第二部 第七話 ~3日目:善意は時に刃になる~
悠馬君ホテルでサンドイッチでもかじっていたいんだろうな。
三日目の朝。
悠馬は、目覚ましより先に目が覚めた。
(……まだ半分も終わってない)
それだけで、胃が重い。
ノアは、相変わらず元気だった。
「兄さん、今日の午後の予定なんだけど」
嫌な予感。
「……何が入ってる」
「昨日の取引先から、軽いディナーの誘い」
(軽い、が一番重い)
悠馬は、一瞬考えてから言った。
「……断りたい」
はっきりした意思表示だった。
ノアは、少し驚いた顔をして、
それからすぐに頷いた。
「分かった。じゃあ俺、言っとくよ」
(……え?)
「兄さん、疲れてるでしょ」
「……待て」
悠馬が止める前に、ノアはスマホを手に取っていた。
(いや、それは……)
だが、言葉にする前に、もう遅い。
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午後。
会場のロビーで、
取引先の担当者と鉢合わせた。
「今日は、夜もお時間ありますか?」
――来た。
悠馬が口を開く前に、ノアが一歩前に出る。
「実は――」
(やめろ)
「兄、この数日かなり立て込んでまして」
(止まれ)
「少し休ませてあげたくて」
(善意が過ぎる)
相手は、一瞬だけ考え、にこやかに言った。
「なるほど。では――」
(断ってくれるか?)
「”佐伯さんだけで、軽くいかがですか”」
――終わった。
ノアの表情が、ほんの一瞬、固まる。
「……え?」
「お一人の方が、ゆっくりお話しできますし」
視線が、悠馬に向く。
(……なぜ、そうなる)
ノアは、慌ててフォローに入る。
「いえ、兄は……」
「大丈夫です」
相手は、穏やかに言った。
「お仕事の話だけで結構です」
(仕事だけ、って言い方……)
悠馬は、内心で静かに絶望した。
(……一番、逃げられないやつ)
「……分かりました」
気づけば、口が動いていた。
ノアが、信じられない、という顔でこちらを見る。
(……ごめん)
(でも、今断ったらもっと厄介だ)
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夜。
小さめのレストラン。
テーブルは、三つ。
取引先二人と、悠馬だけ。
ノアはいない。
(……分断、成功してしまった)
会話は、丁寧で、静かだった。
仕事の話。
条件。
今後の展望。
悠馬は、仕事モードに切り替え、淡々と応じる。
(……これは、できる)
相手は、満足そうに頷いた。
「やはり、お一人でお話しできて良かった」
(それ、褒め言葉か?)
「あなたは、静かですが……判断が的確ですね」
「……ありがとうございます」
(評価が、また積み上がってる)
食事が終わる頃には、
逃げ場は完全になくなっていた。
「次は、もっと時間を取りましょう」
(次があるのか)
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ホテルに戻ると、ノアが待っていた。
「……兄さん」
声が、明らかに弱い。
「ごめん」
即謝罪。
「……逆効果だった」
悠馬は、コートを脱ぎながら言った。
「……善意は、受け取る側が処理できるとは限らない」
ノアは、しゅんとする。
「……助けたかった」
「分かってる」
それは、本当だった。
だが。
「……今後は、断る時も一緒に断ろう」
「……うん」
その返事は、素直だった。
だが、悠馬は知っている。
(次は、一緒に断る前にもう決まってる)
三日目にして、この消耗。
まだ、九日近く残っている。
(……長期戦だ)
その頃。
遠く離れた場所で、エドワード・ハミルトンは
短い報告を読んでいた。
――3日目
――個別ディナー成立
――同行者の善意、逆効果
「……順調だな」
紅茶を一口。
「“断ろうとする人間”は、むしろ
場を動かす」
悠馬は、まだ知らない。
この三日間が、
『“序盤”として記録されている』
ということを。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




