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沼4

恐怖のあまり後ずさりする私。


「まぁ…あれだな……つまり…」


私の肩をごつい手が力を込めて叩く。

いつの間に来た!黒魔術師!びっくりするだろうがぁぁ!


「あいつは…今までいわゆる温室育ちだ。人から、褒められ感謝され、なまじ才能があるから、あまり頭ごなしに叱られた事なんてなかったんだろうよ。それどころか、今まであいつによってくる女は、皆同じようなタイプだ。もてはやされるのがあいつにとって普通だったんだろうよ。

そんな中、初めて女に頭ごなしに叱られて、新鮮だったんだろうよ。そして、結果あいつは目覚めてしまったのかもしんねぇな~」


面白そうに、にやけた笑い顔をする魔術師に、何がそんなに面白いのか聞いてみたい。


「な…っ 何にお目ざめで…?」


聞いてみたけど、その先聞くのが怖い。


「ん?罵倒される喜びとか、暴言を受ける快感とかだろうな…」


いらないでしょーーー!そんなドMスキル。

勇者はたくさんのスキルを必要だとは思うけど、そんなスキルを取得する必要など、まったく感じないと思うのは私だけ?


そんな寝た子を起こすような真似をした自分を殴りたい、あの日に帰りたい。

眠ったままにしておいた方がいいスキルも人にはあるのだ!と悟ったけど、時すでに遅し。



「そ、それで私はどうすれば?」


「あきらめな」


「は?」


空耳?


「あいつのあの嬉しそうな顔。付き合いが長い俺だけど、あんなに嬉しそうにしているあいつは初めてみる。

…正確には昨日からな。俺も今まで見た事ねぇや。…もしや、『初恋』ってヤツじゃあないのか?」


「でっ…では、初恋は実らないという事を身をもって体験していただくのはどうでしょうか?」


魔術師は笑って


「無駄だな。あいつは、今まで狙った魔物は必ず仕留めてきた。北の魔窟に住むギガンデスや、南の火山に住むドラゴンだって、やつは仕留めてきたんだ」


やめてよ!

そんなドラゴンとか、ギガンデスとか魔物と一緒にしないで。

私は、沼女と間違われたけど、ただのか弱い女の子―!


「それに、昔から言うだろう…?」


ふっ、と鼻で笑うと魔術師は、髪をかきあげながら、


「『恋は魔物』だと……」


「…………………………」


つーかーえーねーーー!


コイツ、つかえねーーーよ!


私的には、同じパーティという事で、勇者を止めて欲しかったのに、

そんな『俺、決まった…』みたいに、キザでくっさい台詞はいらないから!


私は、振り返る。

そんな私を勇者は瞳を輝かせながら、何か期待を込めた目で見つめる。

勇者の金の髪の間に、一瞬二つの犬の耳が見えたような気がするが、気のせいだろうか。

思わず、首に縄をつけて、そこらの木につないで逃げたい衝動に駆られるが、こらえる。

私は、後ろ足で、一歩、一歩下がる。


しばらく考えていたが、私にはもう何も言うことはない。


もう、さようならだ。


さようなら、沼よ。


さようなら、釣り場。


さようなら、私の趣味よ。


さようなら、実は変態勇者。


「………さようなら」


長居は無用と、私は全速力で走りだす。

私を引きとめようと走り出して追いかけてきた勇者に思わず、


「来るな!変態!」


と暴言を投げかけると、勇者は頬を染めてますます嬉しそうにした。


「そのような素敵な名前で呼んでくれるのですね」


とー。


あかん。オワタ、オワタよ。勇者オワタよ。


---------------


その後。


勇者パーティは、旅立った…はずだったのに、気がつけば、ちょくちょくこの町に立ち寄る。おかしくないか?世界平和の為に仕事しろ!と罵る…いや、説教する私に頬を染めながらも、旅の中間地点として立ち寄る事はやめなかった。


そうしてなぜかこの町は、『勇者の隠れ家』として人々が訪れる事が多くなり、沼の跡地は『恋人沼』と呼ばれて、カップルが多く訪れるようになった。

いつの頃からか、この沼の跡地で女性に跪いて愛を誓うと幸せに結ばれるというジンクスが流れるようになり、その結果観光名所になり、静かでのどかな生活とは無縁にこの町は発展した。

私の仕事は、観光名所案内になり、毎日忙しい日々だ。


後日、その嘘臭いジンクスを流したのは、勇者ルーファス本人で、『私と姫もそこで結ばれました』と言いふらしていると知って、私にフルボッコの刑を受けた。


フルボッコにされながらも、


『いつかどこかの沼の近くに家を建てて住みましょうね』


と頭の中はお花畑な発言をするルーファスに、


『断る』


と瞬殺する元沼女である。



fin


お付き合いありがとうございました。

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