第八十一話 昔日は影の底に
「それじゃあ配役について話すが、オルレアの相手は俺がやる。精神干渉系みたいな陰湿な奴なら、俺の方が適任だ」
それは昨日、アリシアと作戦会議をしていた時のこと。
「フィーネを外に出したら暫く時間を稼ぐ。その間にフィーネをなるべく遠くに連れて行ってほしい」
「分かりました。オルレア・ロースタッド以外の敵はどうしますか?」
「ヴァッシュ・ガーバランドの相手はアンタに頼むよ。相性的にもアンタの方が向いてそうだ」
単純な戦闘能力だけならアランよりアリシアの方が高い。
「多分ヴァッシュ・ガーバランドはオルレアが合図したら攻めてくる。何が合図になるか分かんねぇけど、精神干渉系ならいくらでも方法はあるだろ。アイツの参戦を止めることは難しい」
「では仕方ありませんね。それと、ヴァッシュ・ガーバランド以外の仲間が攻めてきた場合はどうするのですか?」
「そこは心配しなくていい。今回は多分ヴァッシュ・ガーバランドと転移が使える魔装士以外にオルレアの仲間はいない。昨日港に行った時、いたのはヴァッシュ・ガーバランドだけだった。あの時のアイツの役目は誘い出された邪魔者を排除すること。余ってる戦力がいるならあの港に全投入するべきだ。でも他には誰もいなかった。ヴァッシュ・ガーバランド以外の戦力はないと考えていい」
「転移の魔装士が攻めてくる可能性は」
「それも多分無い。未だに素性が知れない奴だが、あまり戦闘向けじゃないんだろうな。昨日の港にもいなかったし、どっかに隠れてんだろ。出てくるとすれば皇都の方だ。そこで隠してる脱獄者二百人余りを転移で皇都に呼ぶ可能性もある。皇都の守りも固める必要はあるな」
「そのために皇国騎士団を皇都に向かわせるのですね」
「そ。ついでに皇城の要人も皇都に隠れてもらおう。そうすればこっちは思う存分戦える」
「なるほど。貴方らしい隙の無い作戦ですね」
「その割になんか不服そうだけど」
「ええ、不服ですよ……貴方、正気ですか」
結局その後、少し言い合いになった。
***
「下でもドンパチやってるみたいだな。お前の仲間か?」
「そうですね。ヴァッシュには私が戦い始めたら皇城に侵入するよう伝えていましたから」
アリシアとヴァッシュの戦闘の気配はアランたちにも感じ取れた。
今の所、作戦は順調だ。こちらも戦いに集中しなくてはいけない。
「その構え……まさか殴り合いをするつもりですか?」
「お前の魔装能力に武器戦闘は相性悪いだろ。俺の武器に何か命令されたら嫌だからな。今日は久しぶりに素手でやらせてもらうッ!」
アランはオルレアへ接近する。
無手である故に身軽さだけならいつも以上だ。だがオルレアは魔装能力によってほぼ自動的に反撃できる。アランの速度など関係ない。
首へ振られた刃に対して、アランは裏拳を薙ぎ払う。オルレアの想定では、触れた瞬間にアランに魔装能力で命令するつもりだった。
しかし次の瞬間、金属音と共に剣が裏拳に弾かれていた。
弾かれた事で次の一手に遅れが生まれる。その隙に左拳をオルレアの腹に放つが、それをオルレアは掴んで止めた。
さらに逆手持ちした剣を刺突させるが、同じくアランも剣を掴んで止めてみせる。
「おかしいですね。魔装能力は発動しているのですが、何故効かないのでしょう。その手袋のせいですか?」
「なんだ、ヴァッシュ・ガーバランドに教わらなかったのか?」
「ええ。彼は報告を怠る癖があるので。今回も重要な敵の情報を伝えなかったようですね」
「よくそれで組織が成り立つもんだ……《氷鎧》!」
氷を纏わせた足で蹴りを放つと、同じタイミングでオルレアも蹴りを放ってきた。
互いを蹴って両者は距離を空ける。続けてオルレアは剣先を、アランは指先を相手に向けた。
「《狂い疾れ、黒き雷霆》」
オルレアは大気中の湿度と電気を操作した。乾燥状態にて周囲に集約された電気がオルレアの周囲を迸っている。
そこへ加えられた魔装具の闇の魔力により、闇色に染まった電気が雷撃となってアランを襲う。
生半可な攻撃では相殺できないだろう。防御しては受け切るために隙を晒す。
避けるにしてもオルレアの事だ。雷撃に『アランへ自動追尾する』よう命令している可能性もある。
ならば、
「─押し流せ、激流砲─」
簡易的な詠唱と共に水の砲撃が放たれる。速度も質量も十分。巨岩すら粉砕できる砲撃だ。
雷撃と水撃が激突する。大量の水が雷撃に蒸発させられ、水蒸気が拡散した。
水蒸気が漂う中、アランは熱線を放った。オルレアは魔装能力で自動的に熱線を切り落とす。
その瞬間に《跳躍》でアランが背後に回り込んだ。背中に右拳を放つが、オルレアは剣で受け止めた。
「二度も同じ手が効くとでも?」
「効いたら良かったんだんが、流石にそこまで甘くないか」
発言に反して、その表情に驚きはない。
次いでアランは左拳を放ち、オルレアは体を逸らして回避する。それが近距離戦の皮切りとなる。
高速で拳と刃が何度も激突する。薙ぎ払われた刃を同じく手刀で弾き返し、刺突された刃を正拳突きで弾く。
これが本来ならあり得ない衝突である事は言うまでもない。如何に強靭な手袋でも所詮は布。刃を弾き返すことなど不可能だ。
ならばその当たり前を打ち砕く事こそ異端者のやり方である。
踏み込みと共に放たれた一際強い掌底。剣で弾いた瞬間、衝撃でオルレアが微かに後ろへ傾いだ。
「《泥沼》」
オルレアの足が床に沈んだ。足元が液状化していたのだ。
足の支えが悪化した事で姿勢が崩れる。アランは力尽くで剣を弾き飛ばした。さらにオルレアの腹を狙って拳を放つ。
だが、
「まだっ!」
アランの拳が届いた瞬間に、彼らの間に暴風が生じた。
暴風によってオルレアは後方へ吹き飛ばされていく。
「チッ……」
浅い。暴風で下がられたせいで攻撃が深くまで届かなかった。
それに今の一撃で『虚空の手』の性質がバレた。
「刺し傷ですか……打撃ではあり得ませんね」
オルレアの腹から血が流れていた。
オルレアは出血部位に手を当てる。数秒後に流血は止まった。
「手袋の表面に刃物を仕込んでいるようにも見せませんし、刃物が隠れているのは手袋の中でしょう。ならその手袋の性能は、手袋の内側に物を隠す効果……いえ、出し入れする効果と言ったところでしょうか」
腹部の怪我を気にしている様子はない。彼女の魔装能力は自己治癒も出来るらしい。
「自己治癒も効果の範疇か。便利なモンだな」
「応急処置くらいのものですがね。回復魔法ほどの効果はありませんよ」
「幅が効く分一つ一つの効果は浅いってわけか」
オルレアの言葉を信じているわけではないが、経験から考えても信憑性のある話である。
「魔装能力が届かなかったのは、手袋の向こうにある空間に効果が吸収され、霧散していたからですか。剣が弾かれていたのは、攻撃の瞬間だけ武器を出していた、もしくは刃を手袋に取り込み、内側にある武器と衝突させていたから、と。なるほど、凄まじい性能の魔導器ですね。売れば豪邸くらいは買えそうです。どこでその手袋を手に入れたのですか?」
「昔に知り合いがくれた。それだけだ」
「本当ですかねぇ。貴方の発言や経歴は嘘偽りが多分に含まれているように感じますが」
剣を下ろす。今の彼女に敵意は見えない。
「アラン・アートノルト、年齢十七歳。エルデカ王国のウィーリンに住む平民家庭アートノルト家に生まれた一人っ子。家庭環境は良好であり、出生後から学園入学前まで何事もなく暮らしていたと」
「なんだ急に俺の個人情報暴露しやがって。どこでそんな情報手に入れた」
「貴方がわたくしの情報を入手したように、我々にも情報網があるのですよ。それよりお聞きしたいのですが、何故貴方は経歴を偽造しているのですか?」
「偽造だぁ?何を言うかと思えば馬鹿なことを。そりゃ本当の話だ。嘘はねぇよ」
「そんなはずがありません。もしこれが事実を記録した物であるなら、現状と矛盾している」
何故なら、
「貴方の戦い方は明らかに一般家庭で育った者の戦い方ではない。かと言って、誰かに習ったわけでもないでしょう。多くの修羅場……それこそ命懸けの状況を何度も経験した末に体得した戦い方です」
「それは経験からの憶測か?」
「そうですね。これでもわたくしは危機的状況を何度も経験してきた身です。過去に多くの者と殺し合いました。なので戦えばある程度相手の素性が分かるのです。この人はこういう生き方をしてきんだな、と。その中でも貴方は特殊……それこそ我々に近い部類です。一体どんな人生を過ごしてきたのですか?」
「はッ!教えっかよ」
確かにアランの経歴は偽りだ。平民育ちなどではない。彼は十歳の時からシリノアに育てられている。
彼女から受けた修行の一環として魔法生物との実戦を毎日のようにやっていた。戦闘経験は同年代の者と比べれば多い方だろう。
「釣れないですね。では質問を変えましょう。貴方は過去に何人、人を殺しましたか?」
言葉に重みはない。昨日食べた物を尋ねるくらい、軽いノリだ。
そしてその返答も同様であった。
「そんなの数えてないけど」
「本当に覚えてないのですか?」
「えぇ……四十人くらいじゃないか?もちろん全部学園で受けた依頼の時に殺したものだ」
「では初めて人を殺した時、貴方はどう思いましたか?」
「特に何も。殺したな、で終わったさ」
蹴った石を可哀想とは思わない。落としてしまったペンに申し訳なさを感じたりはしない。
それと同じく、人を殺しても思う事など何も無い。
「俺は最初からそういう人間だったんだよ。人を傷つける事に罪悪感を感じない、人でなしだ」
「ふむ。それにしては殺し合いに慣れすぎているように感じますけどね」
「何が言いたい」
瞬間、オルレアはアランとの距離を詰めた。
手刀と刃が激突する。鍔迫り合いをしながら彼女は言う。
「貴方は、貴方が思っている以上に残虐な人間なのでは、と言いたいのです」
「はぁ?俺より俺の人生知らない奴が何言ってんだ」
「正論ですね。ですがそれは貴方にも言える事です。貴方は自分自身について考えた事はありますか?」
「多少はな。でも深く考えた事はない。あまり意味のない事だからな」
自身の聖装具を扱えるようになるために色々な事をやってきた。
何が自分に足りないのか。それを考える上で自分という存在について考えた事はある。
「自身が人を躊躇無く殺せる事についてどう思いますか?」
「変わってるんだろうなとは思うよ。だがそれだけだ。生まれつき価値観がズレてる奴なんて珍しくない。俺はレアケースかもしれないけどな」
もう片方の拳を腹部へ放つ。オルレアは身を逸らして回避すると、そのまま回転して剣を薙ぎ払う。
だが届かない。裏拳が剣を弾いた。次いで再び連続で拳と剣を激突させる。
「他人を助けたいと思ったことはありますか?」
「ある」
「それは何故?」
「それこそ深い理由なんてない。ただ助けたいと思ったからだ」
「ふむ、なるほど」
瞬間、アランの足元の床が陥没した。
魔装能力によるものだろう。僅かにアランが仰け反る。その隙に力を込めるオルレアだが、アランはその勢いを利用してオルレアを後ろへ投げ飛ばした。
「貴方には意外と優しい面もあるのですね」
オルレアの周囲から雷撃が放たれる。それに混じって透明な空気弾も連続で放たれていた。
雷撃のせいで空気弾が正確に捕捉できない。ある程度は防御魔法に頼るしかない。
「《電磁壁・結界・灼熱砲火》」
防御と迎撃を組み合わせ、オルレアの攻撃を掻い潜る。数秒後にはアランの姿はオルレアの目の前にあった。
「わたくしの目に映る貴方はとても不可解な人です。善良な態度の裏に果てしない影が潜んでいる。マトモに生きてきた人間のものではない」
「それは勘違いだって言ってるだろうがッ!」
再び距離を詰めた両者は拳と剣をぶつけた。
今度は勢いがある分、アランの打撃が威力で勝った。衝撃によって硬直しているオルレアに拳を叩き込むが、アランの拳は空中で止まった。
障壁に触れている感覚とは違う。何かに押し返されているような感覚だ。
それを疑問に思うのも束の間、オルレアが剣を薙ぎ払った。
飛び退きながら雷撃を複数放つ。雷撃は空中で不規則に跳ね返り、多方向からオルレアを襲った。
「いいえ、勘違いではありません。先程も申した通り、人を理解することには長けているつもりですので」
全方位からの攻撃なら命令で対処するにも限度があるはずだ。攻撃で弾き返すか、先程と同じように防御するか。
オルレアが見せた行動はどちらでもなかった。
迫った雷撃はオルレアに触れる寸前で地に落ちた。まるで上から押し潰されたように。
「自分を偽るのは簡単です。ですが、貴方はその嘘を自覚していないように見える。自身の歪みを認めながら本気で常人であろうとする。さらにはその歪みすら、自分の価値観を『生まれつき』の一言で無理やり片付けている。普通なら、その『歪み』についてもっと思うところがあると思うのですがね。やはり貴方は自分を理解していないのではないですか?」
依然語り続けるオルレア。今の現象でアランもオルレアの防御手段を理解できた。
オルレアは周囲の重力の方向と密度を魔装能力で操作していた。
「流石は精神干渉系。随分と妄想が激しいな。いづれにせよ、そんなの今考える事じゃないだろ。俺からすればどうでもいい話だ」
「確かに、人の命に興味が無い貴方には過去の罪など知ったことではありませんか」
「命に興味が無いわけじゃないさ。守りたいものはある」
「ですが、命を懸けるには値しない。そうでしょう?」
「…………」
推し黙る。彼女の言う通りだったから。
他人はそれなりに大事だ。友達もいる。誰かのために何かしてやりたい、と思ったことは何度もある。
だがそこに命を懸ける気にはなれなかった。どうしても他人のために心の底から必死になる事ができないのだ。
シリノア・エルヴィンスという親を例外として。
「一時の感情に任せて暴力を振る者はいます。それによってストレスを減らしたり、快感を感じる者もいる。しかし、そうした者には決まって感情や行動に振れ幅があるのです。そうした事に慣れが無いからですね。この振れ幅を少なくするには、その行いを何度も繰り返すしかない。そうすればその感情や行動が自然化され、違和感が現れなくなる」
「俺にはその違和感が無い。それは俺が違和感を無くせるくらい、殺しを繰り返してきたから……そう言いたいのか」
「ええ。恐ろしいほど貴方にはそのブレがありません。生物が当然のように呼吸して、食べて、寝るように、貴方は人を殺せる。現に貴方はわたくしを平然と殺そうとしている。これは数十回の経験程度で得られるものではありません。日常的にそうした経験をしていなければ不可能ですよ。本当に貴方が四十人程度しか殺していないのであれば、今のような事はできません」
「それが俺の認識と事実のズレか」
──もちろんオルレアの言葉を信じる気は微塵も無い。正しいのは俺の記憶だ。俺は日常的に殺人なんてやってない。
初めて殺しに手を染めたのも半年以内の話だ。オルレアたちと比べれば薄汚い世界に足を踏み入れて日の浅い人間だ。
「一度仮定してみてはどうでしょう。貴方の認識は間違っていると。思い返してみてください。自身の価値観、そして今の自分を形成するに至った自分の人生を」
「それを思い出させて何がしたい。お前の魔装能力に利用するのか?」
「利用できるなら良かったのですが、そのような魔装能力では無いことは貴方も理解しているはずでしょう」
──確かにオルレアの魔装能力では、俺の過去を知ったところで利点はないだろう。純粋な好奇心か。
自分の過去に興味は無い。今更、過去を思い返したところで意味もない。だがこの瞬間、オルレアの発言も一理あるのではと思ってしまった。
疑問を感じたことすらない、俺の認識とそれを形成した俺の経験。つまり俺の記憶だ。
殺人や暴力を除けば、俺は真っ当な人生を生きてきた方だと思う。
十歳の時から大聖者の弟子として生きてきた、というのは一般的に見ればかなり特殊だが、道徳的に外れた道を生きてきたわけではない。少なくとも俺の歪んだ価値観を形成するに至るような経験は無い。
師匠と共に暮らして、学園に入学して、学んだり友達を作ったり戦ったり殺したりしながら今に至る。
やはりおかしな事など───。
「────────あ?」
なんだ。
何かがおかしい。
何か引っかかった。
俺は今、何かを疑問に思った。
「その表情、何か思うことがあったようですね?」
煽るようなオルレアの声。しかしそれすら今はどうでも良かった。
俺はどうやって生きてきた。
それは分かってる。
十歳の時に師匠に出会って、それから師匠の教えを受けながら育って、学園に入学して、学んで、色んな人と出会って、戦って、色々ありながらも今日に至る。
この記憶は何一つ間違いじゃない。確信を持って言える。
十歳の時に師匠に出会って、師匠の教えを受けながら育って、学園に入学して、学んで、色んな人と出会って、戦って、十歳の時に出会って、それから師匠の教えを■■育って、学園に入学して、出会って、戦っ■、師匠に出会って、■■■で教えを受けて、学園■■■、学んで、色んな人と出会って、偶に殺して、■■になって、■■に■■■れて、学園に入学して、色んな人を■■■、戦って、■■を殺して、死にかけ■■もして、治して、■歳の時に■■■■■って、たくさん■■て、戦って、それで、それで、それでそれでそれでそれでそれでそれでそれでそれでそれでそれでそれでそれでそれでそれでそれでそ■でそれ■それでそ■■それで■れでそれ■■れでそれ■■■でそれで■■でそれでそれ■それでそれ■■れ■それでそれでそ■■そ■■れ───。
あれ、
俺、師匠に会う前、何して
「チッだから嫌だったのに」
舌打ちした瞬間、アランはオルレアに接近した。殺意を宿した彼の赤い双眸は醜く煌めいている。
オルレアも床に剣を刺す。魔装能力により変形した床の一部が棘となってアランへ伸びるが、それら全てを回避してアランは突き進む。
「─轟け雷鳴、其は闇を穿つ閃光なり、超雷槍砲ッ!─」
放ったのは特大の雷撃。付近の重力と雷撃の方向を操ることで、オルレアは雷撃を弾こうとするが、簡単にはいかなかった。
普段なら省く詠唱を敢えて含めた事で魔法の威力が増している。
数秒の拮抗の末、なんとか雷撃を叩き落とす事に成功する。その間にアランは跳躍していた。
「《瞬間超強化・跳躍》」
高速で上からオルレアに殴りかかる。剣を盾にしてオルレアは拳を受け止めた。
全身に凄まじい衝撃が伝った。魔装能力による身体強化がなければ衝撃で骨が折れていただろう。
だが、それだけではない。
床が震えていた。足元に亀裂が次々に増えていく。
「まさか!?」
直後、足元の床が崩壊した。下の階の廊下に向けて、瓦礫と共にオルレアとアランは落下する。
落下の最中、オルレアが体勢を立て直すより先に、アランはもう一度打撃を放った。
寸前でオルレアが剣で防ぐが、ここは空中。支えがないオルレアは勢いのまま床に叩き落とされた。
「がはッ!」
激痛が走るが、痛みに悶える暇はない。アランは追撃に魔法を放っていた。
すぐに跳ね起き、アランの攻撃を避ける。息を整えるオルレアの前に、アランも着地した。
「やっぱりな。床を変形させるほど、操作された床の密度が落ちる。脆くなるのも当然だな」
「その脆い床にさらに綻びを入れるために、強力な雷撃を放ち、それを下向きに弾かせたのですか。もはや気持ち悪い着眼点ですね。それより、もう回想は済んだのですか?」
「済んだ、と言うより興味がなくなった。当たり前だが俺の記憶は正しい。それについてこれ以上考える意味はない。ただ目の前の敵を倒せばいいんだ」
「それが貴方の答えですか。やや腑に落ちないところはありますが、仕方ありません。私にとっても、この話は好奇心から尋ねた話に過ぎませんし。そろそろ真面目に戦いましょう」
悪意に濁る漆黒の双眸。アランは指を鳴らしながら告げる。
「もう一度言うぜ。さっさと死ね、テロリストが」
「お断りします。早急に死になさい、異常者め」




