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第35話 突如始まった海イベント!?


蓮と行ったイベントから一夜明けた今日。 昨日の熱狂もすごかったが、優にとってのメインイベントは今日だった。

画面の中では、最推しの「あいりん」が4時間にわたる長時間生配信を行っている。 雑談から始まり、リクエストに応える「歌ってみた」などの企画。いつものように癒やされる配信だったが、今の優には、昨日からずっと胸に引っかかっていることがあった。


配信が終わり、画面が暗転する。 優はイヤホンを外し、静かになった自室でぽつりと独り言を漏らした。


「……やっぱり、あいりんの歌声……どことなく、似てるんだよな」


脳裏に蘇るのは、一昨日、カラオケの狭い密室で聴いた冬月さんの歌声だ。 あの時も


「本人かと思った」と本人に言ってしまうほどだったが、こうして改めてあいりんの


声をじっくり聴くと、吐息の混ぜ方や、高音に上がる時の独特の癖までが重なって聞こえてしまう。


「いや……でも、そんなはずないよな。冬月さんは『ファンじゃない』って言ってたし……」


優は自分に言い聞かせるように首を振った。 憧れの女神が、隣の席の、あの大人しい冬月さんであるはずがない。 けれど、一度芽生えた疑惑の種は、優の心の中でゆっくりと、しかし確実に根を張り始めていた。


(もし……もし本当に本人だとしたら。俺、本人の前で散々オタク全開の熱弁を振るっちゃったことになるんじゃ……)


そう考えた瞬間、優は顔がカッと熱くなるのを感じ、ベッドに倒れ込んで枕に顔を押し付けた。


七月二十七日。優は、照りつける太陽の下、砂浜にいた。

きっかけは数日前、最川さんから届いた一通のメッセージだった。


『水瀬くん! 今度みんなで海に行かない? 山田や冬月さんも行くって言ってるよ!』


最初はあまり乗る気ではなかった。自分の体型に自信があるわけでもないし、何より「あいりん」の配信をチェックする時間を削りたくなかったからだ。 けれど、蓮からも


「優が行くなら俺ももっと楽しめるぜ!」と熱烈なプッシュを受け、「……まぁ、みんなが行くなら」と重い腰を上げたのだった。


駅で待ち合わせをして、電車に揺られて到着した海辺。 視界いっぱいに広がる青い海と、潮騒の音。 優は、サンダルに食い込む砂の感触を確かめながら、パラソルの下で少し所在なげに立っていた。


「おーい、優! 先に場所取っておいたぞ!」


波打ち際で手を振るのは、すっかり夏男といった風貌の蓮だ。


「……あ、うん。今行くよ」


優が歩き出そうとしたその時、更衣室の方から聞き覚えのある声がした。


「……お待たせ。ちょっと、時間かかっちゃって……」


振り返ると、そこにはいつもの制服姿からは想像もできない、少し控えめながらも可愛らしい水着を身にまとった冬月さんが立っていた。


(……冬月さん。やっぱり、海にも来るんだな)


太陽の光を浴びて、少し眩しそうに目を細める彼女。 その横顔を見ていると、数日前に配信で聴いた「あいりん」の歌声が、また頭の中でリフレインした。


(声だけじゃない。……笑い方とか、ふとした時の仕草まで、どうしても重ねて見てしまう……)


「水瀬くん? どうしたの、ぼーっとして」


冬月さんが小首をかしげて優を覗き込む。その距離の近さに、優は慌てて視線を泳がせた。

「い、いや、なんでもないよ! 」

波乱の予感がする海での一日が、今、始まった。

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