とある愛し合う恋人たちのピタゴラスイッチ
断崖絶壁のその縁に二人の愛し合う男女がいた。
「永遠に君を離しはしないよ、ハニー」
「嬉しいわ、ダーリン」
熱い視線を交わし合い、
二人は互いの体を抱きしめあう。
その時――
女性がおもむろに動かした足が
小さな小石を蹴飛ばした。
小石が転がり崖から落下する。
コロコロコロコロ
コロコロコロコロ
小石が崖から落下する。
「よいしょ、よいしょ」
桶に水を入れて運んでいた少女。
その少女の頭に小石が当たる。
少女が「きゃ」と小さく悲鳴を上げて
手に持っていた桶を落としてしまう。
桶から水がこぼれて、
桶が坂道を転がっていく。
コロコロコロコロ
コロコロコロコロ
桶が坂道を転がっていく。
勢いのついた桶が
スキーのジャンプ台のように
ポーンと宙を跳んだ。
そしてその近くを歩いていた
青年の頭に桶がすっぽりと被さる。
「ぬおお!? なんだ!? 前が見えん」
青年が困惑しながらフラフラと歩く。
目隠しされた青年が足を踏み外して
崖から転落。下にあったベンチの端に
背中から落下した。
青年が落下したベンチの反対側に
腰を下ろしていた老人が、
ベンチから勢いよく投げ出される。
すやすやと居眠りをしている老人が
放物線を描いて湖に落下した。
湖の底に沈んでいく老人。
その老人めがけて
水中で生息していた
巨大な魔族が襲い掛かる。
するとここで――
「よっしゃあああ! 大物だぁあああ!」
湖で釣りを楽しんでいた
少年が釣竿を振り上げる。
釣り糸がピンと張り、
釣り針に引っかかっていた
老人が湖から引きあげられた。
少年が釣竿の先に吊られた老人に呆然とする。
するとその直後、老人を狙っていた巨大な魔族が
水中から飛び出してきた。
空中で老人を食べようとする魔族。
だがすんでのところで
魔族は老人を食べ損なう。
巨大な魔族が湖を飛び出して
近くにあった秘境の遺跡の
巨大な柱に激突する。
魔族が激突した衝撃に柱が倒れて
その近くにあった柱をまた倒す。
さらにその柱が、
また近くにある柱を押し倒す。
ガタガタガタガタ
ガタガタガタガタ
柱が次々と倒れていく。
そして最後に柱が倒れて
遺跡の最深部にある
神殿を圧し潰した。
神殿の天井が崩れて
一振りの剣が建物から姿を現す。
祭壇に突き立てられた
勇者にしか引き抜けないとされる伝説の剣。
するとここで
地面が大きくひび割れて――
爆発するように地中から溶岩が噴き出した。
噴水のように噴きあがった溶岩に
祭壇に突き立てられていた伝説の剣が
ポーンと宙に跳ねる。
鞘のように刀身を封じ込めていた
祭壇がボロボロと崩れ落ちていき
伝説の剣が抜き身となる。
そして――
「我が弟子よ。お前に教えることはもう何もない」
「師匠!」
数十年もの間、修行を続けていた
魔族が自身の師匠に深々と頭を垂れる。
「さあ下界に下りるがいい。
お前の力はもはや天下無双。
勇者はおろか、魔王様にすら匹敵する
力を有しているだろう」
「それもこれも師匠の教えがあればこそ。
師匠も私とともに下界に下りて共に戦いませんか?」
「残念だがそれはできぬ・・・
私の体はもはや・・・限界だ」
魔族の師匠が唐突に吐血する。
驚いた魔族の弟子が
慌てて師匠に駆け寄った。
「どうしたのですか!? 師匠!」
「ふ・・・ふふ・・・この老体に
無茶をしすぎたようだな・・・
私の寿命ももう・・・残り僅かなようだ」
「そ・・・そんな・・・師匠!!」
「悔いはない・・・悔いはないぞ・・・」
魔族の師匠がふっと微笑む。
「私は自分の全てを・・・お前に伝えた・・・
私の生きた証を全て・・・お前に伝えた・・・
私が死のうと・・・お前の中に私は存在する」
「師匠! いやだ! 死なないでください!」
「情けない声を出すでない・・・愚か者め・・・」
ボロボロと涙をこぼす魔族の弟子に
魔族の師匠が最後の力を振り絞り活を入れる。
「お前は勇者を倒す魔族なのだぞ・・・
涙など見せるな・・・魔族は常に強くあれ」
「・・・師匠」
「さあ・・・最後に見せてくれ・・・
私が命を賭して作り上げた最高の魔族・・・
最後の弟子たるお前の勇ましい姿を・・・」
「・・・分かりました師匠」
涙を拭った魔族の弟子が
力強く背筋を伸ばす。
「見ていてください師匠。
貴方が生み出した最強の魔族・・・
その力を・・・」
「ああ・・・」
「うおおおおおおおおおおおお!
超爆裂古代魔法! パフパ――ぶへ!?」
噴火により噴き上げられた伝説の剣が
魔族の弟子の頭に突き刺さる。
「のぉおおおおおおおおおおお!?」
パタリと絶命する魔族の弟子に
魔族の師匠が絶叫した。
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チャラチャラチャッチャッチャー
「あれ? なんかレベルが上がった?」
「あ、そういえば私も」
チャラチャラチャッチャッチャー
チャラチャラチャッチャッチャー
「それもどんどん上がってく」
「まるで強い魔族を倒したみたい・・・
でもなんでかしら」
チャラチャラチャッチャッチャー
チャラチャラチャッチャッチャー
チャラチャラチャッチャッチャー
チャラチャラチャッチャッチャー
鳴り続けるレベルアップの音に
断崖絶壁で抱き合っていた恋人たちは
怪訝に首を傾げた。
こうしてモブたちはいつの間にか強くなっているんですね。きっと。
ブックマークと評価一件につき、10+2話書いてみたいと思います。
もう少し延長させてやろうという方、
よければブックマークと評価をいただけるとありがたいです。
ブックマークつけるか迷ったときはつけてみましょう。




