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聖装士学園の異端者  作者: 綿砂雪
第三章
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第八十二話 神に愛されし少女

かつてアリシアと戦ったアランは彼女についてこう語った。


「え?アリシアと戦ってどう思ったかって?そりゃあもうバケモンだよ、バケモン。反則だろあの聖裝能力。もう当分は戦いたくねぇな」


アリシア・エルデカの聖裝具、《神話を紡ぐ双煌(ディヴァインスペル)》が宿す聖裝能力は『奇跡を操る力』だ。

起こせる事象は全て理解不能。理屈で語れる領域を超えた超常である。


「大抵の聖裝能力は何かしらの理屈や原理に基づいてる。仕組みがハッキリしてるんだ。最高戦力者の中で言うなら、グレイは正義……まぁアイツの信念や感情が原動力だ。シエルは一番分かりやすいな。異界の超技術を扱ってるだけだし。ミハイルなら音楽を介して力を扱う。他の聖裝能力も皆仕組みがあるから、頑張れば解明できる。その解明した術式を利用してるのが俺の『改良魔法』だからな」


だが、


「アリシアの聖裝能力だけは例外だ。一切理屈に基づかない。お祈りするだけで何でも叶えてしまうぶっ飛んだ能力だ。《神話を紡ぐ双煌(ディヴァインスペル)》は遥か昔に存在したとされる神話の時代を象徴とした聖裝具。神話の時代は現代に於ける超常が横溢(おういつ)してた時代だ。そう考えたらあの馬鹿げたスペックも納得だが……だからってあの奇跡はどうかと思うけどなぁ」


やってられないとばかりに大きくため息を吐いた。


「奇跡ってのは通常ではあり得ないからこそ奇跡なんだ。そういう意味ではアイツの聖裝能力は『可能性の制御』と言い換えてもいいな。祈るだけであらゆる現象を起こせる。一応、起こせる現象に方向性はあるけどな。おまけにアイツの『奥の手』は出せば出すほど強くなる馬鹿仕様だし。相手の力を解析して策を立てるタイプの俺とは相性最悪だった。これだから天才は嫌いなんだよ」


そこで彼の同級生の一人が言った。


「え、何?『でもお前アリシア様の奥の手瞬殺してただろ』って?そりゃこっちだって『崩剣』使ってたんだから当然だろ。むしろ俺の最終兵器を使ってやっと《真髄解放》使用前のアリシアを倒せるってなんだよ!けっ!」


悪態を見せるアランであった。




***




出力を上げたアリシアとヴァッシュの戦いはさらに苛烈なものとなった。

速度も威力も別格。目にも止まらぬ動きで激突を繰り返している。


「ハハハハハハッ!!イイねぇ!もっト俺を楽しマせろォォォ!!」


ヴァッシュが砲台を床に叩きつけた瞬間、彼の前方の床から赤い棘が大量に現れた。棘は波のようにアリシアへ迫る。

マトモに考えれば、選択肢は避けるか防御するかの二択。しかし、アリシアは棘の中に突っ込んだ。目の前の棘を悉く破壊し、棘の波を突破する。


間髪入れずに剣を薙ぎ払い、斬撃を放つ。だがヴァッシュは軽々と斬撃を弾き返し、さらに砲台から後ろへ光線を放つことで、加速しながらアリシアに接近した。

驚異的な速度から繰り出される刺突。それを受け止めるのではなく、アリシアは障壁を砲台に沿うように展開することで軌道を僅かに逸らした。

姿勢を屈めて刺突を(かわ)し、さらに下から切り上げようとする。

だが、


(これは……!)


寸前で止まり、逆に飛び退いてヴァッシュから距離を取った。


「良い判断すルじゃねぇカ。あと少しで串刺シだったゼ?オ前」


ヴァッシュの足元の地面から赤い棘が生えていた。距離を取っていなければ直撃していた。

厄介な魔装能力だとアリシアは思う。元から十分高かった攻撃能力がさらに上昇し、防御手段まで拡張された。

あの赤い棘はヴァッシュの周囲の至る所から生えてくる。範囲も速度も凄まじい。予知が出来ても簡単には越えられそうになかった。


「で、どうすルよ、王女トやら。あのクソガキに勝ったんダろ?もっと面白レぇとこ見せてクレよ!」


「心配せずとも、徹底的に叩きのめして差し上げます」


アリシアの周囲に光の粒子が現れた。粒子は拡散し、二人の周囲を埋め尽くした。


「尤も、満足する暇など与えませんが」


「ハッ!ナらやっテみろォォォ!」


凄まじい速度でヴァッシュはアリシアへ駆け出す。

彼我の距離は十メートルほど。今の彼なら一瞬で詰められる距離だ。

だが彼の攻撃は届かなかった。ヴァッシュの行手を阻むように、突然正面から光線が放たれた。


「この程度ォッ!」


砲台を薙ぎ払って弾き返す。そのまま勢いを落とさず直進しようとしたが、攻撃はそれだけではなかった。

横合いから光線が迫った。赤い棘を盾として生成して防御するが、次の瞬間には上から斬撃が迫る。それも寸前で飛び退いて避けた。すると今度は足元が爆ぜた。

跳躍して回避する。目に映るのは自身を取り囲む大量の光の粒子。

瞬間、ヴァッシュはこの一連の動きが全てアリシアの狙い通りだと察した。


「《断罪の光域ホーリージャッジメント》」


攻撃の発生源はこれらの光の粒子。ヴァッシュはすぐに魔法で周囲に結界を展開するが、一瞬遅かった。先にアリシアが光の粒子を操作し、全方位からヴァッシュに光線を放った。


光線で僅かにヴァッシュが負傷した。だがこの程度なら問題にもならない。

結界で防ぎながら、光線を押し返すために魔装具に魔力を込める。

その思い込みが仇となった。


「詰めが甘いですよ」


「なっ!?」


直後、結界の内側で爆発が起きた。衝撃で結界が砕け、ヴァッシュは結界外に弾き出される。

起点となったのは先程、ヴァッシュに届いた僅かな光線だ。その光線から散り、結界の内側に残留していた光の粒子を起点に、アリシアは爆発を起こした。


ヴァッシュの桁外れの耐久力故に、爆発によるダメージは大したことはない。重要なのは、今のヴァッシュが無防備だということ。

アリシアは周囲の粒子からヴァッシュに光線や斬撃を放ち、徹底的にヴァッシュを追い詰める。


「容赦ねェなッ!」


汗が額に浮かぶ。想定以上のアリシアの聖装能力に焦りを感じていた。

斬撃や光線により皮膚が裂け、所々に光線が貫通した。

負傷、激痛、流血。絶えず襲い来る猛攻撃。防御に転じる暇などない。如何に強靭な肉体を持つヴァッシュであっても、これほどの猛攻を浴び続けては立てなくなる。

まさかここまで規格外とは思わなかった。常人なら既に勝負を放棄していたかもしれない。

そう、常人なら。


「……ハハッ」


それでも彼は笑っていた。どんなに痛ぶられても、その表情には心の底からの歓喜が見えた。


──痛い。苦しい。だが、それがどうした!

この苦痛こそ敵の強さの証明、自身が苦戦している証拠に他ならない。

最高だ。噂には聞いていたが、ここまで……ここまで魅せてくれるとは。そしてこれでもまだ十分な余力を残しているとは!


胸が躍る。体がさらに熱くなる。激痛すら意識の外に追いやるほど、彼の戦意は激しく燃えていた。


「《血欲に満ちよ、(グリードス)王の晩餐(ナッチ)》!」


彼の双眸が赤く光った瞬間、奇妙なことが起こった。

ヴァッシュに当たる攻撃が(ほど)けていく。光線や斬撃がただの魔力へ戻され、その魔力たちがヴァッシュの体へ流れていった。

魔力を吸収したのだ。周囲にあった光の粒子を全て取り込むと、その魔力からヴァッシュは《治療(ヒール)》を発動し、負傷を治癒していく。


「これは、魔力の吸収ですか」


「アァそうだァ。この前あのクソガキと()り合ッタ時には使わナカったが」


既にヴァッシュの傷は完治していた。

赤い結晶を操っていたことから、独自の物質を生成、操作する魔装能力かとアリシアは考えていたが、違ったらしい。

結晶は手札の一つに過ぎなかった。ヴァッシュの魔装能力は概念的な能力なのだろう。


(物量でどうにか、と考えていましたが……これでは物量で攻めても意味がありませんね)


再び双剣を構える。結局、求められたのは接近戦だった。

光線や斬撃単体では吸収されて終わる。勝機は物理攻撃にある。


「─道理に反するその不浄、主の名の下に、我が剣を以て焼き払おう─」


双剣が金色の炎を纏った。あまり物理的な威力があるようには見えないが、ヴァッシュは双剣をより警戒した。

直感からヴァッシュは勘付いていた。あれはただの炎ではない。単純な攻撃力だけでは測れない、特別な効果を持つものだと。


ヴァッシュは赤い結晶を生成し、目の前に壁を数枚築いた。

同時に砲台をアリシアに向ける。次の瞬間には、発射口から特大の砲撃が放たれていた。

壁を超えて砲撃が廊下を進行する。廊下全体を埋め尽くすほどの砲撃はアリシアに逃げ場を与えない。壁の展開による視覚的妨害から、僅かに判断が遅れたアリシアに避ける暇は無かったはずだ。

アリシアは砲撃を強行突破するしかない。そう想定したヴァッシュの横にある壁が、直後に砕け散った。


壁を破壊して横からアリシアが突っ込んできた。

彼女は砲撃を予知している。結晶の壁が築かれた瞬間に壁を破壊して、外からヴァッシュの横に回り込んでいた。

しかし意外だったのは、アリシアを迎え撃つかの如く、ヴァッシュの周囲に複数の赤い杭が浮かんでいたことである。


「やっパリ見えてルな、テメェ」


これまでの経験から、アリシアが予知の類の技を使えることをヴァッシュは察していた。

射出された杭が迫る。アリシアは障壁で受け止めるのではなく、敢えて回避した。このまま受けてはいけないと予知から判断した。


だが予知に準じて行動を変えれば未来は変わる。

アリシアの予知は主観視点で数秒後までの光景が見える。その気になればもっと遠くの未来も見えるが、実戦では数秒先までに留めている。それが一番実用的だからだ。

回避したアリシアが見た、先程までとは異なる未来。それをアリシアが理解し、行動に移すより早く、


「遅せェぞクソガキィッ!」


ヴァッシュが突っ込んできた。移動方向とは逆向きに発射口から光線を放つことで勢いを加えた砲台による刺突は、当たり前のようにアリシアの障壁を粉砕する。

剣で受け止めるも攻撃を抑えきれず、アリシアは壁に吹っ飛ばされた。


「ぐッ……!」


背後の壁を突き破り、その向こうにある部屋に転がり込む。

途中で室内のテーブルにぶつかったことでようやく止まれた。全身が痛むが、痛みに悶える暇はない。

すぐに体を起こした。そして(そば)にあるテーブルを見る。


「やむおえませんね……」


やや罪悪感を感じながら、部屋の穴に向けてテーブルを蹴り飛ばした。

ヴァッシュが追って穴から部屋に入るが、テーブルに視界を塞がれた。


「コんなモンッ!」


まるで羽虫を払うかのように、片手で軽くテーブルを弾き飛ばす。だがテーブルの後ろに光の剣が控えていた。

光の剣が迫る。ヴァッシュは手を翳し、触れた光の剣を受け止めて吸収した。この程度の威力なら問題なく取り込める。

だが間髪入れずに、背後から何かが迫ってくる気配を感じた。飛来してきたのは一本の剣。アリシアの双剣の片方である。

聖装具はヴァッシュにも吸収できない。振り向きながらヴァッシュは赤い結晶壁を構築し、防御を図る。ただの投擲なら十分防御できる想定だった。

だが、それはただの想定に終わる。剣が壁に触れた瞬間、壁が消滅した。

燃え尽きたような消滅の仕方だった。あまりの予想外に一瞬ヴァッシュは硬直する。

彼らの戦いに於いて、それは致命の隙に等しい。


「ぐッ“!」


剣は身体強化を施したヴァッシュの強靭な肉体すら容易く貫いた。

横腹が深く抉られる。苦痛に顔を(しか)めた瞬間、投げた剣を再顕現させながらアリシアが迫った。

薙ぎ払われた剣を砲台で受け止める。力比べならヴァッシュが未だに優勢だ。

故にアリシアは強行突破に出た。


「《瞬間超強化(ハイバースト)聖剣よ、闇夜を砕け(ヴォーパルソード)》!」


瞬間的な身体能力の大幅向上。同時に剣が凄まじい極光を帯びた。

爆発的に向上した攻撃力はヴァッシュのそれを瞬間的に大きく上回った。競り負けたヴァッシュは吹き飛ばされた。


「《出力拡張(ブラスト)輝ける神姫の閃跡(ホーリーロード)》」


ヴァッシュに体勢を立て直す暇を与えずに、アリシアは追撃に出る。

振り下ろした剣から巨大な斬撃が放たれた。斬撃は床を砕きながら猛進する。

これはヴァッシュにも吸収しきれない。直撃すれば負傷は必至だ。

ヴァッシュは吹き飛ばされながらも、横に砲撃を放つことで壁へ移動し、そのまま壁を突き破って皇城の外に出た。

着地した場所は中庭。アリシアも追ってヴァッシュに向けて廊下から突進した。


ヴァッシュは迎撃するべく巨大な赤い棘を生成する。鋭利に尖った真紅の凶器が幾重にも重なり、アリシアに向けて突出する。

しかしアリシアは、それらを一太刀で両断した。切られた瞬間に棘はまたもや燃え尽きるように消滅した。


アリシアはそのままヴァッシュに突撃するが、ヴァッシュはそれを飛び退いて躱す。次いで砲撃を放とうとするが、先にアリシアが剣を投げた。

砲台が剣に弾かれる。さらに剣が破裂した。破裂した剣から飛び出た光の鎖がヴァッシュの体を拘束した。

鎖はすぐにヴァッシュに吸収されるが、それでも吸収されるまでの僅かな時間はヴァッシュを拘束できる。


アリシアはもう片方の剣を投げた。

ヴァッシュには先程、赤い結晶を容易く破壊された前科がある。魔装能力による防御はリスクが高くて使えない。ならば取れる回避方法は限られる。

ヴァッシュが結晶を生成したのは自身の足元。上に向けて生成した巨大な結晶で自身を空中へ吹き飛ばし、寸前で投擲を回避した。


空中に投げ出された時には、拘束は解けていた。

だがそれより早くアリシアは動く。一瞬でヴァッシュの眼前に迫り、右拳を胸部に向けて放つ。

当たれば骨折は確実。内臓の損傷も狙える一撃だった。


ヴァッシュは驚愕していた。その表情には焦りも見える。

治癒能力が高くとも、内臓の損傷は致命的だ。肺や心臓に傷が付けば戦闘どころではなくなってしまう。

勝てる。アリシアは思った。

だが次の瞬間───ヴァッシュは笑っていた。


「《血鎧の魔人(ヴァンプドアーマー)》」


ヴァッシュの体から棘が突き出た。

今更、打撃は止められない。そのまま棘に拳が刺さった。

まさかのカウンターは、アリシアの予知にも映らなかった。ここでもヴァッシュの脅威的な反応速度と判断速度が牙を剥く。


「ッ“……!」


右腕に激痛が走る。

本当ならここで手を引いてしまいたかった。だが苦痛のために、この機会を逃すのはあまりに惜しい。


「この程度……!」


痛みは根性で捻じ伏せた。

棘の中へ左手を伸ばしてヴァッシュの胸ぐらを掴む。途中で腕が裂けたが気にしない。そこからヴァッシュを思いっきり地面に投げ飛ばした。


「おいおいマジかッ!?」


アランのように、痛みや負傷に耐性があるわけではないだろう。故に驚いたのはその強靭な精神。

王女であるが故の責任感と使命感。己が抱く使命と正義を果たすためなら、彼女は如何なる苦痛にも屈しはしない。


「─主よ、彼の者に誅罰(チュウバツ)の雷を─」


上空に展開された法陣から巨大な落雷が降り注ぐ。

回避は間に合わないとヴァッシュはすぐに悟る。魔力の吸収と防御を併用する事で耐えるしかない。


落雷が着弾した瞬間、衝撃で地面が爆ぜた。足場の悪化によりヴァッシュが体勢を崩した一瞬の隙をアリシアは逃さない。

再顕現させた剣を振り下ろし、ヴァッシュを切る。右肩から腰の左側にかけて大きく裂けた。さらにアリシアの聖装能力により、体表の棘が消滅した。


「あッガ…ァ“……!」


負傷による機動力の低下はすぐには補えない。アリシアはヴァッシュの足を踏みつけることで逃げる選択を潰す。

今度こそヴァッシュは詰んだ。


「終わりです。ヴァッシュ・ガーバランド!」


アリシアは振りかぶった剣を、ヴァッシュの腹部へ刺突させた───。

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