第二部 第十二話 ~8日目から9日目:何も起きない、という異常~
悠馬君は不器用です。たぶん。てかいまだ恋愛要素ゼロなんですがね。
八日目。
何も起きなかった。
正確に言えば、”起きるはずのことが、起きなかった。”
朝の会議は短く、確認事項だけで終わる。
昼も、誰からも誘われない。
夜も、スマホは静かなままだ。
(……静かすぎる)
悠馬は、ホテルの部屋で資料を閉じ、
しばらくそのまま座っていた。
(昨日までなら、ここで何か来てた)
個別の食事。
軽い打診。
仕事を理由にした距離の侵食。
それが、
『ぱたりと止んだ。』
(……叔父上が、手を引いた)
理由は分かる。
七日目。
刺客ではない相手。
自分の反応に、自分で気づいた瞬間。
(……見られてたな)
評価される立場であることは、今も変わらない。
しかし、
”操作されていない時間”が突然、与えられた。
それが、悠馬には妙に落ち着かなかった。
(……俺、今、何をしたい)
答えは、すぐには出ない。
帰りたい場所もない。
会いたい誰かも、
今はいない。
でも。
(……このまま“何も起きない”まま
帰るのは、違う気がする)
眉間に、また少し力が入る。
だが、それは今までと違う。
“耐える”ためのしわではなく、
”考えるためのしわ”だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
九日目。
朝。
ノアが、珍しくゆっくりとコーヒーを飲んでいた。
「……今日は、何もないね」
「……ああ」
悠馬は、窓の外を見ながら答えた。
街は、いつも通りに動いている。
自分だけが、止まっている感覚。
「兄さん」
ノアが、ぽつりと言う。
「父上、今日は連絡してこないと思う」
「……だろうな」
「様子見だ」
悠馬は、小さく頷いた。
(……逃げるなら、今だ)
でも。
その考えが浮かんだ瞬間、別の思考が
静かに上書きされた。
(……逃げても、同じことが別の形で起きる)
ここで逃げれば、
次はもっと自分で判断できない形になる。
それが、この数日で嫌というほど分かった。
「……ノア」
「なに?」
「俺、今日の午後……
一人で外に出る」
ノアが、少し驚いた顔をする。
「仕事?」
「いや」
一拍。
「……散歩」
即座に、ノアが笑った。
「それ、めちゃくちゃ久しぶりじゃない?」
「……そうかな」
悠馬自身、そう思った。
ーーーーーーーーーー
午後。
街を歩く。
目的地は、決めていない。
観光でもない。誰かに会うわけでもない。
ただ、”自分の足で歩く。”
(……楽だな)
仕事でも、社交でもない。
評価も、
期待も、
背負わなくていい。
(……俺、こういう時間、ほとんど持ってなかったな)
ふと、小さな書店に入る。
フランス語の棚。
英語の棚。
多言語が、
混ざり合っている。
求めていたのは。
静けさ。選ばれない時間。
役割を持たない状態。
カフェに入り、一人で座る。
誰も、話しかけてこない。
それが、こんなに楽だとは思わなかった。
(……これが、“自分で選んだ時間”か)
その時、はっきりと理解する。
七日目までの出来事は、
すべて
”誰かが用意した場”だった。
でも、今は違う。
(……俺、ちゃんと自分で動ける)
胸の奥で、何かが静かに整う。
ーーーーーーーーーーーーーーー
夜。
ホテルに戻ると、ノアが待っていた。
「どうだった?」
「……悪くなかった」
「それ、相当いい評価だよね」
悠馬は、少しだけ笑った。
「……ああ」
「父上に、言う?」
「言わない」
即答。
「これは、俺の時間だ」
ノアは、
一瞬だけ目を丸くしてから、嬉しそうに頷いた。
「……うん」
その頃。
遠く離れた場所で、
エドワード・ハミルトンは
何の報告も受けていなかった。
――それが、何よりの報告だった。
「……なるほど」
紅茶を置き、独り言のように呟く。
「自分で動き始めたか」
計画通りではない。
想定より、少し早い。
だが。
「……それでいい」
一度だけ、リストを閉じる。
「今は、待つ段階だな」
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




