神様は愛について学んでいく
夜中に現れたかーしゃの話では、クラヴィクスが死ぬ可能性がある……との事だった。
詳しい話を教えてくれようとするけれど、1人で聞く勇気が出ないし、これは1人で聞くべき話ではない。
「かーしゃちょっと待ってて。皆にも聞いてもらいたい」
「えぇ、待つの面倒なんだけど。ちょっ、ノル!分かったってば!」
唸るノルは由良の味方なようで、かーしゃがため息を吐きながら一緒に聞くのを許可をしてくれた。
ベッドから降りて扉を開け、近くにいたディアナにルッツを呼んでもらえるように頼む。
「どうされました?」
「かーしゃが来てるの。皆にも聞いてもらいたい話があって……クラヴィクスさんが危ないって」
死ぬなんて言葉は言いたくなくて言葉を濁して伝えたけれど、ディアナには上手く伝わったようで直ぐに走り出した。
20分もしないうちにバタバタと走ってくる足音が数名。
何故こんなに足音が……?と廊下を思ってみると、ディアナとルッツだけではなく、何とバルクとユリウスの姿もあった。
「何をするにしてもバルクの許可がいる。ユリウスもバルクの希望で連れてきた」
バルクを警護している時のように、厳しい声を出すルッツに頷き全員を室内に入れる。
窓辺に佇み空を見上げているかーしゃの姿は、何だかんだ言っても神様の神々しさがある。
初めてかーしゃと会うバルクとユリウスは、息を呑みその姿をじっと見つめている。
「かーしゃ。クラヴィクスさんのこと話して」
「うん。由良の頼みなら」
ニッコリと微笑むかーしゃは、室内にいる全員を見渡し、同じ言葉を紡ぐ。
「クラヴィクスはもう死ぬよ」
死に対して何とも思っていないのか、さらりと伝えられ困惑してしまう。
「どうして?隣国で何があるの?」
「クラヴィクスは勝てない。あれは身内に弱いからね」
「身内……?」
隣国に身内がいるのだろうか?でもクラヴィクスの身内は……と考えた所で、1人の姿を思い付く。
「クラヴィクスさんの……お父さん?」
「正解。アイツは今隣国にいる。アイツが隣国で騒ぎを起こした張本人だよ。……きっとクラヴィクスは父親を助けようとする。それこそ、君たちを裏切る行為だとしてもね」
忌々しそうに呟くかーしゃの言葉に背筋が震える。
かーしゃが怖い訳ではなく、そんな場所にクラヴィクスが行ってしまった恐怖。
そして、身内に甘いという一言。
「ちなみに、その父親を助けるってのは、何をするんだ?」
ルッツが手を上げてかーしゃに問い掛けると、ああ……と思い出したように呟く。
「クラヴィクスの母親を生き返らせようとしてる。生き返らせる為には、クラヴィクスの知識と力が必要なんだ」
「そんな……」
ディアナが絶句したように表情を固くする中、クラヴィクスに思いを馳せる。
魔法使いと市民を分け隔てなく暮らせるようにし、身内に近いルッツの為に呪いを解いた。
フォンツァの為に薬を用意し、由良の為に動いてくれている。
そんなクラヴィクスが父親に会い、禁忌の術を使う手助けをして欲しいと願われたら……と考えた所で、ふるふるっと首を振る。
「かーしゃ。クラヴィクスさんは大丈夫。絶対力は貸さないよ」
「どうして?」
「……クラヴィクスさんは、皆が大好きだから」
言っていて恥ずかしいけれど、間違ってないと強い瞳でかーしゃを見る。
「そう。そうだね。確かにクラヴィクスは屈しないだろうね」
由良に近づき頬をなぞったかーしゃに、首を傾げる。
「かーしゃはクラヴィクスさんのこと嫌いじゃないの?」
「嫌いだよ」
間髪入れず答えたかーしゃは、ムスッとした表情を見せた。
「だってアイツ表情怖いし人間のくせに強いし。髪飾りで由良に手が出せないようにしてるし喧嘩売ってくるし」
ペラペラと文句をいうかーしゃに呆気に取られたのは、由良だけではなくその場にいる全員だ。
「これが地面を五分割した神様……?」
ユリウスの呟きにルッツが苦笑いをして頷いていると、かーしゃは難しい表情を見せる。
「でも、クラヴィクスの人生を覗いて、この国にいる誰よりも苦労をして、努力し続けていると知った。周りを大事にして、国を大切にしてくれていることを知った」
国を大切にする人をかーしゃは好むようで、クラヴィクスも嫌いではあるけどそこは認めているらしい。
そしてクラヴィクスの今までの生活を知り、見方が変わってきたようだ。
「私はクラヴィクスの父親は大嫌いだけど、クラヴィクス自体は……まあ、生きてれば良いんじゃないかな」
「クラヴィクスさんに死んでほしくないから、私の所に知らせに来てくれたの?」
「違う!私は由良が悲しむかなって思った
だけだよ!」
「……かーしゃ、ありがとう」
かーしゃは多少ずれているけど、それは人間を知らないからであって、知れば人間にももっと優しく出来るのでは?と思ってしまう。
何だかほんわかとした気分だったけれど、かーしゃの言葉にまた胸の奥が冷えていく。
「例えクラヴィクスが屈しなくても、あれは止まらない」
「あれって?」
「私の大嫌いな、クラヴィクスの父親だよ。あれはもう闇に囚われている」
かーしゃの表情にゾクリと寒気が走る。
ベッド脇にあったクラヴィクスから貰ったストールを巻くと、クラヴィクスの気配を感じホッと一息つく。
「いつも私を助けてくれているクラヴィクスさんが危険なら、助けに行きたい」
「危なくても?」
「……うん」
伺うような視線に力強く頷くと、かーしゃはニッコリと微笑んだ。
「なら約束。クラヴィクスを助けたら、私の元に来て?」
「……分かった」
迷いなく頷く由良に一瞬驚いた表情を見せ、へぇ……と呟く。
「クラヴィクスは由良に愛されてるね」
「え?」
かーしゃらしからぬ言葉に呆気に取られる。
「由良がいなくなった後のクラヴィクスは、きっと見てて飽きなさそうだ……」
楽しそうに笑うかーしゃに苦笑いを見せたのは、この場に慣れてきたバルクだ。
「クラヴィクスは地の果てでも追いかけるぞ」
「うわ、面倒くさそう……」
心底嫌そうに呟いたかーしゃは、由良の頬を再びなぞる。
「今日はもう遅い。出発は明日。……君たちも来たいならどうぞ?」
それだけいうと、かーしゃはフワリと浮き、その姿を消していった。
「明日……」
「さて、誰が行くかと、元王宮魔法使い対策を考えるか」
伸びをしたルッツの言葉に由良は頷く。
必ずクラヴィクスを助ける。
それはここにいる全員の総意だ。
***
***
話を終わらせたかーしゃは由良達と別れ、王宮が見渡せるように空に浮いた。
夜空は世界を作った時と変わらず綺麗だ。
キラキラと光る星が由良の持っている髪飾りのようで、あれを持たせたクラヴィクスを恨みたくなる。
別にクラヴィクスが由良に何かを渡すのは構わないが、あれはクラヴィクスの父親が持っていた物で、それが由良に渡るのが許せなかった。
何故クラヴィクスの父親が嫌いかといえば、身に余る力を求め過ぎているからだ。
全てを捨て力を求めた姿が滑稽だった。
それにあれはあの父親には扱えない代物だった。
無謀に挑む気持ちを理解出来ない。分からない物は気持ち悪くて嫌いだった。
分からないけど……と、胸の辺りにソッと手を当てると、由良達と同じように鼓動を感じ笑ってしまう。
自分も同じように心臓があり、心臓が止まれば死んでしまう。
そんな当たり前のことも知らなかった。
世界や人を作った割には何も知らなすぎた。
そんな中、人々の気持ちを理解していくと、クラヴィクスの父親の気持ちも理解出来た。
「愛……」
たった1つの純粋な気持ち。それがここまで拗れるとは。
由良もそんな気持ちは理解していなかったのに、今は理解して前に進んでいる。
それを面白くないとは思いつつも、やっぱり由良を観察するのは面白い。
何より今1番面白いのは、嫌いだったはずのクラヴィクスのことを、そこまで嫌いではなくなっている自分自身の心境の変化だろう。
それはきっと、あの父親とは違い周りと共に生きようとし、国を大切にしてくれていると知ったからだ。
神である自身の気持ちまで変えさせるクラヴィクスは見ていて飽きない。
そしてそんなクラヴィクスを好きだと言う由良を見るのが好きになっている。
「でもやっぱり髪飾りは嫌いだな」
そう1人呟くと、今度こそ闇に消えていった。




