欲と灰色
1 灰色
今日も空は灰色だった。
雲ひとつないのに灰色の空。視線をおろすと灰色の街。何かのフィルターがかかったみたいだ、とベットからおりながら思った。
空島長閑はベットからおりながら少し首を傾げた。今までの14年の人生で長閑は空の青さを知らずに過ごしてきた。
これからもずっとそうだろう。
そう思うと嫌でも心は暗くなる。
「支度をしないと」
長閑は自分の部屋から台所のある1階へ降りる。そこでパンを一枚掴むとまた部屋に戻った。
そのほどよく焼けた美味しそうな色は長閑には空と何も変わらない色に見えただろう。
自分を構築する以外のもの全てに違和感しか感じない、ゆえに世界に灰色のフィルターがかかっている少女。
それが空島長閑だった。
それからほどなくして学校に着く。教室の決められた位置に座る。我ながらよくおかしくならないものだ、と長閑は思った。違和感に満ち溢れているこの世界で生き続けるのは並大抵のことではない。
長閑は机に手を置いてみた。
することがない。
それはいつものことだ。別に友達がいないわけではないが自分から話しかけることはあまりない。
長閑にしたらそこの消しゴムも人間も同じだ。どっちも自分と永遠に相容れない存在。それ以上でもそれ以下でもない。
長閑はクラスメイトというものをどうしても自分と同じ人間だと見ることが出来なかった。そこで『灰色の人型』と名づけてみた。その方が長閑にとってはまだ真実だった。
チャイムが鳴ったら『灰色の人型』が1人増えて話し出す。何も満足していない自分に満足している自分がいる。
世界はいつもどおりに廻っていた。
2 無欲
朝起きてカーテンを開ける。
すぐに太陽の光に晒されて目が冴えだした。窓から外を伺ってみると真っ青な空である。乾詩は時計に顔を向けた。
「まだ余裕だな」
しかし二度寝するわけにもいかないのでしょうがなくジャージを脱ぎ、制服に着替えだした。朝はまず着替えないとなんとなく落ち着かない。制服を着終わり、下におりる。ごはんを食べ終わったらそのまま学校へ向かう。
そんな日常が今にもく崩れけているのを彼はまだ知らなかった。
夕方、学校が終わり家に帰ってきた詩はかばんを床に放り出してベッドに寝転んだ。ふと天井を見上げる。
乾詩は自分のことが嫌いだった。正確にいうと自分の性格が、である。
詩には昔から『欲』というものがなかった。感情からすっぽりその部分だけ抜けている。
何も欲しがらず、何をする気も起きず。かといってほかのことがしたいわけでもなかった。
人と大きな部分が1つ違うとそれだけで組織にはいられない。理由は変わっているからだ。
やりたいことはない。今まで楽しかったこともない。楽しい、というのはそれをしたいという欲求がある前提の話なのであってそれは詩には存在しない。
ゆえに学校にも友達はあまりいなかった。
「もういいや」
詩は布団をかぶって暗い部屋に閉じこもった。
眼をさました時には日はたっぷり暮れ暗闇が窓の外を覆っていた。
いつからふりだしたのか雨が窓を叩いている。雨はなにかしら憂鬱にさせる効果があるのではないかとうんざりしながら窓に背を向けた。
昼からなにも口に入れてなかったが不思議とお腹はへっていない。
詩は暗い部屋の中手探りで電気のスイッチを探してつけた。急に明るくなり目がくらむ。少しくらくらするがそのままカーテンを閉めようとして窓の外を覗いた時に詩は気づいた。
女の子が外を走っている。
こんな暗い雨の中、たった1人で。
なぜ?
詩が目をこらしていると少女は詩の家の前あたりではっとしたように立ち止まった。そして―詩のほうをずいっと向いた。
詩は動けなかった。
少女の目がちらっと光る。
まるで強い光を見つけてそれに反射したように。
詩はその目の奥にひそむ寂しさに魅せられていたのだ――もっと少女のことを知りたい。
世界が止まったようにさえ感じた数秒間は案外すぐに終わった。
少女は目を背けてまた走りだした。それはこの世の全てから逃げ出したように見えた。
詩はその後ろ姿を見ながら思った。あの少女を救うことができれば、もしかしたらこの大嫌いな自分を少しは好きになれるかもしれない。
詩はカーテンをそのままにしてベットから降りると机に向かった。机の上にあるのは貯金箱だ。それを壊して中のお金をかき集めて財布にぶちこむ。携帯と財布をポケットにつっこむとドアを開けた。
階段を一段飛ばしで駆け下りていると母さんの驚いた声がした。
「こんな時間にどうしたの!上から大きな声が聞こえたし」
「外に行ってくる」
「外って雨が降ってじゃない。止めなさい」
母さんが呼び止める声を無視して玄関に行くと傘を2本掴んだ。いつもの靴をはくと外へ飛び出した。
雨はこの数分でさらに激しさを増していた。携帯の待ち受けをみると11時を少し回ったところだった。
詩は少し笑うとと怒りの叫びを背中に受けながら雨のしたたる暗闇に飛び込んでいった。
詩はこの衝動をなんというのか知らない。それは初めて起こった詩の『欲』であったのだ。
3始まる~長閑
最悪だ。
長閑はそう思わずにはいられなかった。
今日の3時間目らへんだろうかついうとうとしてしまってそのまま寝てしまったのだ。
そして跳ね起きた。
夢に出てきた『彼女』に驚いたのだ。
いや、驚いたじゃすまない。そう、長閑はかなり動揺していた。今まで思い出さないように自然にストップをかけていたのかもしれないと感じるほどに強烈。
長閑は教室の『人型』からの視線に耐えられなくてすぐに保健室にいった。
そこでもまた夢を見たのだ。
今頃『彼女』が姿を現すなんて。長閑は起きてすぐの頭でボーっと考えた。悪い知らせかもしれない。だって――『彼女』自身がそうだったのだから。
長閑は保健室をでた。
帰ろう、そう思った。灰色の世界なんてなにも心安らぐものなんてない、があるとすれば家はそれに近いものだった。
今はその帰り道である。
長閑がぼんやりと歩いていると前方から1人の少女が歩いて来るのが見えた。さけなくちゃ。長閑がよけるように歩くと驚いたことに少女はそこで立ち止まった。
年齢的には高校生くらいだろう。腰ほどまである長いツインテールの髪で金髪である。その輝きをみるにあれは元々の髪の色だろう。目は茶色。すらりと背は高く長閑より頭1つ分は大きい。全身を明るめの色でコーディネートしている。そして勝ち気な顔をして長閑を見下ろしていた。
「空島長閑だね?」
少女は名乗りもせずに聞いてきた。というかその口から日本語が出てきたことのほうに驚いた。
「えっと…誰ですか?」
長閑としてはそう聞くしかない。
みんな同じ灰色のフィルターがかかっているのに名前なんてあまり意味はない、がまず名前を聞いておいたほうがいいというのは分かっていた。
「あ、忘れてた」
少女は舌をだして微笑んだ。
「音羽緋香莉っていうんだ。よろしくね。のどかちゃん?」
長閑はいろいろ聞きたいことが頭の中をぐるぐる廻っておかしくなりそうだった。―なんで名前を知っているだろう。
「私がきたのは一応忠告――かな」
長閑にかまわず緋香莉は話を続けていく。
「このまま行くと私は君を殺すことになるんだ。ここまではおっけー?」
おっけー、なわけがない。初対面の人が名前を知っていて、しかも殺すといっているのだ。意味が分からん。
「えーとなんで私を…」
「殺すのか?うん知らなくていいよ」
あっさりと返されてしまう。
「1つ言いにきたのは夜が明けるまで今日は二度と家をでないで。――それだけ守っていれば殺さないから」
「てか殺す理由を教えたらそれこそ殺さなくちゃいけなくなるから、さ」
長閑はまだ頭の整理がつかなかった。取りあえず今日は家から出ないようにしよう。
「じゃあな。もうあうことがないといいね」
少女――緋香莉はくすくす笑いながら長閑とは反対方向に去っていった。
あとに残された長閑はなにがなんだか分からないというような表情で立っていた。取りあえず帰ろう。それから考えよう。長閑は家へと続く灰色の道に新しい一歩を踏み出した。
目を覚ましたのは今度は「彼女」のせいではなく親の怒鳴り声だった。
「長閑!きなさい!」
まだ重いまぶたをこすりながら声のするほうに歩いていく。この様子だとリビングだろうか。結局帰ってすぐ眠ってしまったからなにもしていない。
「ふわーあ」
あくびをかみ殺しながら部屋に入るとものすごい形相の母親(灰色)がいた。
「遅くに仕事から帰ってきたと思ったら…」
こっちを睨み付けている。
「先生から電話が来てるじゃない。勝手に学校から帰ったの?」
「うん」
ちらっと時計をみた。10時半すぎか。
「どういうことなの?先生心配してらっしゃたじゃないの」
「あーうん」
「聞いてるの?大体いつもふらふらと―」
いらいらする。怒っているようで自分の評判ばかり気にしている母親。世間からどう見られているかを誰よりも気にしている母親だ。そんな人の子供が小さいころから灰色の世界に生きているのだ。
ほんとにくだらない。
さっきから自分勝手なことばかり言っているんだ。昔から灰色の世界について相談にのってくれたことは一度もなかった。唯一もらったアドバイスが「人前でそんなことを言っちゃだめ」である。
「うるさいなあ」
つい心が言葉になってでていってしまった。
もういいや。
心のなかでため息をつく。
「あんたが気にしているのはあたしが休んだことで周りからどう思われているかどうかだけなんだろ?」
「はあ?あんたって何様なの!」
かみつくのはそこか。まったくあきれる。
「あたしはここを出て行く」
目の前の「人型」に静かに告げた。
「もう関わらないで、あたしも邪魔はしないから」
そういうと長閑は目の前の娘を信じられないという顔で見つめている「人型」にくるりと背を向けると玄関にとびこんだ。
少女の言葉が響いた気がした。
「外に出たら殺さなきゃいけなくなる」
もうここまできたらどうなってもいい。
数秒後に玄関からでてきたのは2番目に大きな束縛から逃げ出した少し自由になった少女だった。
とりあえず走ることにする。この街から逃げだそう。
20分ほど走っていて気づいたら住宅街に迷い込んでいた。長閑はアパートでしか過ごしたことがない。しかし一戸建てもアパートも同様に灰色のフィルターがかかっている。両者に違いはない。
住宅街の間を駆け抜けていく。雨さえも今の長閑には気にならなかった。それぐらい気分がよかっ…。
長閑は突然立ち止まった。そしてゆっくり左側の家をみる。
今まで何度も通り過ぎていたような2階建ての家だ。家自体はほかとなにも変わらない灰色だった。
しかし、そこの住人が―正確に言うと2階の窓から顔を出している少年が普通じゃなかった。
その少年には色がついていた。
灰色ではない。髪も、肌も、服も。まるで輝いているような、「色」。
「彼女」の顔がふと浮かんだ。
そうか、あの夢は、これのことだったのか?分からない。けど導いたくれたのは「彼女」だと思った。思わずにはいられなかった。
目がくらむ。
長閑はもとの道に目を戻した。やっぱり灰色だ。なにも変わっていない。あの少年のことは忘れよう。
また走り出した。
4走る~詩
詩は傘のうち1本はさして、もう片方は抱えて走っていた。両側のポケットには確かな重みがある。
「僕は逃げてきたんだ」
口にだしてもその事実は変わらなかった。重大性のなにも。気づけば詩はつぶされそうだったのだ。自らへの嫌悪感とプレッシャーで。―考えるな。
詩は走り続けているが少女にはなかなか追いつけなかった。以外と健脚なのかもしれないな、と詩は思った。
さらに10分後、大型のデパートに入っていく少女を見つけた。かなり遅くまで開いているということで有名でこの時間でもまだ中にはけっこうな人がいた。
少女がなぜそこに入ったのかは分からないがおそらく食料でも買いに来たのだろう。しかし、ずぶ濡れでしかも制服というのはかなり目立つ。詩はすぐに追いかけた。
フードーコートにすたすたと向かった行く少女にようやく追いついた時には息は完全に切れていた。
「ねえ、ちょっと待って…」
少女はベンチに座っていた。肩を指でとんとんと叩くと少女はこっちをバッと振り返った。
その時の少女の表情の変化は見物だった。最初はおびえた恐怖の表情で振り返り、誰だか気づくと驚いた表情になって肩を少し引いた。
「な、なんで」
どう答えよう。詩が考えているあいだに少女が次の言葉をいった。
「名前は…何て言うの」
「乾詩。乾くという字で乾、詩が大きいってかいて詩って読むんだ」
「わたしは空島長閑。漢字はそのままだよ」
長閑っていうのか。名前をしれたからか何となく親近感が涌いてきた。年齢は同じくらいだろう。それも原因の1つであるかもしれない。
「私といない方がいいと思うよ」
長閑は突然はっきりとそう言った。
「え?」詩は思わず聞き返してしまった。
「私はたぶんこれから殺される」
詩にはそれがウソを言っているようには見えなかったが、にわかには信じがたかった。
「まきぞえになるといけない」
「それは…なんで?」
「分からない」
長閑は首をふった。「家を出るとなにかが起こるから私を殺さなきゃいけなくなるって」
事情はよく分からなかったが詩の言うことはもう決まっていた。誰に殺されようと自分に押しつぶされ死のうと同じことだ。
「なら僕に助けさせて」
どうせ死ぬなら誰かに必要とされて死にたい。
「だめ。あなたは死んではいけない」
長閑は詩の目を見てはっきりと言った。「詩くんは私の見た数少ない『色つき』だから」
「いろつき…?」
「うん、『色つき』。だから…」
長閑の言葉はそこでとぎれた。ふいに館内のベルが一斉に鳴ったのだ。警備員と思わしき人たちが次々と入口のほうに集まっていく。客たちは訳も分からず動揺している。
「やばい。これかも」
苦虫をかみつぶしたような顔で長閑は立ち上がり…。
空気が熱くなり一斉にふるえた。
凄まじい爆発音。館内に響き渡り床を揺らす。長閑もすぐにバランスを崩してこけた。 入口の方から砂埃が舞い、なにかの崩れる音がする。
辺り一帯は大混乱になった。客は一斉に散らばり、悲鳴や叫び声で埋め尽くされた。
「逃げよう。えーと」
「長閑、でいいよ」フッと笑いいった。
その目はしっかり前を見ていた。
「鬼ごっこは好き?詩くん」
5鬼ごっこ~長閑
「鬼ごっこは好き?詩くん」
長閑は再び立ち上がった。
そして詩を振り返る。
「入口から逃げようと思うんだけどどう思う?」
「それでいいと思う」
詩が頷いた。
「でも入ってきた人に見つからないようにしないと」
「それなら、奥に誘いこもう」
長閑は言った。今は生き延びることが先決だ。さて走るかと気持ちを切り替える。
突然きいた声がした。
「こんばんは」
怒号の響く中拡声器で広がった声がした。
やばいもうきたのか。
「うん、これ持ってきてて良かった―ね、のどかちゃん」
長いツインテールに金髪、勝ち気な顔。間違いない。音羽緋香莉だ。
「ねえあいつ?」
隣の詩がつついてきた。
「そう。音羽緋香莉」
「隣の男の子ーー?」
また拡声器で叫ぶ。
「のどかちゃんと一緒にいる以上殺さないといけないんだ―ごめんね」
緋香莉は拡声器をおろすと銃を構えた。かなり大型だ。
「走るよ、詩くん」
2人が駆け出した直後弾が地面に着弾する。そして凄まじい音がまた辺りを包み込んだ。
「あれは…爆弾を撃ってきてるの?」
どうやらそうらしい。緋香莉は次の弾を込めている。あれは一発づつしか撃ってこれないようだ。
緋香莉は盛大に舌を打っていた。
「夜巳!逃げた。追い詰めるから手助けをしてくれ」
もう1人いるのか。長閑がそこまで見届けた次の瞬間には追走者は視界から外れた。
ほかの『灰色の人型』に紛れている以上簡単に見つかりはしないだろうが相手はほかの命、むろん長閑と詩の命など気にも止めていないだろう。
あの2人が気にしているのは2人が生きていることではなく死んでいることなのだから。
まだ駆けていく。
「隠れよう」詩が言った。「そして罠を張りたいけど時間なさそうだし、じっとしてそこで助けをまとう」
「なるほど…でも―」
長閑は緋香莉の言葉を思い出した。たぶんあの言い方はほかのことも自然と指していた。
「あの人たちはたぶん何かの組織についてそこで動いている。デパートをここまで壊してももみ消せるようなところに…」
「つまり助けはこないってこと?」
「分からない。けど、その可能性にかけてる時間はないと思うんだ―へたするとここごと吹っ飛ばされかねないから」
「了解」
そう答えてから詩は何か考え始めた。
長閑も黙った。
まず、夜巳という少女の武器を知りたい。入るだけで警備員が集まる騒ぎになったのだ。
おそらく大型で緋香莉と同じようにかなりの殺傷能力を持っている。
それの特定をして弱点を見つけないといけない。
彩梨の武器の最大の短所は速射力だ。装填数は一発。つまり最初をかわせば距離を詰められる。
そして取り上げてしまえばいい。
「問題はそれができるかなんだよね」
しかも彩梨と組んでいると思われる夜巳が援護してきたらそれも難しい。
今いる場所は4階。このデパートは6階建てだったはずだ。1階につき階段は3カ所。だから逃げられる可能性は…ある。
そしてふと前に目を戻すと目の前に階段が飛び込んできた。勝った――ここを使って降りよう。それで安全に、目をくらましつつ逃げられる。そう思ったところで人だかりに気づいた。
まさか。
もう少し近づいたところでなにが原因かははっきりと分かった――いや最初から分かってたのかもしれない。
下の階に行くための階段が壊されていた。
火薬の焦げ臭いにおいはしない。このことから誰が原因かはすぐに予想はついたし思っていたことでもあった。
「夜巳か」
詩がぼそっという。他に誰もいないならそれで決まりだろう。
「ねえ詩くん」
「ん?」
「夜巳の武器ってなんだと思う?」
「うーん。火薬じゃないとおもうし…でもそれで階段を壊す威力のある武器か…でっかいハンマーとか?」
「ハンマーかー。ありそうではあるね…」
「正解だよ」
「え?」
思いがけないほうから声がする。瞬間的にそれの正体を察知して筋肉に力が入る。
長閑と詩は同時に振り返った。
「私の武器はハンマー」
背中にあるのは少女がかがめばすっぽり入るのではないかというようなとてつもない大きさのハンマーだった。
その少女の髪は深い夜のような漆黒。緋香莉によく似た顔立ちは少し伏せてもじもじしているようにも見えた。こっちもまたスカートだった。
「知ってるかもしれないけど言っておくね。音羽夜巳っていうの。よろしくねー」
にこりともしないでそういうと夜巳は背中のハンマーを手に持ちひょいとふるった。
「さようなら」
デパート4階の地面がもの凄い音とともに割れて崩れた。
6駆けろ~詩
詩はすぐに事態を察知して側の長閑の服をつかんだ。
「さようなら」
精一杯の力で長閑を引っ張りいっしょに倒れた。一瞬遅れてハンマーが床に命中し割れる。
砂埃が舞い、また叫びで埋まる。
長閑と詩は素早く起き上がり夜巳のほうをみた ここからでは砂埃のせいでよく見えない。
つまりあっちからも見えないと言うことだ。
いまのうち。
ふと砂埃の向こうから声がした。
「もしもし。緋香莉ー?うん、たぶん逃がした。けど大丈夫ー。もう階段は壊してるから。私のこれは基本対人戦闘用じゃないからたぶん殺せない。―分かった、待ってるね」
夜巳が彩梨と話し終わった時には2人はもう駆けだしている。
だいぶ距離をとったなと思ったところで詩はたくさんある店の中から適当に洋服店をえらんでレジの裏に逃げ込んだ。
「作戦を立てよう」
「ん?なんの」
……予想外の返事が返ってきた。
「いや、なんのって」
「あーそれは分かってるの」
手を目の前でぶんぶんふる長閑。
「だからさ、倒すのかにげるのかって」
「ああそういうことね」
詩は少し考えた。今の状況とこれからの状況をふまえての選択をしないといけない。
結論はやっぱり思っていたようなものだった。
「倒すしかないと思う」
「私もそれでいいよ。―追いかけてきたら困るしね」
そうだ詩も同じことを心配していたのだ。
上手く逃げ切ってもおそらくあるであろう組織に別の追っ手を向けられては敵わない。だから連絡を取らせまいとする。つまり倒さなければならない。
「それなら長閑と組んで2対1で戦うか別々に戦うかどうする?」
ちなみにこれも詩のなかでは結論は出ている。「私ならばらばらがいいと思うな。合流されたら面倒だし」
「うん、僕もそう思う。じゃあ僕が彩梨、長閑が夜巳をどうにかする、でいい?」
「分かった。行ってくる。頑張ってね」
「そっちこそ」
ふたりは笑い軽く拳をぶつけると立ち上がり、それぞれの目標に向かった。
詩は迷うことなく上の階への階段を駆け上がる。
緋香莉は待ち伏せしているはず。
詩の行動はそう考えてのことだった。
果たして、階段をのぼって2つ上の階に行くと遠目に緋香莉の姿をとらえた。
同時に緋香莉も詩に気づいた。
「きたね男の子。のどかちゃんとはぐれたの?」
薄ら笑いをうかべながら。スピーカーをおろした緋香莉は銃を構えた。
7ハンマー~長閑
分かれた詩が迷わず上の階に上がっていくのを視界から外して長閑はさっききた道を逆走した。
というかほとんど走らないうちに夜巳と出会った。
「戻ってきてくれたの?」
この子は少し天然が入っているようだ。そもそもこの状況で殺されに戻ってくるような人がいるとも思えない。
「違うよ。倒しに来たの」
「あ、そっちかー」
夜巳は分かった、という表情になる。
「それはそれで楽でいいねー。さあこい」
背中の巨大ハンマーを構える。見れば見るほど不釣り合いな大きさだ。それをあんな細腕で持っているのだ。あきらかに何かがおかしい。
それを軽々と放つ。
ブンと音がしてハンマーが視界を横切った。
素早く距離をとる。
長閑はこれに対抗する方法を考えていた。武器を持たないものが武器に勝ちうる方法。
①武器の弱点から武器を封じる。
これはかなりスタンダートだろう。例えば緋香莉の銃なら水をかけてしまえばいい。おそらくそれでしばらくは使用不能になるはずだ。
②武器を間接的に使えなくする。
まただが緋香莉の銃ならリロードを誘うのがこれにあたる。
③こっちも武器を持つ。
ここは大型のショッピングモールだ。武器になるようなものもあるだろう。
「なににしよう……」
とりあえず時間がない。ぱっと思いついた方法をとってみることにした。見渡しても灰色がかっているため分かりづらいがなるべくごみごみした店に入る。つまりさっきの洋服店である。
「ここなら、動きを制限できる」
洋服店は店内に柱があり、棚もかなりおおくありで急いで走るのもけっこう大変だった。
ここなら動きを制限できる―長閑がそう考えたのは自然な展開で正解ともいえた。
だが長閑は出会ったばかりでこの武器の持つ破壊力、手軽さ、を本当によく理解はしていなかった。そして相手の動きを制限すると言うことは自分も制限されると言うことを深く考えていなかったのだ。
長閑が洋服店に入ったことで夜巳が最初にすることについて間違った推測をしていた。
あのハンマーで洋服店に入ってきて身動きが取りづらいところに畳みかける、それも普通のハンマーならやるところだが夜巳のハンマーはそんな弱っちいものではない。
つまり夜巳がしたことは
「あそこ狭いなー。うん、ふっとばすかー」
入口にもある柱を長閑のいる方向へ思い切り叩いたということだった。
「――しまった」
当然長閑は身動きが制限されている。
そこへすさまじい音とともに大量の瓦礫や洋服をかける道具や棚が勢いよくあるものは滑り、あるものは飛んでやってきた。
とっさに長閑は床に身を伏せる。そこでも信じられないものをみた。
床にかすかにだが亀裂が入っている。
あの距離から柱を叩いて亀裂をつくるなんて
「いったいどんな武器なんだ!」
いっそ叫びたい位だったがそうもいってられない。つぎの瞬間には背中がもの凄い重みのものを直でくらっていた。うっ、とうめき声がでる。
のしかかる瓦礫はそこまでなかったのは良かっただが衝撃で床を転がるはめになる。いろいろな破片の上をごろごろ転がる。いったん衝撃はおさまって辺りが静かになる。
制服がずたずただな。
ダメージでしばらく立ち上がれないでうつ伏せに寝たままそんなことを考えていた。
ここから反撃に移りたいところだがハンマーのあまりの破壊力を間近で見たことでためらいが起きる。
普通の中学生女子ならためらいどころか泣くレベルだが長閑のメンタルはそんなものではない
灰色の世界で鍛えられているのだ。メンタル面に関しては大人にだって負ける気がしない。
「のどかちゃーん。生きてるー?」
そんな中夜巳からはまだ生死の判断がついていないようだ。これは何かに使えるかもしれない。
まあすぐにばれることだが。
ということで長閑はなんとか立ち上がると出口のほうではなく奥へと走った。
なにが目的かと言われると、答えるならば――武器の調達である。奥とはレジのことだった。
たどり着くと何にも目をくれずカッターを素早く見つけポケットに入れる。さらに眼についたものをどんどんしまう。
逆に言うとできたのはそれくらいのものだった。 長閑がまだ生きていると分かった夜巳がこちらに向かって来たのである。
目を上げ改めて店内を見渡してみるとひどいことになっていた。真ん中に何か巨大な生物が通ったのではないかというような太い溝ができている。それを中心にしてたくさんのバラバラな金属や服が散らばっていた。ちなみに柱は根本から3メートルくらいが消失している。
我ながらよく死ななかったものだ。と感心する。 ただ運が良かっただけだが。
夜巳はその溝の上を歩いてきていた。
「逃がさないよっ」
一歩踏み出すたびに長くツインテールがゆらゆら揺れる。それだけみるとかわいい光景だが手にしているものは辺りに小さい隕石並みの傷跡を残す巨大ハンマーなのだ。
危ないどころではない。
というか分かったことがまた増えた。夜巳には持て余し過ぎているような破壊力。そしてその破壊力ゆえに状況次第では中距離攻撃までできるポテンシャル。
「最悪すぎるでしょあのハンマー。誰に作らせたらあんなのができあがるの?」
全てがでたらめのハンマーに勝つ希望があるとすればそれを使うのが人間――しかも少しばかりの天然要素が入っている人間だということだ。
「ハンマーには勝てなくても人間には勝てる……と思う」
長閑は店内の瓦礫の中を大回りに走って出口を目指して今適当に回収したものから大雑把だが作戦をたてたのだ。だから出口から出たいのは逃げるためではない。
夜巳との最終決戦をするためである。
駆け抜けるさいに夜巳がハンマーをブンと振ったがそれはかわして外に出た。
目指すのは最終決戦の地と長閑が勝手に定めた場所――ゲームコーナーである。
ゲームコーナーとは……と言わなくてもほとんどの人が分かるようにデパートなどでのゲームコーナーはかなり一般的に知られている。
ここのデパートのゲームコーナーは特に変わったところもなく全国どこにでもあるようなゲームコーナーだった。さっきの洋服店の3倍ほどはありそうな敷地に大型のゲーム機が所狭しとおかれている。
多くの子供がゲームコーナーときくとうきうきするもの……のはずである。長閑にはそれが分からなかったが。そういうものに興味を持ったことなどあまりない。長閑の目を通せばどんなものも皆等しく灰色がかかるからだ。
「夜巳ちゃんがくるまで1分くらいかな……」
そういいながら長閑はさっきレジから取ってきた糸の先端を結んで小さいわっかをつく作業をしていた。そのわっかを床におき、同じくレジから取ってきた鉛筆を立てる。
「こんなもんかな。うん」
こんな感じの罠を3カ所につくったところで夜巳がやってくるのがゲーム機の隙間からちらっと見えた。あわてて長閑はUFOキャッチャーの陰に隠れた。場所的には夜巳がこのままやってくれば夜巳の右側になる場所。
おそらく右利きの夜巳がハンマーを振った時、いや、振り終わったときにがら空きになる右側に陣取った。罠を仕掛けた側としてはなるべく有利な位置に陣取りたい。
今に限ってはどっちもハンターであった。相手を狩る。そのためにどちらも動いている。
長閑は3本伸びた糸のうち1本をこちら側に引いた。
「逃げ込んだのはここかな?」
そのゆっくりした口調とは裏腹に夜巳はかなり焦り。緊張していた。それにはいくつか理由があるが一番大きいのは長閑を逃すのではないかと言うことだった。長閑を狩る。つまり殺すためのタイムリミットはあと30分もない。
夜巳はここで夜巳を殺すことの重要性をしっかり理解していた。当たり前である――ここで長閑を殺しきれなかった時の損害は、代償はあまりにも大きい。それの失敗というのは夜巳と緋香莉のリーダーの三角蓮角に怒られるというだけではすまない。
だからこその焦り。
焦りが失敗を生むというのは重々承知だったから慎重に行動するつもりだった。が自然と体は強ばっている。
それでも目の前のゲームコーナー目指して1歩ずづつ足を踏み出す。
大丈夫だ私。失敗はしない。この状態でも殺せるし緋香莉が来たら失敗する可能性はかなり低くなる。落ち着いて。
「カラン」
ゲームコーナーの右、夜巳から見ても右のほうから何かの倒れるような音がした。
不気味な静寂に包まれているこのフロアにその音は大きく響く。そして確かに夜巳にもその音は届いていた。
夜巳は今の音で体がさっきの倍は強ばる。
あの子――空島長閑はこの先にいる。しかもたぶんなんらかの罠をはって待ちかまえている。その事実をとうとう目の前に突きつけられてしまった。あそこで戦わないといけないのか。
確かにゲームコーナーは広くさすがの相棒『ビッグバン』でもとてもじゃないが一撃では全てを壊しきれない。しかも罠がはってあるときた。自分より3歳も年下の14歳の少女にここまで恐怖することになるとは思ってもいなかった。
「カラン」
背中に悪寒が走る。柄を握っている手にはうっすら汗がにじんでいたが気にしないことにしてさらに強く握り返した。
今の音は左の方から聞こえた。首をかすかに巡らせて見てみるが特に気になるようなものは見えなかった。
ふと気づく。
背中が汗でぐっちょりぬれているのだ。これはのどかへの恐怖だけではない。これを失敗した時のリスクも同時に背負っているというのをひしひしと感じているからだ。
「今の音は私の注意を引くためだけのもの……だよね?」
小声でつぶやく夜巳の声を聞いたものはいなく、当然答えるようなものもいなかったのだが口にすることで少しは安心できた。むしろこれからのことを考えないといけないのだから―
「カラン」
思わず左の方から聞こえてきたその音に夜巳は過剰に反応してしまった。
音のほうに体ごと向いてしまう。
本当に自覚なしで体が勝手に動いたのだ。1回目は右、2回目は左、から音が聞こえてきたものだからもうそれに関してはないものだと思ってしまっていた。結果体ごと反応してしまったのだがそれは一番まずい選択だった。
夜巳はさっきの洋服店と結びつけて長閑は店内にいるものだと思ってしまっていた。そしてその予想は……。
違ったのだ。長閑はそこまで奥に潜んでいるのではなかった。入口近くに隠れていただけだった。
そしてその長閑はというと夜巳が体ごと左を向いた――つまり夜巳がこちらに背を向けたその瞬間にUFOキャッチャーの陰から飛び出し走り出していた。
その距離はわずか30メートルほど。しかし夜巳と同じように長閑が勘違いをしていたとするならば、その一見のんびりしていて緩そうな少女が一般人には想像もつかないくらいの危険に身をおいて暮らしているという事実を知らなかったということである。
長閑に間を10メートルほど詰められたところで夜巳は後ろへ3歩ほど下がりながら長閑の方を振り返ったのだ。顔はまだおびえているような表情を作っていたがそれと戦闘に関してはまた別の話だった。
夜巳はは手にしているハンマーをすぐさま振った。そこは本来――というか夜巳の予想ではちょうど走ってくる長閑がぴったりのタイミングでぶつかるところだった。
しかし、それは夜巳の予想とは違った。本当は、粉々に砕けていたはずの長閑がつぶされなかった理由。それは理屈ではなかった。夜巳が体ごと長閑の罠にはまってしまったように彼女もまた体ごと意識せずに動いていた。
こちらを向き直りハンマーを構えた夜巳を見たその刹那、彼女は急ブレーキをかけていたのだ。
「――!」
夜巳は焦った表情を見られる。それ目がけて長閑に再び走り残りの距離を一気に駆け抜ける。
当たり前のことだがハンマーを振り切った夜巳の懐はがら空きだった。期せずして武器の弱点を突かれた形になる。
そしてその懐に――飛び込まれた。
両手の自由を失っている夜巳は長閑に対してなにもできず、長閑に飛びかかられて押し倒されても何もしなかった。
負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた。負けた。
長閑に手と口をガムテープで不器用に縛られる間も夜巳は抵抗しなかった。否、できなかったのだ。負かされたショックとこれから起きることに呆然としていたのだ。
蓮角さんに迷惑をかけてしまった。
ガムテープで縛られたその口からはなんの言葉も出てこなかったが、重みは心にずっしりとのっかってきた。あとは緋香莉が上手く2人をさばいてくれるかどうかにかかっている――夜巳には祈ることしかできなかった。
~長閑
よくやった。
今の心を表現するならその一言に尽きた。
なにせ武器(凶悪極まりない)を持った年上の少女にほとんど手ぶらで勝ったのだ。長閑は灰色の少女を眺めた。手と口をふさがれ座り込んでいる。それに目は潤んでいてどうやら泣きそうな顔だった。
それに関しては罪悪感を少しは感じている。一瞬のよそ見であっという間に決着はついてしまったのだし。そもそも夜巳のとっさのあの判断力を垣間見てしまったのだ――正直なところそもそもあのハンマーのことはのぞいても素の戦闘力じゃ敵うはずもない。
本当に偶然だったのだ。
それでも勝ちは勝ちだ。と長閑は気持ちを切り替えることにした。
まずすることは――詩の援護だろう。今まさに一刻も早い救援を求めているかもしれないのだ。
勝つためにも、逃げ切るためにも、詩は大事だ。それにもう友だちでもあると思ってるし長閑にしてみれば2人目の『色付き』なのだ。
絶対に死なせるわけにはいかない。
「そうだね……頑張らないと」
長閑は声に出してそう言ってみた。それで何か変わるとは思っていなかったけれど。
この後何が起こるか分かったわけではなかったけど。
8爆発~詩
詩は柱の陰からそっと向こうを覗いた。
緋香莉はこちらに例の銃を構えて立っている。さっきからこの状態である。
緋香莉はこっちに近づきたくないようで遠くから撃ってくる。なので詩にとっては避けやすい――それは逆をいうと詩も緋香莉に近づきにくいと言うことだ。
あの銃は一発撃つごとの装填に10秒ほどかかっている。その間に駆け寄り銃を奪いたいがそれをさせないためのあの距離なのだろう……。それにしては距離は短い気もするのだが。ぎりぎり緋香莉の装填し終える前に側まで行ける気もする。
考えをまとめるため一旦顔を引っ込める。
それについては完全な賭けである。それでもこの長い降着状態をどうにかしないことには先に進めない――長閑を助けにいけない。
それは焦りにも似た感情だった。詩自身もそのことに気づいていたが行動に移さないわけにはいかなかった。
「やってやるよ」
柱の裏で足を軽く曲げ伸ばししてみる。足は硬くない――いける。
そして柱からまた顔を出すと同時にパンッという音がした。狙いは外れたらしく柱から1メートルほど離れたところに着弾し、耳を塞ぎたくなるような音ととてつもない振動をフロア中に響かす。
「今だ!」
詩は刹那駆けだしていた。焦った表情の緋香莉を見据え走る。
「くっ」
焦ったのがかえって悪くなったのか装填していた銃を取り落とす。それを見て詩は気持ちが高揚するのが分かった。
勝てる。
緋香莉はどんどん迫っていた。
詩の敗因といえるのは、自覚はあまりなかった勝利への過信だろう。距離から自分なら10秒以内に詰めて接触までいけると計算し、自分が近づいていくことで緋香莉が焦った。そのことで勝利を確信し敗北を予想できなかった。敵が罠を仕掛けていることを考えていなかったのだ。
よくある少年漫画でも敵キャラの強力な攻撃をくらった主人公は次はパワーアップし、策を考えてまた戦いに挑み勝つ。
その間敵は何もせず己の強力な技が相手にいつまでも効くと思いこんでいる。再度の戦いでも馬鹿正直にそれを使い主人公に弱点やそれを凌駕する技を使われやられてしまう。
この場合だと詩は敵キャラのほうに類する。武器を落とせば緋香莉はなにも出来やしないと思ってしまっていた――このときまでは。詩がそうでないことに気づいたのは走っている途中である。つまり遅すぎたのだ。
走りながら詩はあることに閃いた。それは今までの事実をつなぎ合わせれば簡単に出てくるはずのことだったが今、この瞬間まで出てこなかった。
まてよ、と詩は思う。そういえば最初に爆発が聞こえた時には爆破の衝撃で大量の砂埃が舞い、柱などが倒れていた。しかしさっきまでの爆発ではそんなことにはなっていない――そもそも音もあの時よりかは遙かに小さい。
つまりどういうことか。
そう、あの銃は――2つある。
しかも今まで使ってたのよりさらに大きくさらに破壊力のあるものが――ある。
せっかく思いついた仮説だったが思いついたのは遅すぎた。
詩の思考の1秒かそこらの間に事態は進んでいた。どこからともなく緋香莉は銃口が詩の腕の太さほどもある銃を取り出す。足下にはもう1本転がっているのでそれは2本目といえる。
予測はその瞬間確信へと変わる。そして詩には何も出来なかった――止まることは出来てもかわせない。
万事休す。緋香莉はまっすぐ指に力を込める。
「ばいばい詩君。のどかちゃんと天国にでも行ってきな」
とっさに詩は死を覚悟した。14歳でもう死について考えるとは思っていなかったけど、もし死ぬならわずかな可能性にかけることにした――銃が撃てない可能性だ。このまま走り続けるのは続行にし、ぶつかる。突っ込めるなら突っ込む。はじけ飛ぶならはじけ飛ぶ。
本来ならその通りになっていただろう。
もしも詩が1人だったら。頼れる仲間がいなかったら。
しかしそうはならなかった。
タイミング、来る予測、ともに不可能だったイレギュラーが来たのだ。ぎりぎりのところで。
その凛とした声は詩の耳にこれでもかというくらいにはっきり響いた。
「銃をおろして」
彼女は息を切らしていたがそれにはかまわず続けた。小説や漫画でよく見るセリフ……おそらく彼女もそこから学んだであろうベタな台詞を。
「さもないとこの子がひどいことになるけどかまわないの?」
自身の左側にいる夜巳の首筋にカッターナイフをあてながら。
長閑は言った。
9三角蓮角~詩
詩は長閑の声で緋香莉の動きが止まった瞬間を逃さなかった。怯えた顔で長閑を凝視している緋香莉の手から銃を素早く奪ったのだ。もちろん下に落ちているほうも回収した。
「……助かった」
助かった。
あと少しでも長閑が遅かったら詩はもう弾けていた。比喩かなんかの類ではなく本当にバラバラになっていたのだ。
長閑を助けるつもりが逆に助けられてしまった。
と、いうか長閑にこれから一生奴隷のようにこき使われても文句を言えないくらいの恩をもらった。
「はは……まあ別にそれぐらいなら特に構いはしないけどな」
でも今はほかにすることがある。
詩は緋香莉のほうを振り返った。長閑が近づいてくるのをベタッと座り込んでボーと見ている。
「私たちはあなたたち2人を傷付けるつもりは特にないです」
長閑は静かに言った。
「でも私たちの逃亡を邪魔したらそこの銃で詩君があなたたちを撃つよ」
「え、あ……うん。撃つよ」
急に話しを振られて詩はびっくりした。返事はしてしまったが実際に撃つことになったときに僕は迷いなく引き金を引けるのだろうか、と思った。
いざというときがくるのかは分からないがその時自分はどうするのかは皆目見当がつかない。
「あと通信機器をこっちにください」
そんなことを思っている間に長閑は次々と話を進めていっている。おいてかれないようにしないと。
長閑は携帯のようなものを受け取りながらさらに質問を続ける。
「あなたたちの所属を教えてくれませんか?」
「それを聞いたら……」
緋香莉が捕まってから口を開いた。
「のどかちゃんたちはもう後には引けなくなる」
「もう充分なところまで引き込まれてます。私たちは情報を手に入れる権利がある」
長閑はぴしゃりといった。
「分かったよ。ある程度までは教えてあげる――私たちは戦闘部隊『方向感覚』の準リーダー三角蓮角さんの部下。それだけ」
「違うでしょ……その方向なんたらの部隊はどこの下についてるの? それまで教えてください」
「それはこのまま逃げればいずれ知ることだよ」
緋香莉は手を後ろで縛られながらもにやっと笑った。
「私たちは何もしないし何も出来ない。……これ以上の情報も渡さない」
長閑と詩はその目を見据えていた。2人は同時に分かったのだ。
――これ以上は聞いても無駄だ。もう逃げるしかない、と。
長閑はまだ迷っていたが。
詩はここで2人を殺しておけばかなり逃げやすくなるとは思っていたが実行には移せなかった。14歳の少年には人を殺すのも人が殺されるのを視るのも早すぎた。実際この行動はあとで大いに自分たちの身を救うことになる。今は無論、気づきもしていないが。
「分かった――詩君逃げよ」
そう言ってふいに駆け出す長閑のあとを追うような形で詩は走り出す
「うん。……あれ?そういやハンマーは?」
「置いてきた。かさばるからね」
長閑はさらっとそう言ったが実際は持ってくれば良かったと少しは後悔しているようだった。使い方はいまいち分からないが持っているだけでかなりの威嚇にはなるだろう。
それは過ぎたことだが。
「それはともかくしてさ。緋香莉さんの言ってたことどう思う?」
「さっき言ってたこと? 僕はまだどこかに仲間がいるんじゃないかって考えたけど」
「やっぱそうだよね問題はどこにいるかなんだけど……見つけたらさっきみたいに束縛して情報をなるべく聞き出したい」
「それは難しそうだね……手元の武器は僕の持ってる銃2つと長閑のカッターくらいだからね」
「そっか、どっちも敵を捕らえるのには向いていないね。別の作戦考えないとなー」
――2人はそんな会話を交わしながら壊されていない階段を選んで降りていく。
「思うんだけどさ」
2階に着いたところで詩は長閑に話しかけた。
「ここ出たら1回どこかに身を潜めるのがいいと思うんだ。雨は逃げるのにいいけどこっちの動きも制限されるからさ」
「それはあるね――朝まで隠れてから姿を現して緋香莉たちの仲間をおびき寄せる感じ?」
「うん。それでいいと思う。隠れながら作戦も練れるし」
「おっけー上手いこと見つかるといいね――隠れ場所」
長閑がにこっと笑う。つられて詩も笑ってしまった――いつぶりだろう。僕が笑うのは。そう思うともの凄く照れてしまいそうになった。そんな顔を長閑に見られないようにするため詩はしっかり前を向いて走った。
2人は――所詮ただの中学生だからしょうがないといえばしょうがないが、ある可能性に気づいていなかった。
緋香莉のいっていた仲間が、どこにいるかについてだ。2人はてっきりこの建物には緋香莉と夜巳しかいないと思っていた。そしてその危険はもう過ぎたものだと――。
それは勘違いだった。
詩と長閑の命さえも容易く左右するような危険がそこにはあったのだ。
2人は2分後にそのことに気づく
詩は1階まで降りた時に気づいた。というか空気で察した。
ピリピリしている。
緋香莉と夜巳に対峙した時とはまた違う、ナイフのように肌に刺さる感覚。これが殺意というやつか、とはっきり感じた。
その殺意は1階フロアの中心にいる人から発せられていたとすぐに分かる。
その女性は全身真っ黒のスーツを着ていた。20歳前後だろうか。同じく黒い髪は少し伸ばして後ろで結んでいた。前髪はピンで軽く留めている。そして見るものをぞっとさせるような鋭い眼でこちらを見ていた――狩りの対象として捉えられていた。
「あなたたち2人がそこにいて――」
女性は唐突に話し出した。詩と長閑は身がすくみ体が上手く動かなかった。この場合は動かなくて正解だったのだが。もし動いたなら刹那、彼女の武器が2人を貫いただろうから。
ふと家族で温泉に行った時のことを思い出した。あの時詩は間違えて冷水のほうに入ってしまってひどく冷たい思いをしたのだ。しかし今回の感覚はその比ではなかった。例えるなら氷に突っ込んだ感じだ。
「――緋香莉のその銃を持っているということはあなたたちは音羽姉妹に勝ったしたという解釈でいいんですね?」
詩は口が回らず出てきたのはよく分からないうめき声のようなものだった。
「…………はい」
「それなら、私が時間以内にけりをつけなければなりません」
女性は懐から短剣らしきものを取り出した。
「時間はあと5分もないんです。おとなしくしていて下さい」
「あのー」
よく分からないタイミングで声を上げたのは長閑だった。
「あなたの名前はなんていうんですか」
それはこの場では特に必要のない質問だっただろう。しかしこの質問のおかげで2人は自分の立場――ようするに自分の弱さをはっきり知ることになる。
「ああ、言い忘れてましたね」
女性は短剣を2本軽く振り回しながら言った。
「私は『ヘイズ』の戦闘部隊『方向感覚』における準リーダー三角蓮角です――先に言っておきますが私は緋香莉と夜巳を合わせたのの何倍も強いですよ」
最後にそう付け加えるのも忘れなかった。
10激闘の5分~蓮角
あと5分。
そのタイムリミットは三角蓮角に焦りを生ませるには充分、とは言えないけれど多少の焦りならまあ出てくるかなくらいの時間だった。
蓮角はそんな性格なのだ。
だいたいの状況でなら冷静でいられ、戦闘時にはいつも大局を見据えてるため判断が正確。その上戦闘能力は並みの軍人よりも上に位置する。
男が多い、戦闘部隊『方向感覚』で準リーダーを任されているのも当然のことと言える。
その彼女――蓮角は今回のこの任務を任されていたのだ。
【空島長閑を外に出すな。出た場合は本日24:0 0までに殺害】
上から降りてきたこの任務を蓮角は簡単なものだと思っていた。別に彼女も鬼ではなく人を殺すのが完全に平気というわけではない。
それでも将来を見据え大きな害があるものに関しては殺すのに心は少しばかり動いても――動作に躊躇いはなかった。
こんな感じの彼女ではあるのだが彼女はこの任務を部下(弟子?)である緋香莉と夜巳に任せてみようと思っていた。別に仕事がめんどくさいというわけではない。
彼女から見た感じ、2人はまだ蓮角というリーダーに依存していると思ったのだ。だから経験を積ませ、自立させるためにもこれは任せようと思っていた。ただ完全に放置というわけではなくバックアップについては蓮角がするということは伝えてある。
今回の場合についてはこの建物内みら人を集めて情報を漏らさないように隔離するなどだ――別に殺すわけではないが。
――というわけで緋香莉と夜巳に処理は任せて下でいろいろ活動をしていたのだが……計画はもろとも崩れてしまった。
まさかあの特異体質の少女が仲間――しかも男の子と一緒に動いて――しかも緋香莉と夜巳を倒してしまうなんて考えてもいなかった。緋香莉と夜巳が今どういう状態で上にいるかも分からない。まさか殺されてはいないだろうが。それも分からない。
それを聞こうにもあと5分以内に2人を殺さないといけない。時間はない。
「…………」
蓮角は駆け出す。
右手のほうの短剣を振り上げた瞬間に2人はくるっと背中を向けて二手に分かれ駆け出す。なかなかの反射神経だと思った。
まあ24:00の制限時間があるのは長閑を殺すときだけなので蓮角の失敗するようなことではないが。
「動きはいい――まさかどこかでそういう訓練を受けていたというわけではないですよね……?」
万が一そうであっても問題は何一つないのだが。 左のほうに逃げた長閑を視界に捉え足を速める。 足音に気づいたのだろう前方を走っている長閑はこっちを振り返った。
「逃がしませんよ」
蓮角はさっき構えた右手の短剣を振った。
まだ長閑との距離はあるのにだ。
少なくともどれだけ蓮角が手を伸ばしても短剣がかすることのないくらい――。
ビュッ。
短剣が伸びた。
いや、正確にいうと短剣の刀身が細くなって長閑のほうに飛んでいく。
「――えっ」
長閑は目を見開いて驚いた。が、そこで止まることなく近くの柱の身を隠した。とっさに、という感じだった。少なくとも蓮角の目には長閑が意識して足を動かしたようには見えなかった。
ターゲットを見失った刀身は柱にパチンと当たり、そのまま使用者である蓮角に引っ張られる形で巻き取られる。
まるでムチのように。
これが蓮角の武器である。
見かけは短剣、使うとムチに見える。が、そのどちらもがこの武器の本質を言い当てているようで実際からは外れていた。
この武器はムチでも短剣でもない。むしろ両方を兼ね合わせているといえる――『漸近刀・鞭』を一言で表現するとムチ型刀身の剣である。ムチの特性全てを備えながら本気で振るえば鉄をも貫く切れ味を誇る、使うものが使えば最強の近距離・中距離武器になる武器である。
しかも詩と長閑にとって最悪なことはそれを持つのが蓮角ということだろう。
使うものを選び、今まで数多くの使用者の事故を招いた武器。それを容易く扱う蓮角。
相性が良すぎ、運が悪すぎる。
しかし長閑はそれの攻撃を初撃だけとはいえ何とかかわしたのだ。
もっとも2回目はないかもしれないが。
「あと3分か」
慎重かつ着実に相手を狩らないといけない状況。しかしこのフロアには詩も隠れているはずなのだ。蓮角の隙を今も狙っているかもしれない。緋香莉の銃『クイックボマー』と『漸近刀』の相性はなかなか悪い。
そんなことを思いながら近づくと柱の向こうから声がした。
「それ以上は近づかないでください」
声に緊迫感がにじんでいるのが分かる。
「こっちには爆弾の銃があります――あなたの部下の銃だから破壊力は充分分かってますよね?」
「……そうですね」
しまった。蓮角は舌打ちをしたい気分だった。あの一瞬の隙で詩は長閑に『クイックボマー』を渡していたのだ。『クイックボマー』は2丁でワンセットだ。おそらく詩も持っている。それも含めてこれからを考え直さないといけない。
長閑が慎重に柱から離れる。もちろん両手で『クイックボマー』を構えている。
「私たちを見逃して下さい」
「嫌ですね」
言いながら右手の方の『漸近刀』を胸元に構える。
あえて威圧的な態度を取ることで相手の動揺を誘おうとする。もっとも彼女を知るものから言わせればいつも威圧的だろ、ということになるのだが……。
「私――いえ、私たちの任務はあと3分以内にあなたを殺してあなたに現在関わっている人間を消すことです。そこに私情が絡むことはありません」
淡々と話す蓮角だが目は一瞬でも『クイックボマー』の引き金から離すことはしなかった。
「じゃあ、なんで私たちを殺そうとするのか教えてくれませんか?」
「時間がありません」
言うと同時に蓮角は駆けだした。長閑に撃たせる隙を与えない。右と左を同時に振りかぶる。長閑1人ならいくらここまでで運が良くてもやられてだろう。
それほどに蓮角の攻撃は洗練されていた。殺すことのみに集中しそれに対して一切の妥協がない。だからこの場で本当なら死んでいたのだ。
詩がまだこのフロアに居て逃げていないからこそ。蓮角がこの時だけうっかり詩の存在を忘れていたからこそ長閑は生きながらえた。
乾詩――長閑が同行者として選んだ少年が走り込んできた。『漸近刀』を振りかぶっている蓮角と長閑の間の空間に流れるような動きで『クイックボマー』を撃ち込んむ。
「――――!」
蓮角が振りかぶった手を防御に回すと同時に弾が炸裂した。怪我こそしなかったものの振動と爆音と爆風のおかげで思いっきり後方に吹っ飛ばされる。
「……がはっ」
腰を床にまともに打ちつけ一瞬鋭い痛みが体を突き抜ける。しかしそれでも彼女は歴戦の猛者だった。痛みは痛みで放置して立ち上がろうとする。ふと煙の向こうを見ると長閑がまだ倒れていた。
これで死んでいたなら楽だけどそんなことないよな。と思う。
でも、これで『クイックボマー』の残り弾数は長閑の持っているほうの1発だけになった。まさか緋香莉に装填方法を聞いたわけでもあるまい。それに聞いていても初心者なら1分ほどかかるのだ。状況はかなりこっちに傾いた。
そして今更ながら蓮角はヒヤッとする。
これがプロ同士の戦いなら蓮角は死んでいた。
人を殺せない14歳だからこそ蓮角はまだこの場に立っているのだ。当然ながらこの感情はあっち側には漏れないように気をつけているけれど――本当に大事な方の用心は足りなかった。
詩に殺意があれば、殺されていた。
もしこれが長閑を殺し終えた後だったならばその銃口は間違いなく蓮角を向いていただろう。
蓮角は生憎漫画のようにムチで銃の弾を真っ二つに切るような技は持っていない。それ故この至近距離だったらかわせているはずもなかったのだ。
「私もまだまだ未熟だな」
フッと笑う。
持てる最大限の集中力を目の前の2人に向ける。 それはほとんどの人が殺意と呼ぶ類のものだった。
両手を2人に向けると長閑がまだ起き上がれないままに銃をこっちに構える。そして詩が話し出した。
「動いたら撃ちます」
やることがワンパターンだと蓮角は呆れた。テレビの見過ぎだろうか。そんなこと言われて動揺する蓮角ではない。むしろ殺すつもりならもう撃っているはずなのだ。
相手はそこまで蓮角を殺す気はない。そう判断する。
「動かなかったらどうなります?」
敬語で話してしまうのは蓮角の癖である。いい加減直したいものだが。
「撃ちません。助けがここに来るまで待ちます」
「少なくとも私は待てません」
あと2分。そうしたらこの子たちを殺す理由はなくなる。
そうなったら組織がひっくり返るくらいの大ごとになるのだが……。
「蓮角さん。一応忠告はしておきます――今僕たちが持っている銃ですけど、弾は何発入っていると思いますか」
「…………?」
何を言いたいのかが分からない。なんか適当なこといって時間稼ぎをしているのだろう。14歳にしては見事な技だが蓮角にはそれは通じない。
いや、少なくとも『方向感覚』の誰もがそういった小細工は通じない。その詩による小細工はまだ続いているが。
「少なくとも今長閑が持っているのが緋香莉の銃というのは分かると思います。でも、中に入っているのが何発で、何をしたかはわかりませんよね?」
蓮角はそれに答えずグリップエンドを強く握り直す。
これ以上茶番に付き合っている時間はないと判断したのだ。極めて冷静な判断。
しかしここで蓮角は失敗をしていた。
詩のいうことを戯言と思ってまともに聞いていなかった。否、考えていなかった。もしあの銃に本当に弾が入ってなかったらやりやすいな、とだけしか考えていなかった。
もし弾がないなら――どこにいったのか。そこまで思考が張り巡らされていなかった。
「僕たちは逃げさせてもらいます」
その声から一拍遅れてお馴染みの『クイックボマー』の破壊が体に襲いかかる。
もちろん詩は全く動いていない。
注意して見ていた目の前の銃ではなく――後ろの方から爆発は襲ってきた。今度こそ何の抵抗もなく吹き飛ばされ、打ちつけられ、転がる。瓦礫が彼女の体を打ちつけるように降ってくる。2度目とはいえこれは慣れるものではない。
「――ぐはっ……な、なんで」
視界が朦朧とし、かすむ。意識が飛ぶ寸前に見たのは走って逃げていく詩と長閑だった。
23:59――緋香莉と夜巳は4階に捕らわれ、三角蓮角は1階に倒れ伏していた。
そして今度こそ詩と長閑がショッピングモールを出たその時。
カチッ。
日本全国全ての時計が一斉に0:00を告げた。
読んでくださりありがとうございます!
まだまだ未熟ですがこれから連載の形で詩と長閑の冒険を書いていきたいと思います
以後よろしくお願いします




