10話
数日後の午後。
いつものように出勤すると、店内を見渡した。
(……あれ。)
いつもこの時間にいるはずの蓮先輩の姿がない。
少しだけ胸が寂しくなる。
「今日は蓮休みだから。」
社員さんがそう言った。
「代わりに高橋くんと組んで。」
「はい。」
私は小さく返事をして、作業場へ向かった。
そこには、一人の男性スタッフがいた。
背は高めで、少しラフな雰囲気。
蓮先輩とはまるで違うタイプだった。
「高橋です。」
短く名乗られる。
「あ……よろしくお願いします。」
それだけ。
会話は続かなかった。
気まずい沈黙。
お互い黙ったまま、それぞれの作業を始める。
必要なことだけを確認して、また静かになる。
「それ、お願いします。」
「はい。」
「終わったら教えて。」
「分かりました。」
言葉はそれだけ。
蓮先輩なら、「大丈夫?」とか「困ってない?」と声をかけてくれる。
でも高橋先輩は違った。
無口というより、必要以上に話さない人。
だから私も、何を話せばいいのか分からない。
作業場には機械の音だけが響いていた。
(なんだか緊張するな……。)
そう思いながら黙々と作業を続ける。
しばらくして。
「……。」
高橋先輩が私の手元をちらっと見た。
「そこ。」
「え?」
「持ち方、こうした方がやりやすい。」
そう言って、一度だけ手本を見せてくれる。
「あ……ありがとうございます。」
「うん。」
また沈黙。
でも、不思議だった。
冷たいわけではない。
話さないだけで、ちゃんと見てくれている。
そんな人なんだと少しだけ分かった。
静かな時間は続く。
それでも少しずつ、さっきまでの気まずさは薄れていった。
この先輩は、蓮先輩とはまったく違う。
だからこそ、どんな人なのか少しだけ気になり始めていた。




