触れ合って、それが心地い様な気持ちになってそこで地面が光って私達の体が青白い燐光に包まれる。
眩しい光がひときわ強く私達を覆った所で、それは唐突に消え、先ほどの揺れは収まる。
「歪みを修正してやったぞ。これで満足か?」
クロヴィスが、茫然としているルーザリオンにそう投げかける。
そこでルーザリオンは、はっとしたようにクロヴィスを見て、
「何故歪みを?」
「……完全に俺はこの世界をどうあがいても切り捨てられないと悟っただけだ」
「……これは、認めるしかないようですね」
「何をだ?」
「エリの出した交換条件です。貴方のこの世界を滅ぼしたいという感情を、変えてみせると」
「そんな約束をしていたのか」
「ええ、貴方を殺すために、フィオレという司祭の末裔も廃人か死ぬ予定でしたから」
なんてことないように告げたルーザリオン。
それを聞いたクロヴィスが私を抱きしめて、
「フィオレのために俺を好きになったのか?」
「どうしてそんな事をいうのよ。私はクロヴィスの事が好きなのに」
「未だに夢のように感じたから」
「……大体私がクロヴィスを好きだって気付く前に、クロヴィスはもうとうの昔にこの世界が大好きだったじゃない」
「そうか?」
「そうだよ。でなければ何で何度もこの世界が好きかって私に聞くの? この世界が好きだから、クロヴィスが好きな私にもこの世界が好きになって欲しかったんじゃないのかな?」
私がそう告げるとクロヴィスは沈黙してまじまじと私を見てから、私に軽くキスをして、
「エリのくせに生意気だ」
「な、何でそんな事をいうの!」
「鈍感だと思っていればこんな風に鋭くて。全く……何処まで俺を魅了すれば気が済む?」
「何となく、馬鹿にされている気がする」
私がむ―っと呻いているとクロヴィスが私の頭を撫ぜてくれて、私はぽわんとなってしまう。
こうされると全てがどうでもよくなってしまうので、困る。
困るのに、と私が思っているとそこで、ルーザリオンが、
「ではこのまま世界の崩壊は、なかった事にして頂けますか?」
「いいだろう、これからは歪みの修正とこの世界の維持をしてやる」
「……それはどういう事ですか? この世界の破滅は……」
「俺が何もしなかったからだ。放置していただけ。それでこのまま勝手に滅んでしまえと思っていただけだ。だから……俺を“殺す”事で世界の崩壊が止められると言っているお前達が、俺にはおかしくて堪らなかった」
つまり、クロヴィスを殺した時点でこの世界は崩壊するしかなかったらしい。
落ちは酷いが、最終手段であるフィオレの力も使う前にそれを知れた事は私達にはよかったように思う。
しかもクロヴィスは、
「そういえばクロヴィス。クロヴィスは、どうして私が石板を集めていても放っておいたのかな? あれって、クロヴィスと戦うための効果もあったみたいなんだけれど」
「ああ、あれは魔族どもが何だか悪だくみをしているらしいから、面白半分で集めさせていただけだ。そもそも……昔と同じような手を、二度俺が受けると思っていたのか?」
そうクロヴィスはルーザリオンを嘲笑っていた。
つまりこの力を使ってもクロヴィスは倒せないらしいと、今ここで別の選択肢は無理なのをルーザリオンは知ってプルプルと震えている。
クロヴィスに振り回された被害者でもあるんじゃないか、この人はと私はここで初めて、公式ドSに同情した。
そして全てが終わった所で、
「エリ、大丈夫か!」
フィオレ達がこの場に姿を現したのだった。
フィオレ達はタマの母のクラウズの力で、道具袋の波長を捕らえてここに辿り着いたらしい。
そしてすぐにタマの母、クラウズがルーザリオンを凄く叱っていた。
また、フィオレが襲われそうになったのを途中、ウィルワードが手助けをしたらしい。
ちなみに昨日から戻ってこなかった理由をウィルワードは、
「ウィーゼのハニートラップに引っかかってしまいまして。あ、でも私も途中から理性が切れて……色々ありまして私は現在ここにこれたのです」
と説明していた。
あのウィーゼという魔族が後で怒って乗り込んできそうだな、と私が確信を持って予知した所で、フィオレに今まで黙っていた事情を話した。
アンジェロに許可をもちろんとってからだ。
それにフィオレはショックを受けていたようだが、アンジェロに慰められたりしていつもの元気を取り戻していた。
他には、ライがこれで全てが終わったからとフェンリルに言い寄られていたりしていて、その中でこれまでの経緯を彼ら全員に話す。
その過程でクロヴィスの正体も含めて全て語ることになったのだけれど、それを聞き終えたクロヴィスが、
「そういえば最後の石板を見つけたあの場所に行くとき、エリの魔道具に疑問を持っていないのは妙に思っていたが、その時皆知っていたのか」
「うん、クロヴィスにはまだ話せなかったから」
「……俺が壊したエリの道具は“空間”に作用するものが多かったと気付いていたか?」
「……知らない」
初めて聞いたその話に私は驚くけれど、クロヴィスなりに私がこの世界で嫌な思いをしないように気を使ってくれていたようだ。
居場所を作ってくれていたことも含めて、クロヴィスは本当に私のことが大好きらしい。
そしてリリスの記憶を作られていたこともリリスが知っているといった話や、タマとリリスが仲良くなった話をしていく。
そして最後に話したのはフィオレの司祭としての力で、フィオレはクロヴィスの目を上手く見れないようだったけれど、
「……今までどおり、エリの友人として仲良くして欲しい」
「! 分かりました!」
といった風に仲直りをして、全てが丸く収まった。
現状では、一番穏やかな結末である。
そこで私は気付いた。
「折角石板集めたのに使わなかったね」
「なんだエリ、使いたいのか?」
「いや、頑張って集めたのに意味が無いのも何だかなって思っただけで……」
「だったら使ってみるか?」
一応は俺を倒すための道具の一つであるらしいからな、昔使われたが、今も同じように俺に効果があるかは別だが、と、ルーザリオンに聞こえるようにクロヴィスが言っていた。
何でそんな挑発するのかなと私が思っていると、ルーザリオンが、
「く、だったら石板を使い、ここにいる集団対お前一人で戦って勝利してみろ」
「別にいいぞ?」
ルーザリオンのその言葉にクロヴィスが答えて、何故か私以外の皆が乗り気になって。
こんな所で私はラスボス戦に巻き込まれてしまった。
だから私も戦うならと思ってクロヴィスに、
「クロヴィス、私がかったら……しばらくはキスもさせないんだから!」
何だかクロヴィスが連れ去るやら何やら凄いことを言っていたので、事前にそうやって防御をと思ったのだけれど……そこで一斉に全員が私を見た。
しかもクロヴィスは笑みを浮かべるが、明らかに怒っている表情だった。
何かを間違えてしまった予感を私が覚えているとそこでクロヴィスがふうと息を吐いて、
「全力で倒してやる」
とクロヴィスが怒った様に嗤う。
クロヴィスはとても怒っているようだと私は気付いて真っ青になっているとフィオレに、
「エリ何で挑発するんだ」
「はわわわわ、ど、どうしよう」
慌てて石板を設置して魔力を増強し戦闘。
私以外が全員倒されたけれど最後に私とクロヴィスが立っていて一騎打ちに。
そして私は辛くもクロヴィスに勝利した。
それから意識はあるらしい倒れたクロヴィスに抱きついて私は頭を撫ぜてもらって、
「私の勝ちだよ」
「そうだな。俺は幾つもエリに負けてしまったな。だが……次は勝つぞ」
「うん」
そう私は答えてクロヴィスを求めるように更につよく抱きついたのだった。
それから、召喚された私は、元の世界に戻ったり、またここに来たりしていた。
因みに初めて一回、元の世界に戻される前に私は、クロヴィスにキスされた。
唇が重なって幸せを感じる。
もう少し一緒にいたい様な、切ない感情が湧きあがってくる。
そこで私は唇を放されて、
「また、必ず来い。一度この世界との接点が出来ているから、次からは呼び出すのが簡単なはずだしな」
「うん……きちんと私をまた呼び出してね」
「約束する。俺が……エリが傍にいない世界なんて耐えられないしな」
そう笑うクロヴィスに、私も嬉しくなって、私も同じ気持ちだと伝える。
それから元の世界に私は戻り、またこの世界にたびたび来るようになる。
結局、魔法使いとしての一ランク上の資格は取って、この世界で生活しないかという事で話はまとまっている。
他には、色々と私が行ったり来たりしている間にあった事といえば、フィオレとアンジェロはあいかあらず仲良しで、タマとリリスは健全に今度デートをするらしい。
何故ペット達はこんな風に普通のほのぼのした関係なんだろうと私は少し悩んだ。
だってクロヴィスは……いや、その話は置いておこう。
他にはとうとう、ライがフェンリル王子に落とされたらしい。
逃げきれなくなったのと、好きな気持ちが大きすぎて耐えきれなくなったらしい。
そしてウィルワードはウィーゼと一緒に仲良くいちゃいちゃしているらしい。
そうそう、魔族の方だが、クラウズがルーザリオンと再婚したらしい。
この前の空飛ぶ国の件も上手くいったものの、身勝手な行動であったので、クラウズは無茶をするのでついている事になったらしい。
タマの父親とルーザリオンの妻はどちらも若くてタマが幼い内に亡くなってしまったとの事。
なので、ルーザリオンの息子と兄弟になってしまったとタマは嘆いているらしい。
苦手な相手だといって、タマは私にあまり話してくれなかったので、それはそれで会ってみたいなと思う。
他にはタマに空飛ぶ国出身の、この前泊めて頂いたミルスさんの所の幼女レティシアが私の家に泊まりに来てタマが悲鳴を上げていたりと騒がしい。
そんな日々もまた私には楽しくて仕方がなかったりするのだけれど、ふと私は思いだしてクロヴィスに聞いてみた。
「そういえば、ルーザリオンが、昔クロヴィスを退けたって言っていたけれど、あれって確か、クロヴィスがいじけて引きこもったんだよね?」
「……」
それは聞いてはいけない話しだったらしく、クロヴィスが機嫌を損ねてしまった。
それ以降私にとってその話は禁句になった事は言うまでもなく。
私達の楽しい日々はまだまだ続いていきそう。
「今度は、異民族の異国の町に行きたいな」
「いいぞ、連れて行ってやる」
ゲーム内でもあった場所でまだ行っていない場所も幾つもあるのだ。
そしてその場所に行くには多分、何時だってクロヴィスや仲間がいるのだろうと容易に想像が出来て嬉しい。
これからこの世界をまだまだ私は楽しむ事になるんだろうという予感が私の中で、生まれてくる。
そこで私はクロヴィスにキスされる。
相変わらずクロヴィスとのキスは私を幸せにしてくれると思う。
大好きな人と一緒に居られるのが、幸せだ。と、
「エリ、今日は皆で食事に行く約束だろう」
「! そ、そうだった。クロヴィス、行こう!」
フィオレに呼ばれて私はクロヴィスの手をひいて皆の元に向かう。
当り前の穏やかな日常。
私の異世界トリップは、こうしてハッピーエンドに終わるのでした。
「おしまい」




