選択
「隔絶の森…隔絶の森?」
初めて聞く単語に思わず反芻する。事前に聞いていたダンジョンの情報にはなかったことを鑑みるに別の場所ということか。単語の意味から想像するに閉じ込められたと考えるのは気のせいだろうか?確認のためソールに疑問をぶつける。
「つまりは俺が落ちてきた上のダンジョンとは別物っていうことですか?」
「ああ、ここも厳密にいうと違うが機能的にはダンジョンといっても差し支えない。だが、実際は上のダンジョンがここの入り口になっているだけで全くの別物というより別格だ。ここは一度入ったらそうやすやすと出ることはできねえ」
いや、気のせいではないようだ…当たってほしくない予想は見事に的中した。どうやら俺は相当やっかいなところに落ちてきてしまったようだ。
こちらの質問には答えたとばかりにソールは逆に俺へと質問を投げ返す。
「それじゃあ、次はこっちの質問だな。お前は…えっとなんて言ったか…」
「そういえば、自己紹介もまだでしたね」
ここで一瞬、俺のことをどこまで話そうか躊躇する。この世界での異世界召喚者がどのような扱われかたなのかはっきりと分かっていないからである。
これまでは王城の中に半ば幽閉されている状態、たまに俺への不満の声が漏れたりしていた人たちもそれなりにいたが、それでもかなり優遇されてきたと思う。しかし、外に出てみればむしろ逆に…ということも十分あり得る。
偽名や出自の不明、黙秘を貫くことも頭に浮かんだ。しかし、どれもすぐにボロが出そうなので結局のところ素直に召喚されるところからここまでくる経緯をすべて話すことにした。ここは異世界召喚者の待遇がいいことを祈るしかない。
全てを話すといっても女神のことやダンジョンに来たかったことなどは話す必要もなかったので伝えていない。特に女神に関しては言っても信じてもらえない可能性に加え、女神からの忠告もある。これに関してはそもそもチート能力を得られなかったのだから忠告を守ってやる義理は絶対にないと思うが、何か面倒くさいことが起こると嫌なので念のためである。
俺のこれまでのいきさつをソールは感心したようにうなづき、エルフの彼女は途中で急に驚いたり、不快感を示したり、怒りを露わにしたりとかなりせわしなかった。何かあるのか聞いてみたい気もしなくはないが、嫌な顔をされそうなのでやめておく。それにしても、二人の反応を見る限り異世界召喚者だからと言っていきなり袋叩きに合うようなことはないようだ。
もちろん、隙をついて…ということもある。よく、物語で隙をつく暇がいくらでもあったのに殺していないなら安心だろうみたいな状況がある。それに関してはその通りなのだが、相手を安心させて絶望に突き落とすように裏切ることに快感を覚える奴や、殺すのに元気な状態じゃないと気に入らないなどの変態ならこの状況でもいくらでもヤバいのである。今のところ俺の感覚ではそんな人たちではなさそうだ。そもそも俺がどうこうしたところで敵う相手ではないだろうし。
異世界人についてソールに聞いてみたところ、この世界ではない、いわゆる異世界からの召喚者に加えて転生者もいるらしい。特に近年では急激に数が増えたこともあってそこまで物珍しいわけではないそうだ。ただ、異世界からの来訪者は大抵大きな力を身に着けて現れるため、特別な存在として国はその力を欲して確保したがるらしい。
国によっては異世界人について神の加護をその身に宿した神の子、神の代弁者と宣う者もいるほどでどの国もなんとかして抱き込みたいようだ。また、そうした影響から異世界人は自らが特別な人間だと錯覚し、傲岸不遜な態度が助長するようになるようだった。
神の子ではないものの実際に女神から力を与えられている点は正しい上に待遇の良さを考えると人によっては自分は神の子だと虚言を吐く、そうだと盲心するものがいてもしかたのないことだろう。力を与えられたものは女神に関するを記憶を消されているので余計にそのような状態になってしまうのもうなずける。
俺だけが例外として女神に関する記憶を保持しているが、俺の言葉だけでは信じてもらえないどころか神の冒涜だとか言われかねない。もともとあいつに関して話すつもりもなかったが、肝に銘じておくとしよう。
「へえ~お前、異世界からの召喚者だったか。それにしてもこの変わった雰囲気はなんなんだろうな」
「ん?えっと…変わった雰囲気ってのはどういうことですか?」
「んや、別に気にするほどのことじゃねえよ?」
「いやいや、それは逆に気になるやつでしょ!」
いきなり、意味深なことを言い出したのでどうにかして聞き出そうとするが、どうにもこの後の会話を続けるつもりはないようだ。これ以上は無理そうなので残念ながら諦める。
「ッハハハ、目覚めたばっかりだってのに元気だな~ほんとに大したことじゃねえから安心しろ」
「それだけ聞いても安心できないんだよなぁ…」
まあまあいいじゃねえかと、とにかく話題を逸らそうとするソール。そういうフラグは後々回収されるのがお約束だからいつか伏線としてなにかしら起こりそうだ。そんなことがないことをもう祈るしかない。祈る相手があの女神なのでやっぱ祈っても絶対意味がないことに気づきもはや考えないことにした。
「それじゃあ、お前さんの事情はだいたい把握できたから今後の話をしようか」
どうやら本題にはいるようだ。真面目な話をしそうなのでフラグ云々についてはいったんおいておく。
「寝起きで悪いが、俺がどうこう言う前にまずはお前さんの意見を聞こうか。紅鷹って言ったか、それなら紅鷹。お前は今後どうするつもりだ?」
「今後についてか…」
確かに、今後どうするかについて考えないと行動を決めることができない。とりあえず、思いついたことを独り言のようにブツブツとしゃべりながら考えをまとめていくことにする。
「やっぱり最初は、王国からの救援を待つってのが一つだよな。突然おかしくなったバシュトさんや急にいなくなったフライシュさんはともかく、プラッツさんはあの魔法があるから用事が終わったら流石に事態の異変に気付いているはず。そうするとプラッツさんを経由して王国側からなにかしらのアプローチはあるだろうからそんなに心配する必要もなさそう…」
最後まで言い終わろうとするが、途中で何かが引っかかったために最後まで言葉が続かず沈黙する。
「ん?どうした。急に黙り込んで」
集中して考えたいのでソールには悪いが返答はしないで頭の中で考えを巡らせる。
まずは、今後の王国側がどのような対応をするのか予想してみる。
王国側は、既に俺たちの帰還予定時間を過ぎているので、なかなか戻ってこない状態が続けば流石に不振がるのは間違いない。このまま待っていれば、もちろん早急には不可能だろうがそれでもそれなりの早さで救援や連絡が来ると思われるのだが…どうにも嫌な感覚を覚える。
熟考とまでもいかないもののもう少し真剣に考えた方がよさそうな気がしてくる。というのも何かが引っかかっていて気持ち悪いのである。
少しばかり唸っていると自分の中で懸念があることに気が付く。それはダンジョンへと転移する直前のあのグロースアートの笑みである。ダンジョンに行きたかったばっかりに遠足前の子供のように高揚して気にしていなかったが、どうにも引っ掛かる。
いきなりではあるが、あいつが俺を始末するための罠だったのでないかと一旦仮定する。突拍子もない発想かもしれないが、転移直前のあの嫌な笑みから少なからず推測されることに加え、ここ最近では一番恨みを買っている相手でもあるので考慮する余地はあるだろう。
殺されるほどのことまではしてないはずだが、もし仮に今回の予想外の事態があいつの仕業なら王国に戻るのは少し考えないといけない。姫様やおっさんのような味方がいるとは言え、俺を仕留めきれなかったことが分かれば、口封じのためにさらに直接的な方法をとることも予想され危険が伴うだろう。
「やっぱり、王国に戻るは少しだけ待った方がよさそうってことかな」
最終的にはそう結論付けた。結局ほとんど何も決まっていないのでまた、一から仕切り直しではあるが。
「ほう、それに関しては俺も同意だな」
「え、ほんとですか?」
ソールは意外にも俺の考えを否定しないようだ。考えておいてあれだが、普通なら助けを求めるように頼むものだろう。
「実はな…お前さんを寝かせるときに防具が邪魔だったから外したらどうにも嫌な感じがしてな。調べてみたのだが…おい、もってきてくれ」
ソールはそういってエルフの彼女に俺が身に着けていた防具を持ってくるように頼む。
「は?嫌ですけど。何、偉そうに命令してるんですか、気持ち悪い」
「えッ?」
「えッ?」
思わずソールと同じように反応してしまった。エルフの彼女はなんだかんだいってソールよりも立場というか上下関係的に低いのかと思っていたのでこの罵倒にはさすがに驚かされる。
驚かされたはずなのに先ほどからの少ないやり取りからどうにもしっくりきてしまう自分がいるにはいるけれども…
「おー、こわ。なんで急にそんな機嫌が悪いんだよ?ったく。んなら自分で取りに行くっての」
「ええ、当たり前でしょう。速く取りにいってください」
ソールはエルフの彼女の急変した態度を奇妙に思いながらも結局自分で取りに部屋を出ていくのだった。
というかやけにぞんざいに扱われたな。
ソールが出ていってしまったので必然的にエルフの彼女と二人っきりになり、気まずい雰囲気が流れる。予想通り、エルフの彼女は気まずい雰囲気など全く気にした様子がない。結局耐えきれなくなった俺から話を振ることに。
「えっとぉ、そういえばお名前を聞いてなかったのですがぁ…、なんて、お名前なんでしょうか?」
「……アルテレム…。どうぞお好きなように呼んでくれて結構です。それと、突然そのなよなよした口調で話すのをやめていただけませんか。気持ち悪い」
「は、はい…す、すいません」
少し長い間があったものの以外にも素直に名前を教えてくれ内心、驚愕している。てっきり「は?なぜあなたに私の名前を教えなくてはいけないのですか?教えることに意味があるのですか?気持ち悪い」とか罵倒されるものだと思っていた。それでも結局のところ最後には気持ち悪いとは言われたので委縮してしまった…
「それと、貴方、確か紅鷹といいましたか。ここに落ちてきたことは不幸だったかもしれませんが、あのクズどもを煮詰めた肥溜めみたいな国から出られたことだけはかなりの幸運ですよ。よかったですね」
「く、クズを煮詰めた肥溜め…!?」
凛とした透き通る声、丁寧な言葉遣いの途中に幻聴ともいえるような漫罵の言葉に困惑する。
「えっと。そんなに手酷く言われるような国とは思えないんですけど。エアステンス王国はそんなにひどい国なんですか?」
「貴方は知らないようですが、それはもう…」
そう彼女の言葉が続く前にドーンと勢いよくドアがけ破るように開き、トールが腕に俺の装備を抱え持って帰ってきた。
「お!?なんだ、なんだ!二人とも取り込み中か?もしかしていい感じな雰囲気か?もうちょい後にしてやろうか?」
「いえ、別に大したことではないですから問題ありません」
随分と楽しそうというより嬉しそうにするうっとおしいトールとは対照的に彼女、アルテレムは淡々とした声でなんでもないと言い、結局そのまま部屋を後にした。
いや、あの、だから意味深なこと言って消えるのそろそろやめてもらえません?さっきから新しい情報がでてくるがそれが一体何か分からないというもどかしさに少々いらつきを覚え始めた。
「ふむ?なんだもういいのか。それにしても珍しいこともあるもんだな、あいつにしてはやけに気にしていたなお前のこと。平静を装っていたが間違いなく意識していた。うん、あれは途中で俺の邪魔が入って拗ねていたな。いやぁ、もう少しお前と話させてやればよかったなあ」
「本当に意識してましたか?あれで?」
ソールがいうならそうなのだろう…とはさっきのこともあるから言えないが終始機嫌が悪そうだったし、声の抑揚の変化なども見られないのでとても俺に興味があったとは思えない。
「さて、そろそろ話を戻すがさっきお前の案に賛成したのはこいつらが関係している」
「それは、俺がつけていた装備ですね?こいつに何にか問題があるのですか?」
ソールがここに持ってくる前に嫌な感じがすると言っていたが、俺としてはつけていても特に違和感の様なものは覚えなかったが。
「ああ、フェーズがやたらとこいつを気にするから調べてみたらこの装備に魔獣を引き寄せるように細工がなされていた」
「それは本当ですか!?」
「ああ、正確に言うと狼型の魔獣を引き寄せるようにしていたんだろうな、お前のつけていたすべての装備表面、あと内部にもなじませるように加工して哺乳類と思われる血が染み込んでいたことを確認した」
まじかよ、そこまで。表面はともかく内部にまでしみこませるとか確実に殺りにきてんなあ。これでこの防具一式を渡してきたグロースアートは間違いなく俺を殺そうとし、俺の敵であることが確定した。
「本当にごく少量だからお前が気づかないの無理はない。さっきお前が話した狼の魔獣に襲われたというのにも納得がいくだろ?」
「そうですね。ちなみになんですが、塗られていたのは防具だけじゃありませんでした?多分なんですけど剣の方には何もなかったと思うんですがどうでしょう?」
俺の予想が正しければ、第一王子のヴァイスは俺の敵ではないはずである。その証拠にあいつからもらった短剣には何も細工もないことからそれがうかがえる。ただ、グロースアートの企みを知ってて放置してるのだとしたら完全な見方ではなさそうだ。敵ではないが味方でもないといったところか。
おそらく今回の件もグロースアートから直接または間接的に情報を入手、もしくは最初からグルだったが実行には移さなかった。面白そうだから傍観した。そんなところだろうか。意識させるためにわざと自分から短剣を渡して装備のことも気づくようなヒントを与えて楽しんでいると推測。相対してみて俺とかなり近しいものを感じたので当たらずと雖も遠からずだろう。
「ああ。紅鷹の言う通り、確かに短剣は問題ないな。それにしてもけっこうな業物だぞこれ」
ソールはそういいながら手に持った短剣2ヒを見事な手さばきで遊ばせている。
「で?王国に戻るのは危険だとわかったのはいいが、結局どうするんだ?そもそも向こう側からこちら側へと干渉するのはおそらく不可能だぞ」
「どうするか…」
そうなると、考えていた案が一つある。実のところこれを期待していた自分がいる。いや、そうと決めていたようなものか。ただこれを呑んでくれるかはソール次第だな。
「ソールさん、貴方に頼みがあります」
「なんだ?」
俺の態度が急にかしこまったことでソールも真剣な内容だと感じ取り、声音がわずかにこわばる。
「俺を強くしてくれませんか?」
「……ふむ。どうしてそんなことを頼むのか、理由を聞かせてもらおうか?」
「はい」
急に強くしてくださいと言ったのにもかかわらず、たいして驚かず冷静な対応。さらには理由まで聞いて、応じる様子まで見せているのは結構想定外の反応である。
「まず、ここから出ることができたらの予定ですが、王国からはいったん距離を取ろうと思っています。さっきの件を鑑みるとおそらく王国側に俺のことを良く思っていないやつがいるのは間違いないですから。もしこのあと王国に戻ったら今回の騒動もあってさらに俺の命が危ないことになるでしょう。そうなると今後としては一人で生きていく力が必要になると思われます」
今回の騒動が知られれば俺への信頼は低いにしても不審な点は確実にあるうえプラッツさん達も証言してくれるだろう。いくら宰相のグロースアートといえど、立場が危うくなると思われる。そうなると、今回の企みで俺を仕留めきれなかったことを知れば口封じのためになんとしても亡き者としようとして行動が過激になることが十分に予想される。
「異世界からきた俺にはこっちの世界の身の振り方も常識もまったくの皆無です。その中で絶対的に揺るがないものとして、また生きていくために力が必要だと考えました。そうなると噂に聞く冒険者になるのが一番話がはやいと結論にいたります」
「一応、言いたいことは分かったが…お前本気で言っているのか?冒険者ってのは実力のない奴からすぐに死ぬぞ。まともに生活できるのやつもごくわずか、さらに五体満足で引退する奴なんてそれこそ一握りだ。紅鷹、お前は異世界から来たせいで冒険者に夢を見ている、または自分は大丈夫と思っていないか?」
ソールからのごもっともな意見。しかし、初対面の俺に対してここまで案じてくれているのが言葉の端々から伝わってきて少しむず痒い感じがする。
「もう一度聞く。本当に冒険者になるつもりか?お前はその選択に覚悟を持つことができるのか?後になって後悔しないと誓えるか?」
「……」
少しの間、部屋の中を沈黙という静寂が訪れる。ソールへの問いに即答しなかったのは言葉にする前に自分に覚悟を砥いでいるから。
「冒険者になるっていう選択肢が正しいかどうかわかりません。もっと他に見えていないだけで選択肢はあるんだろうと思います。ただ、自分のこの選択には絶対に後悔しないと誓えます。これは俺が以前から、それこそ、ここへ来る前の向こうの世界での死んだように退屈な毎日から望んでいたことです。ただの憧れでそんなものは続かないといわれたとしても俺はそれを突き通します」
「……はぁー、意志は固そうだな。一応おせっかいのつもりだったが、余計なお世話みたいだな。なら、望み通り紅鷹、お前を強くしてやる。先に言っておくが俺の指導は甘くはないぞ」
どうやら、俺の回答に満足してくれたようだ。なら俺もそれ相応の態度で臨まないとな。
「さて、ただその前にお前さんに確認しとかないとならないことが二つある」
「なんでしょうか?」
ソールはまだ俺に聞きたいことがあるらしい。なんだろうか。
「まずお前、なんで俺に指導を頼もうと思ったんだ?確かにここから出られなかったら選択肢は少ないかもしれないが、別にさっきのアルテに頼むって選択肢だって少なくともあるはずだ。それなのに俺を選んだのは理由があるはずだろう?」
ソールは自分が指導係として偉そうではあるが俺の御眼鏡にかなうのが不思議らしい。俺にしてみればむしろなぜそんなことを思うのかが不思議である。
「え、普通にソールさんが化け物みたいに強いからですよ。まあ強いからと言って指導が向いているかは別の話でしょうが、少なくとも自分よりも強い人からの助言はあるといいですから」
「化け物呼ばわりされたのはいったん置いておくとして、その紅鷹の俺への絶対的な強さの信頼はどっからきてんだ?」
「うん?いや、見ればわかりますよ。こんなに対面して勝てるビジョンがまったくわかなかった人はそう滅多にいませんよ。それにさっきの魔獣、フェーズって言いましたか?あれの飼い主として手なずけてるのならどうみたって強いでしょう」
「なるほどな…今言った発言から、お前さんがかなり特殊なやつだってことは分かった。それじゃあもう一つだけ。お前……いつまでその気持ち悪いキャラクターを演じてるつもりだ?歪さが所々からにじみ出ているのが伝わってくるぞ」
「えっと…?ちょっと何言ってるのかわかんないですけど?」
まさかあの女神と全く同じことを言うやつがいるとは思わなかった。ソールの懐疑的な視線に正直なところ心底驚いているがそれを何とかして表情に出さないようにいつもの作り笑いを浮かべる。
「それだよ。他にも口調だとか考え方だとか仕草だとかいろいろあるが、一番はその作り笑いがやけに整っていて気持ちが悪い。いつまでも隠し通せると思っているのならさっきの話はなしだ」
「…」
ここまで言われると隠し通せるものじゃないな。女神の時とは違って、心を読まれたわけではないのにも関わらず、こうも疑念を持たれるとは。まったく、今までほとんどやつにはまったく気づかれなかったってのに少し、自信をなくすぞ、まったく。
「はぁあ…ったく、なんでまた気づかれるんだよ」
「うーん、まだそっちの方がしっくりくるな」
「お前の言う演じてるキャラクターはやめてやった」
「お前自身も気づいてないだけかもなぁ、まあ口調は悪化したが、さっきよりはましになったしよしとするか」
「何言ってんのかわからんが俺は全くよくないけどな」
先程とは打って変わって粗暴な発言に少し高めの声から低い声の移り変えた。取り繕うのは流石に限界だったため、結局女神のときと同様に白状する形になってしまった。ソールの言う通りこっちにきてからは演じるのは段々と馬鹿らしくなってきたしちょうどいいと考えるか。向こうでは意味があったかもしれないが、こっちでは敵さえ作らなきゃこれをみられても問題ないしな。
「んじゃあ、ようやく紅鷹の内面を少し見せてくれたことだし、一応、確認するがさっき言ったことは嘘ではないんだろうな?」
「ああ、冒険者になるってのは間違いない。こっちの世界では俺にとって強さってのは絶対に必要になるからな。ただ、ここまできたから言うが一つだけ訂正しておくことがある。実際には冒険者になるために強くなりたいわけじゃあない」
「あ?それはどういう意味だ?」
ソールがやたらと疑問そうに紅鷹に尋ねる。俺への指導がなくなるかもしれないがここまできたら正直に白状しておくとしよう。
「俺の目的はただ一つ。こっちの世界にいるであろう親の仇を探し出してこの手で殺すこと。さっき言ってたあの姫さんとの約束も破る気はないが、あくまで最優先は親の仇だ」
復讐に燃える心は凍てつく氷のように冷たく、どす黒く濁った深い闇の様な眼でソールを見つめ、殺意を乗せた静かな返答を返す。
これは、あのクソ女神との去り際に聞いた言葉
「あなたの求める仇は王国の中よ」
あいつが俺の過去を知っているのならこれが意味するのはそういうことだ。あいつが嘘を言っている可能性は十二分にあるが、王城内を散歩しつつ探っているうちにお姫さんの部屋である写真を見つけた。
その写真には俺の母親によく似た姿のエルフの女性と以前一度だけあった現国王グラウザムの面影が見える父親おそらく先代の国王と金髪の男が写っていた。
「ただ、あの姫様には借りがある上に、自分でも驚くほど気に入ってる。個人的には王族なのにそれを傘にきた感じがしないのはやっぱり好印象だな。だからか不思議とできる限り力にはなってやりたい」
正直、これには自分でも驚いている。さっきの俺ならともかく今の俺にそのような感情が残っているのは異常ともいえるのだから。
「なるほどなぁー、事情は分かったが、本気でもおまえが魔王を倒せると思ってんのか?それに親の仇なんてそもそもいるのか?」
「俺の中ではもう確信に変わってる。そもそも両親が死んだかどうかもわからないが情報があるのは確信した。それにやれるかじゃない。やるんだよ」
「ハハハハッ、ようやく鷹瀬紅鷹ってやつを知れた気がするな」
「本当は退屈凌ぎで冒険者になろうとも思ってはいたんだが優先事項が発生したもんだから仕方がない」
俺の変わりようにもまったく態度を変えることなく、それどころか楽しそうに笑いながらそれでいて冷静に俺という人間を分析するソール。復讐に力を奮うと宣言したのにも関わらず、気にせず俺を強くしてくれるらしい。こういうことを言うと絶対に教えないってタイプだったり、更生させようとするタイプってのがいるが、どちらでもなさそうだ。
「お前の目的も聞けたことだし。いいぜ。お前を強くしてやるよ。但し、死んだとしても文句言うんじゃねぞ」
「死んだら幽霊にでもならないと文句はいえねえけどな」
「ハハ、それもそうか。ただ、こっちの世界においては言おうと思えば言えなくもないが。それは今後にでも話してやるとして…」
「ったく。さっきからそういう後々聞いとけばよかったみたいなことをボソッと言って終わらせるのはイラつくっての」
俺が最後まで喋り終える前にソールは扉の前に音もなく一瞬で移動する。
「…は!?」
流石に意味がわからず驚きを隠せない。
おそらくだが普通に考えれば魔法を使った。だがいったいどんな属性だ?プラッツみたいな空間系か?
「ま、まずい!おい、全員早く離れろ!」
扉の奥から男と思われる小さい声で焦ったような口ぶりが聞こえてくる。
一瞬で移動したソールは扉の前に立ち、勢いよく扉を開く。扉の向こうからは子供たちが流れ込むように部屋へ転がり込んできた。
「また子供…か」
俺が起きたときもそうだったが、子供の数がやけに多い。それにこいつら…
「お前ら、どこまで聞いてたんだ?ったく。まあちょうどいい、おいライ、今日から厄介になることになった紅鷹だ。とりあえず、数週間くらいはお前が面倒をみろ」
「ハァー!?ッんで、俺なんだよ!こんなヤバそうなやつの面倒とか見たくねえよ!」
いきなりヤバい奴認定されたところを見るに先ほどの復讐云々のところを聞かれたっぽいな。別に聞かれたこと自体はさほど問題ではないが、本人を前にヤバい奴をいうとはなかなか礼儀のなっていないガキである。
「一応、アルテにも言っておくから二人で何とかしろよぉ」
「なんで、あのぶっきらぼうの新顔エルフと一緒なんだよ。ふっざけんなっ!あいつ目が怖いんだよ!」
「とにかく、決定事項だから。やらないんだったらライは明日から雑用全部押し付けるから、その代わりそいつの判断はおまえに任せるからよろしく〜」
「あ、っちょ、おい、まて!話は終わって…」
ソールはライとかいう中学生ぐらいの所々に鱗が見える子供に要件を言うだけ言って部屋から出ていった。ライの声はソールに届く来なく虚しく途切れた。
大きなため息と共に俺をにらんでくる。俺のせいだと思うなら甚だ心外だ。
「おい!お前名前は?」
「鷹瀬紅鷹」
「そうかコウヨウ、やりたかねえが俺がお前の世話係になった。つうことでまずはついてこい」
「はあー」
俺の返事をする間もなく顎で指している。扉の外へ出ろってことらしい。正直面倒くさいがここはおとなしくて従っておく。俺らが外に出る前に他の変わった姿のガキどもがワラワラと叫びながら先に出て行ったおかげでかなり静かになった。
扉の外に出ると結構な長さの廊下が続いていて、部屋の扉が見ただけでも10枚はある。思った以上に広いなここ。歩きながら最初から気になっていることを聞く。
「ところでさ、お前たちってもしかしてハーフとかだったりするのか?」
「あッ?だったらなんだってんだ?」
まあ予想はしてたがお怒りのご様子。こいつの沸点が低いというよりは散々言われてきたんだろう。
「いや、別に気になった聞いただけだ」
「俺らみたいな半端者と一緒がいやなら今すぐ出てってもいいんだぜ?」
「だから、聞いただけだって言ってるだろ。むしろ会ってみたいと思っていた」
「あ?俺たちみたいなのを物珍しく愛でたいとか気持ちりぃこと考える変態か、それともどんな惨めに生きてるか憐れみたいのか?」
「だーから、違うっていってんだろ。俺は異世界人なんだからこっちの常識とあわせるなよ、俺は純粋にいろんな向こうにはいない種族を見てみたいってだけだ」
「そうかよ」
ライはそう言ってそっけなく話を切った。
今ままでの扱いが酷かったせいでかなり極端な考えをしてるな。無理もないのかもしれないが別にそこは心底どうでもいい。こっちの世界にはどんな種族がいてどういう特徴を持つのか知れさえすればいい。
「一応名乗っておくか。勘違いすんなよ、別にお前を認めたわけじゃないからな」
俺の反応が予想外だったせいかいきなりツンデレ風になった。いや、気持ち悪いからやめろ。
「ライジェル、周りからはライって呼ばれてる」
「ああ、よろしくライ」
ここは友好な関係を作っておいた方がいいだろう。どうやら俺の世話係になるらしいし。
「それじゃあさっそく聞くが、俺はどのくらい寝てたか知ってるか?」
「あー、たしか、ヴェラが忙しそうにしてたのが昨日だから1日経たないかぐらいじゃないか?今は朝だし」
「それなら対して寝てなかったみたいだな」
こいつが言っていることが正しいのならダンジョンに向かったのは昼頃だったし時間を考えても本当にたいして寝てなかったのだろう。
「お、ついたな。人数多いから仕方ないが、それにしても広いよなぁ」
独り言を言いながらライは目の前の扉を開ける。扉を開けると外に通じていた。
ようやく、目的地かと思ったら外だったか。
そこは、おそらく俺がダンジョンから落ちてきた森の中だった。外に出てみると、2、30メートルほど整地された大きな空間がある。
また、俺が出てきた建物をみると木造建築だが、豪邸と言っても過言ではない作りの大きさだった。さらに隣には相当高齢そうな大木が佇んでいた。おそらく俺が目指したと思われる大木。大きさわからないが50メートルくらいか?そして、全体を囲み森から守られるように薄い視認できる程度の透明な膜みたいなものに覆われていた。これは結界みたいなものか?
「よし。コウヨウ、とりあえず、そこら辺に立て」
「…」
ライが整地された場所を指で刺しながら指示する。一緒には来ないみたいだ。何かありそうな雰囲気なので普段なら絶対、安易に言われた通りに近づかないが反抗して追い出されるのは面倒だから渋々ながらもやはり素直に従う。
「言われたとおりの場所に立ったぞ?」
ここの場所が特に何かありそうな雰囲気は感じられない。気にしすぎだったか?いや、何かはあるはずだ。
「おう。そういえば、そこに立ってみてどんな感じがする?」
「どうもこうも特に何も変わった感じはしないな」
「そうか、やっぱこういうところは流石だな。ソールのおっさんは。普段の姿を見てると認めたかねえが」
ソールが流石?どう言うことだ?独り言だったがしっかりと聞き逃さない。自慢ではないが俺の耳はかなりいい。
ライが言っている意味はわからないが俺が聞こうとする前にライが続ける。
「コウヨウ。お前の首に見覚えのないものを身に着けてないか?」
そう言われて首元を確認すると姫様からもらった首飾りに加えて、真っ白い磨かれた宝石のような丸い形の首飾りが胸元近くの長さまで垂れていた。言われてはじめて気づいた。普通に考えれば気づかないはずはない、特殊な何かとみるのが妥当か。
「覚えのない、ネックレスがある。お前の言ってるのはこれのことか?」
「ああ、それで間違いない。気づかないもんだろ?最初からついてたぜそれ。それじゃあそいつを外してこっちに投げてくれ」
「…ああ、わかった」
これにどんな効果があるのか。見た感じ魔結晶とかそう言う類いものか。何かしらの効果があってつけられていたはずだ。だが、肉体的にも精神的にも何も異常は見当たらない。俺が気づかないようなものか?渡す前に考えうることを検討したがどれも思い当たらない。
ライに向かってネックレスを投げた途端。
急激に地面に引っ張られ手をついてなんとか耐える。四つん這いの姿勢を保っていたが体が耐えきれずうつ伏せの状態になる。
「クソッ、寝起きで完全にボケてた」
「お、気づいたみたいだな。流石にその状態になればバカでもわかるだろ?」
「ああ、何も感じないほうがおかしかったんだ、俺が森に落ちて死にかけて時に体が重かったことを考えればここに来て重くならないはずはない」
魔素の影響がここの森に落ちてきたときにわずかではあるが感じていた。そこからこのでかい大樹に向かって歩いていてフェーズとかいう化け物に襲われた時にさらに重くなった。ということは、大樹に向かえば向かうほど魔素が濃くなる、つまり重力の影響がより強くなるということだ。死にかけの寝起きで普段以上に気を回せていなかった。
「そういうことだ。ここは地上に比べて相当空気中に分布する魔素量が多い。重力で言えば地上の3倍以上はあるだろう。ちなみにお前が死にかけた場所よりも軽く2倍は強いぜ、あそこでも地上の確か1.5倍程度。今のお前には相当きついだろ」
「死にかけた寝起きの直後にこの仕打ちはないんじゃないか?」
「悪いな。俺はまだお前のことを認めたわけじゃない。一日だ。一日でさっきの部屋の場所まで戻ってこい。方法は問わないぜ。身体強化を使うもよし。魔法でぶっ飛んでくるもよし。誰かに手伝ってもらってもよし。とにかく部屋までこれたらお前のことを認めてやるよ」
「まったく、面倒なことをしてくれる」
「その割には気持ち悪いほど笑ってるぜコウヨウ」
ライは建物の前の階段に座り、足を組みながら不敵な笑みを浮かべて俺を見下ろしていた。
すぐに投稿すると言っておきながら3ヶ月もかかるという体たらく、誠に申し訳ないです。
予想以上に長くなってしまった。ゆるして…
最近、作品全体を見直すと変更点が見つかってので、確定ではないですが再度投稿しなおすかもしれません。
その際は、今の3章のストックを作って再度投稿いたしますので読んでくださる方は引き続きよろしくです。




