第十六章:影を宿す妹
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扉が開き始めた空間には青白い光が漏れ出し、俺たちの前に異様な気配が漂っていた。アルセインが黒い霧をまといながら扉へと近づき、笑みを浮かべる。
「ようやくここまで来た……これが私の求めた未来だ!」
彼の声が響き渡り、扉から放たれる光がさらに強まる。俺はエリスの小さな手を握りしめ、問うた。
「エリス、この扉をどうにかできないのか? 扉が完全に開けばこの世界も俺のいた世界も危険なんだろ?」
エリスは少し考え込むように瞳を閉じ、やがて小さく首を振った。
「私一人じゃ無理……だけど。」
その瞬間、彼女が背後に視線を向けた。まるで何かを感じ取ったように。次の瞬間、俺たちの周囲に冷たい風が吹き抜けた。
「エリス、お姉ちゃん。こんなに目立つ場所で騒いでるなんて珍しいね。」
幼い、しかし不思議なほど冷たい声が響いた。振り返ると、霧の中から現れたのはエリスによく似たもう一人の少女だった。だが、エリスの白銀の髪とは対照的に、彼女の髪は漆黒。そして、瞳には不気味な赤い光が宿っていた。
「……誰だ?」
俺は思わず声を上げる。
エリスが小さく息を飲みながら呟いた。
「リリス……。」
「え? リリスって……エリスの妹か?」
俺の問いに、エリスは無言で頷く。
リリスはゆっくりとこちらに歩み寄りながら、薄い笑みを浮かべた。小さな体からはエリス以上の強大な力が滲み出しているのが分かる。
「初めまして、“新しい管理者”さん。」
彼女は俺を値踏みするような目で見つめながら言った。
「どうしてここに……?」
エリスが震える声で問いかけると、リリスは肩をすくめた。
「お姉ちゃんが“管理者候補”とこんな場所で遊んでるから様子を見に来ただけだよ。……それに扉が呼んでるみたいだったからね。」
「呼んでる……?」
その言葉に俺も魔王や勇者も驚きを隠せなかった。
リリスは静かに扉の方へ視線を向けた。そして、その瞳がわずかに輝く。
「扉は力の源だもの。この世界を壊してでも、開けば新しいものが生まれる。私はそんな新しい世界を見てみたいだけ。」
「壊す……だと?」
俺は思わず声を荒げた。
リリスはふふっと笑いながら、俺に近づく。
「あなたが“管理者”になったのは知ってる。でも、管理者なんて私にとっては何の意味もないわ。この扉が完全に開けば、管理者の力なんて消えてしまうから。」
エリスが彼女の言葉に顔を曇らせた。
「リリス、お願い、そんなことはやめて……!」
しかし、リリスはその懇願を鼻で笑う。
「お姉ちゃん、まだそんなこと言ってるの? この世界はもう終わりかけてるのよ。壊してしまった方が楽しいじゃない?」
アルセインが黒い霧の中から声を上げた。
「リリス……面白い提案をしてくれるな。ならば私と協力しないか?」
リリスは振り返り、アルセインをじっと見つめた。彼女の瞳には冷たい光が宿っている。
「協力? 別にいいわ。でも、あなたが扉を開ける役目を果たすなら私の邪魔をしないでね。」
アルセインは満足げに笑みを浮かべ、黒い霧を扉へとさらに集中させた。
エリスが必死に俺の袖を掴み、震える声で言った。
「リリスを止めなきゃ……彼女が本気で扉を開けたら、この世界もあなたのいた世界も本当に崩壊してしまう……!」
リリスが扉の近くへ歩み寄り手を伸ばした瞬間、周囲の空間がさらにひび割れていく。この異世界と現代を繋ぐ力が暴走を始めているのを感じた。
「止めなきゃ……!」
俺はエリスの手を握りしめ、彼女と共に扉の方へ駆け寄った。
だがその時、リリスが振り返り、冷たい微笑みを浮かべながら囁く。
「お姉ちゃんと“管理者”さん、私を止めたいなら……その覚悟を見せてよ。」
リリスが扉に触れると同時に世界が大きく揺れ、青白い光が一気に放たれた。大地が裂け、空間が歪む。魔王と勇者が叫びながら武器を構えたが、その異常な力に手を出せずにいる。
「これは……!」
俺の目の前で、空間に新たな扉が浮かび上がる。
エリスが絶望的な声で呟いた。
「この扉が開いたら、もう戻れなくなる…」
リリスの笑み、扉から溢れる光、そして歪む空間――すべてが俺たちを押しつぶそうとしていた。その中で俺はエリスの震える手を強く握り、決意を固めた。
「俺はこの世界も現代も守るために管理者になったんだ。だから、絶対に止める!」
しかしリリスはそれを楽しむかのように笑い、囁いた。
「じゃあ、私が先にこの世界を終わらせてあげる……。」
次の瞬間、扉が完全に開かれようとしていた――。




