おまけ そんな事ってあるんですか
これはアランたちが学園に入学してから二ヶ月半ほど経った頃の話。
学生寮のアランの自室に、リオとアシュリーが訪れていた。皆で床に座りながら話している。
「なぁアラン、そろそろ君の聖装具を見せてくれても良いんじゃないか?」
「私も見たい。もう関わり始めてから二週間は経った。友好の証として聖装具を開示するべき」
「そんなこと言われてもなぁ……」
リオとアシュリーは揃って同じ頼みをした。
当時の二人はまだアランの聖装具の正体を知らない。リオは元からアランの隣の部屋に住んでいたので入学時から多少の交流はあったが、仲良くなったのは一ヶ月ほど前に序列戦でボコボコにした後。
アシュリーも二週間ほど前にグレイと喧嘩したことをきっかけに仲良くなったばかりだ。
二人ともアランの聖装具の正体が気になっていた。アランとしても出来れば要望には応えてやりたいが、こればかりは簡単に明かせるものでは無かった。
アランが聖装具の正体を明かしたがらない理由は一つ、皆が聖装士と認めてくれなくなる可能性があるからだ。
アランの聖装具はボロボロの石剣。切れ味は皆無、耐久力も皆無、しかも聖装具なのに聖装能力が宿っていないという、前代未聞のゴミカス聖装具だ。
こんな聖装具と呼べるか怪しい剣と契約している自分を、皆が聖装士と認めてくれるか怪しい。アランはどうしてもその未来を回避したいのだ。
「逆に何があったら君は聖装具を教えてくれるんだ?もしかして卒業して僕らが別れるまで秘密にするつもりなのかい?」
「うーん、どうだろ……」
「じゃあ信頼が足りないとか?」
「いや、そういう問題でも無いんだよな」
これは時間や信頼で解決できる話ではない。正体を明かせるタイミングがあるとするなら、それはアランが聖装具を使えるようになった時だけだ。
とは言え、いつまでも友人に内緒にするのは心苦しい。何より学園の全員に対して隠し事を続けるのは面倒くさい。
シリノアに育てられながら師事している事を含め、全ては打ち明けられないが、少しくらいは隠し事を共有できる相手が居てほしいという気持ちもある。
彼らなら聖装具のことを話しても誰かに言いふらしはしないだろうし、自分を軽蔑することも無いだろう。
聖装具について話したいと思う自分もいるが……これはどうしたものか。
(……そういえば)
そこでふと思い出した。それは学園入学前にアランがシリノアから言われた言葉だった。
***
『アラン、これからお前は良くも悪くも目立つことになるだろう。聖装具を使わずにそれだけの実力を有しているのだから、当然と言えば当然だが。きっと多くの者がお前の聖装具について尋ねるはずだ。その時、真実を話すかどうかはお前に委ねる。話したくなったら話せば良いし、隠したければ隠せばいい。だが、もし話したいと思える者ができたなら、その者のことは大切にしろ。お前がそう感じたということは、それだけお前がその者を好いているということだ。いわゆる友達というヤツだな。学園生活を送る上で友達とは重要な存在だ。いざという時の助けになるし、何より学園生活が楽しくなるだろう。なに、難しいことなど考えずともお前なら上手くやれるさ。友達とはそういうものだからな』
『……あのさ、師匠』
『なんだ?』
『師匠が言ってることは分かったし、納得もした。学園に入学したらその通りに行動しようと思う。けど師匠、友達について色々語ってたけどさ………師匠って友達いるの?』
『いないが?』
『じゃあ過去にいたことは?』
『いなかったが?』
『それでよく友達について語れたな』
***
(ぶっちゃけあの時は三百年以上生きてるのに師匠に友達がいないって話の方が印象強くて、大事な方を忘れかけてたけど……)
今がその時なのかもしれないなとアランは思う。
難しいことは考えなくていい。彼らは話しても決して言いふらさないし、蔑みもしない。自分が避けたいと思う未来が避けられると分かっているなら、それで良いじゃないか。
だったら───
「……分かった。見せるよ、俺の聖装具を」
「「マジで?」」
同時に二人は驚愕した。まさか本当に教えてもらえるとは思っていなかったらしい。
「ただ二つ言っておくことがある。お前らなら心配無いと思うけど、絶対に他の奴には言わないでくれ」
「もちろん。言ったら首を刎ねてくれてもいい」
「同じく。見せて欲しいと頼むだけの覚悟はある」
「流石にそこまではしねぇよ……まぁいい。それでもう一つだが……今から聖装具を見せるが、あまり驚かないでくれよ」
「驚かないって……本当にどんな聖装具なんだい?」
「見たら分かるよ、俺の言ってることが」
そうしてアランは遂に顕現させる。
隠し続けてきた、自身の聖装具を。
「「…………え?」」
聖装具を顕現させてから、彼らが第一声に上げた言葉はそれだった。
二人とも呆けた顔をしている。目の前の光景が信じられないと言った様子だ。
「ほら、驚くなって言っただろ。これが俺の聖装具、ボロボロの石剣だ」
アランは見慣れた石剣を、彼らの前に置いた。
大剣ほどではないが、一般的な剣よりは全体的に大きい。刃には中心に線が刻まれており、鍔は刺々しい作りをしている。やはり形だけは立派な剣と言える。
だがそれ以外に問題があり過ぎた。剣は全体が石で出来ている、それもボロボロの石で。
光沢も切れ味も感じさせない石の刃と、握るだけでパラパラと石屑が付いてくる石の柄。さらに剣の所々にはヒビまで入っている。河原に落ちている石の方が綺麗かもしれない。
「……こ、これが……本当に君の聖装具なのかい?」
「ああ、信じたく無いけどな」
「えっと……その剣って何ができるの?見た感じただの石剣だけど……もしかして、見た目に反して性能が凄かったり?」
「そうだったら良かったんだけどな……まぁ見ててくれ」
アランは剣を右手で持ち上げると、リオとアシュリーがいない方向の床に刃を雑に叩きつけた。
普通の剣なら床に弾かれるか刺さるかの二択だろう。だがこの剣が見せた結果はそのどちらでも無い。
床と激突した瞬間。あろうことか、剣の刃は粉々に砕け散ったのだ。砕けた刃の破片は光の粒子となって消滅した。
「「…………」」
リオたちは驚愕のあまり声が出なかった。
こんな物、聖装具では無い。いや剣ですらない。床に軽く打ち付けられた程度で壊れるなんて、子供用のおもちゃの剣でも起きないことだ。
「見ての通り、この剣の性能はゴミだ。切れ味がないから何も切れない。そして耐久力も無いからちょっと力を加えただけですぐ壊れる。これじゃ剣どころか鈍器にもならない。正真正銘のゴミだ。その辺で売ってる包丁の方がずっと強い」
聖装具を再顕現させながらアランはため息混じりに言う。
リオたちは未だに情報を処理し切れていない。これは常識外れの出来事だっただろう。
武器型の聖装具でこれほど脆い聖装具など、見たことも聞いたことも無いだろうから。
「………じゃ、じゃあ聖装能力は?まだ聖装能力が残ってるよ!」
「そうだ!まだそこがあった!武器としての性能は終わってるんだ。せめて聖装能力くらいはマトモなもので──」
「無いぞ」
「「え?」」
「無いぞ、聖装能力なんか」
「「???????????」」
いよいよ二人の情報処理能力が限界を迎えてしまった。
武器としての性能がゴミであることは百歩譲ってまだ許容できる。だが聖装具なのに聖装能力が宿っていないというのは流石に受け入れられない。前代未聞にも程がある。
「……あのさ。改めて聞くけど、本当にそれは聖装具なのか?」
「聖装具だな。間違いなく」
「なのに、聖装能力が無くて……さらに武器としても終わってて…………存在価値あるの?その石剣」
「認めたくないけど、無いとしか言えないな。だからこそ普段は別の武器を使ってるわけだし」
「そういう事だったのか……」
二人はこの時ようやく理解できた。何故アランが聖装具を頑なに使おうとしないのか。何故聖装具を開示しようとしないのか。
「今更だけど、その剣って名前ないの?」
「名前?」
「聖装具はみんな名前がある。『聖装契約の儀』で契約した時に名前が自然と分かるようになってる。私も《骸飼いの守墓書》と契約した時、名前が分かった。だからアランの聖装具も名前があるはずだけど……やっぱり無いの?」
「無いな」
「絶対におかしいぞ、その聖装具……実は変な呪いとかかかってるんじゃ無いか?」
「それは流石に無いはずだ。そういう可能性は既に調べてるから」
過去にシリノアにこの剣を調べてもらったことがあるが、その時彼女は『外部から干渉を受けた痕跡は無い』と言っていた。
つまりこの剣は誰かの干渉によって力を封じられているわけではない。この剣が自らこの状態を取っているのだ。
「多分、この剣は使用するのに何かしらの条件が絡んでいるんだと思う。条件を満たさないと真の力を発揮できないみたいな感じで。こんなゴミでも聖装具だ、本当にただのボロボロの石剣ってのは無いはずだ」
「まぁ普通に考えたらその可能性に行き着くか。それで、その条件について何か分かってることはあるのかい?」
「まだ何も。色々頑張ってみたけど、条件は欠片たりとも分からないままだ。本当にどうすりゃいいんだろうな……このまま異端者扱いされるのも嫌だし、早いとこ本当の力を発揮させたい所だけど……」
今までやれるだけの事はやってきた。入学前は聖裝具と向き合うことで力を解放しようとしたが、特に分かったことは無し。
王都に来てからも様々な書物から聖装具について調べてみたものの、こちらも手がかりは無し。
聖裝具は一度契約したが最後、死ぬまで手放すことは出来ない。なので最悪の場合、一生ただの石剣と契約し続けることになる。
それだけは絶対に避けたいが、果たしてどうしたものだろうか。
改めて現状の過酷さを思い知り、アランは深いため息を吐いた。
《終わり》
こんにちわ、綿砂雪です。
第二章が終わったので、第一章と同じようにおまけを作ってみました。楽しかったです満足です。
次回から第三章です。拙い文章になりますが、今後も気分次第でチマチマ投稿していきますので、読んでいただけると幸いです。
それでは私はこの辺りで失礼します。これからもアラン君と愉快な仲間たちをよろしくお願いします。




