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聖装士学園の異端者  作者: 綿砂雪
第二章
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第四十二話 龍宿す自称イケメン

第六試合が終わってから数分後、治療を終えたフィアラは観客席に戻っていた。


「お疲れ、フィアラ」


「ええ、疲れたわよ。初めてあんな派手に怪我したわ。当分はあんな無茶はしたく無いわね……」


過去の序列戦でも多少の怪我の経験はあったが、右手を剣で刺されたのは流石に初めてだった。

これからは近接戦闘についてもっと対策を練った方が良いだろう。そんなことを考えながら、観客席の椅子に座って、


「にしてもまだ寝てるのね……よくこんなところで寝れるわね」


隣に座っているアシュリーは未だに眠っていた。第六試合の前に見た時と何一つ変わることなく、脚に顔を突っ伏して寝ている。

先程から戦闘音や観客席の生徒の声やらで結構騒がしくなっているはずなのだが。


「どんな音がしても微動だにしてないから。耳の中に防音結界でも張ってるんじゃないか?」


「流石にそれは無理でしょ、アランじゃあるまいし」


「逆になんでアランは出来るのかも不思議だけどね」


言いながら、今度はフィールドの光景に目を向けた。

今行われているのは第七試合。フィールド内では先程とは打って変わって激しい近接戦闘が繰り広げられていた。



***



轟音と火花を散らしながら、両者は互いの武器を高速で激突させる。

方やレオン・アルバート。彼が持つ斧型の聖装具──《龍王の大権斧(ドラゴンスレイブ)

全体が黒と金を基調とした外見で、大きさは一メートル以上ある大斧だ。斧の片刃は龍翼のような三枚の刃が連なった作りをしており、それ以外の部分も龍を模したような装飾が付いている。


それに相対するのはジェパート・エルメン。虹色の宝石のような刃を持つ短剣型の聖装具を武器に戦っている。

互いに身体強化魔法を発動しながらの近接戦闘。戦闘技術は互角、機動力については短剣使いであるジェパートに軍配が上がるが、破壊力はレオンの方が上を行く。

武器を交えるたびに、威力差によって少しづつジェパートが押されていく。さらに続けて十数合ほど、いよいよジェパートは後ろにのけぞった。

その隙を逃すことなく斧を振りかぶる。だがここは機動力の差が出た。

ジェパートは素早く後方へ飛び退く。そして短剣を横薙ぎに振るった。


「《宝晶連華(クリスタルウェーブ)》」


棘のような宝石が何本もレオンに迫る。それに臆する事なく、巧みな体捌きで回避と反撃を繰り返しながらレオンはジェパートに迫る。だがジェパートの攻撃は次第に激しさを増している。

巨大な宝石が波のように押し寄せた。レオンは跳躍して宝石の波を回避するが、空中に向けても宝石は突出してくる。

回避しているだけではキリがない。レオンは空中で斧を振るった。


「《龍権(ドラクイラ)(アギト)》」


レオンの真横の空間から、巨大な口が現れた。口以外の部位は何一つ見えていないが、おそらく龍の類だろう。

ソレは大口を開いて、迫る宝石を飲み込む。さらにそのまま猛進して地面まで噛み千切った。


役目を終えると、ソレは透明になって消滅した。それとほぼ同時に、ジェパートの真上からレオンが奇襲の一撃を仕掛けてきた。

ジェパートは再び飛び退いて回避する。回避した先で短剣を高速で振り回し、連続で斬撃を放った。


放たれた斬撃は途中で破裂した。そこから飛び散ったのは十数発の宝石弾。どれも先端が鋭利に尖っている。

一つずつ弾いている暇はレオンには無い。そもそも、そのような細かい真似は彼の性に合っていない。

もっと豪快に、派手に、そして何より格好良く。それこそがレオン・アルバートが求めるもの。


「《龍権(ドラクイラ)豪拳(ゴウケン)》!」


斧を振り上げながら叫ぶ。すると再び背後の空間から巨大なナニカが生えてきた。今度は龍の手だろうか。

レオンが斧を振り下ろせば、それに連動して龍の手も振り下ろされる。豪快な一撃は容易に宝石弾を砕き、地面を揺らし、さらに指の先から斬撃まで放った。


「《宝石壁(ジュエルシールド)》」


ジェパートの正面に半球状の宝石の壁が展開される。壁はレオンの斬撃を難なく受け切った。

だがその衝撃で爆煙が生じた。視覚でレオンの位置が捉えられなくなったが、焦ることはない。魔力探知で位置は把握できる。


(……後ろか)


背後から巨大な魔力を感じた。ソレは横薙ぎに薙ぎ払われている。

ジェパートは跳躍して薙ぎ払いを回避した。見下ろせば、ソレは龍の尾だった。

レオンはジェパートがいた場所から少し離れた場所に立っていた。


「《龍権(ドラクイラ)(トドロキ)》!!」


龍の尾が消滅する。それに代わって顕現させたのは龍の口。

口はジェパートへと開かれた。今度は突進するのではなく、そこから砲撃を放った。

回避は間に合わない。ジェパートも短剣の先端を向け、砲撃を放った。放たれた砲撃同士が激突し、周囲の大気を震撼させる。

両者の砲撃は拮抗していた。互いに回避に転じれない以上、ここは押し切るしかない。


ジェパートはさらに魔力を込めた。より威力を上げた砲撃が次第にレオンの砲撃を押し返した。

ジェパートにはレオンほどの馬力は無いが、その分魔力消費は抑えられる。そして当然、魔力が多い方がより長く砲撃を放てる。

持久力に於いてはジェパートはレオンに勝っていた。故にこのまま押し切れると、そう思った瞬間───


「こっちだ」


「何!?」


背後からレオンの声が聞こえた。見れば、いつの間にかジェパートの背後にレオンがいた。


(あの砲撃、放置しても放てるのか!)


レオンが聖装能力で顕現させていたモノは、ある程度は自律して動くことができる。ジェパートが押し合いに集中している隙を利用して、レオンは砲撃を放置してジェパートの背後に回っていた。


「ッ!!」


ジェパートに次の一手を打たせる暇を与えることなく、レオンは渾身の蹴りを放つ。蹴りはジェパートの背中に直撃し、ジェパートは凄まじい勢いで地面に叩きつけられた。

身体が負傷で思うように動かない。激痛と共に意識が朦朧とする。


「……ッ!」


それでも手を地面に付いて、体をなんとか起き上がらせようとして───しかし、遅すぎる。


「ボクの勝ちだ、ジェパート」


ジェパートの目の前でレオンが斧を向けていた。

もはやこれ以上為せる手段は無い。聖装能力の特性を誤認していた時点で、ジェパートは負けていた。

その事実を悔しさと共に噛み締めながら、ジェパートは自身の聖装具を消滅させ、


「はぁ……そうだな、お前の勝ちだよ。アルバート」


ため息混じりに、敗北の意を伝えるのだった。



***



「よーっし!これで全員勝利だな!」


観客席にいるリオたちの元に戻ってきて早々にレオンは言った。


「と言っても、僕だけまだ戦ってないけどね」


「どうせ貴方なら勝つでしょ。序列七位なんだから」


「そうも言ってられないよ。僕の対戦相手、序列十ニ位の人だったからね。僕もアランみたいに準備しとかないと」


「そのアランは何をやってるか分からずじまいだけどな」


「後で帰ってきたら聞いてみたら?」


「どうせ教えてくれないだろ」


アランは時々『ちょっと特訓してくるから』とだけ言って急に姿を消すことがある。その度にどこへ行って何をしているのか聞いているが、未だに答えてもらえたことは無い。


と、その時。


「………ん」


アシュリーの小さな声が聞こえてきた。どうやら目を覚ましたらしい。


「やっと起きたのね、アシュリー」


「ん、起きたぁ」


言いながら、ゆっくりと顔を上げる。そして何度か目を擦って、


「……あれ、今どういう状況だっけ」


「寝ぼけてるんだな……君が第四試合が終わった後に寝て、その間にフィアラとボクの試合が終わった」


「そうだったんだ。それで、結果はどうなったの?」


「私もレオンも勝ったわよ、ちゃんとね」


「へぇ、そっかぁ……」


どこか残念そうに言うアシュリー。この結果のどこに不満を感じることがあるのか。


「いや、なんでちょっと期待外れみたいな反応してるんだ」


気になってレオンが尋ねてみれば、


「え、これでレオンだけ負けてたら面白かったのになぁって」


「なんてこと言うんだ君は!?」


反射的に大声を上げた。リオとフィアラは爆笑した。


「冗談だって。それよりお腹すいた。食堂行こう」


「それはそうだが……やっぱり君たちボクの扱い雑じゃないか?」


「気のせいよ」


「ははっ気のせいだね」


「そうそう、気のせい」


「…………」


微妙な反応を示すレオンを他所に、彼らは席を立った。

現在時刻は昼の十二時。戦闘後で身体は疲弊しているし、お腹も空いている。彼らは共に昼食を摂るべく食堂へ向かうのだった。



***



同時刻、この世界とは異なる、とある空間にて。


「……ははっ」


空を見上げながら、思わずアランは苦笑した。

どこまでも広がる森林地帯、その中にアランはいた。彼が見上げる先には美しい青空が広がっている。

普通の者が見れば、それは本当にただの青空に見えたのだろう。だがそこに異物が混ざっていることを、アランだけは理解できる。


目視は出来ないし、気配も感じない。しかし、この空には確かにナニカが浮かんでいた。

数にすれば数千に及ぶ。アランの視界の先を埋め尽くすほど存在するその透明なナニカの中に、唯一目視できるモノがいた。


銀の長髪を風に(なび)かせているこの者は他でもない。現存する唯一の大聖者にして、世界最強の聖裝士──シリノア・エルヴィンス。

彼女は空に手を掲げながら、地に立つ弟子を見下ろして言った。


「さぁ、ひとまずこのくらいで勘弁してやろう。一発でも触れたらどうなるか……分かっているな?」


発言内容に反して、その顔は笑っていた。

怪我をしたなら治せばいい。死んだなら生き返らせればいい。だから遠慮なく力をぶつける、その後のことはその後でどうにでもなる。

それがシリノア・エルヴィンスのやり方だ。無論シリノアとて大切な弟子を殺したいわけではないが、これが一番効果的な特訓になるのなら、やらない選択肢は無い。


そんな見慣れた師匠の鬼畜っぷりと絶望的な光景を前に、


「自分から頼んでおいてだけどさ……もうちょっと手加減してくんない?」


言った直後、返答代わりに、空に浮かぶ大量の弾幕がアランへ放たれた。

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