第4話 いろいろな立場があるのですね
「先ほどミタリーが私と話していた者たちが、ミア様ご自身には申し上げる勇気がない……と言っておりましたが。
それは何故だかわかりますか? 」
アルバートは急にそんなことを深愛に訊いてきた。
勉強部屋に入ってまだ数分とたたないうちの出来事だった。
長椅子に座り――深愛はアルバートの様子を眺めた。
いつものように、なんとも言えない腹の立つ――無表情さ。
「……さぁ。私が怖いから? 」
投げやりな深愛の答え。
「それもあるでしょうね」
アルバートは冷静に答える。
毎度――このやり取りにストレスを感じずにはいられない。
「それぞれ理由はございましょう。
ミア様のおっしゃられた通り、ミア様の威厳に恐怖を感じ、口を閉ざす者もおりましょう。
ミア様のおそばに仕えていない者は、ミア様からの信頼がないことを恐れ、それでも口を閉ざしましょう。
そして己の向上に素直な者の中には、下手なことを言ってしまわないよう……慎重に行動しながら……ミア様の様子を覗う者もおりましょう。
そして今の地位を失いたくない者も……同じような理由から口を閉ざすでしょう。
それぞれの置かれた立場、性格……それらによって、ミア様に正面から口を聞けぬ者たちがほとんどです。
私やデュー、ミタリーは例外とお考えになって差し支えありません」
アルバートの説明に――深愛は「あ」と声を上げそうになった。
深愛もまた――思い当たることがあったのだ。
深愛の父は――厳格な人物だった。
深愛には優しかったが――やはりどこか怖かった。
そのせいで、深愛は父に心から甘えることが出来た記憶がない。
「怖い」という思いだけで、深愛は父に「見えぬ壁」を作っていたのかもしれない。と。
「アルバート。それはどうすれば……変えることが出来るの? 」
深愛は素直にアルバートに訊いた。
「ミア様の行動しだいで、どうとでも変わります。
ミア様が皆の様子を伺いすぎて……気を使いすぎて距離を置かれれば、何も変わりません。ですがミア様が一言でも話しかけて、近づきたいとお考えになられれば……それだけで印象は変わりましょう。
優しくするばかりでもいけませんが、ミア様が皆の視線に立たれることも……時には必要なのです」
「……難しいのね」
深愛の呟きに――アルバートは微笑む。
「先日の勇者たちとの会話。
あれだけ敵対していた者たちが、ミア様の友好的な態度で、変わったではありませんか?
勇者と名乗ったラルフという少年は、ミア様に感謝すらしておりましたよ。
あれも……ミア様があの者たちの視線に立って話をしたからに他なりません。
それはとても大事なことなのです」
アルバートは本当に変なやつだ。
深愛は心からそう思う。
自分にはとんでもなく厳しい言葉を吐くくせに――時々、こういう優しい表情も見せるのだ。
そして――その表情に――家族以上の親しみを感じるのは――何故なのだろう?
「どうかされましたか、ミア様? 」
「な……なんでもないわ。
さ、続きを始めて」
「そうですね」
深愛はアルバートから渡された本を開く。
この世界を作ったという女神「ソフィア」の生まれ変わりだからだろうか?
深愛にはこの世界の文字が読める。
どうせなら、知識もすべて初めからセットで知ってることにしてくれればいいのに。
そうすれば、こんな苦労はしないですむのに――とは思うのだが。
「さぁ。集中してください、ミア様」
「わ……わかってるわ」
最近ネガティブに浸っている暇もない。
ストレスのかわすやり場がないのだ。あれはあれでなかなかストレスの解消になるのだが――。
またこんなことを考えていると、アルバートに「集中しろ」と怒られる。
深愛は仕方なく本へと視線を向け――アルバートの講義に集中することにした。
これが終われば「もふもふ」が待っているし。
それが今は唯一のストレス発散であるのだから――。




