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早乙女さんは見舞いたい

「土屋先輩、ひとつ質問よろしいでしょうか」


「おう、なんや?」


「家にお客さんがいらしたら、お茶とお菓子を出すものですよね」


「まあ、それが基本やろな」


「体調不良でお茶を出せない場合はどうすれば」


「思っとった以上に平常運転やったわ。もう帰ってよか?」


「お帰りですか。本日はわざわざご足労いただきありがとうございました。ハゲップチ課長と大山さんにもよろしくお伝え下さ……」


「帰らん、帰らんて」


 村崎が倒れた。


 土屋からそう知らされた俺は、お隣で実家シミュレーションに励んでいたミオさんともすぐに共有した。翌日には村崎に連絡をとり、自宅療養中の彼女を見舞いにやってきた次第である。


「きらんちゃん、急に倒れたっていうからすごく心配したのよ? 気分悪くない? 大丈夫?」


「ミオさんもわざわざ来ていただいてすみません。歩き回ると少しくらっとしますが、気分は大丈夫です」


「安静にしてね? お茶なんて気にしなくていいから」


「ありがとうございます。お茶どころか掃除も行き届いていなくてお恥ずかしい限りですが」


 そう言われて、無意識に部屋をぐるっと見渡す。


 村崎の部屋というのはどうもイメージがしづらく。強いて言えば、壁一面のガラスケースにぬいぐるみとかメロンパン入りの脳のオブジェとかが並んでいるのを想像していた。


 実際に来てみれば、そこはいかにも若い女性の生活の場だった。


 紫色が基調のカーテンやカーペットに、小説とマンガが並ぶ大きめのカラーボックス、そして犬猫鳥と種類ごとに並べられたぬいぐるみたち。収納からあふれた冬モノの服や家電が部屋の隅に積み上げられている辺りに生活感がにじんでいる。


 そんな生活空間の中、主たる村崎きらんはすみれ色のルームウェア姿でベッドに腰掛けている。膝の上にシトラ――ミオさんとお揃いの猫のぬいぐるみだ――を載せているのはミオさんへの歓迎の意、なのだろうか。


「そんなことないわよ? すてきなお部屋じゃない」


「ミオさんのお家は松友先輩がお手伝いしているそうですが、それにしてもいつ伺っても綺麗ですよね」


「え、あば、うん。ありがと」


「私はものが捨てられないたちで……。今度、整理整頓のコツとか教えて下さい」


「あ、あはは……」


 村崎の称賛に、ミオさんは硬い笑顔を浮かべている。


 村崎が初めてミオさんの家にやってきたのは、ちょうど俺の大掃除(ジハード)が終わった日だったと記憶している。ここで言う『ミオさんの家』とは、戦いの末に生まれた地上六階2LDKの天空の城を指すのだろう。


 だが村崎は知らない。美しき城のかつての姿を。


 床を覆う未開封のダンボールと空のペットボトル。そのスキマに敷き詰められたダイレクトメールが人ひとり分の道となり、玄関とリビングと寝室を細くつなぐだけの命なき腐海。


 それがほんの三ヶ月前までのミオさん宅の様子だ。ミオさんに整理整頓のコツを聞いたなら、この小綺麗な部屋も数年以内にああなるに違いない。


 それにしても、自分のお見舞いに来た人にお茶を出せない場合のマニュアルを尋ね、さらに的確に地雷を踏み抜くとはさすが村崎。仕事の帰りにいきなり倒れたというから心配したが、土屋の言うようにいつも通りでひとまず安心した。


「そうだ村崎、メロン食べるか? 見舞いにと思って持ってきたんだが」


 これ以上ミオさんと掃除談義をさせるのは危険と判断し、俺は持参した紙袋を掲げた。見舞いに手ぶらもあるまいと、駅前の青果店で買ってきたマスクメロンが甘い香りを放っている。


「メロン……」


「パンじゃないぞ。メロンだ」


「匂いで分かります」


「まさかメロンはメロンパンのパチモンだから食べない、とか無いよな」


「そんなことありません。真贋と貴賤は別の問題です」


「マッツー、こいつ生ハムと出したらアンデスメロン半分食いよったことあるぞ」


「おいしくいただきました」


「ありがとう、ふるさと納税」


 メロンがメロンパンのパチモンである、という点には指摘はないらしい。聞き流しただけなのか、はたまた本当にそう思っているのか。確認するのはやめておこうと思う。


 ふるさと納税に感謝する理由はよく分からないが。ともかく好物なようで何よりだ。


「……で、倒れた原因はなんだったんだ? 感染症とかではないんだろ?」


 メロンを食べて落ち着いた頃合いで、俺は気になっていたことを尋ねた。


 突然倒れたとなれば何かしら原因があるはずだ。麻疹(はしか)のような伝染病であれば面会謝絶だろうし、脳の病気だったりすればこんなに早く回復はしまい。


 原因不明、とかだと心配だが……。


「病院の先生によると、疲れと寝不足から来る失神だそうです」


「寝不足?」


「最近、少しだけ寝付きが悪くて」


「そうなの? 心配事でもあるのかしら?」


「悩みというほどのものは」


「今は? 眠れてる?」


「睡眠導入剤とかいろいろいただきましたから大丈夫です」


「ならいいのだけど……」


 いまひとつ釈然としない理由に、ミオさんは心配そうな顔をしている。寝不足といわれてしまうとありうる原因が多すぎて、それこそ薬で眠りを深くするくらいしか対処法がない。


 どうあれ、ここで俺たちが話し合って何か解決するようなものではなさそうだ。


「まあ、倒れた時に頭とか打たなかったのが不幸中の幸いだな」


「土屋先輩が受け止めてくださったので。もう二、三日休めば会社にも行けるそうです」


「今日が火曜日やし、三日休んどき。金曜だけ来てもどうせ『週明けにご連絡します』って電話するだけになるやろ」


「でも」


課長(ハゲップチ)には『仕事のストレスが心臓に来たのかもしれないって医者が』とでも言っといちゃるけん」


 仕事のストレスで倒れたとなれば労働災害。


 労働災害となれば管理者の責任。


 管理者といえば崖の上、もとい『崖っぷちのハゲ』略してハゲップチこと我らが早川課長だ。体面にこだわり責任と面倒をおっかぶるのを嫌うあの人なら、快く


「当分来なくていい。むしろ来ないで」


と言ってくれることだろう。


「今度は課長の心臓が心配になるな」


「……分かりました。では今週いっぱいはお休みをいただきます」


「おう休め休め。来週の仕事が倍プッシュやけどな」


「ゔ」


「手伝ったるから」


「ゔぅ……」


 村崎の表情が、いつも以上に硬くなった。

身長145センチ 細身のBカップ

長めの茶髪にお気に入りの紫色のシュシュ

趣味:ぬいぐるみ集め、物語を読むこと

特技:裁縫

好きな食べ物:メロンパン

好きな動物:アヒルさん


「ステータスだけは女子力の化身」

「黙ってれば美少女」

「立てば芍薬座れば牡丹、しゃべる姿はペンペン草」


それが村崎きらん(22歳独身)である


追伸:

モンハンベータ版、イヴェルカーナ強いんですけど。足引きずってからが地味に長い……

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