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因果因縁【完結】  作者: 七石 和子
因果因縁
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因果因縁 18 見舞い

騒動前から、ミシェールは、『ミル様』が養父である事をいつ言おうかと、悩んでいた。

ただ、皇族に会った事がないと言い、一生会わないのかもと言ったリルが、『ミル様』が養父ミハエルだと知れば、まともに会話出来ないだろうと、予想出来た。

それは、リルの良さを、ミハエルに知って貰えないようで、悲しかった。

ミハエルから、自身の身分の事は、切り札として伏せるように、言われて黙っていたが、黙っている事を心苦しく思っていた。黙っていたと知られれば、嫌われるかも知れないと思うと怖くなり、ますます言いづらくなって、今回の事件である。

本当は、ミハエルには落ち着いてから、こっそり来て欲しいと思っていた。関係者のみに正体を明かして欲しかった。

その後に、ミシェールがリルに嫌われるのを覚悟の上で説明し、ミハエルと改めて会って欲しかったのだ。

ミハエルの派手な登場は予想外だった。傅かれる事を嫌っていても、ミシェールのピンチの為に必要だと判断してくれたのだろうと、その優しさは嬉しかったが、リルの事を思い出すと、気が重くなった。

あそこまで派手に登場してしまった以上、すぐに伝えるべきだろうと、教務室で騎士ベイツにリルの相手を頼んでおいた。

関係者との話し合いが終わり、リルを迎えに行き、学長室に向かいながら、『ミル様』は養父ミハエルだと謝罪をした。

案の定、リルは手足を同時に出して歩き、ミハエルに苦笑されながらお茶を飲んでいて、あまりに可哀想で、お茶を飲み終えてすぐ、退室した。

リルと話していれば、やはりリルが怒っていて、嫌われたのだと悟った。

それでも、もう一度友達になって欲しいと駄目元で言ってみた。

そうしたら、まだリルは自分を友達だと思ってくれていると、嬉しい事を言ってくれて、信じられなくて、彼女の顔と、握られた手を何度も見た。

『嫌われたくないて思ってくれて嬉しい』

と抱き着かれ、彼女を抱き返して気付いた。

母親シェキーラに、『好き』と伝えられていなかった事を。

例え嫌われていようとも、リルにしたように、『好き』と伝えれば良かったと。

養母ヴィヴィアンナが、シェキーラに彼女の悩みを打ち明けたように、ミシェールの悩みを打ち明けていたならば。

もしかしたらシェキーラは、ヴィヴィアンナにしたように、何か提案してくれたかも知れない。

シェキーラに怯えてばかりで、『好き』の一言も言えず、辛く当たられて悲しいとか、何をすれば良いのかとか、シェキーラと直接ぶつかる事を避けてしまっていた。

弟エルバルトが、シェキーラの所業でいよいよ身体に不調が出るようになり、このままでは危ないとなって、やっとシェキーラに物申したが、もっと早くに、自分は行動すべきだったと、ミシェールは気付き、涙が止まらなかった。

リルが、

『次は伝えよう?もし、伝えるのが難しいと思ったのなら、あたしが横で応援するから、その時は頼ってね』

と心強い事を言ってくれて、ミシェールの方が年上なのに、リルに優しく手を引かれて歩き、寮の部屋まで歩いた。


管理人が不在となったので、副学長がその日の内に管理人に収まった。噂を放置していた責任もあったので、事実上の降格である。

学校の元学長は、妻から離縁を申し出られ、妻は荷物を纏めて実家へと戻っていった。その息子は、妻から離縁され、子供との接近禁止を申し出られた事で、元学長と絶縁宣言をした。妻との離縁と、子供と会えなくなった事は、父親が原因だと思ったからだ。

だが、事件が起きる前から、彼の高圧的な態度と、自身は間違っていないという、父親と似た性格が原因で、次期伯爵という地位だけで、婚姻関係を維持出来ていた。父親が学長を首になり、領地のない伯爵位では、その伯爵位も危うく、息子の妻は、元夫に未来はないと見限ったのだ。元夫に未練も情も感じられないほどに、彼女は婚姻関係に嫌気しかなかった。

ミハエル襲来の翌日には、学長の席に、帝都の貴族学園の女性騎士課の教諭が就く事が決定した。

貴族学園からの異動なので、左遷と見られそうだが、ミハエルが出向き、頭を下げた事で、その教諭はそれを引き受けた。

彼女を選んだのは、話し合いの場に居合わせた、警備員を装った皇帝の影だ。

急いで穴を埋める必要があった為、ミハエルが協力を仰ぎ、推薦して貰ったのだ。

その決定がなされている間、学長不在の為、授業は急遽休みとなり、ミシェールは新たに着いた管理人の元副学長から外出許可を貰い、門で待っていたベイツと出掛けた。

元副学長が平身低頭だったのは言うまでもない。

ベイツに案内された先は、寮から歩いて通り2つ過ぎ、右に曲がって3軒目だった。

そこが、ミシェールに内密に着けられていた騎士達が寝食をする場として借りられていたのだ。

ミハエルが会いに来た初日からだと説明をされて、そんなに長い間、気付かせなかった事に、ミシェールは驚いた。

ミハエルは、話し合いと、学長・副学長の処分の決定、リルとのお茶に時間を使い、ゆっくり話す事なく、帝都に戻ってしまったので、次に会ったらお礼を言おうと決めている。

借家に向かう道中、パン屋で2種類のパンを4個ずつ買い、乾物屋でナッツを大袋で2袋、酒屋で葡萄酒を3本、果物屋でプラムを7個買った。

プラムとナッツをミシェールが持ち、ベイツが酒瓶とパンを持ってくれた。

全部持とうとしたベイツに、騎士達への労いだからと、ミシェールが譲らなかったのだ。

借家に到着すると、騎士が五人出迎え、手土産の葡萄酒に喜んだ。

「シモンは、1階の階段奥の部屋に居ますよ」

とベイツに笑顔で教えられ、ミシェールは頷いて、ナッツをスターゼフに預け、部屋へと向かう。

火傷を負ったシモンへの見舞いも、目的であったのだ。

花にしようかと思ったが、男所帯に花は迷惑だろうと、騎士達への労いと同じく食べる物を選んだ。

今日訪ねる事は、昨日ベイツ経由に言付けしたので伝わっている。

ノックして、返事を受けて中に入れば、シモンが困ったような顔で出迎えてくれた。

「お嬢様、ドアは閉めないで下さいね」

閉めようとしたドアを、シモンの声でそのままにし、ミシェールはベッドに歩み寄る。

「一昨日は、ありがとうございます」

「当然の事です。お礼を頂く程の事ではありません」

穏やかな顔で返したシモンの顔には、ガーゼが貼ってあり、シャツから出ている手は包帯がしっかり巻いてあり、痛々しい姿に、ミシェールはきゅっと唇を一度噛んだ。

ベッド脇にある椅子に座り、ミシェールは紙袋からプラムを取り出す。

「プラムを、買って来ましたので」

「そこまでして頂かなくても。後で、頂きますね」

「いえ。今、食べて下さい。ベイツさんから聞きました。あまり食べていないと」

言いながら、ミシェールは斜め掛け鞄から小さい板とナイフを取り出し、皮をするするとむき、半分に切り、種を除く。

そして1キレを手に持って、シモンに差し出した。

それを困った顔で見て、シモンは包帯した右手で受け取ろうとし、遠ざけられた。

「包帯が汚れます。どうぞ」

ズイ!と顔にプラムを寄せられ、シモンは思いっきり眉を下げた。

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