#28 全員集合(一柱含む)
──明けて翌日。
そう、翌日です、翌日と言ったら翌日なのです、昨晩の事は最早何も語るまいと心に誓って迎えた翌日なんです、俺もどうやら対魔王戦で昂っていたようで…皆が無事だったこともあって、そりゃもう………って、いや、だから語らないと誓ったんだって。
今日は元々休日だったらしく学園はお休み、ノルチェに勤めているウェナとシャリーも何故か仲良くお休み、ギルド受付嬢のリズとファルはクリス女史から俺の事を労ってやりなさいとお達しを受けていたらしく今日は行かなくても大丈夫とのこと、そして魅音達は夕方からのステージだけにするってことで、朝から全員集合しているわけで。
お客さん含め、もうめちゃくちゃ賑やかな朝食─一部の人は多分俺のせいでほへぇーとかふにゃーとか言いそうな顔してた─を取った後、久しぶりにのんびりした食後のティータイムを堪能中…シータメインで作ってくれた朝食がまたもう絶品で、今こうして至福の一時を味わえている…。
シルファのところで厄介になってた時はシルファの家の料理人が作った食事だったから、ヴェルドグライア公国の行き帰りの野営以来かな…ちゃんと家で取ったシータの食事は本当に久しぶりだった。
我が家の食事番は最強です、俺含め皆の胃袋はもう彼女に掌握されていると思う。
「あー、お嬢。俺ら正式に御役御免ってことでいーんだよなっ?」
「遂に解放される時を迎えたか……っ」
「あなた達ねぇ…。まぁいいわよ、今は気分がいいし何言われたって気にならないからねっ。お父様にはよろしく言っておいてくれる?私の後の事は…ソリフェに全部任せるわ」
「「げっ!?」」
「そりゃそうかっ!お嬢がいなくなったんなら次はソリフェ…小嬢に決まってんじゃねーかっ!?」
「むぅ…何故こんな単純な事に気が付かなかったのだ…。ソリフェお嬢様か……我等が解放される日はまだ遠いということか………」
「ホントあなた達失礼極まりないわね…。まぁとにかくあの娘のことよろしく頼むわよ。あれでも大分マシになったんだから大丈夫でしょ、セラフィの事伝えてからは。あの娘は本当にセラフィっ娘だしねぇ」
「シルファ、ソリフェって?」
「私とセラフィの妹よ。セラフィがああなってからずっと沈んでたんだけど、私の夢のこと話したらかなり復活してきたわ…。それでもまだみんなの前には出てこれなかったみたいだけどね。あと契約精霊の性質上あの娘は元々暗い性格なのよね……」
「そっか、それでシルファの家では見掛けなかったのか。暗い性格ってことはもしかして…」
「そう、闇霊姓なのよ。セラフィが光霊姓だったからか、妙にセラフィにべったりでね…。ソリフェの為にも魔統王の元へ行って確かめないと、ね」
「ハァ…ま、しゃーねーかぁ。んじゃ俺らはそーゆーことでお暇するぜ。ナオト、お嬢のこと頼むわ」
「シルファお嬢様、くれぐれも皆さんにご迷惑をお掛けしないよう。エルフの沽券に関わるので」
「ホント最後まで失礼ねっあなた達はっ!」
「こうなったからにはちゃんと責任持ってやってくから、その辺は心配しなくていいよ。それじゃ、カインとアベル送ってくるよ」
カインとアベルはシルファ付きからは解放されたけど、その代わりシルファ達の妹のソリフェって娘のお付きになるみたいだ。
話聞いてるとそのソリフェって妹君も中々のクセ者っぽい…まぁ二人共頑張ってくれとしか。
その後皆と挨拶を交わした二人を俺の転移でシルファ邸まで送って戻って来て、そろそろやる事をやろうかなってことでマールに話を持ち掛けた。
「聖黒兎様」
「ちょぉ〜っ!やぁめてぇ〜ってばぁ〜っ!」
「ブハッ!おいナオトっ!笑かすなよっ、お茶噴いちまったじゃねーかっ!」
「なんだ?マー、その聖黒兎様ってのは」
「マールがね、皇都の騎士団の人達からそう呼ばれてるらしいのよ」
「えっ?マーちゃんがそんな風に呼ばれてるって…それみんな騙されてないっ?」
「そぉ〜れぇ〜はぁ〜…どうぅいうぅ意味ぃかなぁぁ〜?ウェナちゃぁぁんん??」
「ウェナの言う通りそのまんまの意味だな」
「シャーちゃんもぉ〜なのねぇぇ〜」
「いやいや、本当に何やってきたんだよって意味だぞ」
「そうだよー、マーちゃんがそんな聖女様みたいな言われ方するなんて…その眼で脅「しぃないぃわよぉ〜っ!そんなぁことぉ〜っ!」……えー、信じられないなぁー……」
いかん、余計な事言ったか…ウェナとシャリーが喰い付いてきた…。
ちょっとしたお巫山戯のつもりだったんだけど、失敗した…話が進められなくなる。
「二人とも、もうマールは以前のマールとは見違えるほど成長してるんだからな。そう呼ばれてもおかしくない活躍をしたってことだよ、本当に」
「…そうか、兄さんがそう言うならそうなんだろうな」
「へぇー…あのマーちゃんがねぇ…。まぁその内詳しく聞かせてもらおっと」
「そうしてくれ。で、マール、話があるんだけど」
「最初ぉっからぁ〜そうぅ言ってよぉ〜……」
「ごめんごめん」
「それでぇ〜?話ってぇ〜何かなぁ〜?」
「えっとな、庭に簡易的な聖堂を創ろうと思ってるんだけど」
エクリィがメンバーに入ってから考えていたことではあったんだけど、いろいろあって後回しにしてたらステータスで急かされてた…なので全員いる今が丁度いいかなって。
エクリィも全員連れて来いって言ってたし。
「あぁ〜、エクちゃんのぉためぇねぇ〜。うんうん〜、是非ぃそうしてぇほしいぃなぁ〜っ」
「庭に創るの?ナオト」
「あ、うん、そんなに立派じゃなくてもいいけど、ここにいるみんなが入れるくらいの聖堂をね」
「そう…。ならメイの鍛冶工房の対面側にしてもらえる?そっちはまだきちんと手を入れられてないのよ」
「そうか、庭の面倒はジィナがみてくれてるんだもんな。分かった、じゃあそこに建てるよ」
「ありがとう。あとあれね、もう少し人手が欲しいわね…。キャム達にも手伝ってもらってるけど、それでも少し足りないわ…」
「私達もジィナ様の手伝いに付きっきりとはいかず…」
「改善要求はどうなったのですか?」
「あ、いや、それなんだがな…少々私の手に余る自体が発生したというか……」
庭に聖堂を建てることにしたらジィナが場所を指定してきた、庭の事はジィナにもう完全に任せちゃってるしな…俺も庭くらいは自分で整備しようとか言ってたくせに結局全然出来てないし…。
この庭かなり広いからジィナ達だけじゃ人手不足なのは明白で、この間戻って来た時にセヴァルから人員補充の相談されたんだけど、そのセヴァルが手に余る自体って…どんな事だ?想像が付かないんだけど、何でも熟せるあのセヴァルがそんなこと言ってくるなんて…。
「何かマズいことでもあった?」
「あぁ、いえ、そう言う訳ではないのですが…募集をしたところ予想外の人物がやって来まして…。私だけでは判断出来ず、ナオト様にご相談しようかと…」
「予想外…セヴァルが予想外って何か本当に予想外な人が来てそうなんだけど…」
「今回は特に年齢制限を掛けておりませんでした。そこへまさか募集してくるとは思わず……」
「……え?ちょっ、まさかとは思うけど……」
「…恐らくナオト様のご推察通りかと」
「待って、それは流石に無理だろう。俺の予想通りなら学園に通ってるんじゃないか?」
「はい、仰る通りで」
「……セヴァルには断れなかったってことか……」
「ええ、その通りで御座います……」
まぁこれは仕方無いな…見知った顔でしかも俺の嫁の友人とか、そう邪険には出来ないってことか…。
いや、だけどまさかそんな募集かけてそれに乗っかってくるとかセヴァルも思わなかったんだろうし、俺だってそんな事思わないわ。
何を考えているんだあのチビっ子共は…。
とりあえず今度会ったらチビッ子達に話をしよう、俺から。
「じゃあそこは俺から話してみるからセヴァルは気にしないで進めて」
「申し訳ありません、ではそちらについてはナオト様にお任せ致します」
「了解。というわけでもうちょっと待ってて、ジィナ、チェル」
「「ええ、分かったわ」「はい」」
「さて、それじゃサクッと創っちゃうか…。出来たらみんな呼ぶから来て欲しいんだけどいい?」
「「「はーいっ!」」「いいよー」「ん」」
「「分かりました」「分かったー」「「はい」」」
「あ、マールは付いてきてくれる?」
「うん〜、いいよぉ〜」
ということで、マールと二人で庭に出てジィナから指定された鍛冶工房の対面側に俺の想像した聖堂…所詮俺の想像なのでそんなに立派なものでは無いけど、それっぽい雰囲気のものを創造した。
エクリィに呼ばれた教会にあったシンボル、六角形の中に六芒星と五芒星が書かれたやつと、正面祭壇にエクリィと他の六柱の像も創ったけど、エクリィ以外は知らないから教会にあったのとほぼ同じ、エクリィだけはリアルに出来てるから微妙なバランスになってる…。
まぁ細かい事は気にしない、こんなのでも多分エクリィには会えるはずだからこれでいいことにしよう、うん。
「こんなもんでどうかな」
「うんうん〜っ、いいとぉ思うよぉ〜っ。これならぁ〜エクちゃんもぉ喜んでぇ〜くれるぅよぉ〜、きっとぉ〜」
「マールのお墨付きがあるなら大丈夫かな。じゃあみんな呼んでエクリィのところ行くか」
「はぁ〜いぃ」
って返事をしてマールが律儀に皆を呼びにいってくれた…呼ぶだけなら俺からの念話でも良かったのに。
皆が来たのを確認して聖堂の中に入ると、まだちょっと余裕のある感じの広さだった…いや、別に先を見越してこうしたわけでは決して無いんだけど。
適当に創ったらこうなったってだけで本当に他意は無いです、多分結果的にこれで良かったってことにはなると思ってますが…。
エクリィの事を知らないメンバーもいるけど、言って説明するより会った方が確実に早いから、とりあえず全員で目の前にあるエクリィの像に向かってお祈りをした。
目を閉じて少ししたら、前と同じ静けさが訪れて…目を開けるとそこには──
「おっそーーーーーーーっいっっっっ!!!」
──ポンコツ女神が腰に手を当ててプンスコしてた。




