第二話 第十話 ~6日目:それは、選択ではなかった~
出張先でまで「女性慣れレッスン」をする悠馬君かわいい
六日目。
会議は、午前中で終わった。
内容は問題ない。
結論も前向き。
数字も、条件も、詰められている。
(……仕事としては、順調)
それが、この数日で一番怖い言葉だった。
昼過ぎ。
次の打ち合わせまで、少しだけ空きができる。
ホテルに戻るか、資料を整理するか。
そう考えていた悠馬の元に、声がかかった。
「佐伯さん」
振り向くと、昨日とは別の取引先の女性だった。
落ち着いた立ち居振る舞い。
距離は近すぎない。
声も、柔らかい。
「このあと、少しお時間をいただけますか?」
来た。
でも、前回とは違う。
「仕事の件で、確認したいことがあって」
(……仕事)
その一言で、逃げ道が一つ消える。
「場所は、静かなところがいいのですが」
カフェ。
打ち合わせ向き。
不自然ではない。
「ノアも?」
一瞬、迷いが走る。
「いえ」
彼女は、にこやかに続けた。
「専門的なお話なので。佐伯さんと、二人の方が」
(……なるほど)
断る理由は、ない。
仕事だ。これは仕事だ。
「……分かりました」
口が、勝手にそう答えていた。
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カフェは、静かだった。
周囲には、仕事をしている人もいる。
完全に、“仕事の空間”。
最初は、本当に仕事の話だった。
数字。
スケジュール。
条件の確認。
悠馬は、いつも通りに応じる。
英語。必要に応じて、フランス語。
無駄はない。
(……問題ない)
だが。
「ところで」
その一言から、空気が変わる。
「佐伯さん、お疲れでは?」
(来た)
「長期滞在ですし、お一人で判断される場面も多い」
(……見られてる)
「責任者という立場、大変でしょう?」
それは、労りの形をした質問だった。
否定できない。
否定すると、
角が立つ。
「……そうですね」
ほんの少し、声が低くなる。
「無理をされていませんか?」
その瞬間、悠馬は気づいた。
(……これは)
仕事の質問ではない。
だが、”仕事を否定していない”。
むしろ、仕事を理由に距離を詰めてくる。
(断れない形だ)
彼女は、悠馬を“選ばせていない”。
選択肢は、最初から一つ。
「お一人で抱え込む必要は、ありませんよ」
柔らかな声。
それは、善意だ。
しかし。
(……これは、選択じゃない)
悠馬の中で、はっきりと線が引かれた。
(これは、“断るかどうか”じゃない)
(もう、場が用意されている)
(俺は、“試されている”)
ふと、脳裏に浮かぶ顔がある。
穏やかな笑顔。
紅茶。
「実践だ」という声。
(……叔父上)
(やっぱり、来たか)
エド叔父の”女性慣れレッスン刺客”。
それは、押し付ける存在ではない。
逃げ道を消し、「自分で選んだ」と思わせる存在。
(……上手すぎる)
悠馬は、ゆっくりと息を吐いた。
「……ありがとうございます」
声は、落ち着いている。
「ですが、この件はここまでで」
彼女は、一瞬だけ目を瞬かせた。
「……そうですか」
不快ではない。でも、察した顔だ。
「失礼しました」
会話は、そこで終わった。
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ホテルに戻る途中。
悠馬は、歩きながら考えていた。
(今のは……仕事じゃなかった)
(でも、完全な私事でもない)
(だから、断りにくかった)
はっきりと、言葉になる。
「……これは、選択じゃない」
口に出して、初めて確信した。
選ばされている。
「選んだつもり」にさせられている。
その構図が、あまりにもエド叔父らしかった。
ホテルのロビーで、ノアと目が合う。
「……どうだった?」
悠馬は、一瞬だけ迷ってから答えた。
「……来た」
「……刺客?」
「たぶん」
ノアは、小さく息を吐いた。
「……やっぱり」
悠馬は、静かに続けた。
「でも、はっきり分かった」
「何が?」
「これは、俺の選択じゃない」
ノアは、少しだけ安心したように頷いた。
「……気づけたなら、まだ大丈夫だ」
その頃。
遠く離れた場所で、エドワード・ハミルトンは
短い報告を受け取っていた。
――6日目
――個別対応:実施
――本人、線引き成功
「……ほう」
小さく笑う。
「逃げた、というより」
紅茶を一口。
「”自覚した、か”」
ペンを置き、次のページをめくる。
「ならば――
次は、“選ばせる”段階だな」
その頃、悠馬はまだ知らない。
『“選択ではない”と気づいた者』が、
次に直面するのは――
本当の意味での『選択』だということを。
実はエド叔父のスパイはノアだった説
感想をいただけると嬉しいです。
※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。
よろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




