水晶
夜中。王宮奥の一室にはバルクとルッツとクラヴィクスの姿があった。
バルクは1枚の紙を2人に見せ笑う。
「こっちは漸く尻尾を掴めそうだ。ルッツ、クラヴィクス報告を」
「明後日10時に一緒にいるよう願われた」
「おぉ、色男だな。そのまま一緒にいてやれ」
苦々しそうにバルクを睨んだルッツは、分かってるよ……と不服そうに呟いた。
「ディアナの様子は?」
「詰所から出す訳にはいかないから、あれだけど……まあ、不自由なく過ごせてると思う」
「そりゃ良かった」
「……私は毒を入れた方法を報告しよう」
クラヴィクスが部屋の奥に控えている側近を呼び、目の前で紅茶を淹れさせる。
そのまま簡易キットで調べさせたが、何の毒物も出ない。
そのまま下がらせ、クラヴィクスが紅茶に手を翳す。
するとみるみるうちに黒くなっていき、側近が慌てた様子で近付いてきた。
「君は何の問題もない。君が調べた直後に私が毒を入れただけだ」
クラヴィクスは人差し指の先に魔法で水を作り、その中に同じように魔法で黒い水滴を混ぜていく。
そして遠くにある窓に向けて飛ばした。
水はばしゃん!と弾け、黒い水滴は窓や周辺に散っていく。
「遠くからでは正確に狙えないとしても、このように弾けさせれば辺りに散る。今は水で分かりやすくしたが、見えない毒などどこにでもある。他の紅茶にも入っていたのだろう?」
ルッツが頷き、どこから狙われたんだ?とクラヴィクスに問いかけた。
「廊下だ」
不機嫌そうに言い放ったクラヴィクスの言葉を聞くに、庭が見えるあの廊下から放たれたということだ。
「へぇ……誰に当たるのかも分からなかったってヤツね……」
ルッツはクラヴィクスの答えに、自分の胸の奥で怒りが湧いてくるのを感じる。
その様子を見ながら苦笑いをみせたバルクは、こほんと咳払いをした。
「証拠は揃って来ている。残りは明後日だ。そう言えば由良はどうしてる?大丈夫なのか?」
「クラヴィクスと喧嘩中。今はユリウスと一緒にディアナが無実の証拠を集めてるよ」
「喧嘩ねぇ……」
バルクがニヤニヤとクラヴィクスを見る。
「喧嘩などしていない」
「そうだなー。巻き込みたくないから、わざと仲違いしたように見せただけだもんなー」
「そりゃ、理由も言わず不機嫌そうにされたら、由良は傷ついただろうな。しかしユリウスと一緒となると……妃コースか」
うんうんと頷く2人に、もう何も言うまい……とクラヴィクスは深いため息を吐いた。
***
***
クラヴィクスに会うのはまだ気まずい……と思い、昨日に引き続きユリウスと一緒にディアナについて調べていく。
出てくるのは、ディアナが無実だと思う!という声ばかり。
変わりに出てきたのはマグダレーネについてだった。
庭にある池の近くに座り、2人で話をする。
「辺りを気にしながら歩く。由良がどんな紅茶が好きか聞いて回る………」
ユリウスが整理するように呟いているのに頷きを返していると、ああ!と思い出したように叫ばれた。
「シェフが、変な水晶持ってたって言ってたな」
「変な水晶?」
「そう。青っぽかったけど、一瞬黒く濁ったように見えて……って、どうした?由良?」
ディアナが言っていた水晶はもしかしたら……とユリウスを見る。
「ディアナが言ってた。夜中、水晶を持った人がいたって……客間の映像見てたって……!」
ユリウスの袖を引っ張り伝えると、グッとその手を握られた。
「危険な気がする。直ぐにクラヴィクスの所に行こう」
「でも……」
まだ気まずい……と俯く由良の肩にソッと触れたユリウスは、迷った素振りを見せながら由良に問い掛けた。
「由良はクラヴィクスの所に行くの、何が嫌なんだ?」
「……頭冷やせって」
初め、真意なんて調べようともせずにクラヴィクスに怒っていた。
その時のクラヴィクスの瞳が忘れられない。
嫌われる覚悟でディアナのことを怒ったのに、実際そうなるとしたらと考えると、心臓が痛くなっていく。
胸を押さえユリウスを見ると、ユリウスの瞳が切なそうに揺れた。
「大丈夫。クラヴィクスは怒ってないと思う」
「どうして?」
「……勘!」
ぶっきらぼうに言い放つユリウスが、何だか面白くてクスクスと肩を揺らす。
行こう!と先を行くユリウスに続き、庭を後にしようとしたけれど、足が前に進まない。
ユリウスの名前を呼ぼうとしても、誰かに口を塞がれているような感覚がして声が出せない。
ユリウスが、角を曲がり姿が見えなくなった所で、由良は意識を失ってしまった。




