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第八話 一日の終わり

一方その頃、学園の食堂では交流会が開かれていた。

食堂には普段は並ばないような豪華な料理が並んでおり、生徒たちは食事を摂りながら学年を問わず交流している。

皆楽しそうな雰囲気だ。普段は関わりの無い者たち同士、あれこれ質問をし合っている。


だが、そんな食堂の片隅で……


「………………」


とてつもない圧を放っている者が一人。

白金の長髪と整った顔立ち、そしてこの圧倒的な風格はこの少女、アリシア・エルデカの特徴だ。

生徒会長としての役割を一通り終えたアリシアは、食堂の壁際から生徒たちの様子を見守っている……のだが、明らかにその表情がおかしかった。

顔こそ笑っているが、さっきから眉が震えている。さらには胸元で組んでいる腕の指先には明らかに力がこもっている。何か耐え難い衝動を抑えているかのような様子だった。


「あ、あの……アリシア様……」


恐怖を堪えながら声をかけたのは一人の少女。三つ編みにした黒髪を肩にかけている。

少女の名は『シーファ・ルーヴァス』。生徒会の書記を務めている。

先ほどからアリシアの様子を傍らから眺めていたが、明らかにおかしい。例えるなら噴火寸前の火山だ。

これを刺激するのも怖いが、放置する方がもっと怖かったため、勇気を振り絞ってシーファは言葉を紡ぐ。


「ど、どうかなさいましたか?先ほどから、その……様子が……」


「あら、私は特に問題ありませんよ?いたって正常です」


いや正常じゃない人の顔なんだって!

挙動とは真反対を行く発言にツッコミそうになるが、何とか堪えた。


「あの……やっぱり、アランさんのことですか……?」


今アリシアが怒る理由があるとすれば、もうアランの一件しかなかった。

交流会に参加する気ゼロのアランを捕まえるためにわざわざ風紀委員会まで動かしたのに、結果は失敗。アランは魔法で地中を通って逃亡、しかもそこにはリデラまで味方についていたと言う。

それを聞いた瞬間からアリシアはこれだ。怒りという燃料剤によって、いつも纏っている覇気にはさらに拍車がかかっている。


「はぁ……」


シーファの問いにため息をつくと、アリシアは話す。


「そうですね。まったく彼には驚かされました。彼のことだから正面突破で来ると踏んで食堂付近に罠を張り巡らせておきましたが、まさか地中から、それもリデラさんまで味方につけて逃げるとは。一体アラン君は何を考えているのですかね。本当に理解出来ない人です」


元々アリシアはこの場でアランにスピーチの一つでもさせるつもりだった。

アランは歓迎試合での勝利から多くの注目を集めているし、実際新入生たちの多くはこの交流会でアランに会えることを期待していた。そんな彼がここで良い話でもすれば、それが新入生の今後の活力に繋がるのではと思っていた───のだが。

結果、アランは逃げた。期待も役割もほったらかして、堂々と逃げおうせた。

一体何なんだあの人は。与えた役割からは逃げるし、学年次席のくせして自己肯定感が低いし、いつまで経っても聖装具は使わないし、常に隠し事だらけだし。


「良い加減少しくらい事情を話してくれてもいいと思うのですが……私が思うよりもアラン君は私を信頼していないということなのでしょうかね」


それなりに関わってきたつもりだが、未だ彼の考えていることは分からない。本当に謎の尽きない人だ。

と、その時。


「……あの、アリシア様はアランさんと親しいのですか?」


シーファがそんなことを聞いてきた。


「まぁそれなりに親しい方だとは思いますが。なぜそれを?」


「いつもアランさんだけは『アラン君』と呼んでいらっしゃいますし、彼もアリシア様にはタメ口ですので……」


シーファの疑問もその通りだろう。

この学園でアリシアとあんな風に話せる生徒はアラン以外にはいない。そしてアリシアがあんな風に親し気な呼び方をする生徒もアラン以外にはいない。

明らかに二人は特別な関係、それは誰がどう見ても思えることだった。


「ああ、そのことですか」


少し過去のことを思い返しながら、アリシアは言う。


「去年、彼と序列戦で戦った後色々とありまして、それで少し親しくなりました。それからも度々彼と関わってきたので、おそらく彼にとっての友人の数歩手前くらいの存在には成れていると思います」


「な、なるほど……」


その経緯が何とも気になるところだが、これ以上踏み込むのは無粋な気がしたためシーファは追求しなかった。


「さて、そろそろ良い頃合いですし、私たちも───」


言って、アリシアが壁際から動こうとした────瞬間だった。


「…………」


アリシアが固まった。かと思えば、食堂の壁の方を眺め始めた。


「アリシア様、どうかなさいましたか?」


シーファが突然の謎な挙動に困惑していると、


「……すみませんシーファ。少しだけ席を外します」


「え、アリシア様?」


それだけ言うと、アリシアは食堂から出て行った。

一体彼女に何が起きたのか。シーファは知るよしも無い。



***



一方その頃……


「はぁ……すっかり暗くなっちまったな」


既に暗くなった夜空を見上げながら、アランは学園を歩いていた。

一応さっきから警戒はしているが、風紀委員や生徒会役員が現れる気配は無い。学園長室を出る前に師範が『帰り道には気をつけろ』なんてフラグ発言を残すものだからちょっと怯えていたが、あの発言は適当に言ったものだったらしい。まったく、弟子に対してあまり不安になることを言わないでほしいものだ。

 

そうして奇襲を受けることも無く歩いていると、気づけば学園の校門の近くまでやって来ていた。アランが住む学生寮はこの学園に隣接している。学園を出ればすぐだ。


「あぁぁぁぁ……長い一日だったなぁ」


眠たい入学式を超え、新入生歓迎試合ではなんとか勝利を収め、その後偶然出くわしたリデラの相談に乗り、解決したかと思えば風紀委員の襲撃を受けたりと。

これほど濃密な一日もなかなか無い。それだけに疲労は多く溜まっている。まぁ先ほどまで学園長室で五時間以上爆睡していたが、それでも最近の睡眠不足を補うにはまだ足りない。

今日はとことん休むとしよう。ちょっと明日以降の己の身の安全について不安が残るが気にしない。適当に夕飯を済ませたら部屋に置いてる漫画でも読もう。

校門は目の前。悠々とアランは校門の取手を掴むと、門を開けようとして───


「…………はぁ」


ため息をついて、取手から手を離す。そして自身の横を向いて、言った。




「わざわざ俺なんかのために見送りに来てくれたのか?アリシア」




「おや、気づかれていましたか」


視線の先にいたのはアリシア・エルデカ。いつから居たのかは知らないが、恐らくこちらの魔力反応を感じてやって来たのだろう。

諦めて向き直るアランへとアリシアは歩み寄る。やや不気味さすら感じる笑みを浮かべながら。


「気づかれていなければそのまま不意打ちで貴方を気絶させて交流会まで連れて行こうと考えていたのですがね」


「それは勘弁して欲しいな。せっかく昼の歓迎試合で醜態を晒さずに済んだんだ。皆がいる交流会で無様に気絶してる姿は見せたくない」


「ふふっ冗談ですよ」


「冗談には見えないんだが……」


その顔を見て今の言葉を冗談と捉えられる奴はいないだろう。あの笑顔の裏で一体どんなことを考えているのやら。本当に底の知れないお姫様だ。

正直今すぐにでも校門を開けて逃げ出したいが、今背中を見せればその瞬間に聖装具を構えて突撃されそうな気がしたので我慢した。


「それで、結局なんのために来たんだ?今は交流会の最中だろ」


「単純に、帰る前にアラン君と少しお話しをしようと思いまして」


「そんなこと言って『知らない間に風紀委員や生徒会役員に包囲されてました』なんてことにはならないよな?」


「まさか、彼らも今は食堂にいますよ。それに私もこれ以上貴方を引き止める気もありませんし」


「マジで?じゃあ俺帰っていいの?お咎めなし?」


「ええ、咎めることはありません。今日の件は良くも悪くも貴方を理解していなかった私の責任でもありますから」


てっきり引き留めに来たのかと思っていたが違ったらしい。

普通に明日以降アリシアに怒られるのではと心配していたから聞けて良かった。これで今日は安眠できる。


「ですが困りますよ、アラン君。貴方は自身の影響力というものを自覚していないのですか?」


「さぁ?別に大した影響力なんて無いと思うけどな。だって俺より優秀な奴なんていくらでもいるし」


「その自己評価をどうにかして欲しいのですがね。貴方が何を言おうとも、貴方の実力は間違いなく学年次席。実際に全力で戦った私だからこそ断言できます」


「その序列戦も最後にはアンタの全力を前に成す術無く降参したんだけどな」


「貴方が聖装具を出していれば、勝っていたのは間違いなく貴方です」


「いやいやまさか。仮に俺の聖装具が使えたとしても、アンタのチート聖装具には敵わねぇよ」


だって俺の聖装具ただの石屑だし。あんなモン出したところで戦力プラスになるどころかむしろマイナスだわ。


「そう言われるとますます貴方の聖装具が気になりますね。卒業するまでに貴方の聖装具を見る機会は来るのでしょうかね」


「さぁな。それは俺も分からん」


本当にいつになったら俺の聖装具は真価を発揮してくれるのだろうか。このまま異端者扱いされ続けるのも嫌なので早く何とかしたいものである。

て言うか誰だよ俺に『聖装士一の異端者』なんて二つ名つけた奴。まぁ間違ってないけどさ。


「それで、他に聞きたいことはあるのか?」


なんかこれ以上追求されるといつかボロが出そうで怖いので、適当に流れを変えてみる。


「あと一つだけ聞きたいことがあります。構いませんか?」


「ああ、別に急いでるわけじゃないしな」


まだありやがったか畜生。顔をしかめそうにるのを堪えつつ、アリシアの言葉を待った。


「今日貴方を捕まえに行かせた風紀委員からの情報提供がありましたが、どうやらリデラさんと共に食堂に居たそうですね。それもかなり親し気にしていたとか。なぜアラン君はリデラさんと共に食堂に居たのですか?」


「それはマジでただの偶然だよ。昼飯の後に適当に校内を歩いてたらたまたまアイツと遭遇したんだ。そしたら食堂に連れてかれて、色々と話をさせられた。それでちょっとだけ仲良くなれたってだけの話だ。やっぱコミュニケーションは大事ってことだな」


「なるほど……ちなみに、その会話の内容とは?」


「それは教えられないな。生憎気軽に話せるような内容でも無いんでね。知りたいならリデラに聞いてくれ」


ああそうだ。これはリデラが本心から悩み、俺に尋ねてきた話だ。いくらお姫様が相手だろうとそう安易と話せるものではない。


「そうでしたか。なら追求するのは()めておきましょう」


これ以上の追求が無粋と理解したのか、アリシアは大人しく引き下がった。


「それにしても羨ましいものですね。リデラさんが既にそこまで貴方と仲良くしていたとは。少し嫉妬してしまいそうです」


「ははっ!王女様が嫉妬だって?これはまたとんでもない言葉が聞けたな」


絶対嘘だ。絶ッ対嘘だ。アリシアが嫉妬なんてするはずが無い。それも俺みたいな一介の学生相手に。


「私だって嫉妬くらいしますよ?なにせ貴方は私の数少ない友人ですから」


「友人か、それは光栄だな。まさかそこまで評価されていたとは」


俺もそれなりにアリシアとは関わってきたが、まだまだ彼女のことは知らないことの方が多い。

アリシアは基本的には温厚質実な奴だ。王女として、一人の学生として、周囲には常に優しく誠実に振る舞っている。それこそお手本のように。

だが、だからこそ俺は分からない。別にアリシアの普段の態度を疑っているわけではないのだが、その裏で彼女が何を考えているのか。何を思って生きているのか。

少し考え過ぎなような気もするが、それでも少し恐怖を感じてしまう。無論俺もアリシアのことはなるべく一人の友人として考えるようにはしているが。


ともかくこれでお互い話すことも尽きただろう。そろそろ退き時だ。


「……それじゃあ、もう良い時間だし。そろそろ帰っても?」


「はい、もう帰っていただいて大丈夫です。今日はしっかり休んでくださいね」


「そっちこそな。じゃあなアリシア」


「ええ、また明日」


別れの言葉とともにアランは校門を開けると、一人学園を去っていく。

アランの姿は夜闇に溶け、アリシアの視界から消えていった。


「……友人ですか」


アランが去った後、アリシアは呟いた。

先程の言葉に嘘は無い。事実アランのことは数少ない友人だと思っているが、


「貴方は私をどう思っているのですかね、アラン君」


気になるのはそこだ。まぁ彼のことだ。表面上では平然としておきながら、内心では私の発言を疑っているのだろう。

そう思うと少し寂しいところがある。彼は私にとって唯一自分の立場を気にすることなく接することが出来る相手だ。こちらとしては普通に仲良くしたいと思っているのだが、


「気の置けない仲、と呼ぶにはまだ信頼が足りませんか」


彼の私に対する印象は私が彼に向けているものと恐らく似ている。友好的でありたいとは思うし、それなりに信頼もしている。だが心の底で何を考えているのか、それがなかなか掴めない。

そういう意味ではお互いに少し似ているところがあると言えるのかもしれない。とは言え彼の方が謎多き人物であることは間違いないが。


「……と、そろそろ戻らなくてはいけませんね」


知らぬ間に随分時間を費やしていた。食堂にはシーファたちを待たせている。いい加減戻らなくては。


身を翻すと、アリシアは校門から去る。夜闇にも紛れぬ存在感はそのままに。



***



そして数分後、アランは学生寮に戻ってきていた。

階段を昇り、廊下をいくらか進めば、自室の前までたどり着く。

ポケットから部屋の鍵を取り出した。ドアについた鍵穴に差し込んで回してみると、


「………ん?」


なぜか部屋の鍵が開いていた。

朝部屋を出る時には鍵はかけていたはずだが、実は違ったのか。それとも誰かが鍵を開けて入ったのか。

やや不安を抱えながら慎重に扉を開けた───次の瞬間。


「お、戻ってきたかアラン。意外と遅かったな」


「おかえり〜アラン」


部屋の中に居たのはなんとリオとアシュリーの二人。部屋の中央のローテーブルや床に何やら保存容器らしき物を並べた状態で床に座っていた。

おそらく合鍵で入って来たのだろう。アランは万が一鍵を無くした際の保険としてリオに合鍵を預けているのだ。


「え、お前ら何でいるんだよ。交流会はどうした?」


「それならちょっとだけ参加して帰ってきた」


「そ〜そ〜。夕飯用のご飯だけくすねてきた」


言いながらアシュリーが掲げたのは数箱ある内の一箱の保存容器。中には何やら料理が入っている。

コイツらマジで交流会で出されてた飯を取ってきたのか。確かにあの場で出される料理はバイキング形式だと聞いていたが、まさかそんなことをする者がいようとは。


「いや、わざわざ持ってこなくてもその場で食えば良いだろ?交流会ならいくらでも食えるわけだし」


「君に一人寂しく夕飯を食べさせるのもどうかと思ってね。だからこうして料理だけもらって来たんだ」


「お前ら最高か?」


あまりにも気が効きすぎている。こんなにも優しい友を持てて俺は幸せだよ。


「とりあえずアランもこっちに来なよ。色々料理は持ってきたから皆で食べよう」


「アランが遅かったせいでもう私お腹ぺこぺこ。このままだと餓死しかねない」


「そこまで腹減ってんなら先に食えよ……」


ローブを抜いで部屋の壁にかけると、アランも床に座った。


「そういやレオンとフィアラは?」


「フィアラは他の友達と参加してる。レオンは…まぁ……」


「オッケー察した」


レオンのことだ。リオがいないのを良いことに新入生から人気を得ようとしているのだろう。尤もレオンの性格からして、上手くいくとは到底思えないが。


「レオンも勿体無いことする。せっかく顔は良いのに、行動のせいで台無し」


「まぁ本人が楽しそうなんだし良いんじゃないか?」


「それでまた僕に嫉妬を向けられても困るんだけどなぁ」


「諦めろリオ、イケメンに生まれた宿命だ」


「そんな宿命を背負った覚えは無い」


「アラン、この蓋開けて。私の力じゃ無理」


「はいはい、て言うか容器の蓋開けらんないならどうやって料理詰めたんだよ……」


「なんか最初はいけた」


「なら今は疲れて無理ってか?」


「そゆこと。私たちいっぱい頑張った」


「お〜よく頑張ったな」


「ふんす!」


それとなく頭を撫でてやると、アシュリーはドヤ顔をした。本当にコイツ同学年なのか?未だに疑いたくなるんだが。


「そう言えばアラン、昼食の時思いっ切りアリシア様の言葉を無視して逃げていたが、あの後大丈夫だったのか?」


「大丈夫じゃ無かったな。あの後何やかんやでまた食堂に戻ってきたらアリシアが差し向けた風紀委員に包囲されたし。なんならさっきまでアリシアと校門で話してた」


「よく無事で済んだね。て言うか何でまた食堂?」


「廊下を歩いてたらたまたまリデラに遭遇したんだ。そしたら食堂に連れてかれて、そこで色々と話してた」


「へぇ、君が後輩の相談に乗ってあげたのか?」


「まぁそんなところだな」


こちらの事情を把握しているかのような口ぶりのリオ。というより彼は既に把握しているのだろう。なにせリオ、そしてアシュリーはアランの秘密を知っているのだから。

この二人はシリノア以外で唯一アランの聖装具の正体を知っている者たちだ。アランが事情を初めて教えたのは一年生の中頃。この学園でもとりわけ親しく、信頼のおける二人だけにアランは事情を話すことにした。まぁその前にしつこく追求されたというのもあったが。

ともかくアランは自身の聖装具を二人に見せた。その時の二人が人生最大レベルの驚愕を示していたことは今もアランの記憶に鮮明に残っている。


「リデラは聖装具を使わない俺に負けたことで落ち込んでた。なら俺はアイツの自信を崩した者として話には付き合うのが筋ってもんだろ」


「そういうところだけは律儀だよね。役割からは逃げるのに」


「それとこれはまた別だからな」


「とても学年次席のセリフとは思えないな」


「うちの学年の上位者なんてこんなもんだろ。実際三位の『ミハイル』と四位の『シエル』は俺以上のサボリ魔だし、五位の『グレイ』は堅物だし」


「アランたちが変人であるほど学年首席のお姫様が如何に真面目かよく分かる」


「アイツはその分ちょっと怖いところがあるからな。性格自体は温厚質実で関わりやすい奴だが、内心で何考えてるのかいまいち掴めない。俺からしたら十分アイツもイカれてる側だと思うけどな」


「ならやっぱり学年上位者は皆変人ってこと?」


「いや、その理論だと僕までイカれてることにならないか?」


「お前は……ほら、イケメンじゃん」


「関係無いだろう!?」


理解不能と騒ぐリオに、それを愉快そうに眺めるアラン。そして一人バクバクと料理を食べ進めるアシュリー。

決して豪華では無い。だが皆揃って落ち着いて料理を食べられるこのひと時は、三人にとっては何よりも幸福だった。


そうしてアランは今日という一日を終える。居眠りし、歓迎試合で戦い、後輩の相談に乗り、アリシアの差金から逃げ、師範に会って、夜は友人が盗ってきた料理を食べる。そんな濃密で平和な一日を過ごし─────そして、

















 


己のことを何一つ知らぬまま、アラン・アートノルトは今日も生きる。

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