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早乙女さんはさとしたい

「ところでミオさん」


 窓の外が茜色から濃紺、そして黒へと変わった頃。一眼レフカメラを片付けた村崎は、夕食までのつなぎに炒り豆をポリポリしているミオさんに尋ねた。


「どうしたの?」


「あのカモタウロス、どこで買われました?」


「ネット通販だけど……」


「どこのサイトですか? 私も買いたいので教えてください」


「えっと、パソコンの履歴を見れば分かるはず」


 ミオさんが繋いだのはフリマ系の販売サイトだった。個人が商品を登録できるシステムで、自作のグッズや不要になった家具家電を売り買いする場になっている。


「そう、これこれ」


「『個人製作ぬいぐるみ 三点限り』……」


「もともとひとつ売れていたところに、私が買って残りひとつだったけど……。ああ、まだあるわね」


「ちょっと失礼します」


 即座にスマホを取り出す村崎。同じサイトにアクセスしてアカウントを作り、購入手続きを進め……五分後には小さく溜息をついた。


「……買えました。ありがとうございます」


「そんなに気に入ったならプレゼントしたのに」


「いえ、ミオさんとお揃いを増やしたかったので」


「あら、嬉しいこと言うじゃない」


 年上っぽく言ってますけどミオさん、口元が緩みすぎて涼しい目元とのバランスがカモタウロスです。


「この出品者って、他の作品もアップしてます?」


「そうね、えっと……」


 村崎が買ったことで『SOLD OUT』となった商品ページのユーザー名をクリックすると、正方形の写真がいくつか表示された。


「こりゃ、ぬいぐるみ専門のアカウントだな」


 フリマサイトなので雑多な商品を扱うアカウントも多い中、この人はカテゴリごとにアカウントも分けているらしい。戦略的、と言っていいんだろうか。


「他に二種類売ってるわね。……たしかに同じ人の作品って感じね」


「なんですかね、このものすごい困り顔のアヒルは」


「コマルドダック……」


 村崎が商品名を読み上げたが、大丈夫なのかその名前は。某夢のランドに目をつけられたりしやしないか。


「もうひとつは、それの表情違いね。困り顔じゃないアヒルで……うん?」


「どうしました?」


「その、名前が」


「アヒルドダック……」


 ダックは英語でアヒルなので、つまり。


「アヒルやんけ」


「アヒルね」


「アヒルです」


 アヒルだった。


「アヒル推しの圧が強すぎないかこの人」


「その割にアイコンは猫なのがまた謎ね」


「名前は……資本主義ドッグ?」


 アヒル推しで資本主義の犬な猫。


「うん、考えたら敗けのやつだ。意味がわからん」


「あら? 全部SOLD OUTに……」


「よし」


 ページを移動したらすべての商品が売り切れていた。そして隣で村崎が「よし」と言ったということは。


「お前か村崎」


「全て買えました」


 勢いそのままに全て買い占めたらしい。どれだけ気に入ったんだこの後輩。


「買い占めは悪だぞ村崎。寺内内閣はそうやって総辞職したんだからな」


「いつの内閣ですか、それ」


「大正らへん」


 総辞職の理由のひとつが、シベリア出兵のために米を買い占めたことと某ぺディアに書いてあった。


「松友さん、なんでそんなピンポイントなこと知ってるの……?」


「『母は強し』って言葉がありますよね?」


「うん」


「ウチには母がいないので、具体的にどのくらい強いんだろうと思いまして」


 村崎が「そうだったの?」みたいな顔をしている。俺の家族のことは、ちょっと時間がかかるだろうからいずれゆっくり話すとしよう。


「それで?」


「調べてみたら、買い占めで米が値上がりしたことに激怒した富山のお母さんがたが、巡りめぐって内閣を叩き潰した案件が出てきまして。本当に母は強いんだなーと」


「えっと、松友さん?」


「なんでしょう」


「母は強しって、たぶんそういうニュアンスじゃないと思う」


「ですよね」


 俺もそこまで調べたところで気づいた。


「というわけで村崎、買い占めはダメだ。政権を失うぞ」


「日本政府を掌握する予定はありませんが、前半は同意します。買い占めは悪です。買い占めからの転売に至っては人ならぬ鬼畜の所業です」


「気を付けような」


「はい」


 分かってもらえたようで何よりだ。転売業者への並々ならぬ恨みのようなものを感じたが。


「さて、そろそろ夕食にしますか。村崎、食ってくよな?」


「え?」


「もう遅いし、食べていって。それとも予定でも?」


「いえ、特には。いいんですか?」


「この流れで『じゃ、俺たちこれから飯だから帰れ』と言うと思ったか」


「言われたら帰ります」


「そうだよな。言われたら帰るのは大事だ、うん」


 きっとさして気にしないんだろうな。さっぱりしてるのは長所ではあるんだけども。


「きらんちゃん、言わないから食べていかない?」


「……正直に申し上げますと」


「どうした?」


「土屋先輩以外の人と夕食をとるのは先月末の海以来なので、とても嬉しいです」


「村崎、ふたついいか」


「はい」


「ひとつ、喜んでもらえたようで俺も嬉しい」


「きらんちゃん、私も嬉しいわよ?」


「ありがとうございます。ではもうひとつは?」


「村崎」


「はい」


 村崎は、土屋以外の『人』と夕食をとるのが久しぶりという。


 つまり、普段は人以外と夕食をとっているわけで。


「ぬいぐるみとの生活はな、いずれ限界が来るぞ。生き証人がここにいる」


「だんだんね、ぬいぐるみに血が通ってるように思えてくるの。その夢が覚めたときが一番辛いから、気をつけて。きらんちゃんは私みたいにならないで」


「……人間の友達を作れるよう善処します」


 分かってもらえたようで何よりだ。


「さて、夕食にしようか」


「松友さん、今日の大豆は何?」


 隣の村崎が「大豆?」という顔をしている。


「夏らしく豆乳のトマトポタージュです。それとフランスパンに、メインは豆腐のステーキですね」


「おいしそー」


 村崎がパン派のようなのでパンにしてみた。口に合うといいのだが。


「大豆……?」


「大豆はな村崎、調理次第で低カロリーにも高カロリーにもなる。大豆はいいぞ」


 ミオさんのダイエットのために始めた、豆腐を中心とした大豆生活。


 その中で俺は気づいた。大豆には無限の可能性があると。


「あの、先輩?」


「タンパク質も豊富だからな。努力次第でカモタウロスみたいな肉体美も手に入るぞ」


「いりません。その、目が少し怖いんですが」


「あのね、きらんちゃん」


「ミオさん、先輩が……」


「大豆、食べましょう?」


 この後、村崎にも大豆のよさを存分に分かってもらった。


 悟ったような目で豆腐ステーキを切るミオさんがなぜか印象的だった。

文章評価・ストーリー評価がともに一万を越えました。

桁が上がるとステージが上がったみたいでなんか嬉しい。評価くださった方、ありがとうございます。

まだの方にももっと楽しんでいただけるよう、これからも更新がんばります。


最後に大阪の好きなところ言います。スーパー万代で買った地元ブランドの安いジャムパンがやたらうまかったところです(旅行当時は貧乏で高いもの買えなかった)

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― 新着の感想 ―
[良い点] テンポが良く読みやすい。会話が面白い。 [気になる点] 前話で主人公がご飯だけは炊いておこう的な事を言っていた筈ですが、72部分の夕食はパンでした。違和感がありますが作者さんはどうでしょう…
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