第三部 第二十一話 ~「次、どうする?」と聞かれてしまった~
どう贔屓目に見ても恋愛してない恋愛事情
その問いは、予想よりずっと普通に届いた。
朝。
悠馬は、デスクでメールを確認していた。
仕事の件。
報告。
確認。
(……平和だ)
そう思った矢先、一通だけ毛色の違う通知が目に入る。
――”昨日の相手”。
一瞬、手が止まった。
(……来たか)
深呼吸して、開く。
> 昨日はありがとうございました
>
> 一度お会いして、
> 無理のない形で
> 続けられそうだと感じました
>
> ですので、
> ”次をどうするか、
> 佐伯さんのお考えを
> 聞かせてもらえますか”
短い。
丁寧。
そして、逃げ場を潰さない聞き方。
(……選べ、ってことだな)
だが不思議と、胃は強く反応しなかった。
(……前なら、ここで固まってたな)
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昼。
ノアに、そのまま見せる。
「……来た」
「“次、どうする?”?」
「……そうだ」
ノアは、少しだけ画面を眺めてから言った。
「圧、ないね」
「……ない」
「でも、逃げ道も作ってない」
「……そうだな」
ノアは、ふっと笑った。
「兄さん、これ」
「……何だ」
「本当に選ばされてない」
悠馬は、その言葉をゆっくり噛みしめる。
(……確かに)
条件は出した。
距離も示した。
事故も起きた。
それでも、相手は“次を決めていない”。
決めるのは、こちら。
(……それなら)
悠馬は、スマホを見つめたまま少し考えた。
(……何をしたい)
結婚を今すぐ決めたいわけではない。
恋愛を急に始めたいわけでもない。
でも。
(……もう一度話すこと自体は)
(……嫌じゃない)
それは、はっきりしていた。
「……ノア」
「なに」
「僕は、前向きに考えてる」
ノアは、一瞬だけ目を見開いて、次に笑った。
「それ、”事件”」
「……そんなにか」
「うん」
即答。
「兄さんが“嫌じゃない”
じゃなくて“前向き”って言うの」
「……違い、あるのか」
「大あり」
ノアは、指を立てる。
「“嫌じゃない”は受動」
「“前向き”は”能動”」
(……能動)
悠馬は、小さく息を吐いた。
(……確かに)
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夕方。
悠馬は、返事を書いていた。
今回は、業務メールではない。
……いや、
完全に業務文体が消えたわけではないが。
> ご連絡ありがとうございます
>
> 正直に言うと、
> まだ結論を出せる段階ではありません
>
> ただ、
> もう一度お話しすることについては
> 前向きに考えています
>
> 無理のない形で、
> またお会いできればと思います
打ち終えて、
画面を見つめる。
(……前向き、って書いたな)
不思議と、嫌な感じはしなかった。
「……送る」
ノアが、横で言う。
「今回はドン引きしない」
「……それは進歩か」
送信。
スマホを伏せる。
(……選んだ)
結婚を選んだわけではない。
未来を決めたわけでもない。
ただ、
『「次を持つ」という選択を自分でした。』
それだけだ。
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夜。
悠馬は、コーヒーを飲んでいた。
砂糖は、二杯。
(三杯じゃなくても大丈夫だな)
ふと、思う。
(……これ、恋愛か?)
すぐに、否定する。
(……いや、まだだ)
しかし。
(……前向き、ではある)
その事実が、少しだけ胸を軽くした。
「……ゆっくりでいい」
独り言。
誰にも急かされていない。
だからこそ、前に進めた。
有能嫁計画・第二フェーズは、確かに続いている。
だが今、その歩幅は”悠馬自身のもの”だった。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




