2月12日
ハナが転移をしなかった。
マサコもエミールも居る、コレは、確実に大きく道をずらしてしまった。
なら代償は。
『何だろうね、代償』
「もう、アクトゥリアンを得るしか無いんだろうか」
『それで得て、もし転移したら?折角手元に置けるんだし、得たら転移しちゃうかも知れない、予想もしない別の世界に飛ばされるかも。既に第2や第3の世界を犠牲にした可能が有るんだから、ちゃんと見守ろうよ』
「あぁ、俺はまた」
『大丈夫、またやり直せる。次はアクトゥリアンで挑戦してみよう』
代償は、ハナが関わる筈だった人間。
ハナが救う筈だった、人間達。
正直、もう、クトゥルフを得られるとは思って無い、待ってくれと言った時点で駄目だった可能性が有るんだし。
リスク分散は正しいけど、それが正解かは別だし。
「分かった」
「すまない」
「いや、選ばないのが正解かもだし、先に進もう」
「あぁ、そうだな」
そうだなと言っても、全く浮かない顔。
いざとなればアクトゥリアンも居るのだし、そう落ち込まなくても良いのに。
「大丈夫、ワシも納得した、合意だった」
「すまん」
「今日も釣り?」
「あぁ、もう少しだ」
「おう、程々に頑張ってくれよ」
「おう」
どうにか元気を出して貰うには。
ダメだ、メシ以外思い付かない。
桜木さんの提案で、武光さんの為に料理を仕込む事になったのだが。
「ロバ?」
「はい、皮は薬にもなってるそうです」
「そのロバの肉の?」
「バーガー、パオズですね」
「えー、美味そう、食べたい」
「じゃあ僕らが買い出しで、桜木さんが調理でも良いですか?」
「大丈夫、蜜仍君も居るし。ねー?」
「ねー、餃子の皮を作って待ってましょうね」
アレクと中つ国へ買い物へ。
浮島には未成年の男児と召喚者様。
そこに神獣が居るから良いけれど。
「ふぅ」
「溜め息だ、珍しい」
「別に、僕も人間なので、溜め息位は出ますよ」
「何が心配なの?」
「島に、女性を配備すべきかなと」
「いやー、ダメでしょう。白雨が言ってたよ、女が苦手だって」
「ですけど」
「何、蜜仍を警戒してんの?」
「いえ、そう言うワケでは」
「はい嘘ー、バレてますー」
「っその、未成年者が手を出す場合も有るので、念の為です」
「別に良いじゃん、氏族なんだし」
「ですけど、桜木さんが」
「納得しなきゃしないんじゃないの、あんだけ頑ななんだもの」
けど、本当に、真に納得しての行為になるんだろうか。
仕方が無いからと、氏族の蜜仍君を選ぶかも知れないのに。
「でも、諦めての選択かも知れませんよ」
「それもサクラが選ぶ事じゃん。つかさ、そんなに完璧じゃないとダメなの?どんな道を選んだって良いじゃん」
「だからです、後悔しない道を選んで欲しいんです」
「究極の選択しか無いのに、どれを選んでも後悔しないなんて無理じゃない?マジで自分に落とし込んで考えられてる?」
「ならアレクは考えられてるんですか」
「おう、勿論」
先ずは整形を選び、次にハーレムなら、桜木さんを主軸に考える、と。
「何でそこで桜木さんが出るんですか」
「加わってくれるとは思わないけどさ、俺の理想なんだから別に良いじゃん」
「まぁ、シミュレーションだから良いですけど」
「あ、サクラが神様になって俺を召し上げる」
「そ、そんなに好きなんですか?」
「うん、それも難しいなら父親か兄弟でも良い。どんな家族でも良いから、一生一緒に居る」
「どうして、何故そこまで執着してるんですか」
「俺は一緒に居る為に生まれ変わったんだもの、守る為に生きてるんだし、執着して当然じゃん」
黙られて、逆に俺が気まずい。
何で不機嫌なのか、どうしてサクラの事にこんなに拘るのか、傍から見たら何でか分かるのに。
自覚して無いし、無理に気付かせるなって言われてるし。
「僕は、他人に、そんな風に執着した事が無いので。シミュレーションが、上手く出来ないんです」
「どんな答えになんのよ」
「勧められた相手が気に入る様な整形をして、互いに努力をすれば良いかな、と」
「それって、サクラが幸せかどうか」
「だから、僕には不向きなシミュレーションなんです。幸せになろうとお互いに歩み寄れば幸せになれる。けどそれは理想論だと、既に先生から注意されてるので、僕には不向きな問題なんです」
「こう、触りたいとか、キスしたいとか」
「無いって言ってるじゃないですか」
「え、何で」
「何でと言われても、そう見た事も、感じた事も無いので」
「えー、じゃあずっと傍に居たいとか、喜ぶ顔を見たいとかって無いの?」
「な、い、です」
あー、嘘。
どうしよう、武光に怒られるかな、コレ。
帰って来るなり、ショナが真っ赤になって。
風邪か?
「真っ赤だが、大丈夫か?」
「あ」
「エロエロと男同士の話をしてたんだよねー?」
「ぅぁ、はい」
「あぁ、そうか」
「はい、ロババーガー」
「おぉ、凄い数、後で試食会だ」
「おう」
「あ、蒸し器を設置しますね」
水餃子に蒸し餃子。
具は色々だけど、兎に角包むのが楽しかった、もう無心。
問題はトマトと卵炒めと、青菜炒め。
見様見真似だし、意外と小さな違いが気になるかもだし。
「後はタケちゃん待ちか」
「お忙しいそうですし、アレクに頼みますか?」
「そうね、ロババーガー早く食いたいし、頼んだ」
「おう」
それからアレクがタケちゃんと連絡を取って、配達へ。
あれ、ワシ、ココから出れないなら空間移動は意味無いのでは。
いや、流石にずっとってワケでも無いだろう、作戦次第だって言ってたんだし。
けど。
「他に何か出来無いかね」
「武光さんに、ですか?」
「おう、今朝凄い落ち込んでてさ。家族が好きだから、こんなんでも喜んでるくれるかなと思ったんだけど、他に策が見当たらん」
「武光さんもストイックですからね、何か要望を言って頂ければ良いんですけど」
「ドリアード」
《お主が楽しそうに過ごす事、じゃったらどうするんじゃ?》
「えー、もうこの前楽しんだもん、他の案くれ」
《ふむ、ならば安心させるのはどうじゃ、顔選びじゃよ》
「あぁ、そこに繋がるなら、まぁ」
いや、武光がメシ食って泣くとか思わないじゃん。
しかもダバダバ、凄い泣くの。
「武光、大丈夫か?」
「ぉれは、こんなに不甲斐無いのに、ハナは」
「いやいやいや、凄い頑張ってるじゃん、つか本当の兄妹みたいに2人で似た様な事を。あぁ、泣くなってば、褒めてんだよ、良くやってると思うぞ?」
「ハナは俺を、ぅう」
「もー、喜ばせる為に作ったんだってば。家族が大好きだろうから、それで寂しくなってんのかなって。だからちゃんと味わってくれよな?それとロババーガー、どの店のが好きか答え合わせしようって。だからもー、何で泣くんだよ、別にもう空間移動が手に入らないワケじゃ無いんだし、何で泣くんだよ」
「選択を、間違えたら、被害が」
「神様も協力してくれてるんだし、大丈夫だってば」
「ぅう、すまない」
「もー」
それこそショナみたいに万能ニコニコマンだと思ってたのに、こんなに泣くとか。
何をどんだけプレッシャーに感じてんのか、罪悪感なのか、武光は特に分かんないんだよなぁ。
俺が可能性を潰したかも知れないのに、それを知らないから、ハナはこんなに優しくしてくれて。
なのに、素直に喜べなかった、こんなにも罪悪感でいっぱいになった事が今まで無かった。
第2世界でハナが救う筈だった人間、第3世界の観上清一。
その先の未来へ繋がった命も、救えた命も、俺が潰した。
なのに、俺はハナに心配して貰って、メシまで。
きっとハナが全てを知ったら、許してくれないかも知れない。
俺の知るハナなら、次は第2第3と行かせてくれと言うだろう。
けど、知らなければ。
けど、それは本当にハナの幸せになるのか。
それは本当に、ハナが真に願う事なのか。
それに甘える事が本当に、正しいのか。
また、何も分からなくなる。
あぁ、今朝の時点で、ハナは俺がこうなると無意識に勘付いていたのかも知れない。
だからこそ、俺の為に、俺の家の味を再現しようと。
「ぅう、本当に、すまない」
「分かった分かった、分かったから、先ずは泣き止もうな」
アレクが何か頼まれ事でもされたのかと思ったら、タケちゃんがメシ食って号泣してたらしい。
「それは、地雷を踏んだ感じ?」
「いや、不甲斐無くてごめんって、ずっとすまんって謝ってた」
「不安定過ぎひん?」
「何かの可能性を潰したかもって、怖くなったんだって」
「あぁ、鬱では」
「いや、落ち着いたら泣き止んで食って寝てたし、大丈夫じゃね」
「何かすまんね、方向性を間違えたかも」
「半分は嬉し泣きだって、家の味に似てた、美味かったってさ。鼻声で」
「あぁ、だから通信機で連絡して来なかったのか」
「つか泣く直前に外してた、サクラには言いたく無かったんだろうけどさ、言うべきかなと思って」
「メシ、余計な事では?」
「無い無い、ありがとうって、ちゃんと喜んでたもの」
「そうか、なら良いんだけど」
「それでさ、買い物中に良い案を思い付いたんだけど」
「ほう?」
「サクラが神様になって、俺を召し上げれば、影響とか関係無くなるんじゃないかなーって」
《残念じゃが無理じゃ、灯台の影響からは逃れられぬよ》
「なんだ、じゃあハーレムと一緒か」
《じゃの》
「君ら、そんな話をしてたの?」
「うん、いつもサクラの事を考えてるよ」
「あまーい。けど、君は許されたら他の人を探さないと、そこも含めて人間なんだから」
「分かってる、俺は罪人だしね」
「そこじゃないのよ、刷り込みじゃなく」
「はいはい、分かってる分かってる」
「根は優しくて真面目なのは変わらないんだから、愛されるよ、大丈夫」
「自分ではそう思えないクセに」
「ね、君より、元魔王よりマシな人生を歩んで来たのにね」
「俺がサクラでも似た様な人生になってると思うよ、ただもう少し暴力的で、こんなに優しく無かったと思う」
「けど男の子だったら家庭は円満だったかもよ、キャッチボールの思い出とか有りそうだもの」
「それで男の子になりたかったの?」
「全く思った事は無かったけど、無意識にそう感じてたのかもね」
「俺は紫苑も好きだよ」
「そんな良いモノかい、男同士って」
「いや、どっちかによる」
「あぁ、お察し」
「試す?」
「色欲さんとどっちが上手なんだろうね」
「あぁ、どうなんだろう」
「そこ真剣か」
「良い方が良くない?」
「だろうけど、ワシ、ハーレム形成は除外してるからね」
「整形で魔法が使えなくなっても良いの?」
「それな、しかも心変わりしないで貰わないと犯罪に走りそうだし、まだ悩んでる」
「蜜仍みたいな氏族は?」
「好かれたとしても、使命感とか責任感でどうこうは嫌だし。好かれる自信皆無で実感も無い、整形の方が現実味が有る」
《それか召し上げじゃよね、人間は反対するじゃろうが、それは体面も関わっての反対を含んでおるでな》
「あぁ、人間側に引き留められなかったって事になるものな」
「まぁ、俺はどれでも良いよ、サクラが幸せになれる方を選んでくれれば良いから」
「本当に性格が違うじゃよね?」
《情愛が深い所は同じじゃよね》
「おう」
「そう見えなかったけど、そう見せなかっただけかも知れないのか」
「かもねー」
人は低きに流れるのは本当。
安牌を選ぶならアレク。
あぁ、タケちゃん麻雀出来るかな。
凄い複雑な状態だよねぇ、最高。
『で、おタケは麻雀出来るの?』
「まぁ、それなりに。寧ろ天九牌の方が好きだな、早く終わる」
『賭け事は嫌いかぁ』
「そうだな、運を消費したく無かったんでな、遊びでなら受けてた程度だ」
『増減なんか実質無いからこその運なのに』
「自分が居る位置を見定め、判断に迷った時のルールを決めて、自己判断の苦痛から逃れる。無意識を逆手に取ったのが、運だ」
『あぁ、その理屈だと増減はするな、勘が冴えれば運は上がった事になる』
「冴えないと思えば引くか作戦を変える」
『それでもダメなら?』
「身を任せる」
『身を任せるって苦痛でしょ』
「そうだな、流れに身を任せるのは、凄く苦痛だ」
『けど頑張れ、ハナちゃんの幸せは君に掛かってる』
「あぁ、ありがとう」
コチラこそ。
俺の楽しみの為にも、是非頑張ってくれないとね。




