第二部 第六話 ~会議後、ランチという名の第二戦~
やはりスパイがいたようです。
会議が終わると、拍子木を打つように空気が緩んだ。
「では、このあとランチでもいかがですか」
取引先の一人が、ごく自然に言う。
(来た)
悠馬は、資料をまとめながら一瞬だけ考えた。
――断る理由は、ない。
――だが、選択肢はある。
「人数は、どのくらいで?」
慎重な確認。
「小グループで。話しやすい方がいいでしょう」
“話しやすい”。
その言葉が、じわっと胃に来る。
視線が、自然とノアに向いた。
(……なぜ、皆そっちを見る)
ノアは、気づいていない。
ただ、明るく頷いている。
「いいですね」
(お前は黙ってろ)
だが、状況はすでに動いていた。
「では、佐伯さんと……」
一拍。
「ご一緒の方も」
(……複数形)
「ノアさんも、ぜひ」
ノアは、嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます!」
(……詰み)
席の組み合わせは、あっという間に決まった。
悠馬、
ノア、
取引先二名。
少人数。
逃げ場なし。
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店に入ると、空気はさらに柔らかくなる。
仕事の話は、一段落。
ワインは出ない。
でも、
会話は軽くなる。
「先ほどの会議、非常に明確でした」
悠馬に向けられる言葉。
「判断が早いですね」
「余計な説明がなくて、助かります」
(……仕事の評価、ありがたい)
しかし。
「兄はね」
――ノアの声。
(……来る)
「昔から、こうなんです」
(やめろ)
「決める時は早くて、でも無茶はしなくて」
(仕事の話に寄せるな)
「家でも――」
(寄せるな!!)
「料理は、意外と得意で」
(それは今、必要な情報か)
取引先が、面白そうに笑う。
「へえ」
「意外ですね」
「ギャップがある」
(……評価が、また“人”に拡張されてる)
悠馬は、静かにフォークを置いた。
「……ノア」
低い声。
「今は、仕事の話だけでいい」
ノアは、一瞬きょとんとしてから、
すぐに頷いた。
「ごめん」
素直。
だが、
一拍遅れて言う。
「でも、聞かれたら答えた方がいいよ」
(正論で殴るな)
取引先の一人が、笑いながら言った。
「仲がいいんですね」
「ええ」
ノアが、即答する。
「兄には、本当にお世話になってます」
(……完全に“兄推し担当”だ)
空気は、悪くない。
むしろ、とても良い。
それが、一番厄介だった。
ランチは、穏やかに終わった。
別れ際、取引先の一人が言う。
「次は、もう少しゆっくり話しましょう」
“もう少し”。
それは、仕事以上の何かを含んだ言葉だった。
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店を出て、歩きながら。
悠馬は、深く息を吐いた。
「……ノア」
「なに?」
「……もう、完全に“兄推し担当”だな」
ノアは、少し照れたように笑う。
「だって、本当のことだし」
(それが、一番困る。というか、褒めてない。)
悠馬は、はっきり悟った。
――ノアがいる限り、
自分は“仕事だけの人”ではいられない。
しかも。
ノアは、
止められない。
悪気がない。
むしろ、守っているつもりだ。
(……これは、前回より長期戦だ)
その頃。
遠く離れた場所で、
エドワード・ハミルトンは
同じ報告を読んでいた。
――会議後ランチ、問題なし
――同行者、非常に好印象
――責任者評価、安定
「……うん」
満足そうに、ペンを置く。
「“一緒にいると人が見える”」
「悪くない」
紅茶を一口。
「さて……次は”夜だな”」
その頃、悠馬はまだ知らない。
“誰と食べるか”が、すでに
”次の予定を決める
材料になっている“ということを。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




