第2話 世界
──大きな存在は語りだした。
この大きな世界と、自分の犯した禁忌について
僕は最初、ただ聞いていただけだった。
自分には関係が無い話だと思っていたから。
自分の認識とあまりにも掛け離れていて、まるで物語を聞かされている様だった。
だけど、綺麗な世界だと思ったんだ。
きっと、この世界が愛おしいという気持ちが伝わって来たからだろう。この世界に戦争が無い訳じゃない。災害が起こらない訳でも無い。だけど、それを乗り越えようと、それでも前に進もうと、努力している人達の先で成り立ったこの世界を、この大きな存在は誇りに思っている。とても美しいと感じている。それが僕に伝わって来た。
これは僕のいた世界と何も変わらない。視点が違うだけでこうも感じ方が変わってくるんだな……。
それから僕は語られる世界を想像しながら話を聴いていた。
まるでお伽噺の世界に迷い込んでしまったみたいな感覚で、少しだけ、わくわくしたんだ。
この世界には魔法があるらしい。それも、力に大小の差はあれど、使えない人はいないらしい……。
なんとも想像しにくいものだ。
人間にも様々な種類があるみたいだ。僕達のような存在はヒト族と呼ばれ、獣人、翼人というような亜人種も多く存在している。
亜人種の詳しい話は追い追いしていこうと思う。
動物はもちろんいて、その種類は僕の知っているものと特徴の似たものや、想像しにくいものまで様々。ただ、魔物というものもいるらしい。人間と共存している魔物も少なくないようだが、人間を襲ってくる種類の方が圧倒的に多いようだ。
なんとも恐ろしい話だ。魔族という人間の種類もいるようだが、それは果たして人間なのだろうかという疑問が僕の中で解決しない。
他にも魔獣や魔人と呼ばれている物が出てきたが今の僕には少々難しい話のようだ。
マソが高い低い、性質がどうの、ダンジョンがどうの、精霊が、魔石が、海には、と話が続いたが申し訳ない事に僕の頭はとうに容量を超えてしまったみたいだ。
終いに実際に行ってみれば分かると締めくくられた。
それから話はどうして自分がこんな場所にいるのかという話題に変わった。なんでも、禁忌を犯し、この場所に封印されているらしい。
そんな悪そうには思えないんだけどな……
『かつて、大陸はひとつに繋がっていた。その時代、魔法を使えない人達は少なくなかった。だからこそ魔法以外の物が発展し、道具が生まれ、魔法具が誕生した。本当に豊かな世界だったと今でも思う。だが人の欲望はこの深淵のように深かった。どんなに世界が発展しても満足せず、人間達は神竜の知恵に手を出そうと考えた。神竜は世界を見通し、時には抑止力として働く者。神々から創り出された神竜は調停者として存在し、この世界には6体いた。風、水、火、地、光、闇。それぞれの属性を持ち、それぞれの方法で罰し、導いて来たのだ。しかし、ある日、人間たちは発展が止まってしまったのは、神竜達の仕業であると騒ぎ出した。抑止力が働いているのだと。そして、光の神竜の元に1人の青年がやって来て、私たちから奪った知恵を返せと喚き出した。なんとも愚かだと相手にしないでいると、1人また1人と抗議し出す者は増えていった。もちろん、光の神竜は知恵を奪っていなければ、奪う手段なんて持っていない。恐らく、人間達も分かっていただろう。ただ、神竜が折れ、渋々と自分達が知らない知識を与えてくれる事を狙っていたのだと思う。それでも神竜は何も口にしなかった。人々は困り、次の手を考えた。そこで目を付けたのは、1人の娘だった。その娘は光の神竜の身の回りを掃除したり、整理したり、神竜とよく歓談を交わしていた娘だった。神竜にとってその娘は特別で、そのお腹に自らの子を成すほど親密だった。人々はその娘を利用しようと考えた。聞き出してくれないか。と頼んだり、報酬を与えると言い出す者もいた。しかし娘は首を縦に振らず、神竜を守ろうした。その結果、人々は娘を脅し始め、どんな手を使ってでも聞き出させようとした。その娘の母や、弟を引き合いに出し、脅し始め、遂には殺した。娘はどうして良いか分からず神竜の元へ逃げようしたが、目前で捕まり、聞き出すことを約束しなければ、解放はしないと言われ、娘はお腹の子諸共、自殺したのだ。それを知った神竜は怒り狂い、このような人間共は生きている価値など無いと世界を滅ぼしてしまった。その時に大陸は分断した。光の神竜は他の神竜5体によって取り押さえされ、調停者である神竜が私情で世界に手を加えた罰として永遠に封印された。
────────それが私だ。』
僕はその話に何も横槍を入れずに大人しく聴いていた。
何と反応すれば良いのか分からなかった。
『神々はその時、世界樹だけは死守しようと結界を展開し、世界樹周辺に住んでいた人々も助かった。だが、神によって造られた結界は魔力が強く、周辺の環境に影響を与え、人間が住める場所では無くなってしまった。そこで人々はそれぞれ分断された大陸へ移住し、今にまで繋がっている。魔法を使えない人がいないのは先住民となった人々が全て魔法を使えたからだろう。使う言語も共通だ。
この世界は1度、文明が途絶えている。その時から神は異世界から人を招くようになった。人を絶滅させないように、文明が発展するように。
神竜達もそれぞれ人間と関わらないことを徹している。ある者は海と同化し、ある者は大気と同化し、またある者は山に、マグマにとそれぞれだが、それでも今の人間たちは自分たちで問題を解決している。 以前はよく神竜様お助け下さいと縋っていたものだがな。』
僕は何と言えば良いかまだよく分からないが、取り敢えず、今僕に語り掛けているのはその神竜様で、そしてやっぱり悪い存在には思えないということが明らかになった。それから、この神竜様はこの世界を今でも愛しているのだろう。自分で滅ぼしてしまった世界でも、きっと本当は愛していたかったんじゃ無いだろうか……。だから人間とも親密に関わっていたんじゃないだろうか。勝手な僕の憶測だけど。
あ、でもその話からすると、この神竜様はここから出られないのか。きっともう危害を加える事なんて無いだろうに……
どうにか出来ないものだろうか?
『お前の目も以前とは比べ物にならないくらいに輝いているな。きっと、この世界でも生きていけるだろう。』
?
僕はここからその世界に行くのだろうか?
『お前がこの世界に興味を持つことが鍵だ。きっともう何時でも行きたいと思えば行けるだろうよ。』
なるほど……それでは神竜様がまた1人になってしまうのか…
僕はなんとか神竜様に触れようと手を伸ばした。が、少しだけ腕が上がっただけで、身体も持ち上がらない。
神竜様はそんな僕に気が付いて、尾(だと思われるもの)を僕の手が届くところまで運んできた。それに触れようとすると、何か強い力で弾かれてしまった。
《神竜の封印です》
?!
僕は声のような音のような何と表現して良いか分からないものが脳に響いた。
《初めまして、アナウンス機能です》
その声に僕はSi〇iを思い出した。
《ユイト様がこの空間から表面世界に転移する準備が整ったようでしたので、神より、全ての人に平等に与えられる機能です。よろしくお願い致します。》
なるほど.......、この世界にはそんな便利な機能があるのか。
それはそうと、神竜の封印をどうにか出来ないかな。
僕はアナウンス機能についてはあまり深く考えずもう一度神竜様への接触を試みた。
バチッ と音がして弾かれてしまった。
《神竜の封印です》
さっきと同じようにアナウンスが来た。
《解除を試みますか?》
やっぱりさっきと一緒.............え、解除出来るの?
《ユイト様の体内に神竜の封印に使われている魔力を取り込むことが出来れば、解除可能です》
なるほど、イメージで言えば封印を解除と言うより、封印を飲み込んでしまう。という感じか。
しかし、どうやって魔力を取り込むのだろう。吸ってみる?
っていうのは冗談だけど。
《ユイト様は以前、神の魔素を体内に取り込むことに成功しています。魔力であっても魔素と変わりありません。神竜の周りに取り巻いている黒い魔力を引き剥がし吸い込むイメージが出来ればあとは容量の問題です》
引き剥がし、吸い込む.......
僕は手元にある尾に封印に弾かれない程度に手を近づけ黒い魔力?を自分の体内に移動するようなイメージを描いた。
すると魔力は引き剥がされないように抵抗してきた。
『何をしているのだ。そんな事をしても無駄で.......』
僕は吸い込む力を強くしようとイメージした。ダ〇ソンの掃除機だ。
『なっ.............!封印が......!!』
僕はフルパワーをイメージし魔力を吸い込んだ。するとみるみるうちに魔力は僕の手の中へと消えて行く。
『止めないか!それ以上取り込んでしまってはお前の身に何が起こるか分からん!!神竜5体で行った封印魔法だ。魔力の量も馬鹿にならん!』
僕は構わず続けた。吸った魔力がどういう訳か僕の中で浄化され、自分の力になっている気がする。
《ユイト様の体内では現在、魔力還元を行っております。体外の魔力を自らの魔素へと変換しています》
どうしてそれが出来ているのか自分にも分かっていないが、好都合なので考えるのは後回しだ。
それにしても終わらない。吸い続けているがキリがない。
『諦めよ。お前は頑張ってくれたが、これは罰だ。解放されるべき身では無いのだ。』
神竜様は何千年、何万年かもしれない時間をここで過ごして、きっともう、ずっと1人だ。危害を加えない神竜様をここにずっと閉じ込めていたって無意味だと思うんだ。
これは僕の自己勝手だ。一緒に表面世界へ行きたいっていうワガママだ。だから、別に誰かに咎められたって仕方ない。
だけど.......僕はこれが間違っていると思えないんだ。
《報告 : スキル【吸収・還元】を習得しました》
?
スキルって何?ってうわ!吸い込むスピードがさっきの比じゃない!これなら.......!
『何だ、どうなっている。こんな魔力量、一人の人間が抱えられる量では無いはずだ.......』
僕は吸い続けた。ただひたすら目の前の黒い魔力を吸い続けた。山を覆っていた量は想像していた通り、なかなか消えてくれない。それでも着実に削っていっているのは分かる。
《報告 : スキル【吸収・還元】のレベルが2になりました。吸収スピード、1秒毎の吸収量が上昇しました》
《報告: スキル【吸収・還元】のレベルが3になりました。吸収スピード、1秒毎の吸収量が上昇しました》
《報告: スキル【吸収・還元】のレベルが4になりました。吸収スピード、1秒毎の吸収量が上昇しました》
《報告: スキル【吸収・還元】のレベルが5になりました。吸収スピード、1秒毎の吸収量が上昇しました》
《報告: スキル【吸収・還元】のレベルが6になりました。吸収スピード、1秒毎の吸収量が上昇しました》
スキルレベル上昇のアナウンスだけが僕の脳内に響く。
あと少し。あと少し.......
《報告:スキル【吸収・還元】のレベルが最大になりました。吸収スピード、1秒毎の吸収量が最大になりました。》
!!!
そのアナウンスが響いた瞬間、遂に手から魔力が流れて来なくなった。
『本当にやってしまったな』
視界に入ってきた龍は銀色に輝いていて神々しいオーラを放っていた。恐らく、あのオーラが魔素と呼ばれるものなんだろう。
初めて...初めてあなたの顔が見れました。
『..........笑ったな』
え? あっ.......
僕は気が付いたら笑顔になっていた。
すごく凄く嬉しくて....こんな気持ちになれたのは本当に何時ぶりだろう。もしかしたら初めてかもしれない。
改めまして、初めまして神竜様。どうぞこれからよろしくお願いします。
『ここまで頑張ってくれたんだ。表面世界において1年間。ずっと私を解放するためだけに。』
そんなに経っていたのか.......。
《報告:光の神竜と共に表面世界へと転移します》
アナウンスが響き、僕の身体が光りだした。
『お前の進む道はここからだな』
神竜の言葉を最後に視界が真っ白になった。
思ってたより長くなってしまいました.......。




