胸騒ぎ
泣いたことでスッキリしたのか、ディアナは自身が見た全てを語っていく。
「昨日のことです」
その日、ディアナは就寝についた由良の見回りをした後、キッチンの方に歩いていったらしい。
静かな王宮内で足音をあまり立てないように歩き、庭に近付いた時に、誰かの話し声が聞こえ歩みを止めた。
ボソボソと話す会話の内容はあまり聞こえなかったそうだけれど、部分的に聞こえたそうだ。
「……その者達は何を言っていたんだ?」
「……詳しくは分かりません。けれど、フォンツァと言いながら、水晶のような物を取り出したんです」
「水晶?」
ルッツが聞き返すと、ディアナは頷き続きを話す。
「暗闇で良く見えませんでしたが、あれは恐らく……客間の映像です」
ディアナの言葉にひゅっと息を呑む。
ルッツは辺りを警戒し、クラヴィクスは執務室から見える庭に視線を向け厳しい表情をしている。
「それと、何のかは分かりませんが、終わったら他の材料を探しにいく……と」
「………材料………」
外を見ていたクラヴィクスは、誰に話すでもなく何処か遠くを見てポツリと呟いている。
ルッツはその様子を横目に眺めつつ由良を見る。
「騎士の連中にも警戒促す。由良ちゃんも、何かあればすぐに俺やクラヴィクスに知らせてくれ」
「……はい」
「それとディアナ……怖かったな。話してくれてありがとう」
優しい声色で語り、ディアナの頭をポンッと撫でたのを皮切りに、またディアナは泣き出してしまった。
「さて、これで王宮内に裏切り者がいるってのが発覚したな」
ルッツの言葉にゾクッと背中が震える。
そこで漸くディアナが何故悲しんでいたのか理解した。
一緒に過ごしている王宮内の仲間が、良からぬことを考えていると考えていたからだ。
「でも、結界があるって……」
「魔法っても完璧じゃないからね。中に忍び込まれれば分からない可能性も……」
話ながらルッツとクラヴィクスが視線を合わせる。
「そうか。その時か」
「どういう事ですか?」
「以前君はローブの男に襲われただろう?」
クラヴィクスの言葉に頷くものの、いまいち理解が追い付かない。
「あの時俺とクラヴィクスは執務室で結界が切れる音を聞いた。それですぐに駆け付けたんだけど……」
「それと同時に何処かの結界が破られた可能性がある」
「同時に、他の場所を同じ力で……クラヴィクス出来るか?」
「可能ではあるが……」
そこでパッと顔を上げたクラヴィクスは由良とディアナを見た。
「………ルッツと話すことがある。君達は1度席を外してくれないか?」
「え?俺を指定?いやー、クラヴィクスのお眼鏡に叶うとはなぁ!」
「気色悪いことをいうな」
心底嫌そうに顔を顰めたクラヴィクスに視線を向けると、頭を1度叩かれた。
「……また明日」
「……はい」
何だか胸騒ぎがする。
ただその胸騒ぎの意味はまだ分からないまま、2人と別れ、少し不安が残る客間に帰っていった。
***
***
『……由良!』
『今すぐクラヴィクスの所に!』
ガツン!と頭を叩かれたような痛みでハッと目を覚ます。
焦ったような声は間違いなくかーしゃだ。
(今のは……)
頭がズキズキとする。
ただ、かーしゃが焦って、敵対してたクラヴィクスの元に向かわせるのはきっと何か理由がある。
ふらつく体を何とか起こし、寝間着のまま客間を出て執務室に走る。
背後から何か迫ってくるような圧迫感に心臓がバクバクと震える。
今は何時か?クラヴィクスはいるのか?そんな考えが頭に浮かぶものの、執務室に着きノックもせずに扉を開け中に入る。
まだ執務室にいてくれたようで、書類を書いていた手を止め、クラヴィクスが立ち上がり近寄ってきた。
明るい室内と強い結界の中に、良かった……とその場にペタリと座り込む。
「……どうした?」
静かな夜に響く声が由良の胸に安心感が沸き起こる。
クラヴィクスの袖に手を伸ばすと、一瞬考えたように止まったクラヴィクスだったが、由良の体を引き寄せ抱き抱えてくれた。
ソファーに座らせてもらい、額に触れられホッと息をつく。
服の袖を握ったままクラヴィクスを見ると、深くため息を吐き、君は……と呟いた。
「……何があった」
「かーしゃの声が聞こえて……」
かーしゃと伝えた瞬間、クラヴィクスの眉間に皺が寄る。
「クラヴィクスさんの所にって……」
「あれがか?」
由良の発言に驚いたのか、何やら考えた後に由良を見る。
「映像で客間を見させてもらおう」
「は、はい……」
起きてから勢い良く飛び出した為ベッドはぐちゃぐちゃだ。
少し恥ずかしいなと思いつつも、拒否は出来ずにクラヴィクスに頷く。
すいっと手を動かし出てきた映像に、クラヴィクスはピクリと眉を動かした。
「……なるほど」
同じように映像を見て肝が冷えていく。
ベッド周りには黒い靄がかかり、次第にベッド全体を覆っていく。
あれが何かは分からないけれど、良くないものだとは理解出来る。
握ったままの袖をギュッと握り締めると、クラヴィクスが視線をチラリと動かした。
「あれは、煙のようなものだ。吸い込むと体内に入ってくる」
「入るとどうなるんですか?」
「意識を乗っ取られ操られる」
「ひっ!」
さらりと告げられ悲鳴を漏らすと睨まれてしまった。
でもこれは致し方無いと思ったのか、ため息を吐いただけで何も言われなかった。
「だが……そうか……」
そう言い悪意の元を探ろうと手を動かした所で、ベッドの黒い靄が消えていく。
その光景を見ていると、段々と眠気がやってきた。
でも客間に帰りたくはなく、クラヴィクスさん……と呟くと、また大きくため息を吐いた。
「そのままソファーを使いなさい」
もう由良専用となりつつあるソファーにソッと寝かされ、漸く袖を握っていた手をパッと離す。
ため息を吐いたクラヴィクスに、乱雑にブランケットを投げられ体に掛ける。
不安で眠れないかと思ったけれど、クラヴィクスが傍にいる安心感で、すぐに眠りへと誘われていった。




