忠誠を見せたい人
ユリウスがルッツと稽古している時に、風に乗って帽子が飛んできた。
一旦稽古の手を止めてユリウスが帽子を掴み、辺りを見回す。
小走りにやってきたのは、先日クラヴィクスと婚約したマグダレーネ。
「あっ、ユリウス様にルッツ様……拾って頂きありがとうございます」
綺麗な所作でお辞儀をするマグダレーネに帽子を返すが、その帽子がマグダレーネに合っていなくて何となく聞いてしまう。
「それ、お前のなのか?」
「えっ?あ、はい……恥ずかしながら……」
恥ずかしそうに頬を押さえ、持っている帽子を見つめるマグダレーネは、2人を見てにっこり微笑んだ。
「まだ私が10代の頃に買って貰った物で……」
「へぇ……ん?マグダレーネって何歳なんだ?」
「……女性に年齢を聞くのは失礼に当たるのでは?」
呆れ声のルッツの言葉にあっ!と焦ったが、マグダレーネは気にしなかったようで、微笑んでいる。
「今年で24歳になります」
「へぇ、クラヴィクスとお似合いだったし、もう少し大人かと思った」
「まあ、ありがとうございます」
偽の婚約者と知っているのは一部の人間だけだ。
どこでバレるかも分からない今、下手な事は言えない……とお似合いだったと告げる。
「これは私の母が買ってくれた帽子なんです」
「母?」
「えぇ、残念ながら今はもうおりませんが……」
少しだけ悲しそうに微笑むマグダレーネに、不味いことをした……と謝る。
「……すまない」
「いいえ!……これは、このリボンがお気に入りですの」
そう言って見せてくれた紫のリボンは今にも結び目がほどけそうで、そこ……と指で示す。
「えっ、あ、またですのね……ありがとうございます」
リボンを直そうとするものの、不器用なのか上手く結べていない。
あら……?と困ったように首を傾げるマグダレーネに、ははっと笑い声を上げた。
「貸してみろ」
「えっ?はい……」
オズオズと差し出してくる帽子を手に取り、リボンを結び直す。
マグダレーネよりは上手く出来た自信があるぞ……と帽子を返すと、嬉しそうに微笑んでいる。
「まあ、ありがとうございます!」
嬉しそうに笑うマグダレーネは、父親と思わしき人物に名前を呼ばれ返事をした。
「ユリウス様ルッツ様。失礼致します。また機会がありましたらお話しさせて下さい」
「ああ。またな」
「ええ、是非」
「どう……っ!」
ルッツが騎士らしく挨拶しているのを見てポカンと見上げ、話し掛けようとすると、背中をつねられ痛さで顔を歪める。
マグダレーネがいなくなった辺りで謝ってくるルッツに、何なんだよ!と怒ると、ガシッと肩を掴まれた。
「俺は騎士としてマグダレーネに接することでまず信頼を得る。そこから徐々に素を出してってだな……」
くどくどと語るルッツの言葉は良く分からない。
「つまり?」
「格好良く思われる努力をしている最中だ」
「は?」
「王に忠誠心ある男がある日、自分にも忠誠を見せてくれる。どう思う?」
「嬉しい?」
「そう。その通り!嬉しい!貴女に何でも任せるわ!なんて日には……」
「あ、後ろ」
何だよ?と後ろを振り返ったルッツの表情は、ここからは見えない。
まあ、ディアナの冷めた表情を見れば、ルッツが焦った表情をしていることくらい良く分かる。
でもルッツの考えていることは良く分からない。
このままクラヴィクスと婚約を続けてくれたら良いのにな……と、心の奥底で思っているのは誰にも言っていないが、ルッツ辺りは気が付いていることだろう。




