#30 使用人(見習)補充
で、セヴァルが迎えた来客というのは──
「やっほーっ、ヒナリィ、ティシャ!」
「こんにちは、おじゃまします」
「ぉじゃまします…」
「来ちゃったよー、えへへっ」
「姉ちゃん、ちゃんとやってるか?」
「みんなーっ!」
「いらっしゃい、みんなそろってどうしたのですか?」
「ウォルまで来たのね。ちゃんとやってるよ、結構腕上がったんだからねっ」
──やはりと言うか先程セヴァルとの人員補充の話題で上がっていた面々だった…休日で学園が無いから来ても別におかしくはないんだけど、やっぱりタイミングはどう考えてもおかしい…まるで見計らったような。
「へっへーっ、今日はな、ナオト兄にお願いがあって来たんだぜーっ」
「ナオトお兄さん、使用人をふやしたいと聞いたんですが」
「ゎたしたちじゃ、ダメですか…?」
「カティもーっ」
「おれは…しつじの方で」
「………いや、君たちは学園生でしょ…。ちゃんと勉強しないと」
「これも勉強のうちだって父ちゃんに言われてきたよ」
「カティもー言われたよー」
「え…ちょ、フォルさんもディモルさんも何言ってんのさ……」
「わたしもナオトお兄さんのところならいいってお母さんが」
「ぅん、そぅぃってた」
「優里香さんまで……」
いや、学生の本分を全うさせてあげましょうよ、まだ成人前の子達にそんな社会勉強みたいなことさせなくても…。
バイト感覚はちょっとなぁ…日中からちゃんと働けるような人じゃないとジィナやメイド組、セヴァル達の負担は減らないだろうし。
ここはちゃんと断るべき…と思ってたら、予想外な…いや、ある意味予想通りな所から援護射撃が。
「いいんじゃないのー?見習いってことで雇ってあげてもっ」
「…リズ、お前まさか……」
「統括としては見逃せないよねーっ、にししっ。ナオトだってチビっ子大歓迎でしょっ?違う?」
「いや、そりゃ子供は好きだけどさ、今回のはちゃんと仕事してもらうためのものなんだから。これだとセヴァル達に余計負担掛かるだろ?見習いの教育とかしないとだし。そうだよな?セヴァル」
「そうですね…正直なところ、現状で受け入れるのは厳しいでしょう。ですが、正式な募集要員も確定出来れば然程問題にはならないかと。見習いとしてでよろしければですが」
「え、いいの?」
「はい。再度申し上げますが、見習いとしてならば問題はありません、と」
…見習い、ね。
ひぃやティシャの友人としてではなく、この家で働く見習いとしてならってことか。
まぁ一人だけ場違い感があるからなぁ…貴族の御令嬢がなんで使用人の募集に来てるのかと。
友達の家だからって遊びに来るのとはワケが違うんだぞ、そこ分かってるのかロッサ。
「…ロッサ、君はどっちかっていうとこういうことをする側じゃなくてされる側だと思うんだけど…」
「そうだけど、でもオレっちだってちゃんとできるんだぜっ!えっと…こうかな?『お帰りなさいませ、ご主人さま』」
…男兄弟に囲まれてたせいか、男勝りな性格をしているロッサだけど、こう見えてお嬢様っぽい服装をしてる、まぁそれでも何処か動き易さ重視って感じなんだけど…スカート丈はひぃやティシャが着ているような服より短めで、なんて言っていいか、そう、アイドル衣装の貴族版みたいな、そんな感じの格好。
この間初めて会った時も今と似たような格好だったんだけど、それで俺と庭で剣の立会いしたんだよな…そんなんだから姫騎士みたいって思えちゃって。
そして今はその格好でカーテシー決めながらその台詞を言ってるし…。
「…なるほど、こうですか。『お帰りなさいませ、ナオト様』」
「…いいですね、それ。『お帰りなさいませ、ナオト様』」
「え?えっ?えっと…『お帰りなさいなのです、ナオト兄様』」
「いや、なんで君らまで真似する……」
そんな仰々しく迎えられても困るって、何度も言ってるけどこんな家に住んではいるものの俺は貴族ってわけじゃないんだから…それ以前にメイド服でカーテシーとかアリなんですかね?何故か三人とも様になってるし…。
「……お帰「だからエマまでしなくてもいいからっ」……そうですか………」
「なっ!オレっちだってやればできるんだぜっ!だからさっ、いいだろーっ?ナオト兄っ!」
「…ロッサのご両親はなんて言ってるんだよ……」
「んっ?えっとなー、これをきにじょせいらしさをみにつけてこいって言われたぜー」
「……なんという無理難題を…。そもそもそれを身につけるのには圧倒的にこの家むいてないぞ……」
友人宅で学ばせることじゃないだろ、それ…っていうかもうロッサには必要無いんじゃないか?騎士目指した方がよっぽどお似合いだろうし…。
困ったな、これどうすればいいのか俺でも判断出来ないぞ…。
「兄ちゃん…」
「ナオトおにーちゃん……」
「ナオトお兄さん……」
「ぉにぃちゃん……」
「んぐ……っ」
「はいはい負け負け。ホンットナオトは分っかりやっすいなぁ、くはっ」
「ええやんか、ヒナリィとティシャの事考えたらこれでええんちゃうの?」
「…私も案外良いのではないかと思いました、コロネの下に付けるという点で。そろそろ教育を行う立場も経験させたいと」
「だってさー。エマさんもこう言ってるしいいんじゃなーいー?お兄さんっ」
「断る理由あるのか?兄さん」
「……いや、ほら、まだ未成年なのにこんなことさせるのは……」
「本人達がやりたいって言ってるんだからいいんじゃね?」
「尚にぃって子供たちに好かれてるんだねぇ…」
「……また…増え、る……?…………」
「リオのそれはどっちのこと言ってるのかな?当然この家にいる人数のことだよな?なっ?」
「どっちでもいいと思うよーっ!んん〜っまた賑やかで楽しくなるぅーっ!」
「いや、どっちでもよくはないっ!」
「また今更なことを…。もうヒナリィとティシャがいるんだからいいでしょう?」
「…………」
子供達にあんな懇願顔されちゃ俺にはキッパリと断ることなんか出来ないって…けど、未成年にこんな下働きみたいな事させるって、どうなんですかね?向こうの世界じゃまずあり得ないというか、やっててもお手伝いレベルだと思うんだけど、こっちの世界じゃこれは有りなのか…?なんか皆いいんじゃないのって言ってるし…しかも次いでみたいにハーレムにも入れていいとか…。
まぁ?もう、一人はサブ待機されてるんですけどねぇっ!
「畏まりました。ではそういうことで。皆部屋へ案内しよう。ウォルは私の部屋の隣…いや、暫くは私と同部屋にしよう。カティ、トウカ、ヒミカ、それと…ロッサは同じ部屋とする。エマ達の部屋の隣でいいだろう。そちらはエマに任せても?」
「はい、問題ありません。では早速部屋で着替えてもらいます。コロネ、手伝ってもらえる?」
「はいっ、分かりましたのですっ」
「よしっ!」
「わーいっ!」
「やったぜーっ!」
「「ありがとう」「ござぃます」」
「んんんっ?え、ちょっ、決まりっ!?」
「アタシらの時と同じだな」
「セヴァルさんって決断早いですよね」
「もうびっくりするくらいね…」
「セヴァルがいいって言ってるんだよー?ナオトがそれを覆せるのっ?」
「………何でだろう、俺雇い主のはずなのに無理だと思ったわ………」
「セヴァルさんって皆さんからの信頼も厚いんですね…」
「有難う御座います、マモリ様。偏にナオト様を第一に考え尽力している賜物かと」
「セヴァルはーとっても気の利くいい人なのさーっ」
「本当にセヴァルさんには良くしてもらってるよね、私達も」
「気持ちよーく練習に没頭できるよー」
「そうだねぇ、ふふっ」
「…奥様方からの評価、大変光栄です」
嫁達からの信頼も厚い万能執事…こんなイケメンが嫁達の側に居たらそっちに行ってもおかしくは無い、と普通は思うのかもしれないけど、何故か全くそんなことは思わない俺もどうなんだろうと。
それだけ俺も信頼してるってことなんだろうけど…この際その謎をちょっと聞いてみようか。
「セヴァルはさ…どうしてそこまで俺に尽くしてくれるわけ?俺ってただの雇い主じゃないの?」
「…ナオト様はお気付きでは無かったと思いますが、ナオト様は私に絶対的な強さをこの目に焼き付けてくださいました」
「…?俺そんなことしたっけ…?」
「はい。あれは皇都への護衛任務の帰りにあったことです。本当に偶然でした…ヒロシ様のパーティーやシータ様達の戦闘を眺めていたのですが、その最中、ふと私の後方にいたナオト様の方へ振り返ったのです。するとそこには魔物達と対峙しているナオト様の姿がありました」
「…あー、そういえばあったかな。みんなが戦闘中に後ろから来た奴らがいたなぁ。確か…アサシンコボルトだったっけ」
「「「「アサシンコボルトっ!?」」」」
「うぇっ!?そんなヤツらが来てたのかよっ!?」
「確かあれやろっ?コボルトなのに熟練の冒険者でも気配掴むの難しいいうて……」
「今のアタイならイケるだろーけど、あん時のアタイでしかも戦闘中ならぜってー気付かねぇな……」
え、アイツ等そんなにヤバい奴らだったの?まぁ俺も気配とかで気付いたわけじゃなくて、マップ見てたから後ろから来てる奴らいるなーって分かっただけで。
あの頃からアーネの気配察知の方が優秀だと思ってたけど、そのアーネでも気付かなかったとか言うなんて…ちゃんと注意してマップ見てて良かった…。
「…それが十数体、今まさに飛び掛からんとしているところだったのですが…一瞬でした。私にはそれが一振りにしか見えませんでした。その一振りで魔物達は全て霧となり散っていったのです…」
「うん、まぁ間違ってないよ、実際一振りだったし」
〔斬首〕で纏めて一閃したし。
皆手一杯だったから余計な心配させないよう俺がパパッと片付けちゃおうって相手しただけだったんですが。
「…これも一瞬でした。その光景に私は心酔し全てを奪われました…この人に付いていけば何も間違いは無い、と」
「あぁ〜…それはぁ〜分かるかもぉ〜」
「そんなの見ちゃったらね…わたしもそれは見たかったなぁ…なんて」
「……流、石…マスター………」
「えっ、それだけでっ?」
「はい、もうそれだけで十分でした。これから先、ナオト様に誠心誠意仕えようと心に決めた瞬間で御座います」
「……実を言うと、私もその、それを見ておりまして………」
「メイド長はズルいです、後からそんな話を聞かされて…私達だって見たいに決まっているでしょう」
「そうです、美味しいところ独り占めして一人で勝手に話を進めてナオト様に仕えますとか言い出して」
「わたしも…見たかったのです……ナオト兄様のカッコいいところ………」
あー…俺としては大した事したとは思ってないけど、他の人から見たらそれはそれで凄かったと…。
そっかぁ、そんなにかぁ…そこまで思われちゃうとか、この世界での腕っ節って相当重要視されちゃうのね…。
こんな普通顔の俺でもハーレム出来ちゃうくらいだしなぁ…見た目で騙されるような事は無い、と。
これで俺もイケメンだったらこの状況を納得して思い上がったりしてたのかな…いや、そんな事は無いか、そもそもこうすることを望んでたり、こうなるよう求めたり、そんな事は欠片も考えて無かったし…いや、うん、ちょっとはね?可愛い娘と一緒に冒険出来たら楽しいかなぁ、くらいはこの世界に来た時思ったりもしましたよ?所謂ラノベ主人公のヒロイン枠みたいな娘と一緒に冒険を!なんて…折角異世界に来たんだし。
まぁ黒歴史なスキルがあった時点でちょっと諦めたりもしましたが…恥ずかし過ぎて人前ではちょっと、って一人で頑張ろうとか。
結局使わざるを得ないから使った結果、今こうなってるってわけですね…厨二時代の俺に感謝とかホント複雑なんですが…。
「あー、うん、分かった…。そういうことなら、まぁ俺からは何も言えないな……」
「私の主となっていただき有難う御座います。これからもナオト様の期待を裏切る事なく仕えていく所存です」
「…そこまで固くなくてもいいんだけどな…。まぁ、それじゃこの子達の事も頼んでいいかな…?」
「勿論で御座います。御期待に応えられるよう、努めさせていただきます」
「えっと、みんなもそういうことなんで、よろしくってことで…」
嫁達も全員異論は無いようで、うんうん頷いてたり、早速子供達に話し掛けたりと、見た感じは喜んでくれてるみたいだった…特にひぃとティシャはやっぱり嬉しかったんだろう、友人達と一緒になってキャッキャと騒いでた。
ま、これを見たらこれで良かったと思うしかないかな、リズの言う通り個人的には子供達が増えるのは大歓迎ってのは間違い無いし…純粋に好きだからです、そこはエクリィに誓ってもいい、あんなのでも神ですから。




