第9話 噂?(後編)
第9話の後編になります!
なんだか、冬月さんの雰囲気がいつもと違う感じがした。
俺が重い腰を上げ、洗い終わった食器を運ぼうとした時、横から声をかけられた。
「一人じゃ大変だし、うちも手伝うよ」 言ったのは、最川さんだった。 「あ……じゃあ、お願いします」
二人で食器を抱えて歩き出す。 (……最川さん、やけに距離が近いな) 陽キャってこういうものなのか? そんな疑問を抱きながら、手持ち無沙汰に会話を続けた。
「ねえ、水瀬くん。野外学習の二日目にある、キャンプファイヤーの噂って知ってる?」 不意に、彼女が話題を振ってきた。 「いや、聞いたことない。どんな噂?」
問い返すと、最川さんは楽しげに声を弾ませた。
「それはね……キャンプファイヤーで男女一緒に踊ると、恋人になれるっていう昔からの噂があるらしいよ」
またベタな話だな、と思いつつも、俺には無縁な話だ。 「それ、本当なの?」 「本当かどうかは分からないけど、まあ言い伝えみたいな感じかな」 「最川さんは、そういうの信じるタイプ?」 「うーん、信じるっていうか、憧れるじゃん? そういうの。たとえ噂でも、恋人ができるかもなんてさ」
そんな会話を交わす。 不思議と最川さんとは話しやすい。陰キャな俺相手でも会話が続くし、何より話していて楽しい。 気づけば、優は咄嗟にこんなことを聞いてい
た。
「最川さんって……彼氏、いないの?」
すると彼女は、少し気まずそうな顔をして言った。 「……実は、できたことないんだよね」
優は驚いた。最川さんは絵に描いたような陽キャだし、てっきり彼氏の一人や二人いるものだと思っていたからだ。 「……びっくりした? まあ、こんな見た目だし、いると思うよね」 自嘲気味に笑う彼女に、なんて返せばいいのか迷った。けれど、自然と言葉が出てきた。
「……まあ、最川さんは容姿端麗だし。そのうち、できると思うよ」
(……容姿端麗、か) 口にしてから、少し恥ずかしくなった。ラノベの読みすぎだろうか。けれど、彼女は少し目を見開いたあと、ふいっと笑った。
「まさか、水瀬くんに慰められるとはね……。でも、ありがと!」
照れくさそうに笑う、最川さん。 その瞬間、彼女の金髪のセミロングが夕焼けの逆光に透けて、まるで光の輪のように輝いた。 そのあまりの綺麗さに、優は一瞬、心臓が跳ねるのを感じた。
(……あぶねー。陽キャの不意打ち、破壊力ありすぎだろ)
優は慌てて視線を食器に戻し、平静を装って歩き出した。 ふと洗い場の方を振り返ると、そこには洗い物を終えた冬月さんが立っていた。彼女はこちらをじっと見ているような、あるいは夕陽を眩しそうにしているだけのような、そんな曖昧な表情で佇んでいた。




