望まぬ別れ
バルクがカーリッツ領主に話を付けてくれたようで、クラヴィクス救援隊が結成された。
メンバーの中にランクスとハーロルトとタフィーが入っているのには驚いてしまったものの、心強い味方がいてくれてありがたかった。
薬などが入っている重いカバンを率先して持ってくれる姿もありがたい。
「由良。私も行きますわよ」
「ロッティ!?」
仁王立ちして由良の前に立つのは、魔法学校をまだ卒業していないロッティ。
カーリッツ領主に直談判をして、無理矢理許可をもぎ取ったらしく、ランクス達が苦笑いを見せた。
「なら私も行きます」
「ディアナまで……」
ニッコリと微笑むディアナは、普段のメイド服とは違い、冒険に行くような格好をしている。
「いやいやいやいや!ディアナ止めよう!?」
「……ここで待っていて後悔はしたくありません。ルッツ様。足手まといになるのなら、捨てて下さって構いません」
止めようとしていたルッツだったけれど、ディアナの強い瞳に言葉を詰まらせる。
ガシガシと頭をかいたルッツは、何かを決意した瞳をディアナに向ける。
「バルクの命は、隣国の問題を解決しクラヴィクスを助けること。由良ちゃんを守り抜くことだ。俺はその意思に従う。……それでも良いか?」
それはつまり、ディアナがピンチになっていたとしても、クラヴィクスと由良が危うかったら、2人を優先するということだ。
でもそれで構わないのか、ルッツに向かって微笑み頷いた。
「私は由良様を守りたいんです」
「……分かった」
頷いたルッツはディアナの頭をポンッと一度叩き、バルクの方へ向かっていく。
そして何やら話、ゲラゲラと笑うバルクに背中を叩かれている。
何をやっているんだろう……?と考えていた時、由良の横にかーしゃが急に現れた。
「これで全員?」
「うん。かーしゃお願い」
「分かった。由良、既にクラヴィクスが危険だ。行ったら直ぐにあの父親……ダナンとの戦いになると思う」
かーしゃの言葉にルッツ達の表情が固くなり、直ぐに決意した瞳を見せる。
その瞳を満足そうに眺めたかーしゃは、指をパチンと鳴らす。
すると由良を始めとした皆の体が浮いていく。
ありがとう!とお礼を言う間もなく、王宮の景色は消え、ゴツゴツとし岩と広い空間が見えてきた。
足場の悪い地面に着き、パッと前方に視線を移す。
自分の格好をした何かがナイフを握りしめている。
ナイフには赤く滴り落ちる液体があり、それが血だと直ぐに理解出来た。
誰の血なのかなんて、倒れ行く姿を見れば直ぐ分かった。
「クラヴィクスさん!!」
「由良様!」
素早く薬を渡してくれたランクスにお礼を言って走り出すものの、地面に稲妻が走り歩みを止める。
「ランクス毒霧を消せ!ロッティはランクスの補助!ハーロルトとタフィーは俺と来い!ディアナは由良ちゃんとクラヴィクスの元に!」
一気に指示を出し走り出したルッツは、ランクスが毒霧を消したと同時に、クラヴィクスの父であるダナンの元へ向かう。
ダナンは俯きブツブツと何かを言っている。それ以外何もしていない筈なのに四方から魔法が飛んで来る。
ディアナに手を引っ張られ走り、クラヴィクスの元に着き傷のある場所に直ぐに薬をかける。
心配そうに見守るオーちゃんとキュウリの姿が何だか切ない。
薬をかけると、傷からは治る時に見える煙が出てくるものの、いつもと様子が違う。ディアナはハッと目を見開いた。
「ルッツ様!これは魔力を奪う傷です!」
「は?……くそっ!」
ディアナの言葉にクラヴィクスを見つめる。
傷からは黒い煙が出ている。
傷を治している筈なのに傷は治らないまま、苦しそうな表情も治まらない。
魔力を奪う傷なんて、どう治せば良いのか分からずルッツに指示を仰ぐ。
「2人とも心配すんな。よし、ランクス解除出来るか?」
「はい」
ランクスは倒れた者達の介抱をロッティとしていたが、ランクスが抜けた穴をロッティが埋めるように1人で介抱をしていく。
その場から離れたランクスはクラヴィクスの元に来ようとしたけれど、ダナンの影が出してきた魔物に行く手を阻まれる。
「魔物!?」
まさか魔物も出せるのか?何て思っている暇もなく、ハーロルトが現れた魔物を切っていく。
「ランクス行け!」
「ハーロルトありがとう!」
タフィーも補助魔法を掛けてくれるロッティを守ることに精一杯で、中々ダナンの元にいけない。
「邪魔、するなよ……母さんが生き返れないじゃないか……」
ダナンの影からまた魔物が飛び出す。
今度は鋭い牙をしたライオンのような魔物だ。
吠えたライオンは、いつの間にか飛び出したのか、オーちゃんとキュウリが対戦している。
「クラヴィクス苦しめといて何が母さんを生き返らすだ!ふざけんな!」
「クラヴィクスは!私の願いを叶えなかった!そんな奴は母さんの子供だとは認めない!!」
影から全方向に稲妻が走る。
目を見開いたルッツは、由良とクラヴィクスの元に走る。
「皆伏せろ!」
大音量の爆発音と共に爆風が起き全員が吹っ飛ばされる。
かろうじて残ったのはルッツと、ルッツが守ってくれた由良だけだった。
空気中に溜まっていた消しきれなかった毒が、爆風により辺りに蔓延していく。
「ディアナ!」
飛ばされたディアナがクラヴィクスの横で気を失っていた。
ルッツはチラリとそこに視線を向け、直ぐに前方を見据える。
爆風で飛ばされる前に剣を突き刺し無事だったようだけど、それでももうボロボロだ。
「ルッツさん!」
「くそ、守る前にやられそうだな……」
近くにあった薬を頭からかけ、剣を構えたルッツは由良を見る。
「大丈夫。俺は一度受けた命令は必ずやり遂げる。由良ちゃん、吹き飛ばされた奴に薬かけてやって」
「はい!」
ルッツがそう言うのなら信じよう……と頷き、持っている薬を近くにいる人からかけていく。
傷の治ったタフィーが直ぐに体勢を立て直し、ルッツと共に駆ける。
「どうして邪魔をするんだ……」
「それは、私達がクラヴィクス様を好きだからです」
「アイツが助けてくれた仮は返す!」
ダナンのお腹に剣を向けると、攻撃すらしていないのにダナンが倒れた。
けれど、影だけが動きを止めない。
ズズ……ズズ……と形を作り、人の姿に変わっていく。
復帰したランクスは全員に結界を張っていく。
この場にいる全員に結界を張るのはかなりの魔力を消費するようで、ロッティが補助をしながら続けていく。
ハーロルトは一旦由良達を守るように下がり、影を注視している。
ルッツは隣にいるタフィーに目配せをし、タフィー含め全員を下がらせた。
「ルッツさん?」
「由良様。クラヴィクス様は私が。ここは一旦引きましょう」
「え?ルッツさんは?」
影と対峙し剣を構えているルッツは、こちらを全く見ようとしない。
ルッツ様……と震えるような声で呟いたディアナも、由良の手をしっかり握り締める。
「ちょっと、待って……」
嫌な予感に頭を振って前に進もうとするがロッティに止められてしまう。
「クラヴィクスさんは皆で助けなきゃ!」
何よりクラヴィクスが気が付いたとしても、ルッツが傍にいないのは意味がない。
どうすれば皆が助かるのか……なんて1つしか方法がない。
横たわっているクラヴィクスの顔色がどんどん悪くなっている。
代わりに魔力を吸収しているのだろうか、影が成長していく。
迷っている暇はない。クラヴィクスの頬を一度なで、これくらいは許してください……と頬に口付けをする。
人生初めての口付けは頬だけ。でも、大好きな人に出来たから幸せだ。
まだ一緒にいたいけど、それだとクラヴィクスが助からない……と、クラヴィクスの手のひらに髪飾りを乗せ離れる。
「かーしゃ」
クラヴィクスは大切な気持ちを作らせてくれた。
そんな人の助けになるのなら、幸せだったと言える……と、かーしゃを呼ぶ。
呼ばれることを分かっていたのか、直ぐに横から出てきたかーしゃをじっと見る。
「私のお願いを叶えてください」
願えばもう会えなくなることくらい分かってる。
覚悟した筈なのに涙が頬を伝う。
そんな涙を困ったように見つめたかーしゃは、クラヴィクスを一度見た。
「じゃあね。クラヴィクス」
由良をソッと引き寄せたかーしゃは、辺りを見回し最後にダナンを見る。
「哀れだな。でも、君の気持ちも理解してるよ」
「由良様!待って!」
「由良ちゃん……まさか!」
ディアナとルッツの声に涙腺がどんどん緩む。
「もう大丈夫です。全部解決するし、クラヴィクスさんも助かります。今まで沢山お世話になりました。ありがとうございます…………さようなら」
最後の方は掠れて言葉にもならなかったような気がする。
最初からこうしておけば良かったのかな……なんて思いながら、意識を閉ざしていった。




